アトピーを治そう
現在、アトピー性皮膚炎という疾患ほど、様々な治療法が氾濫している疾患もないと思われます。例えば、医療機関のなかでもステロイドに対する認識が異なっている現状がありますし、効果が定かでないどころか逆に健康被害の報告が相次ぐような民間療法も少なくありません。そのため、多くの患者さんは混乱し、なかには数百万円もの被害を被ったという方もおられます。そして、患者さんの多くは、痒みや痛みによる身体的被害だけではなく、心理的にも相当な負担を強いられていますし、なかにはアトピーのせいで就職、結婚、出産までも躊躇している方がおられます。しかし、アトピーは治る病気ですし、時間はかかるものの日常生活に支障をきたすような疾患では本来はないはずです。ここでは、アトピーに関するよくある質問にお答えしたいと思います。
Q1 アトピーは治らない病気なのですか
Q2 ステロイドは使いたくないんですが・・
Q3 ステロイド以外の外用薬があるって聞いたんですけど・・・
Q4 飲み薬にはどのようなものがあるのですか
Q5 アトピーには漢方が効くって聞いたのですが・・・
Q6 精神状態がアトピーに影響するんですか
Q7 生活で注意すべきことは何ですか
Q8 アトピーの治療でほかにどんなものがありますか
Q1 アトピーは治らない病気なのですか
A1 私がまだ大学病院の皮膚科で研修を受けていた頃、ある先生はアトピーの患者さんに対して必ずこのように言っていました。「アトピーは治る病気なんですよ」 実際、時間がかかる場合もありますが、適切な治療を根気よくおこなえばアトピーとは決して治らない病気ではありません。まずは「治る病気」だという認識をすることが必要です。
Q2 ステロイドは使いたくないんですが・・・
A2 ステロイドとは副腎皮質ホルモンの一種ですから、生体で産生される物質です。ですから(使用方法を誤らなければ)決して怖いものではありません。病気のなかにはステロイドの飲み薬をたくさん飲まないと命を縮めてしまうものも少なくありません。
しかし、間違った使用をしたり使いすぎたりするとやはり危険性はあります。外用のみであれば、よほど多量に長期間使わない限りは、内服したときに起こるような、ステロイド性糖尿病や、骨粗鬆症、顔が丸くなる、といった副作用が出ることはありませんが、外用のみでも不適切な使用をおこなえば、ステロイドざ瘡(ニキビ)、ステロイド潮紅(赤くなる)、皮膚萎縮、多毛、感染症などが起こりえます。このため、やはりステロイドの使用は慎重に考えるべきです。皮膚科の研修時代に私が大変お世話になった大阪市立大学医学部皮膚科の石井教授の言葉に、「ステロイド一錠減らすは寿命を十年延ばす」というものがあります。ステロイドは決して安易に使用されるものではなく、危険性を充分に認識した上で最小限にすべきということです。
ステロイドの使用は最小限にしたいところですが、場合によってはステロイドをまったく使用せずにアトピーに取り組むというわけにもいきません。長期的な使用はできるだけ避けたいところですが、短期的には適切な使用をおこなうことによって劇的に改善させることができるからです。悪化した状態であるならばまずは短期間で皮膚を健全な状態に戻してあげることが必要です。なぜなら、悪化した状態がそのまま続けば、皮膚に炎症がおこりやすい状態となり、ますますアトピーが悪化してしまう可能性があるからです。具体的には10日から2週間程度を目途にステロイドを効果的に使用して皮膚の炎症を引かせてあげることが必要となります。
ただし、薬局でステロイドを購入して自分の判断で外用するのは危険極まりない行為ですから絶対におこなってはいけません。必ずステロイドの外用は医師の指導のもとにおこなうべきです。一言でステロイドと言っても、種類や強さは様々ですし、塗り方にもコツがありますし、数種類の外用薬を身体の部分で使い分ける必要があるからです。
それに、アトピーが悪化しているとき、通常はステロイド以外の外用や内服も必要になります。短期的に皮膚をよい状態にもっていくためには、ステロイドを中心にいくつかの薬を組み合わせるのです。これは医師の指導なくしてはできるものではありません。
アトピーがある程度悪化している場合、いったん皮膚をよい状態に戻してあげてから、患者さんごとに個別に対応して中長期的に治していく、という方針を当クリニックではとっています。
Q3 ステロイド以外の外用薬があるって聞いたんですけど・・・
A3 ステロイド以外の外用薬は主に3つに分類できます。ひとつはアンダーム、スタデルムなどの非ステロイド系消炎鎮痛薬、ふたつめは1999年に認可がおりた免疫抑制剤のプロトピック(タクロリムス)、そして3つめがいわゆる保湿剤に分類される尿素軟膏やワセリンなどです。
このうち非ステロイド系消炎鎮痛薬は現在ではほとんど使用されなくなってきています。なぜなら、かなりの確率で(私の経験では20%程度)、かぶれが起こってよけいに皮膚が悪化するからです。
プロトピックは、使用直後は肌のヒリヒリ感やほてりがあるものの、長期的にはすぐれたアトピーの治療薬であると考えられています。ただ、市場に登場してからまだ年月がたっておらず、因果関係ははっきりしないものの海外では副作用でリンパ腫がおこった、という報告もあり、使用するにはそのあたりの危険性も認識しておくことが必要です。
保湿剤については、はじめから使用していくべきだと思います。アトピーの外用基本治療は保湿だと私は考えています。ですから、ステロイドを処方するときにも必ず何らかの保湿剤を併用するようにしています。
Q4 飲み薬にはどのようなものがあるのですか
A4 まず、アトピーの治療で、重篤な副作用に留意しなければならないような(例えばステロイドがそうです)内服薬が処方されることはありません。アトピーの飲み薬には、抗アレルギー薬(最近のものは眠気の副作用がほとんどありません)やサイトカイン抑制薬(痒みの原因物質を抑える薬剤)があります。また、場合によっては漢方薬を処方することもあります。
Q5 アトピーには漢方が効くって聞いたのですが・・・
A5 当クリニックでも漢方薬の処方をおこなっていますし、症状が劇的に改善することもあります。ただし、例えば生活習慣を見直さずに、漢方薬ひとつに頼りきるといった態度ではそれほど効果が期待できません。アトピーに効果のある漢方薬はたくさんの種類がありますから、患者さんごとに使い分けており、また同じ患者さんでも皮膚の状態によって処方を変えていくこともあります。
Q6 精神状態がアトピーに影響するんですか
A6 これはその通りです。引越しして(家族から離れて)一気によくなった、職場をかえてよくなった、離婚して悪化した、・・・、などという患者さんは珍しくありません。一般的に、不安やうつ、あるいは不眠といった精神状態が継続すると、アトピーだけでなく他の皮膚疾患にも影響を与えます。このため、アトピー性皮膚炎を治療する際には、こういった精神状態にも注意する必要がありますし、場合によってはこういった症状に対する治療も必要となります。もちろん当クリニックでも、皮膚症状だけでなく、身体症状(アトピーのある人は下痢や倦怠感などの症状も抱えていることが多い)や精神症状にも留意しながら総合的なケアをおこなっています。
Q7 生活で注意すべきことは何ですか
A7 実はアトピーの治療でもっとも大切なことは生活習慣の改善ではないかと私は考えています。具体的には、睡眠、食事、運動などです。なかでも食事はそのまま皮膚症状に影響を与えます。炎症を惹起しやすい甘いものや脂っこいものを日頃の食事から除去するだけでもかなりの効果が認められることは少なくありません。しかしながら、生活習慣の改善が重要であるとは言え、ドラスティックに生活を変えることはなかなか容易ではありません。当クリニックでは生活習慣を少しでも改善できるように患者さんごとに個別に相談に応じています。
Q8 アトピーの治療でほかにどんなものがありますか
A8 最近注目されている治療法に、被覆剤の使用があります。被覆剤はケガの治療に有効であることがわかってきて、最近では従来おこなわれていたような消毒や軟膏処置に変わって広く普及してきています。その方が、治りが早く痛みも少ないからです。これをアトピーの特にジュクジュクした状態に用いると有効であるとする報告が相次いでいます。当院でも皮膚の状態によってはこういった被覆剤の使用をおこなうことがあります。ただし保険適用はありませんので自費扱いとなってしまうという欠点があります。
2007年1月4日
太融寺町谷口医院
院長 谷口恭