アトピー性皮膚炎(以下アトピー)という疾患ほど、様々な治療法が氾濫している疾患もないと思われます。
ステロイドひとつをとってみても、以前ほどはステロイドに過剰な恐怖心を持つ人は少なくなりましたが、それでも必要なステロイドの外用に抵抗があるという人が現在でも存在します。その逆に、薬局でstrongクラスのステロイドを買って、身体のみならず顔にもぬって副作用が出てからあわてて医療機関を受診するような人もいます。
以前に比べると下火になっているとは言え、まだまだいかがわしい民間療法もはびこっています。実際には極めて強力なステロイドを主成分にしているのにもかかわらず「ステロイドは入っていない奇跡の薬」などと謳ったインターネットを通して販売されている塗り薬が摘発されることがしばしばありますし、新興宗教の信者が子供のアトピーの治療を拒否し死にいたらしめた悲惨な事件もありました。
アトピーの患者さんのなかには、痒みや痛みによる身体的症状だけではなく、心理的にも健康でなくなっている患者さんもいますし、なかにはアトピーのせいで就職、結婚、出産までも躊躇している人もいます。しかし、アトピーは、時間がかかることはありますし、再発することもありますが「治る病気」です。ここでは、アトピーに関するよくある質問にお答えしたいと思います。
参考:はやりの病気
第99回(2011年11月)「アトピー性皮膚炎を再考する」
第78回(2010年2月) 「アトピービジネスとステロイドの誤解」
第44回(2007年4月) 「患者さんごとのアトピー性皮膚炎」
Q1 アトピーは治らない病気なのですか
Q2 ステロイドは使いたくないんですが・・
Q3 プロトピックの効果と副作用について教えてください
Q4 保湿剤について教えてください
Q5 飲み薬にはどのようなものがありますか
Q6 精神状態がアトピーに影響するんですか
Q7 生活で注意すべきことは?
Q1 アトピーは治らない病気なのですか
A1 私がまだ大学病院の皮膚科で研修を受けていた頃、ある先生はアトピーの患者さんに対して必ずこのように言っていました。「アトピーは治る病気なんですよ」 実際、時間がかかる場合もありますが、適切な治療を根気よくおこなえばアトピーは決して治らない病気ではありません。まずは「治る病気」だという認識をし、そして「治すんだ」という意識を持つことが重要です。
Q2 ステロイドは使いたくないんですが・・・
A2 ステロイドとは副腎皮質ホルモンの一種ですから、生体で産生される物質です。ですから(使用方法を誤らなければ)決して怖いものではありません。病気のなかにはステロイドの飲み薬をたくさん飲まないと命を縮めてしまうものも少なくありません。
しかし、間違った使用をしたり使いすぎたりしてはいけません。外用のみであれば、よほど長期間使わない限りは、内服したときに起こるような、ステロイド性糖尿病や、骨粗鬆症、顔が丸くなる、といった副作用が出ることはありませんが、外用のみでも不適切な使用をおこなえば、ステロイドざ瘡(ニキビ)、ステロイド潮紅(赤くなる)、皮膚萎縮、多毛、感染症などが起こりえます。このため、やはりステロイドの使用は慎重に考えるべきです。皮膚科の研修時代に私が大変お世話になった大阪市立大学医学部皮膚科の石井教授の言葉に「ステロイド一錠減らすは寿命を十年延ばす」というものがあります。ステロイドは決して安易に使用されるものではなく、危険性を充分に認識した上で最小限にすべきということです。
薬局でステロイドを購入して自分の判断で外用するのは大変危険な行為ですからすすめられません。必ずステロイドの外用は医師の指導のもとにおこなうべきです。一言でステロイドと言っても、種類や強さは様々ですし、塗り方にもコツがありますし、数種類の外用薬を身体の部分で使い分ける必要があるからです(注1)。
注1:以前は非ステロイド系の消炎鎮痛薬(商品名で言えば「アンダーム」「スタデルム」など)が使われていた時代もありましたが、現在は「使うべきでない」とされています。これは、効果がないどころか、かなりの確率でかぶれ(接触皮膚炎)を起こすからです。
Q3 プロトピックの効果と副作用について教えてください
A3 1999年に認可された免疫抑制剤のプロトピック(タクロリムス)はアトピーには大変有効な外用薬です。しかし、使用にはいくつかの注意が必要です。
まず、使用開始したときに肌のヒリヒリ感やほてりが生じます。これを避けるには、まずはステロイドで炎症を軽減させておくことが必要です。激しい炎症があるときに、いきなりプロトピックを使い始めると効果が不十分であるどころか、こういった症状に悩まされ続けることになります。強い炎症をステロイドで軽減させてプロトピックにバトンタッチ、というイメージです。
プロトピックで最も注意しなければならないのは、感染症、特に顔面のヘルペスが起こりうる、ということです。使用しているうちに顔面に小さな水泡がでてきたり、ピリピリした痛みがでてきたりすれば要注意です。そのままプロトピックを使い続けると、ときにカポジ水痘様発疹症というヘルペスが重症化した状態になることもありますので、ヘルペスの副作用には充分注意しなければなりません。
プロトピックを過剰に恐れる人のなかには、リンパ腫が起こるのでは、と考えている人がいますが、これは毎日大量のプロトピックを全身に塗った動物実験によるものであり、適切な使用法を守っている限りは心配不要です。(ただし、2歳未満の小児には使ってはいけません)
プロトピックはステロイドと異なり、長期使用したときの皮膚萎縮や血管拡張などの副作用がありません。ですから、(上に述べた点に注意していれば)長期使用ができます。しかも、プロトピックは、皮膚の炎症のある部位にのみ吸収され正常な部分には吸収されないという特徴があります。このため、まったく症状がなくても週に2〜3回程度外用していれば、まだ自覚症状のない軽度な炎症症状も治してくれますから「予防」にも使えます。(これを「プロアクティブ療法」と呼びます)
実際、当院の患者さんの多くは、ステロイドからプロトピックに切り替えることに成功しており、その後はプロトピックのプロアクティブ療法のみ、もしくはステロイドは使ってもごくたまに、という状態を維持できています。
Q4 保湿剤について教えてください
A4 乾燥が悪化因子となるアトピー性皮膚炎には保湿剤は不可欠です。しかし保湿剤は「治療薬」ではなく「維持薬」と考えるべきです。つまり、ステロイドとプロトピックで炎症をとり、皮膚をいい状態にもっていき、そして保湿剤でそのいい状態を維持させるのです。ここでは、当院で推薦している4つの保湿剤について説明いたします。
@ヘパリン類似物質
世間ではヘパリン類似物質というと「傷跡を治す塗り薬」として有名ですが、すぐれた保湿剤でもあります。商品名でいえば「ビーソフテン」「ヒルドイド」などです。保険適用がありますから、アトピーによる乾燥だけでなく、単に冬になると皮膚がカサカサになるという人にも重宝されている塗り薬です。ワセリンなどでは避けられない「べとつき」もありません。当院のアトピーの患者さんの大半が使用しています。
価格(3割負担の場合):
ビーソフテンローション1本(50グラム) 179円
ビーソフテンクリーム1本(25グラム) 89円
ビーソフテンスプレー1本(100グラム) 672円
*実際の処方には薬代以外に処方代及び診察代がかかります。
Aワセリン
ワセリンは「べとつく」という欠点があるものの大変すぐれた保湿剤です。医療機関で処方できるワセリンもありますが、保険診療では処方量に制約がありますから、全身がひどい乾燥状態にある人は、薬局で大量に購入し、全身にたっぷりと塗るのがいいでしょう。
B尿素軟膏
尿素軟膏は固くなった皮膚をやわらかくしてくれます。このとき皮膚に存在する蛋白質を溶解させます。大変すぐれた保湿剤ではありますが、アトピーの場合は少し注意が必要です。それは、蛋白質を溶解することにより皮膚のバリア機能が損なわれることがあり、バリア機能が損なわれると、ダニ抗原などが皮膚に侵入しやすくなることがあるからです。単純な乾燥には極めて有効な保湿剤ですが、アトピーの場合は充分に注意しながら外用すべきでしょう。当院ではアトピーの患者さんの2〜3割くらいの方が使用されています。
価格(3割負担の場合):
ワイドコールクリーム1本(25グラム) 40円
*実際の処方には薬代以外に処方代及び診察代がかかります。
C花王の「キュレル」
肌の角層細胞の間に存在する脂質「セラミド」を配合したスキンケア製品です。医薬品ではなく誰でも薬局やインターネットで買うことができます。処方箋なしで買える保湿剤も最近は随分いいものが登場していますが「キュレル」は特におすすめです(注2)。
注2:キュレルは医療機関でも取り扱っているところがあるかもしれませんが、どこの薬局でも買えますしインターネットでも購入可能です。当院では販売していません。(念のために付記しておくと、当院は花王から金銭的利益を受けているわけではありません)
Q5 飲み薬にはどのようなものがありますか
A5 抗ヒスタミン薬を使うのが基本です。抗ヒスタミン薬は、以前は「眠くなる」という副作用がありましたが、現在は眠くならない(なりにくい)第2世代以降のものを使用します。抗ヒスタミン薬の場合も、最初は比較的たくさん使って、症状が軽減してくれば徐々に量を減らしていくようにします。
抗ヒスタミン薬以外には、当院では、ロイコトリエン拮抗薬(特にアレルギー性鼻炎や喘息を合併している場合)や漢方薬を使うことがあります。
Q6 精神状態がアトピーに影響するんですか
A6 これはその通りです。引越しして(家族から離れて)一気によくなった、職場をかえてよくなった、離婚して悪化した・・・、などという患者さんは珍しくありません。一般的に、不安やうつ、あるいは不眠といった精神状態が継続すると、アトピーだけでなく他の皮膚疾患にも影響を与えます。このため、アトピー性皮膚炎を治療する際には、こういった精神状態にも注意する必要がありますし、場合によっては治療が必要です。もちろん当クリニックでも、皮膚症状だけでなく、身体症状(アトピーのある人は下痢や倦怠感などの症状も抱えていることが多い)や精神症状にも留意しながら総合的なケアをおこなっています。
Q7 生活で注意すべきことは?
A7 アトピーを治療していい状態を保つには生活習慣を見直すことが必要です。まずは部屋の環境を見直してみましょう。床はできるだけフローリングにすること、ぬいぐるみや布製のソファーが悪化因子になっていないか確認すること、ペットを飼っている人は寝室に入れないようにしてペットの毛が付着したかもしれない衣服は寝室の前で着替えること、などが重要です。
空気清浄器も有効です。秋から冬にかけては加湿器も有用です。また湿度計もそろえることをすすめます。湿度は同じ部屋内であっても、加湿器の近くと遠くでは異なりますから複数個置いておくのがいいでしょう。(安いものなら1つ1,000円以下で買えます) 湿度は最低40%、できれば50%くらいを目標にすれば乾燥を予防できます。逆に夏は60%を超えないように除湿をおこない、やはり50%を目標にするのがいいでしょう。
睡眠、食事、運動などにも注意しましょう。なかでも食事はそのまま皮膚症状に影響を与えます。炎症を惹起しやすい甘いものや脂っこいものを日頃の食事から除去するだけでもかなり改善することがあります。また、アレルゲンになっている食品がある場合は食事内容の見直しが必要になることもあります。
2011年12月28日
太融寺町谷口医院
院長 谷口恭
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