はやりの病気

第5回 水虫 2005/04/02

暖かくなってきたせいか、最近水虫の患者さんが増えてきました。毎年春先になると、この水虫に悩んでいる方が一斉に外来に押し寄せます。

 水虫は、例えば足の指の間にできたような場合は、痒みに襲われますが、それとて、湿疹やじんましんに比べれば、その痒みの程度はしれていますし、かかとにできる水虫や爪にできるものは、痛くも痒くもないわけですから、受診しない人もけっこう多いと言えます。また、最近は医薬品と同じ成分の水虫の薬が、医師の処方箋なしに薬局で買えますから、わざわざ病院に行って長時間待たなくても自分で治してしまおうという人が増えています。

 さらに、例えば内科の疾患を持っていて、かかりつけ医のいる人であれば、内科の定期受診の際に、ついでに水虫の薬をもらおうとか、処方箋だけ書いてもらおうと考える人も少なくありません。

 けれども、病院に行かずに薬局で薬を買って治そうとしたり、内科などで処方箋だけ書いてもらおうとすることには危険性も伴います。

 それは、一見水虫に見えて、実は水虫でないというケースもけっして少なくはないからです。

 例えば、足の裏全体の皮がめくれてきて、いかにも足の水虫という状態になったとします。心配になって知人に相談すると、それは水虫だから薬局に行って薬を塗ればすぐに治るというアドバイスを受けたとします。けれども、知人に言われたように水虫の薬を薬局で手に入れていくら塗ってもさっぱりよくならずに、痒みまででてきた、そこで初めて皮膚科を受診した、というケースは決して少なくありません。

 そこで、皮膚科医が顕微鏡を使って水虫の検査をすると、水虫の菌がまったくいない。それで初めて、その病気は水虫ではなくて別の病気であるということが分かったというケースは、頻繁にあります。

 爪の水虫でも同様です。然るべき医療機関を受診すれば、爪の水虫という診断をつけるには顕微鏡で水虫の菌がいるかどうかを確認します。その過程を抜いて、水虫と診断するのは危険なことです。危険といっても別に命にかかわるわけではありませんが、診断が遅れたばかりに治療も遅れるわけです。

 これは、内科などで水虫の薬の処方箋を書いてもらうときにも同様の危険があります。診察の終わりに、「先生、水虫の薬をもらってもいいですか」と言うと、診察もせずに、処方箋だけ書くという医者も実際にいるようですし、とりあえず症状を見ても、顕微鏡の検査をしない医者もけっこういるようです。そもそも顕微鏡を置いていない病院も実はけっこうあります。

 これが皮膚科、あるいは皮膚疾患のトレーニングを受けている内科医や、総合診療科医であれば、必ず顕微鏡の検査をして、水虫であることを確認してから薬を処方します。この違いは決して小さなものではありません。

 実際に私も、他院で誤診されていた、というケースによく遭遇します。水虫だと思って病院でもらった薬をつけているのに全然よくならない、と言って患者さんは受診します。顕微鏡の検査をしても水虫の菌はまったくいない、それでまったく別の病気であることが分かるのです。

 水虫と間違えやすい病気というのは、具体的には、掌蹠膿疱症、扁平苔癬、尋常性乾癬などです。これらであれば治療法がまったく変わってきます。

 それに、もうひとつ加えると、顕微鏡の検査で水虫の菌が見つかっていないのに、水虫の薬を使うと、治らないと言って受診した患者さんを調べてもよく分からないことも多いのです。つまり、初めから水虫でない病気を水虫と誤診して水虫の薬をつけているのか、あるいは、たしかに水虫だけど、中途半端な薬を使っているために、顕微鏡の検査をしても水虫の菌がなかなか見つからないというケースも多々あるのです。だから、後から診察する医師は非常に困るのです。

 これを読んでいる人で医師の人は少ないと思いますが、もしも読まれていたら、顕微鏡の検査なしに水虫の薬を処方することは絶対にやめていただきたいと思います。もうひとつ医師の人に付け加えるなら、もしも顕微鏡のトレーニングを受けられていないなら是非とも受けられてはどうか、ということをおすすめしたいと思います。だいたい水虫や他の真菌の顕微鏡の検査は、100例も見れば自分ひとりで診断できるようになりますから、それほどむつかしいことではないと思います。

 さて、話を戻しましょう。あなたが、もしも水虫を疑えば、直ちに皮膚科、もしくは皮膚疾患のトレーニングを受けている内科や総合診療科を受診しましょう。自分のかかりつけの医者は水虫が診れるかどうか分からない、そう思われる方は、電話ででも問い合わせてみればいいと思います。顕微鏡の置いてないような病院や診療所で、水虫の薬を処方してもらうことは絶対にやめましょう。

 水虫や他の真菌による感染症は、痒みなどの症状がそれほど強く出ないことも多く、ついつい受診が遅れてしまいます。けれども、早期で治療していれば、短期間塗り薬を塗るだけで治ったのに、ほうっておいたために、足の水虫が足の爪やかかとにまで波及して、塗り薬だけでは治らなくなり、飲み薬まで飲まなければいけなくなったということもよくあります。こうなると、治るまでにかなり時間がかかりますし、治療にお金がかかりますし、飲み薬の副作用の心配までしなければなりません。そのため、最初に治していればしなくてもよかった血液検査までしなければならなくなってしまうのです。

 たかが水虫、されど水虫です。治療開始の時期が遅れたために、飲み薬が必要になって、長期間飲み薬を飲んでいたために肝臓まで壊したというケースも、今私が思い出しただけでかなりの数にのぼります。

 どんな病気でも早期発見、早期治療が望ましいのです。水虫のように自覚症状がない、あるいはそれほど強くないような病気でも、できるだけ早く然るべき医療機関を受診することが治療への最短距離であり、またお金も最も安くつくというわけです。