マンスリーレポート

2005年9月号 2005/08/29

 9月になりましたが、まだまだ暑さが続いています。私の仕事はいつも病院内で、移動はもっぱら車ですから、それほど暑さを感じませんが、外で仕事をしている方は本当に大変だと思います。

 最近の私にとってのビッグイベントは、タイ渡航でありました。7月28日から8月3日までわずか6泊だけですが、かなり実りの多い旅行となりました。

 まずは、チェンマイにある「Mckean病院」についてお話したいと思います。これは、チェンマイの郊外にある、およそ200床の病院です。この病院は、リハビリセンターとしても有名ですが、最大の特徴はタイ国や一部ミャンマーのハンセン病の患者さんがたくさん収容されているということです。ハンセン病を患っていて、入院する必要のない人の多くは、社会から「いわれのない差別」を受けていることが少なくなく、地域社会に帰れない人もいます。そういった人たちは、この病院の敷地内にある「村」に住んでいます。

 この病院は、もともとMckeanという名のクリスチャンが設立して、現在でも運営資金はほとんど寄付金でまかなっているそうです。世界中のキリスト教団体や、慈善団体が寄付をしており、故・笹川良一氏の日本船舶振興会もかなりの寄付をおこなっているそうです。

 2003年11月に熊本県のある温泉宿泊施設が、ハンセン病の患者さんの宿泊を拒否したことが報道され、現在でも、患者さんがいわれのない差別を受けているという現実が明らかになりました。

 タイでも、最近はかなり改善されたというものの、まだ差別は残存しており、そのためにこの病院の敷地内にあるような「村」が必要となっているのです。

 McKean病院については、あらためて詳しくご報告したいと思います。

 昨年も訪問した、エイズシェルターである「バーン・サバイ」にも行ってきました。昨年、訪問したときにおられた二人の患者さんは、すごく元気に過ごされていました。ひとりの患者さんは、一時、CD4と呼ばれる、エイズの重症度を示す値が0にまでなっていましたが(正常値は400以上)、バーン・サバイのスタッフの努力の甲斐もあり、適切に抗HIV薬を服薬することができ、現在ではすっかり元気になられていました。

 1年ぶりに患者さんに再会するというのは、なんとも言えない嬉しさがあります。

 ロッブリーの「パバナプ寺」にも行きました。現在はボランティア医師が誰もいない状態でしたが、近くの病院が、以前に比べると積極的に患者さんを診てくれるようになり、治療がおこないやすくなったそうです。まあ、とは言っても、相変わらず病棟には、下痢、嘔吐、痒みなどで苦しんでいる患者さんが大勢おられるのですが・・・。

 私は幾分かの薬を日本から持っていきましたが、必要な薬が必要な分だけいつもあるとは限らず、薬剤の入手で苦労することが依然多いそうです。

 「パバナプ寺」の、特に重症病棟に去年おられた方は、大半がお亡くなりになられており、あらためてエイズという病の深刻さを実感しました。ただ、重症病棟の何人かの患者さんは、容態が安定しており、私を覚えていてくれましたし、軽症病棟におられた患者さんの何人かは、病棟から出られる状態になり、寺のなかで作業をされている方もおられました。日本でもタイでも、患者さんが社会復帰されるのをみるのは、本当に幸せなことです。

 バンコクでは、タイで公衆衛生学を学ぶ大学生と、共同研究の打合せをおこないました。これは、性に対する行動や意識を日本とタイで調査し、比較をおこなおう、というものです。その調査で使う、アンケートの質問項目について話し合ったというわけです。

 調査が完成すれば、日タイの意識の違いがわかり、非常に興味深いものになるのではと考えています。調査対象は、日本とタイの大学生です。タイの分はその学生の通う大学でおこなうのですが、日本の方は、まだ決まっていません。

 私に日本の大学生の友達があまりいない、というのがその理由です。これを読まれている方で協力していただけるという方がもしもおられましたら、ご連絡いただきたいと思います。

 さて、今回わずか1週間の訪タイでしたが、「タイが変わりつつある・・・・」、と感じたことがふたつあります。

 ひとつは、これは私の印象があたっているとすれば非常に悲しいことなのですが、それは、タイ人の体重が全体的に増加しており、スタイルが悪くなっているのではないか、ということです。

 私は、2002年の3月に初めてタイに行きましたが、そのときに驚いたことのひとつが、街を歩く男女のスタイルが抜群である、ということでした。

 身長は、たしかに日本人の方が平均では高いと思いますが、男女ともスタイルが素晴らしい・・・。

 男性は、まるでムエタイ選手のような筋肉質の身体をした人が街にあふれていましたし、女性は、日本にいれば間違いなくモデルクラスだと思われるような人たちが、あふれるほどいるのです。そして、男女ともファッションセンスが素晴らしいのです。これには地域差もあるでしょうが、バンコクに限ってみると、男女とも艶やかなカラーとデザインの衣服を身にまとい、そんな人々が普通に会社に出勤しているのです。

 それが、今回の訪タイでは・・・・。たしかにそのような人も依然大勢おられますが、平均としては、スタイルが悪くなっているのではないか・・・・、そのような印象をもったのです。

 それを裏付けるような光景がふたつあります。ひとつは、郊外の公園や空き地などで、集団でエクササイズをおこなっているシーンを頻繁に目にするのです。これは日本のテレビでも何度か紹介されたことがあるようですが、50人から100人程度の若い男女が、集団で大音量で音楽をかけ、インストラクターの踊りを真似て、日本でいうところのエアロビクスをおこない、エクササイズをしているのです。その理由はもちろんダイエットのためです。つまり、意識的にダイエットをしなければならないような人たちが増えているということなのです。

 もうひとつは、いわゆるファストフードの店が大量に設立されており、価格も3年前に比べて安くなっているということです。これでは、若いタイ人の男女が、伝統的な素晴らしいタイ料理ではなく、ファストフードに傾いてしまうことになりかねません。

 これは、日本を含めてフィリピンなどアジア諸国で報告されている、「食物の欧米化による肥満」という問題が、タイでも起こりつつあるということに他なりません。

 タイの伝統的な文化をこよなく愛する私としては、食物の西洋化は非常に悲しいことです。タイには、ソムタムを代表とする、栄養にあふれ、かつ肥満を心配しなくてよい食物がいくらでもあるのです。

 これは本当に悲しい・・・。私の今回の印象が「考えすぎ」であることを祈ります。

 もうひとつ、タイが変わったかな、と思うのは、HIP HOPやR&Bなどのブラックミュージックが社会に浸透してきているな、という印象です。

 私は、ブラックミュージックのかかるクラブやディスコが大好きです。3年前にいくつかのディスコに行ったのですが、そのときは白人のテクノやトランス、あるいはタイポップスが主流で、ブラックミュージックはほとんど聴くことができませんでいした。もちろん、行くところに行けばブラックミュージックのかかる店もあったのでしょうが、今回、3年ぶりに行ったディスコでも、ブラックミュージックが主流とまではいかないものの、かなりかかるようになっているような印象を受けました。そして、DJのテクニックが上手くなっている、という印象も受けました。

 とは言っても、タイのクラブやディスコは、おそらく人口あたりでみたときに、東京や大阪よりも多いでしょうから、私の推測が当たっているかどうかは分かりません。タイのクラブ文化に詳しい方がこれを読まれていたら、教えていただければ嬉しいです。

 さてさて、9月の私にとっての大きなイベントは、9月3日に、羽衣学園(大阪の中高)で、エイズに関する講演をおこなうことです。羽衣学園では、6月に「偏差値40からの医学部受験」というタイトルで、受験に関する講演をおこないましたので、今回で同校での2回目の講演ということになります。

 エイズの講演は、これまで各地で何度もおこなっていますが、今回は対象が中高生ですから、話す内容を変えた方がいいのかな・・・、と直前になってもまだ考えがまとまっていません。

 これについては、次回のマンスリーレポートで報告したいと思います。