マンスリーレポート

2006年1月号 2006/01/04

  2006年がやってきました。
 
 普段は無宗教の人でも、お正月には初詣に行くという人は大勢おられると思います。実際私も、医師になるまでは毎年どこかの神社に出かけていました。(神社に詣していたのは事実ですが、私は日本神道を信仰しているわけではありません。)

 医師になってからは今年で四回目の新年を迎えますが、考えてみるとこの四年間は、初詣に行っていないばかりか、年末から正月のほとんどを病院で過ごしています。今年は特に忙しくて、12月30日の朝から1月5日の昼過ぎまで、病院から病院の移動時間を除けばすべて仕事というハードさです。

 今年は正月に帰省をする予定で、年末までスケジュールを空けていたのですが、どこの病院も人手不足が深刻で、結局依頼を断れずに休みなしとなってしまいました。(医師の人手不足は本当に深刻です。医学や医療に興味のある方、医学部を目指しましょう!)
 
 日本人というのは新年を迎えたときに「今年の抱負」というものを考える慣習があるように思います。私の正月はずっと病院内ですから、全然新年らしい雰囲気を味わっていないのですが、それでも「今年の抱負」というものを考えてしまいます。

 そんな私の今年の抱負は「勉強!」です。(ちなみに去年の抱負は「奉仕」でした。)

 考えてみれば、以前の大学を卒業してから、私の人生はほとんど勉強ばかりのような気がします。以前の大学ではイヤという程遊びましたが、会社員時代のときは、苦手の英語を克服するために、少なくとも最初の二年間はほとんど英語漬けの日々でしたし、後半の二年間も、ある程度はプライベートにも時間を費やしましたが、やはり日々の英語の勉強や、趣味でしていた社会学の勉強は欠かしませんでした。

 退職後は医学部を目指して猛勉強し、医学部入学後はさらに勉強をして、医師になってからはさらに勉強、勉強で・・・。私を昔からよく知っている友達は、「よくそんなに勉強ばかりするなぁ・・・」と少し飽きれたように言うことがあります。
 
 けれども、私がいろんなところで述べているように、そもそも勉強というのは楽しいものですし、自分がそれまで知らなかったことが解るようになる喜びははかりしれないわけです。医師という職業は、日々の勉強を義務付けられていますが、これは決して苦痛ではなくて、日々の治療にいかせるわけですから、患者さんの役に立つことができるわけです。

 人間にはいろんな「欲求」があると思いますが、「知的好奇心の追求」というのは、飽きることのない人間の至高の欲求だと私は思っています。

 これまでも勉強中心の人生を過ごしてきた私が、今年の抱負に「勉強!」を挙げるのには理由があります。医師になってから勉強して得た知識が増えれば増えるほど、自分の無知さに気づく、というか、まだまだやらなければならないことがあることを自覚するようになるというのがひとつの理由です。

 毎月送られてくる医学雑誌は目を通すだけでかなりの時間がかかりますし、日進月歩で進歩している医学は頻繁に新しい教科書が出版されます。今はインターネットからでも海外の文献を引っ張ってくることができ、そこから得られる情報もかなりの量です。私の場合、英語はまだまだ得意とは言えず、日本語を読むよりも時間がかかることがあるために、日々の英語の勉強も欠かせません。それらに加え、去年からはタイ語の勉強も開始しましたから、しなければならない量は、例えば医学部を目指していた頃よりもはるかに多くなっているのです。
 
 「勉強が楽しい」と言うと、特に受験生の方からは「それが分からない」と言われます。たしかに受験勉強は楽しいだけではありません。むしろ辛いことの方が多いでしょう。苦手分野もあるでしょうし、合格しなければならないというプレッシャーが勉強の本来の楽しさを凌いでしまいます。

 けれども、受験を目標としない勉強というのは、ある程度の制約があるにしても、基本的には自分の興味のあることを自由にすればいいわけで、これは本当に楽しいのです。

 もうひとつ、私が今年の抱負を「勉強!」とした理由があります。それは、今年は特に気持ちを入れて勉強しないと時間が確保できなくなるかもしれない、と感じているからです。今年は4月から新たに大阪市内でクリニックを開業する予定です。新規開業するとなると、従業員の方々と一緒に仕事をすることになるわけで、ある程度は経営のことを考えないと、クリニックが成り立たなくなります。

 しかしながら、経理的なことや事務的なことに時間をとられて勉強時間が少なくなってしまえば、結果として患者さんの役に立てなくなることになるかもしれません。それではクリニックを開院する意味がありません。

 そこで、私は新しいクリニックのマネージメントをすべてマネージャーに任せることにしています。仕入れ、経理、人事、PRなどをすべてマネージャーに委託(delegation)して、私は臨床と日々の勉強に専念しようという考えです。私は会社員の経験がありますから、そういった業務も嫌いではないのですが、私の出した結論は、これらの業務と臨床・勉強の両立は不可能、というものです。

 ただ、それでも、ある程度はこれら業務に気をとられるでしょうし、今は予期できないような業務で頭を悩ませ時間をとられることもあるかと思います。

 だからこそ、あえて今年の抱負を「勉強!」としたのです。現在の私にとって最も大切なのは「勉強!」であることをいつも自分自身で再確認していきたいのです。

 さて、私の3冊目の著作である『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』(文芸社)が今月より書店に並ぶことになりました。この本の原稿を書き始めたのは去年の1月ですから、一年間かかってようやく刊行となったというわけです。

 すでに本を読まれた方々から感想をお寄せいただいています。この本は、1章(タイのエイズの実情など)、2章(売春婦に恋する男たちへの取材など)、3章(日本のHIVの症例など)の三章から構成されているのですが、読まれた方によって、どの章をもっとも面白いと感じるかが人それぞれで、私の側からすれば感想を読ませていただくのが非常に楽しいのです。

 みなさまも、この本に興味がおありでしたらぜひとも感想をお聞かせください。