マンスリーレポート

2010年9月号 私がアレルギー疾患に取り組んだ理由

2010年8月29日、私は「第38回日本アレルギー学会専門医セミナー」に参加するために東京に行きました。このセミナーは、アレルギーの各疾患の専門の先生が講師をつとめ、様々なアレルギー疾患がトータルで勉強できるように工夫された、大変有意義なセミナーです。

 アレルギー疾患というのは実に興味深いのですが、その最大の理由は、「全身性の疾患であり、なおかつ各臓器に特徴的な症状が現れる」ということだと私は考えています。

 アレルギー疾患の代表は、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、じんましん、(アレルギー性の)咳、・・・、など多岐に渡ります。さらに、アレルギーを「免疫異常の疾患」と広義でとらえると、関節リウマチや膠原病なども含まれます。また、これらの疾患は老若男女を問わず罹患します。そのため、アレルギー疾患をみる医師というのは、内科医、呼吸器科医、小児科医、皮膚科医、耳鼻科医、眼科医、整形外科医、膠原病内科医・・・と、これまた多岐に渡ります。

 よく知られているように、例えばアトピー性皮膚炎がある人は、気管支喘息や花粉症も持っているケースが多いですし、花粉症のシーズンになると、鼻水に苦しめられると同時に、目が痒くなり、咳がでて、皮膚までかゆくなる、という人も珍しくありません。

 複数のアレルギー疾患をもっているとき、既存の縦割り医療(皮膚科なら"皮膚"だけ、呼吸器内科なら"呼吸器"だけというように特定の臓器しかみない医療)であれば、何人もの主治医をもたなければならない、ならばプライマリケア医がすべてのアレルギー症状を診るべきではないか、少なくとも初期診察にあたるべきではないか・・・。大学の総合診療科に入ったばかりの頃、私はそのように考えてアレルギー疾患を積極的に勉強しようと考えていました。

 しかし、アレルギー疾患、それもよくある 病気(common disease)としてのアレルギー疾患をトータルで勉強するにはどこに行けばいいのだろう・・・。アレルギーを総合的に勉強する大切さに気付いたものの、私はどこに行けばいいかわからず実行にうつすことがなかなかできませんでした。

 そんななか、偶然にもアレルギーを総合的に診察されている大変高名な先生と知り合うことができました。この先生と出会えたことは私にとって本当に幸運だったと思います。

 当時の私は医学部卒業後2年間の基礎研修を終了し、タイでの医療ボランティアを終え、大学の総合診療科に入局させてもらったとはいえ、まだまだ一人前に臨床をおこなえるような実力はなく、気持ちは研修医のままでした。勉強になる、と思えばどこへでも出かけていた私は、複数の医療機関で研修を受けたり見学に行ったりしていました。そんななか、皮膚科の勉強を希望していた私は、以前からお世話になっていたある先生からK先生(実名をだして迷惑がかかってはいけませんのでここではK先生としておきます)という高名な先生を紹介してもらったのです。

 早速私はK先生に手紙を書き、皮膚科の勉強(修行)をさせてほしいとお願いしました。幸にもK先生は快く引き受けてくださり、それから1年以上の間、週に一度ペースでK先生の外来を見学させていただくことになりました。そして、そのK先生が単に皮膚疾患を診るだけでなくアレルギーを総合的に診察されていたのです。実際、K先生は日本アレルギー学会の「指導医」という資格をお持ちでした。K先生の下で勉強させてもらった私は本当に幸運だったと思います。高名な皮膚科の大御所の先生から皮膚疾患だけでなくアレルギー疾患を学ぶこともできたのですから。

 K先生は非常に高名な先生なのですが、私は先生の診療を見学させていただいて「驚き」と「感動」の連続でした。私が診てまったく診断がつけられないような疾患に対して、ご自身の経験と豊富な知識から、すぐに正しい診断を導かれます。これは、私が未熟だからというのが最たる理由ではありますが、それだけではありません。実際、他の医療機関で診断がつかずに、他院からの紹介状を持参してくる患者さんやK先生の噂を聞いて遠くからやって来られる患者さんが少なくなかったのです。

 しかしK先生の尊敬すべき点は、迅速に正しい診断を導かれる、ということだけではありません。驚くほど絶え間ない探究心を持っておられることも私にとって衝撃的でした。K先生は私の父親と同じ年齢です。にもかかわらず新しい論文や教科書(もちろんいずれも英語)を積極的に読まれ、海外の学会にも毎年参加され、さらに新しい手技も学ばれているのです。リタイヤ後の人生を楽しむことに専念してもいい年齢なのに、です。

 ある日、K先生は私に一冊の教科書をみせてくれました。先生が読まれているというその教科書は、新しく出版された洋書で、関節リウマチのレントゲンの読み方について書かれた分厚いものでした。このときどれだけ私が驚いたかは、医師以外の人には伝わりにくいと思いますが、日本の皮膚科医のなかでリウマチのレントゲンの読み方を最新の英語の教科書を使って勉強している医師はおそらく他にはいないのではないでしょうか。私はK先生の探究心の深さと学問に対する真摯な態度に深い感銘を受け、この感銘はその後の私の勉強に対する姿勢に影響を与え続けています。

 さて、冒頭で紹介しました日本アレルギー学会専門医セミナーは、大変有用なものであり、基礎的な事項を再確認できたことに加え、新しい学術的知識や新しい検査法、さらに治療についてまで学ぶことができました。学術的な要素が強いセミナーでしたから、「明日からすぐに実践できる検査や治療」がそれほどあったわけではありませんが、それでも患者さんへの説明や薬剤の選択に今回のセミナーが役に立ったことは間違いありません。

 太融寺町谷口医院にアレルギー疾患で受診されている患者さんは、なかには「鼻炎だけ」という人もいますが、多くは、「アトピーもあって、喘息は落ち着いていたけど最近風邪をひいたときに咳が長引くようになって、食べ物でもあやしいものがあって、原因はよく分からないけどときどき口の周りがあれて、花粉症は昔は春だけだったのに最近は年中調子がおかしくて目のかゆみが完全にとれずに・・・」、といった感じの複数のアレルギー症状(またはアレルギーを疑う症状)で悩んでいる人が多いのが特徴です。

 さらに、「アレルギー疾患だけでなくて、健康診断で血圧が高いといわれた。最近なんだか疲れがとれずに眠れなくて胃が痛くて夜中に足がつって・・・」、などと多彩な症状を訴える患者さんも少なくありません。

 この逆のパターンもあります。つまり、元々は高脂血症や慢性胃炎、頭痛などといった症状で通院していた患者さんが、「少し前までは花粉症っぽいな、と思っていた程度だったけど、最近は季節に関係 なく、くしゃみと鼻水に悩まされている。なんとかなりませんか?」、といったことを訴えるケースです。

 たしかに、思い出してみれば、何らかのアレルギー疾患を有している人は日本でも国民の3~4割と言われていますから、医療機関を風邪や腹痛、生活習慣病などで受診している人がアレルギー疾患を持っていることはいくらでもあり得るのです。

 そう考えると大学の総合診療科に入局したばかりの頃に私が感じていた「プライマリケア医はアレルギー疾患を診るべき」という考えは、やはりそれなりに正しいのではないかと思われます。私は一度、プライマリケア関連の研究会で『プライマリケア医が担うべきアレルギー疾患』というタイトルで発表をおこなったことがありますが、このような発表をこれからも続け、特に若いプライマリケアを目指す医師にアレルギー疾患の重要さを訴えていきたいと考えています。

 K先生から学んだことを後輩医師に伝えるなどということは、私の器が小さすぎてできませんが、プライマリケア医がアレルギー疾患に取り組むことがなぜ重要なのか、という点については後輩医師たちに一生懸命伝えていきたいと考えています。

 私がアレルギー疾患に取り組んだ理由、それは「プライマリケア医はアレルギー疾患を診るべき」と考えたからでありますが、それが実現できたのはK先生のおかげであることは間違いありません。

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2018/09/25

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