マンスリーレポート

2011年8月号 勉強、してますか?

 このコラム(マンスリーレポート)の1月号で、今年は勉強に関するアドバイスをしっかりとおこなっていきたいという私の今年の目標を公表したわけですが、恥ずかしながらもう2011年も半分以上過ぎているのに、ほとんど何もできていません・・・。

 私の元に直接届く相談メールに対しては、身元が明らかで内容がしっかりしたものであれば返信するようにしていますが、それは以前からしていたことであり、今年の目標を踏まえておこなっているわけではありません。

 実は年初から、様々なアイデアを考え、ウェブサイトをつくろうか、とか、どこかで「勉強カフェ」のようなものがつくれないか、とか、アイデアだけは次々と出てくるのですが、どれも実際に実行するとなるといくつもの壁が立ちはだかり・・・、と、つまらない言い訳のオンパレードとなってしまっています。

 そこで、苦し紛れの対策として・・・、とは思いたくないのですが、この「マンスリーレポート」のなかで、少しずつ勉強に関する私の考えを紹介していきたいと思います。

 初めに基本的な点についておさえておきたいと思います。(いくつかは拙書『偏差値40からの医学部再受験』などで述べたことと重複してしまうことをお断りしておきます)

 まず、勉強に関する基本中の基本事項を確認しておきましょう。それは、「試験勉強と本来の勉強は全く異なる」ということです。ここで言う「試験勉強」とは「試験に合格することを目的とした勉強」であり、「本来の勉強」とは「知識を増やすことを目的とする楽しんでおこなえる勉強」ですが、便宜的に「試験を受ける必要のない勉強」としておきたいと思います。

 試験勉強であれば、最も大切なのは「過去問を繰り返し繰り返し解く」ということにつきます。特に大学受験であれば、過去数年間の過去問は簡単に入手できるでしょうから、暗記するほどにまで過去問を解くことが最も大切です。過去数年間の問題を、最初の問題文を2~3行読んだだけで、解答がすっと出てくるようになれば、もう合格はすぐそこにあります。

 大学受験以外の試験でも、過去問の入手できるものであればどんどん解いていって暗記するほどになるのが合格への最短距離です。拙書でも述べましたが、初めのうちは、まったく理解できなかったとしてもその難解さを"感じる"だけでかまいません。その後、その難解な過去問を(例えば1年後に)すべて解けるようになるにはどうすればよいか、ということを考えていけばいいのです。そして、試験が近づいてくれば、解き飽きた(はずの)過去問をさらに何度も解くのです。

 以前も述べたことがありますが、「いい問題をつくろうと思えば必然的に過去問と似たような問題になる」のです。過去に紹介したのは、静岡県の県立高校の試験問題で「35問中33問が前年度のものと同じだった」という事件で、これはさすがに試験が無効となり再試験になったそうですが、問題作成者のコメントは「完成度の高い問題を集めるとそのようになってしまった」というものでした。(詳しくは下記メディカルエッセイを参照ください)

 大学受験では、「絶対に合格すると誰からも思われていた受験生が不合格となった」という話がきっとあなたの周りにもあるのではないでしょうか。これは医師国家試験でも同様です。医師国家試験というのは合格率がおよそ9割の、いわば"普通に"勉強していれば合格する試験ではあるのですが、学年1位2位を争うような"天才"が不合格となることがあるのです。

 私の分析では、そのような"不運な"人たちの共通点は「過去問をおろそかにしていること」です。確かに、彼らは(なぜかこのタイプは男性に多い)、最新の医学に精通し、最先端の論文を英語で読んでいます。ときには、若い医師の知らないことですら熟知していることもあります。学生からだけではなく先生たちからも一目置かれていることもあります。けれども、このような人たちの一部は医師国家試験で不合格となるのです。これが何を意味するかというと、合格率9割の試験では、「他人が知らないことは知らなくていい」のです。もっと言えば、「正解を導くというよりも大多数の人が考えるのと同じように考えることが大切」なのです。そのためには過去問が最も有益なことは容易に理解できるでしょう。

 さて、これを読まれている人のなかには、医師国家試験のように合格率が9割となるような試験ではなく、せいぜい1割、あるいは数パーセントしか合格できない試験を考えている人もいるでしょう。そのような人たちからは、「他人が知らないことを知っていなくては合格できません!」と反論がきそうです。

 しかし、そうともいえません。志望者のごく一部しか合格せずに難関と言われている国公立大学医学部の受験で考えてみましょう。まず医学部に合格するにはセンター試験で最低9割はほしいところですが、苦手分野をつくらずに標準的な問題を解けるようにしておき単純なミスをしなければ得点することは可能です。センター試験の全科目の問題をひとつひとつみても、得点率が例えば1~2割しかないような問題というのはないはずです。(あれば不適切問題とみなされ無効になります)

 二次試験でも、多くの大学では合格者の平均点が7~8割程度になっているでしょう。やはり二次試験でも、先に述べたセンター試験と同様のことがいえるわけです。

 ただし、この点については少し補足しておく必要があります。というのは、実は二次試験の合格平均点が極端に低い大学があるからです。代表は東大の数学です。東大の数学は極めて難問が出題され、1問でも完答できれば医学部でも合格できると言われています。実際、合格者の多くは1問も完答できず、部分点だけで得点しているとも聞きます。また、東大ほどではないにせよ京大の数学も極めて難問が出題され、合格平均点はかなり低いことが予想されます。こういった大学受験では、たしかに「他人が解けない問題を解く能力」が必要となるかもしれません。少なくともそのような"能力"があれば有利になるでしょう。

 東大と京大という2つの大学が"別格"であることは大勢の人が認めるところであり凡人には解けない難問が出題されるということは納得しやすいと思われます。しかし、医学部受験に限っていえばもう少し注意が必要です。それは、「医学部単科大学では難問が出題される傾向にある」ということです。このため、偏差値は東大や京大ほど高くなくても、医学部単科大学の受験は、(塾などで)特別な訓練を受けていないと、特に数学と理科ではそれなりの苦労を強いられる、といったことが起こりえます。

 では、特別な才能もなく、特別な訓練も受けていない人が医学部に合格するにはどうすればいいのでしょうか。そのひとつの対策として、東大と京大をのぞく総合大学の医学部を受験する、ということを提案したいと思います。総合大学の理系には、医学部以外に、理学部や工学部などがあり、そういった他の理系学部と医学部の入試問題は同じになっているはずです(例外はあるかもしれませんが)。そしてこういった総合大学の医学部合格者の平均点は軒並み高くなっているはずです。このような大学が「特別な才能もなく特別な訓練も受けていない」(医学部受験当時の私のような)凡人には最も合格しやすいのです。これを逆に「合格平均点が高いところは難しい」と考えている人がいますが、少なくとも凡人にとっては正しくありません。

 というわけで、本日のまとめとしては、次のようになります。

   1、 試験勉強に最も有効なのは過去問を繰り返し解くこと。

    2、良問は過去に何度も出題されており、良問を作成しようと思えば過去問と似てしまうのは必然である。

    3、自分が受ける試験の合格率と合格者の平均点を意識することが大切。
    合格率もしくは合格者の平均点のどちらかが高ければ"凡人"でも充分合格可能。

    4、合格率と合格者の平均点の双方が極めて低いような試験では、特別な才能か特別な訓練が必要となることもある。

参考:メディカルエッセイ第10回(2005年3月)「過去問やってますか?」