はやりの病気

第30回 コーヒー摂取で心筋梗塞!? 2006/04/15

以前、このコーナー(「はやりの病気」第22回)で、コーヒーは様々な病気の予防に効果があるという研究結果を紹介しました。具体的には、癌、糖尿病、高血圧、パーキンソン病などの疾患において、各国の大規模調査でコーヒーの有用性が証明されたというものです。

 ところが、最近、コーヒーは心筋梗塞のリスクを上昇させるのではないかという研究が発表され話題を呼んでいます。『JAMA』という医学専門誌の2006年3月8日号にその研究が紹介されています。

 その研究によりますと、「カフェイン代謝速度が遅い個体においては、コーヒーの摂取が非致死性心筋梗塞のリスク増加と関連した」と結論づけています。この表現は少しむつかしいように思いますので分かりやすく解説していきましょう。

 まず、「カフェイン代謝速度が遅い個体」というのは、この研究に協力した個人の遺伝子を調べています。つまり、個人によってカフェインを代謝する速度が異なり、その原因は個人が持っている遺伝子にあるというわけです。「代謝」というのは、要するにカフェインを分解してしまう生体の能力のようなものです。

 そして、カフェインを代謝するのが遅い遺伝子を持っている人が、コーヒーを摂取することによってカフェインが体内に長い時間とどまることになり、それが心筋梗塞を起こしやすくする、というわけです。

 心筋梗塞という病気は、あまりにも有名なために解説はいらないかもしれませんが、ここで少し復習しておきましょう。

 心臓は寝ているときも起きているときも意識に関係なく24時間働いてくれています。全身に血液を送り出さなければならないわけですから、かなりの重労働でそのため心臓の筋肉は多量の血液を必要とします。したがって心臓の周囲の血管というのはしっかりとした太いものです。

 ところが動脈硬化がおこると、血管の内部にドロドロした物質が付着することによって血管の内径が細くなってしまいます。そして少しの血液しか流れなくなり、やがて完全に血管がつまると心臓の筋肉が悲鳴を上げ、心筋梗塞が起こります。

 この論文で述べられているように、カフェイン摂取で心筋梗塞のリスクが増加するなら、カフェイン大量摂取で動脈硬化が促進される可能性があると言えます。しかし、今回発表されたこの論文では、それに対する説明があまりなされていません。まだ発見されていない未知のメカニズムがあるのかもしれません。

 周知の動脈硬化を促進する要因はいくつかあります。その代表が糖尿病と高血圧です。しかし、「はやりの病気第22回」でご紹介したように、コーヒーは糖尿病も高血圧も予防する効果があるという研究があります。これらは矛盾しているようですが、医学とはそんなに単純なものではありませんから、いつの日かこれらをクリアカットに説明できるときがくるのかもしれません。

 ところで、カフェイン代謝速度が遺伝子で決まるなら、自分の遺伝子はどうなんだろう、と疑問を持たれる方もおられるでしょう。遺伝子を調べて、もしもカフェイン代謝速度が遅い遺伝子をもっているなら、これからカフェイン摂取を控えることによって心筋梗塞のリスクが減らせるかもしれないのですから、知りたいと思うのも当然です。

 しかしながら、今回の研究で調べられたようなカフェイン代謝速度の遺伝子というのは、まだまだ研究レベルのものであり、実用的ではありません。もしもカフェインと心筋梗塞の関係が今後の研究ではっきりとすれば、遺伝子検査が実用化されるかもしれませんが、当分先のことだと思われます。

 一般に「心臓病」と言うときは、この心筋梗塞を指すことが多いといえます。それだけ心筋梗塞とは重大な病気であり、日本人の三大死因のひとつでもあります。心筋梗塞はもしも発生すれば一刻を争う病気であり、すばやく救命処置がとられなければ命に関わる疾患です。

 したがって、心筋梗塞を防ぐための食品やサプリメントの研究は多々ありますが、最近は否定的なものも相次ぐようになりました。記憶に新しいショッキングな報告は、ビタミンEについてのものです。心筋梗塞の原因である動脈硬化を予防するには抗酸化物質を摂取すればいいと考えられており、その代表のひとつであるビタミンEの摂取がこれまで推薦されていました。

 ところが2001年11月29日に『New England Journal of Medicine』という雑誌に発表された論文で、心筋梗塞の予防には抗酸化物質の効果がないことが報告され、その後も特にビタミンEの効果については否定的な結果があいついでいます。

 青い魚の脂肪にたくさん含まれているオメガ3脂肪酸という物質をご存知でしょうか。これは、心筋梗塞の発症率に地域差があることから発見につながった物質です。元々心筋梗塞は欧米に多く、日本や地中海沿岸地方では発症率が低いという特徴があります。地域差があるということは、食生活に原因があるに違いないと考えられ、その結果特定されたものがこのオメガ3脂肪酸というわけです。つまり、日本や地中海沿岸地方では従来から青身の魚を食べる習慣があり、日頃からオメガ3脂肪酸を摂取しており、そのため心筋梗塞になりにくいのではないかと考えられているというわけです。

 オメガ3脂肪酸は心疾患だけでなく癌の予防効果もあると言われており、現在世界の多くの国で積極的な摂取が薦められています。生活習慣病を防ぐために青身の魚を食べましょう、というようなことはきっと聞かれたことがあると思います。実際、サプリメントにもオメガ3脂肪酸が含まれているものがありますし、一部の医薬品にもあります。

 ところが、です。最近、このオメガ3脂肪酸の効果を疑問視する研究が発表され議論を呼んでいます。2006年3月24日の『British Medical Journal』(電子版)に、英国のある大学がおこなった研究が掲載されました。この研究によりますと、これまでに発表されたオメガ3脂肪酸に関連した89の研究を再分析したところ、健康増進効果を導きだせなかったそうなのです。この報告では、「狭心症(心疾患のひとつで心筋梗塞の一歩手前のような状態)などの人は、念のため、(オメガ3脂肪酸の)多量の摂取は控えた方がいい」としています。

 ところで、食生活やサプリメントというのは、マスコミの報道や宣伝広告ほど効果が期待できない、と考えるべきだと私は思っています。今回は心臓病を取り上げて、研究発表を振り返ってみましたが、例えば癌に効果があるとされているようなものは、ほとんど何ひとつきちんと証明されていません。それどころか、かえって有害であるという報告も見られます。

 アガリクス製品が、癌を予防するどころか、発癌物質を含んでいることが分かり、厚生労働省管轄の食品安全委員会が販売中止を命じたのがいい例でしょう。(例えば共同通信社2006年2月14日)

 また、以前、大腸癌を予防するということで脚光を浴びていたベータカロチンが、実際には大腸癌を予防するどころか、かえって肺癌のリスクを上昇させることが分かったというのもよく知られていることです。

 話を心臓病に戻しましょう。

 心筋梗塞を予防することを考えたとき、コーヒーは逆効果である可能性があり、ビタミンEを代表とする抗酸化物質やオメガ3脂肪酸には期待することができないかもしれない・・・。では、我々は、いったい何をすればいいのでしょうか。

 心配しなくても、的確に心筋梗塞を予防する方法はきちんとあります。わざわざ最新の医学情報、あるいはサプリメント情報に精通している必要はありません。では、その方法をご紹介しましょう・・・、といきたいところですが、その前に「サプリメントとの付き合い方」について片付けておきましょう。

 まず、サプリメントというのはどうしても摂らなくてはいけないものではありません。かといって、度を越さなければ摂ってはいけないものでもありません。期待はそれほどせずに、「摂取することによって体調がよくなれば儲けもの」、くらいの気持ちで考えればいかがでしょうか。

 コーヒー、酢、大豆、など、健康にいいとされている食品についてはどうでしょうか。私はこれらも、「好きなら摂取する」、くらいでいいと考えています。「健康にいいから摂取するんだ!」という気持ちでいればおいしいものもそうでなくなってしまいます。「おいしくて自分が好きなものだからよく食べている(飲んでいる)」くらいがちょうどいいのではないかと私は考えています。

 次回は、「確実な心臓病予防法」についてお話することにいたします 。

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