医療ニュース

2012年4月14日(土) 携帯電話の脳腫瘍に関する米国の研究結果

 携帯電話の長時間の使用が神経膠腫(しんけいこうしゅ)と呼ばれる脳腫瘍のリスクになることが指摘される一方で、何ら関連性はない、とする意見もあり、現時点では決着がついていません。
 
 2011年5月31日、WHOは携帯電話の長時間の使用は発ガン性があるかもしれない(possibly carcinogenic)との見解を公表しました。しかし、その後発表されたデンマークの大規模研究の結果では「携帯電話は脳腫瘍のリスクに関係がない」とされています。
 
 そんななか、米国国立癌研究所が携帯電話と脳腫瘍との関連性を改めて調査し、その結果が医学誌『British Medical Journal』2012年3月8日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。
 
 この研究では、1992年~2008年の間に神経膠腫の診断がついた18歳以上の非ヒスパニック系の白人24,813例が解析の対象とされています。1992~2008年の間に、アメリカの携帯電話の使用状況はほぼ0%から100%へと大きく変化していますが、この間に神経膠腫の発生率は全般的に変化していなかったそうです。
 
 この研究では、過去の2つの疫学研究と実際の発生率との比較検討がおこなわれています。2つの研究とは、1つが「スウェーデン研究(Sweden Study)」と呼ばれるもので、もう1つが「インターフォン研究(Interphone Study)」というものです。これらの研究はいずれも携帯電話の長期使用が神経膠腫のリスクを上昇させる可能性を示唆しています。
 
 スウェーデン研究の結果に基づいて米国での神経膠腫罹患者を推定した数字は実際の罹患者数と大きく乖離しており(最低でも40%は実際の罹患者は少なかったそうです)、同研究が指摘するようなリスク上昇はみられなかったそうです。
 
 一方、インターフォン研究との比較では、インターフォン研究で指摘されている一部の少数のヘヴィーユーザー(a small number of heavy users)での罹患率は米国での罹患者と統計学的に矛盾しないそうです。
 
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 この論文を読んだときに、スウェーデン研究が指摘するような神経膠腫のリスク上昇はないんですよ、ということはよく分かったのですが、インターフォン研究との比較が何を言いたいのか私にはよく分かりませんでした。
 
 インターフォン研究は発ガン性を示唆しているわけで、米国での実際のデータがこれに矛盾しないなら、米国のヘヴィーユーザーの間では発ガン性を認める、ということになるのではないか、と感じたのです。
 
 しかし、米国国立癌研究所(National Cancer Institute)のウェブサイトをみてみると、このニュースのタイトルを「携帯電話の使用で脳腫瘍のリスクは上がらない」と断定していますから(注2)、「発癌性なし」という結論を出しているのは間違いないようです。
 
 では、この米国の発表を受けてWHOがどのような見解をとるのか、今後の発表に期待したいと思います。


注1:この論文のタイトルは、「Mobile phone use and glioma risk: comparison of epidemiological
study results with incidence trends in the United States」で、下記のURLで原文(全文)を読むことができます。
 
http://www.bmj.com/content/344/bmj.e1147

注2:このニュースのタイトルは、「U.S. population data show no increase in brain cancer
rates during period of expanding cell phone use」で、下記のURLで本文を読むことができます。

http://www.cancer.gov/newscenter/pressreleases/2012/GliomaCellPhoneUse


参考:医療ニュース
2011年10月31日 「過去最大規模の研究で携帯電話と脳腫瘍に関連なし?」
2011年6月3日 「WHOが携帯電話の危険性を公表」