マンスリーレポート

2018年11月 サプリメントや健康食品はなぜ跋扈するのか

 健診での肝機能障害や腎機能障害の原因がサプリメントだった...、最近、動悸や嘔気などが気になると思っていたらその原因が健康食品だった...、息切れの原因が通販で購入した漢方薬だった...、などといったことはまったく珍しいことではなく、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の患者さんのなかにもこういった被害に合う人がいます。

 サプリメントや健康食品というのは、あらためて言うまでもなく効果のエビデンス(科学的確証)に乏しいものであり、一方で副作用の被害はそれなりに多いものですから、きちんと考えれば手を出すべきではありません。私は医学生の頃から、なんでこんなものに大金を払うのだろう、と患者さんから話を聞く度に疑問に思っていました。

 たいていの患者さんは、(医療者でない)知人から聞いた、テレビのパーソナリティが言っていた、ネットに書いてあった、などと言います。「エビデンスはあるのですか」などと意地の悪い聞き方はしませんが、有効性はどれくらいあるかご存知ですか?と尋ねてもきちんと答えた人はいまだに一人もいません。興味深いことに、知的レベルの高い、というか理系の大学を卒業しているような人でさえ、きちんとした理論を持たずに服用しているのです。

 なかには、薬が売れなくなると医療者や製薬会社が困るから医者はサプリメントを勧めない、などという「陰謀論」のようなことを言い出す人もいて驚かされます。今回は、「なぜサプリメントや健康食品に手を出すべきではないのか」についてまとめてみたいと思います。

 まず、第一にサプリメントは危険すぎます。実際のデータもそれを裏付けています。東京都福祉保健局が公表している平成26年度「都民の健康と医療に関する実態と意識」(第2部第2章103ページ)によれば、健康食品を使用して体の不調を感じたことがある人は全体の4.2%にもなります。ここで注目したいのはこの4.2%は自覚症状に限ってということです。自覚症状がないまま生じている肝機能障害や腎機能障害は含まれていません。ですが、自覚症状の4.2%だけでも驚くべき数字ではないでしょうか。処方薬でも、もちろん例外は多数ありますが、4.2%もの自覚できる副作用が生じる薬というのはそう多くありません。

 谷口医院で実際に生じた例を紹介しましょう。興味深いことに、サプリメントの被害には男女の特徴があります。これはおそらく谷口医院の患者層が比較的若いからだと思います。

 男性の場合、圧倒的に多いのがプロテインによる腎機能障害です。プロテインを摂取している理由は筋肉増強のためで、多くの人が、実際に筋肉量が増えることを実感しています。害がなければ摂取してもかまわないのですが、けっこうな割合で腎機能が悪化している人がいます。この場合自覚症状はまったくなく、職場の健診や谷口医院での採血で発覚します。

 腎機能障害がまだ起こっていなくても血中タンパク質の濃度が異常高値を示していることがあります。これは筋肉を増やす目的でプロテインを摂取しているものの、肝心のトレーニングが不充分でせっかく摂ったプロテインが筋肉に変わることなく血中に漂っていることを示しています。

 筋トレをしている人の場合、クレアチンを摂取していることがしばしばあり、これも危険です。高いエビデンスはないもののプロテインと同様、クレアチンも筋肉量を増やすには有効だと言われています。しかし、腎臓に負担がかかるようで腎機能が悪化する人がいます。しかもクレアチンの場合、プロテインよりも一気に悪化することがあります(これを科学的に検証した論文を探してみたのですが見つかりませんでした)。

 一方、女性で多いのがダイエット用のサプリメントで、たいていは海外製のものです。以前タイ製の「ホスピタルダイエット」「MDクリニックダイエット」などが危険であることをこのサイトで指摘しました。これらには、日本未承認のやせ薬シブトラミンや甲状腺ホルモンが含まれていましたから、動悸や嘔気が生じるのは当然です。最近はこれらの製品名は効かなくなりましたが、海外製のダイエット効果があるとされているサプリメントには似たような成分が入っている可能性が高いと言えるでしょう。

 ビタミン剤なら大丈夫と思っている人がいますが、これも大きな誤解です。水溶性のビタミンはOKと言う人もいますがそうではありません(参照:医療ニュース2014年3月31日「ビタミンCやEの摂りすぎで膝を悪くする」。ビタミンでここ数年よく聞かれるのが「ビタミンDのサプリメントは積極的に摂らなければならないって聞いたんですが...」というものです。興味深いことに、この質問はなぜか高学歴の人から多く寄せられます。また、「冬は紫外線の量が少ないから冬だけ摂るべきですよね」と言われることもあります。結論を言えば通常の食事をしていれば必要ありません(注)。紫外線を100%カットしていてもバランスのとれた食生活をしている限りサプリメントは不要、というより危険性の方が大きいと考えるべきです。ただし、ビーガンと呼ばれる極端な菜食主義の人はこの限りではなく、ときにサプリメントの摂取を例外的に勧めることがあります。
 
 ミネラルはビタミンよりも遥かに難しいと考えねばなりません。セレンやクロムなどの微量元素は通常の食生活から摂れない、と主張する人がいますが、たいていの日本人はこれらを調べても不足していません。にもかかわらずサプリメントとして摂取すれば過剰摂取につながるおそれがあります。男性の場合、特に注意が必要なのが「鉄」です。マルチミネラルには鉄が含まれているものが多くありますが、通常の食事をしている限り日本人の男性で鉄が不足することはまずありません。そして、鉄を過剰に摂取すると余った鉄が肝臓に沈着する可能性があります。女性の場合も、閉経後に鉄が含まれたサプリメントを摂るのはやめた方がいいでしょう。一方、閉経前の女性であれば、むしろ積極的に鉄のサプリメント(ただしマルチミネラルではなく鉄単独のもの)を推奨することがあります。医薬品の鉄剤は嘔気の副作用が起こりやすくサプリメントの方が使いやすい場合もあるのです。

 ただし、サプリメントには有効成分のばらつきが多いことが指摘されています。この問題を回避するためには「GMP認定」された製品を選択するという方法があり(参照:日本健康食品規格協会(JIHFS)のウェブサイト)このマークが入っている製品を購入するのがいいでしょう。ですが、我々医療者はこの時点で疑問です。なぜなら「製品にばらつきがないのは当たり前じゃないの??」と感じるからです。当然のことですが、医薬品ならばらつきがある時点で承認されませんし、発売後にばらつきが発覚すれば直ちに販売中止になります。

 ところで、なぜ昔は有用とされていたビタミンやミネラルのサプリメントが無効なのでしょう。ビタミンやミネラルが身体に必要なのは間違いありません。またバランスよく食事を摂取しなければこれらの要素が不足する恐れがあることも事実です。ですが、だからといって野菜や果物などからこれらの栄養素を取り出してカプセルに詰め込んで摂取しても効果がないどころか、有害になる場合もあるのです。有名なのは、βカロテン(カロチン)摂取で肺がんのリスク上昇(参考:医療ニュース2014年1月28日「やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害」)やビタミンEの前立腺がんリスク(参考:医療ニュース2011年11月14日(月)「ビタミンEの発ガンリスク」)ですが、他にも多数あります。ビタミンやミネラルは食事から摂取して初めて有効だと考えるべきなのです。

 ビタミンやミネラルのサプリメントに効果がないことはいくつものデータが示しています。詳しく知りたい方は国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」の「「健康食品」の安全性・有効性情報」を参照するのがいいでしょう。少し専門的で難しい部分もありますが、副作用が出てからでは手遅れとなる可能性もありますからまずは知識の習得に努めるべきです。

 もうひとつ、健康食品やサプリメントに手を出すべきでない理由を述べておきます。それは、医薬品との、あるいは他のサプリメントとの相互作用が未知だということです。薬と薬の相互作用(飲み合わせ)は患者さんが思っているよりも遥かに複雑ですが、ある程度のデータがありますから科学的な観点から検討することができます。一方、多くのサプリメントや健康食品にはそれらを検証したデータがなく未知の部分が多すぎるのです。サプリメントなどを複数(なかには10種以上も!)飲んでいる人がたまにいますが、相互作用について考えているとは到底思えません。

 サプリメントや健康食品に有益性が"仮に"あったとしても、危険性を考慮するととても手を出せるものではありません。私なら、そのようなものを買うお金があるなら、新鮮な野菜や果物を中心とした食事に使います。



注:ただし、その後ビタミンDの基準摂取量が変更されたことにより多くに日本人が「ビタミンD不足」に陥りました。2005年では成人が1日に必要な基準量が5ug/日でしたが、2010年に5.5ug/日に変更され、さらに2020年には一気に8.5ug/日にまで引き上げられたのです。公益財団法人長寿科学振興財団によると、ビタミンDが不足している日本人は過半数を超えます。ちなみに、この変更を機に谷口医院内でスタッフの採血をしてみるとほぼ全員が基準値を下回っていました。以前は「ビタミンDは食事(と日光)からの摂取で充分」とされていましたが、現在は「多くの日本人はサプリメントからの摂取が必要」と考えなければなりません。