医療ニュース

2021年4月27日 たった一度の頭部外傷で認知症リスクが上昇

 慢性外傷性脳症(以下「CTE」)の恐ろしさについてこれまで繰り返し述べてきました。今も日本ではこの疾患があまり注目されていませんが、スポーツに捧げた人生の最期が悲惨なものになることから、海外ではサッカーを含むコンタクトスポーツの是非が見直されつつあります。

 一般にCTEは繰り返し脳震盪を起こしたような人がハイリスクと言われています。では"繰り返さなければ"リスクは低いのでしょうか。

 たった一度の頭部外傷で認知症のリスクが上昇する......

 医学誌「Alzheimer's & Dementia」2021年3月9日号(オンライン版)に掲載された論文でこのようなことが言われています。論文のタイトルは「頭部外傷と認知症の25年間のリスク(Head injury and 25‐year risk of dementia)」で、要約すると「たった一度でも頭部外傷の経験があれば後年に認知症を発症するリスクが25%高く、受傷回数が多いほどそのリスクは上昇する」というものです。

 研究の対象は米国のARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)と呼ばれる研究に参加した14,376人(研究開始時の平均年齢は54歳、56%が女性)。追跡期間中(中央値25年)に、対面または電話で頭部外傷に関する聞き取り調査をおこない、さらに対象者のカルテから過去の頭部外傷のエピソードが調べられています。

 認知症との関係を分析したところ、認知症を発症した人の9.5%が、過去に生じた1回以上の頭部外傷に関連していることが分かりました。頭部外傷のエピソードがある人とない人を比較すると、一度のエピソードがある人は、後年に認知症を発症するリスクが25%高いことが分かりました。2回以上あれば25年後の発症リスクが2倍以上になっていました。

 男女の比較では、女性の方がリスクが高く(女性1.69倍、男性1.15倍)、白人の方が黒人よりもリスクが高い(白人1.55倍、黒人1.22倍)ことが分かりました。

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 どうやら、我々の頭部は固い頭蓋骨に保護されているとはいえ、それほど強固なものではなさそうです。コンタクトスポーツのみならず、日常生活でも注意すべきでしょう。バイク乗車はもちろん、自転車でもヘルメット装着がもっと検討されてもいいかもしれません。


参考:

医療ニュース
2020年8月17日「小児のヘディングは禁止すべきか」
2019年11月23日「やはりサッカーも認知症のリスク」
はやりの病気
第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」