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はやりの病気


64.”臭いが気になる”病気

 自分の臭いが気になるんです・・・

 そう言ってクリニックを受診する患者さんがときどきいます。臭いの原因は様々ですから、こういった患者さんを診察するときには、その臭いの原因を明らかにして治療をおこないます。

 一番多いのが「脇の臭いが気になる」というものです。こういった患者さんを診るときには、まずは脇を露出してもらい臭いを確認し、必要であれば脇を綿棒でぬぐって細菌感染の程度を調べることもあります。なぜ臭いが発生するかというと、過剰に分泌されたアポクリン汗が、脇に常在している細菌によって代謝・分解された産物が臭いの元となるからです。治療が必要なほどの臭いがあれば(これを「腋臭症(えきしゅうしょう)」と言います)、治療が手術になりますから、適切な医療機関を紹介することになります。

 次に多いのが「口臭が気になる」という訴えです。口臭だけならまず歯科医院を受診するでしょうから、当院でこのような症状を訴える人は、別の病気で受診をし、”ついでに”日ごろ気になっている口臭について相談されることが多いようです。この場合は、まず歯肉を観察します。歯肉が赤く腫れていればピンセットなどでその部分を刺激してみます。痛みを訴えたり、出血があったりすれば歯周病(昔の言い方では「歯槽膿漏(しそうのうろう)」)を疑い、歯科医を受診してもらいます。

 歯周病ではなく口臭が気になる人で、胃の不快感や胸やけ、あるいはゲップが多いという症状があれば胃薬を処方することもあります。

 「外陰部や帯下(おりもの)が臭う」という訴えもよくあります。帯下が臭う病気で一番多いのはトリコモナス腟炎です。トリコモナスは原虫とよばれる小さな病原体で、顕微鏡で観察することができます。したがって、診断はごく簡単です。帯下を少し綿棒などで採取してそのまま顕微鏡で観察すればすぐに診断がつきます。治療も簡単で、トリコモナス用の腟錠(腟に入れる錠剤)を数日から10日間程度使用すればまず間違いなく治ります。よほどの重症(診察室に入ってきた時点で臭うような場合)や腟錠を自分で入れることができない人の場合は、飲み薬を飲んでもらうこともあります。

 トリコモナス以外にも帯下の臭いが悪化する病気があります。有名なクラミジアや淋病は重症化すると臭いがでてくることがありますし、これら以外の細菌(診察室では「雑菌」という言葉を使って説明することがあります)でも、異常増殖するとイヤな臭いとなる場合があります。

 「足が臭う」という場合は水虫であることが多いと言えます。誰でも足に汗をかいて放っておいたり、靴下を履いたまま寝たりすればある程度は臭いがしますが、水虫にかかっていると治療をする必要があります。水虫(白癬菌)も顕微鏡で簡単に診断がつきますから、診断をつけて塗り薬を処方します。重症の場合は飲み薬を併用することもあります。

 これら上に挙げた臭いの多くは、抗菌薬や外科的な処置をおこなえば完全に治るわけですが、それほど頻度は多くないものの悪性腫瘍(ガン)による臭いがある場合もあります。例えば、食道癌や口腔内の癌で口腔から悪臭がする場合がありますし、子宮頚癌も進展すれば悪臭が伴います。

 さて、私が日常の診療でやっかいだと感じている病気に「自己臭恐怖」というものがあります。これは客観的には何の異常もないのだけれど、患者さん自身が「自分は臭うに違いない」と決め込んでいるような状態です。

 こういった患者さんを診たときには、まず身体のどの部分が臭うのかを聞いて、その部分の検査をおこないます。上に述べたような部分の検査をおこない、異常がないことを伝えたとしても納得されないような場合に「自己臭恐怖」という病名について話をすることになります。

 重症の人は、自分の臭いが気になって日常生活もままならなくなることもあります。自分の臭い(もちろん他人は何も感じないのですが)が気になって外出できなくなるような人もいます。こうなれば、「自己臭恐怖」の専門的な治療が必要になります。当院でも重症の患者さんには精神科を紹介することにしています。(ただし実際には精神科受診を嫌がる人もいます)

 ところで、何年か前から「加齢臭」という言葉をよく聞くようになりました。ノネナールという物質が原因なのですが、これは、皮脂腺の中のパルミトオレイン酸という脂肪酸と過酸化脂質が結びつくことによって作られる物質です。(参考までに、医学の教科書には「加齢臭」という言葉はでてきません。「加齢臭」という言葉は2000年に資生堂が命名したそうです)

 この加齢臭を防ぐためのサプリメントやボディシャンプーなどはよく売れているそうで、私自身も患者さんから「どんなものを使えばいいですか」と聞かれることがあります。「加齢臭」自体は、少なくとも保険医療の対象にはなりませんし、寿命を縮めるものでもありませんから、我々としては「病気」とは考えていません。

 ただ、治療しなければならないものではなかったとしても臭いというのは気になるものです。私自身も、医師としてではなく個人として自分の臭いが気になることがないわけではありません。

 最近、ライオン株式会社のビューティケア研究所が、30代の男性の臭いの元を明らかにし発表しました。この臭いの元は、「ペラルゴン酸」という物質で、ノネナールが原因の加齢臭とは異なるそうです。ライオン社がおこなった調査によりますと、「男の曲がり角」は34.7歳にやってきて、「体臭が強くなる」ことを意識する30代男性が少なくないそうです。

 さらにライオン社は、メマツヨイグサ抽出液でこのペラルゴン酸を抑制することを明らかにし、この抽出液を製品化することに成功し、近々発売する予定だそうです。

 この情報を入手した私は、「これが発売されたら早速試してみよう」と思ったのですが、その直後に気づきました。

 私は2か月前に40歳になっていたということを・・・

 私が気にしなければならないのは30代のニオイの元であるペラルゴン酸ではなく、加齢臭だったのです!

63.日本脳炎を忘れないで!

 一度発症率が減少した後に再び増加し注目されるようになった感染症を「再興感染症」と呼びます。代表的なものが、結核、デング熱、狂犬病などですが、私は日本脳炎が再興感染症に加えられる日が近いのではないかと考えています。

 日本脳炎は、病気の名前が示すように日本に多い感染症でした。実際、1960年代までの日本では年間千人程度の患者数が報告されています。ところが、その後予防接種が普及し、また、水田耕作法や養豚方法が近代化された結果、患者数は激減し、最近の発症は年間10例未満となっています。

 しかし、これは日本国内の話です。日本脳炎はアジア全域に発症が認められます。特に中国南部からインドシナ、インドあたりで多く、毎年約5万人が発症し、約1万5千人が死亡しています。これは狂犬病に次ぐ致死的脳炎と言えます。

 この日本脳炎が再び日本で増加するかもしれない・・・、という話をしたいのですが、その前にこの高い致死率に注目してみてください。年間5万人の発症に対して、1万5千人が死亡、致死率はおよそ3分の1です。

 中国南部やインドシナでは医療技術が未熟じゃないの・・・、そのように考えたとすれば、それは間違いです。日本脳炎は日本で発症したとしても、致死率はおよそ3分の1です。日本脳炎には特効薬がないのです。

 さらに、残り3分の2が完全に回復するわけではありません。3分の1は神経障害など重篤な後遺症が残り、ほとんど寝たきりの生活となります。元気になって元の生活に戻れるのは3分の1のみなのです!

 日本脳炎は日本脳炎ウイルスに感染することで発症しますが、ここで、日本脳炎ウイルスはどのようにしてヒトに感染するのかおさらいしておきましょう。

 まず、日本脳炎ウイルスはヒトからヒトへの感染はありません。コガタアカイエカという蚊に刺されることで感染します。日本脳炎ウイルスは豚に感染していることがあるのですが、感染している豚の血液をコガタアカイエカが吸い出すことによって、コガタアカイエカの体内に日本脳炎ウイルスが移動します。そして、そのコガタアカイエカが人の血液を吸うときに、血液を吸いだす前に血を固まりにくくするために唾液を分泌します。その唾液のなかに日本脳炎ウイルスが含まれており、ヒトの血中に移動するというわけです。

 こう書くとかなりややこしいですが、要するに、コガタアカイエカが豚の体内に棲息している日本脳炎ウイルスをヒトの血液内に運んでいると考えれば分かりやすいかと思います。ですから、ヒトからヒトへの感染はありません。

 日本での日本脳炎発症例は、現在年間10例未満ですが、実は豚の日本脳炎ウイルスの抗体保有率はかなり高いことが分かっています。地域にもよりますがおおむね50%を超えるという調査が多いようです。(「抗体を保有している」というのは、その豚が日本脳炎ウイルスに罹患しているという意味です)

 豚の多くが日本脳炎ウイルスに罹患していることを考えると、日本脳炎発症者が年間10例未満というのは少なすぎるように思えます。これはなぜでしょうか。

 実は、ヒトがコガタアカイエカを通して日本脳炎ウイルスに感染しても、全員が発症するわけではありません。日本脳炎を発症するのは、感染者の100人から1,000人にひとりくらいの割合と言われています。つまり、ほとんどの人は日本脳炎ウイルスに感染しても自覚症状のないまま治癒しているのです。(これを「不顕性感染」と呼びます)

 ただし、その100人から1,000人のひとりに選ばれれば(別に選ばれているわけではありませんが)、大変な事態になることは先に述べた通りです。

 さて、私はその日本脳炎が今後日本で増えることを危惧しています。その理由をお話します。

 まず、ひとつめは、日本脳炎ウイルスに感染している豚が増えている可能性があることです。今年(2008年)の7月に三重県でおこなわれた調査では、検査した豚すべてから抗体が検出されています。8月には鹿児島県で日本脳炎ウイルスに感染した豚が基準値を超えたことにより、日本脳炎注意報が発令されました。

 ふたつめの理由は、日本脳炎ウイルスのワクチン接種をおこなうのが現在むつかしくなっているということです。日本脳炎が日本で急激に減少した最大の理由はワクチンの普及ですが、そのワクチン接種が現在非常に困難な状態にあるのです。

 これは、2004年に山梨県の14歳の女子が日本脳炎のワクチン接種が原因で、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)と呼ばれる意識障害や手足が麻痺する病気になったことを受けて、2005年に厚生労働省が「現行のワクチンでの積極的推奨の差し控えの勧告」をおこなったことが原因です。「積極的推奨の差し控えの勧告」とはずいぶん分かりにくい表現ですが、要するに「日本脳炎ウイルスのワクチンはキケンかもしれないから積極的に打たないでね」と言うことです。

 現行のワクチンが使えないなら、安全なワクチンを開発すればいいわけですが、ことはそう簡単には進みません。厚生労働省のワクチン差し控え勧告を受けて、国内のメーカー2社が危険性の低い新しいワクチンを開発していましたが、「接種部位が腫れる」などの副作用が出現し、追加臨床試験が必要となり現在も審査の途中です。供給開始は早くても来年度(2009年度)以降になる見通しです。

 このようにワクチン接種をおこないにくい状況のなか、2008年10月には茨城県で2人の日本脳炎発症者が確認されました。先に述べたように日本脳炎を発症するのは、100人から1,000人にひとりですから、単純に計算して、茨城県では1月の間に200人から2,000人が日本脳炎ウイルスに感染したことになります。

 日本脳炎には地域的な偏りがあることが分かっています。関東地方よりも中国・四国・九州地方に圧倒的に多いという特徴があります。茨城県でひと月の間に2人の発症者が出たということは、今後西日本でさらに大勢の罹患者が現れる可能性があります。

 日本脳炎を危惧しなければならないのは本来ワクチンを接種すべき年齢にある小児だけではありません。実は、日本脳炎ウイルスのワクチンは生涯有効ではないのです。ですから、感染の可能性がある人は子供の頃にワクチンをうっていても抗体検査をおこない、抗体が消えていればワクチンの追加接種を検討すべきです。(実は、最近私も抗体検査をおこなったところ「陰性」でした。早速ワクチンを接種しましたがこのワクチンは厚生労働省が「差し控え勧告」をおこなっているものです)

 近所に豚がいない人は日本脳炎なんて気にしなくていいんじゃないの・・・。そう思う人がいるかもしれません。その地域から離れなければたしかにそうかもしれませんが、これだけ海外旅行がさかんになると海外(というより日本脳炎に関してはアジア)での感染を考えなければなりません。そして、このことが、私が日本脳炎増加を危惧する3つめの理由です。

 A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、狂犬病などと比べると、「海外に行く前に日本脳炎のワクチンを」と言われることはあまり多くはありませんが、私はこれを不思議に思っています。

 アジア全域で年間5万人が発症しているということは、単純計算で年間500万人から5,000万人がウイルスに罹患していることになります。そして、もう一度言いますが日本脳炎を発症すると回復するのは3人に1人のみなのです。

 1日も早く安全性の確立した新しいワクチンが誕生することを願いたいものです・・・。
 
参考:
医療ニュース2008年8月29日「鹿児島で日本脳炎注意報」
医療ニュース2008年8月1日「日本脳炎の新ワクチンは2009年以降に」
医療ニュース2008年7月24日「豚が近くにいる人は日本脳炎に注意を!」
はやりの病気 第60回「虫刺されにご用心」

62.ニキビの治療が変わります!

 欧米では10年以上の歴史があり、世界50ヶ国以上で使われているニキビの特効薬ともいえるアダパレン(商品名ディフェリンゲル)がついに保険診療で処方できることになります。

 この薬は、高い効果が期待できる半面、ピリピリとした感覚(副作用)が出やすいことや(ただしほとんどは数日間のみ)、原則として妊婦には使えないことなどもあったためか、日本では長い間承認されていませんでした。

 もっとも、我々医師はアダパレンの高い有効性を知っていますから、保険診療が認められていないとはいえ、これまでも(医師としての)個人輸入などをおこない、希望する患者さんには保険外(自費診療)で処方していました。

 ただ、やはり自費診療になりますから、若い患者さんにすすめるのには抵抗があり、すてらめいとクリニックにニキビで通われている患者さんに対しても実際に説明をして処方したのはごくごくわずかです。(保険診療をしている以上、自費診療は検査でも薬でも推薦しにくいのです・・・)

 さて、アダパレン(ディフェリンゲル)がなぜそんなに高い効果があるのかについてお話する前に、まずはニキビがなぜできるのかを簡単に復習して、従来の治療をおさらいしておきましょう。

 簡単に言えば、ニキビの原因は2つです。ひとつは、アクネ菌を代表とする皮膚にいついている細菌が毛穴をすみかにして増殖することです。つまり、ニキビとは「細菌感染症」なのです。細菌感染症ですから当然抗生物質が効きます。現在、日本で、保険診療でおこなうニキビの治療は抗生物質が中心です。商品名で言えば、外用薬ならダラシンゲルやアクアチムクリーム、内服薬なら、ルリッドやミノマイシンです。

 ニキビのもうひとつの原因は「毛穴がつまる」ことです。細菌は毛穴の奥をすみかとしていますから、毛穴がつまれば細菌の”思うツボ”です。なぜなら、毛穴がつまって細菌が奥に閉じ込められれば、クレンジングをしても洗顔をしても容易には洗い流されないからです。

 では、なぜ毛穴がつまるかといえば、その原因は「アブラ」にあります。顔面がアブラっぽい人にニキビができやすいのは、アブラが毛穴をふさいでしまうからです。一般に、男性ホルモンが多い人の顔面はアブラっぽいことが多いのですが、男の子が中学生になって男性ホルモンがたくさん分泌されるようになるとニキビができやすくなるのはこのためです。

 女性の場合、生理(月経)前にニキビができやすい人がいるのも、ホルモンバランスに関係があります。排卵から月経までの期間を黄体期といいますが、この期間にはプロゲステロンというホルモンがたくさん分泌されます。そしてこのプロゲステロンがアブラの分泌を促し、分泌されたアブラが毛穴をつまらせて、その結果毛穴の奥で繁殖している細菌の”思うツボ”になるというわけです。

 ですから、女性で生理前になるとニキビが悪化して、生理が始まるとおさまるという人はピルを飲めば劇的に改善することがよくあります。ピルは中用量ではなく低用量ピルで充分です。ピルによって女性ホルモンのバランスが整えられ、その結果余分なアブラの分泌が抑制され、ニキビができにくくなるというわけです。

 すてらめいとクリニックの患者さんでピルを使用している人のおそらく半分くらいはニキビ改善目的だと思います。(ピルは、元々は避妊目的に開発されたものですが、すてらめいとクリニックの患者さんをみていると、避妊というよりはむしろ、ニキビ・肌荒れの改善や、生理痛の緩和、生理周期を整える、生理前のイライラなど(月経前緊張症候群)の治療目的などで使用している人の方がずっと多いようです)

 さて、アダパレン(ディフェリンゲル)の話にうつりましょう。

 ディフェリンゲルの作用メカニズムは専門的に説明すると複雑になりますが、簡単に言えば「毛穴を広げる」ことでニキビを治します。1日1回寝る前(必ずしも寝る前でなくてもいいですが)に気になるところに塗るだけでOKです。従来の治療である抗生物質の外用・内服、あるいはピルの内服などと併用することもできます。

 高い効果を期待できるアダパレンですが、注意点がいくつかあります。

 まず、妊婦と授乳婦には使用することができません。(そのため、すてらめいとクリニックでは、妊娠している可能性のある人でアダパレンを希望する人には妊娠検査を先におこなうこともあります)

 次に、副作用の頻度がまあまあ高いということです。シオノギ製薬(アダパレンの発売元)の資料によりますと、5%以上の頻度で、皮膚乾燥、皮膚不快感、皮膚剥奪などが生じています。このうち、皮膚乾燥については、他のニキビの治療法でもおこりますし、保湿をしてあげたり痒みがひどいときは痒み止めを飲んでもらったりして対処できます。それに一時的なものであることがほとんどです。

 問題は皮膚の不快感というか、極めて不快なピリピリ感や痛みがでたときです。こういった症状も通常は数日から2週間程度で軽減することが多いのですが、なかにはこういった副作用のせいでどうしても使用できないという人もいます。

 また、0.1〜5%未満の頻度で肝機能障害や血中コレステロールの増加が起こる場合もあります。場合によっては使用後2〜4週間程度経過したときに血液検査をおこなうことが必要になるかもしれません。

 それから、ピーリング治療を受けている人は併用すべきではないと思われます。どちらもピリピリ感や皮膚剥奪などが問題になることがあるからで、併用するとそういった副作用が増強される可能性があるからです。

 悪いことばかり並べて書くと、なんだかとても怖いような薬に思えてきますが(実際、アダパレンは「劇薬指定」となっています)、使用上の注意点を守れば、高い効果を期待することができます。

 日頃ニキビの患者さんを見ていて思うことは、「患者さんによってニキビに対する考え方がバラバラ」ということです。なかには、ひどいニキビに長年悩みながら医療機関を受診したことがなくて、様々な民間療法を試して余計に悪化させているような人もいます。(悪徳ニキビビジネス業者に大金を騙し取られたような人もいます!) また、医療機関は受診するものの改善しなければすぐに病院をかえて(いわゆる「ドクターショッピング」)、医療不信を募らせているような人もいます。(ニキビに限らず慢性疾患は長期間腰を据えて取り組むことが必要です!)

 ニキビに悩んでいる人、これまでのニキビ治療に失望している人も、アダパレンを一度検討されてはどうでしょうか。

注:アダパレン(ディフェリンゲル)は2008年10月21日より処方開始となりました。

61.舌の痛み〜舌痛症〜

 それは私が入院していた頃の話・・・。

 交通事故で首から腕の激しい痛みや手のしびれに悩まされ入院生活を余儀なくされた私は、毎日夕方になると決まって舌にピリピリとした痛みを感じていました。

 この痛みは、最初は誤って噛んでしまったのかな・・・と思って鏡を見てみてもまったくそのような傷がありません。また「できもの」のようなものもありません。かといって”気のせい”というものでもなく、はっきりとしたピリピリとする痛みがあるのです。その痛みが気になって本を読むこともできません。

 しかし夕食時には、少なくとも夕食を食べているときにはあまり痛みを感じずに、食事に苦労することはありませんでした。そしてこの痛みは夜寝る前にも出現します。ただ、その痛みで寝られないかというとそういうわけでもありません。

 その痛みは毎日だいたい決まった時間に出現します。”激痛”というわけではありませんし「その痛みが気になって・・・」という以外は日常生活に影響することもありません。

 この症状はいったい何なんだ・・・。当時私は医師になったばかりの研修医でしたから、乏しい医学の知識をフル動員して考えましたが、この痛みに該当する病気の名前が見当たりません。

 やがて、この痛みは「舌痛症」であることを知りました。(私の記憶の限りでは、6年間の医学教育では舌痛症について学びませんでした)

 舌痛症とは、「外見上の異常がなく、また貧血や感染症といった原因があるわけでもない痛み」のことで、心身症のひとつとして位置づけられることもある原因不明の舌の痛みです。

 詳しい教科書を見てみると、「舌痛症は50〜70歳代の女性に多く男性には少ない」と書かれていますが、30代の私に出現したというわけです。

 不思議なもので、入院中あれほど気になっていた舌の痛みは、退院後しばらくすると完全に治りました。そして6年以上たった今でも一度も再発していません。今考えると、入院中の不安から起こった心身症だったのかな・・・という気がします。

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 さて、すてらめいとクリニックを受診する患者さんのなかにも、けっこう舌の痛みを訴える人がいます。医師が患者さんから「舌が痛い」という症状を聞いたときに、最初に舌痛症を疑うというようなことは普通はしません。

 まずは、よく観察して傷や炎症、腫瘤がないかどうかを確認し、さらに口腔内の他の部位に炎症や異常所見がないかを確認します。もしも舌苔が多ければ、顕微鏡でカンジダの有無を確認します。さらに、唾液が充分にでているか、口腔や口唇に他の症状が出現していないか、などについても問診をおこないます。必要があれば血液検査をおこなうこともあります。

 舌の痛みを呈する病気には、舌痛症以外にも、腫瘍(癌)、ヘルペスやカンジダといった感染症、ドライマウスに伴うもの、亜鉛不足、貧血、膠原病などもあるからで、これらを見逃して安易に舌痛症という診断をつけるようなことはあってはならないからです。

 教科書には「50〜70代の女性に多く・・・」と書かれていますが、すてらめいとクリニックを受診する患者さんだけでみてみると、舌痛症が女性の方が多いのは間違いないとしても、20代の女性や30代の男性にも珍しくはありません。そして、全員ではないものの、大多数の患者さんがなんらかの”不安”を抱えています。特に多いのが「癌になったのではないか」という不安、そしてもうひとつが「感染症に対する不安」です。

 よくよく問診してみると、知人や親戚が「舌癌になって・・・」というケースがありますし、なかには「エイズのひとつの症状として舌に痛みがでてきたのではないかと思って・・・」というものもあります。こういったケースでは、癌やエイズでないことを説明すると、それだけで数日後には軽快する場合もあります。

 やっかいなのは、特に具体的な不安をもたらす要因があるわけではないけれど漠然とした不安感や抑うつ感のある場合です。こういうケースでは、心配の種となっている原因が分からないために治療もむつかしいことが少なくありません。

 症例によっては、抗うつ薬や抗不安薬を使用するとよくなる場合もありますが、一時的に改善しても再発することもあります。また、漢方薬を使うケースもありますが、この場合、「どんな舌痛症もこの漢方薬で劇的に治る」というものはなく、その患者さんの他の症状や(東洋医学的な)体質を診察した上で、適切な漢方薬を選ぶことになります。

 長引くときは長引く舌痛症ですが、月に1〜2度程度通院してもらっていくつかの薬を試しているうちに大多数の患者さんは治癒します。(薬が効いたのか、自然に治ったのか区別がつかないこともありますが・・・)

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 舌痛症という病気は、明らかな痛みはあるものの、確定させる検査もなければ、医師によって処方する薬が違うことも多々ありますし、患者さんサイドからみればときにたいへんやっかいな病気にうつることがあると思います。

 もしも舌に痛みを感じたときは、それでも医療機関を受診するようにすべきです。もしも原因がカンジダやヘルペスといった感染症であれば病原体をやっつけることによって症状は消えますし、亜鉛不足や貧血があるなら飲み薬やサプリメントで治ることもあります。

 また自分自身では気づいていないけれども、社会的あるいは精神的に不安要因があってそれが原因で舌痛症が生じている場合もあります。この場合、医師と話をするだけでも症状がとれることがあります。

 もともと何らかの不安があって、舌痛症が出現し、その舌の痛みがさらに不安を大きくして・・・、といった悪循環に陥らないためにも早めの受診が有効だというわけです。

第60回 虫刺されにご用心

 今年の夏にすてらめいとクリニックを受診した患者さんに多い疾患のひとつが「虫刺され」です。

 「たかが虫刺され」と思う人も多いでしょうが、虫刺されはときに重症化することもあります。

 まず、日本の夏にどこにでも登場する”蚊”の虫刺されについて少し詳しくお話いたします。

 「子供が蚊に刺されて全身が腫れあがった」と言って、小さな子供を連れて来られるお母さんがおられます。お母さん方にしてみれば、「なんで自分たち大人は蚊に刺されてもたいしたことがないのに子供はこんなに腫れるの」という気持ちになられるようです。

 これは、虫刺されに対するアレルギー反応の起こり方が大人と子供では異なるからです。虫に刺されると虫の唾液が皮膚に入ってくるのですが、この唾液に対するアレルギー反応が虫刺され症状の原因です。そして、虫刺されのアレルギー反応には、「即時型」と「遅延型」があります。通常、大人であれば「即時型」の反応を示すことが多いと言えます。これは虫(蚊)に刺された直後に皮膚が少し盛り上がる現象で、痒み自体はたいしたことがありません。(ムヒなどの)市販の痒み止めで充分対処できます。

 それに対して「遅延型」は、刺されてから1〜2日程度たってから症状が現れます。この場合、強いかゆみが現れ、ときに大きく腫れあがり、この状態が数日間続きます。「遅延型」に対しては、市販のかゆみ止めがあまり効かずに、ステロイド外用薬が必要になります。子供の場合は、免疫系のシステムが充分に確立されていないために「遅延型」が起こりやすいと考えられます。

 ときどき、「子供にステロイドのようなきつい薬は使いたくない」というお母さんがおられますが、適切なタイミングで適切なステロイドを使わなかった場合、虫に刺された跡が長期間残ることがありますので、やみくもにステロイドを怖がるのではなく、医師の指導の下で上手にステロイドを使うことが必要です。

 「遅延型」の反応は大人に対して現れることもあります。この場合は、やはりステロイドの外用薬を適切に使用することが早くきれいに治すコツです。(ですから、「たかが虫刺され」と思わずに医療機関を受診することが必要です)

 さて、虫刺されで医療機関を受診する人は年々増えているように思われますが(おそらく私以外の医師も同じように感じていると思います)、これはなぜなのでしょうか。

 その理由のひとつが、地球温暖化ではないかと言われています。暖かくなったことにより虫にとって望ましい環境となり、その結果人を刺す被害が増えているというわけです。

 もうひとつは、海外からの輸入品に付着して日本に入ってきている虫が増えているということです。

 90年代後半にマスコミをにぎわせた「セアカゴケグモ」を覚えているでしょうか。セアカゴケグモが日本に上陸したのは、オーストラリアから荷物と共に大阪港に侵入したことが原因と言われています。国立感染症研究所の調査では、すでにセアカゴケグモは関西の広域に棲息していることが確認されています。

 また、中国からの貨物と一緒に「南京虫」が国内のいたるところに侵入しているという情報もあります。南京虫に刺されると、強烈なかゆみと腫れに悩まされることになります。

 虫刺されには命にかかわるものもあります。このウェブサイトの「医療ニュース」でもお伝えしましたように、今年は宮崎県でダニに刺された女性が「日本紅斑熱」で死亡しています。同じくダニが媒介する「ライム病」や「ツツガムシ病」もときに発熱やリンパ節の腫れなどの全身症状に悩まされることがあります。

 蚊が媒介し命にかかわる病気には日本脳炎があり、日本脳炎ウイルスが三重県でブタに新規感染したことは「医療ニュース」でお伝えしました。

 日本脳炎以外に、蚊が媒介して命にかかわる病気にマラリアとデング熱があります。どちらも日本で感染することは現時点ではないとされていますが、デング熱については今後注意が必要になるでしょう。

 デング熱はタイやマレーシアなど熱帯地方に生息している「ネッタイシマカ」や「ヒトスジシマカ」が媒介するのですが、デング熱は去年あたりから発症が増えており、現在台湾にまで北上してきています。

 また、タイでも今年は異例の流行を見せており、日本企業もたくさん入っているラヨン県では今年に入ってデング熱に罹患した人がすでに1,400人を超えており、そのうち2人が死亡しています。(デング熱の重症型のデング出血熱は致死的な感染症です) これを緊急事態と受け止めたラヨン県では5千万バーツ(約1億5千万円)をデング熱対策に割り当てるそうです。(報道は8月11日のBangkok Post)

 虫刺されがひどいときは、できるだけ早いうちに医療機関を受診することが必要です。特に発熱やリンパ節腫脹などが出現したときには自分で様子をみるのではなくすぐに受診するようにしましょう。

 強い症状が出たときには医療機関を受診するのが最善ですが、虫刺されには予防が大切です。まず、虫がいそうなところに行く場合は長袖・長ズボンを着用するようにしましょう。キャンプなどをするときには蚊取り線香は必需品です。電池式の携帯用蚊取り器(虫の嫌がる音がでる小さな器械)も有効です。

 それから、虫除けの塗り薬も持参するようにしましょう。スプレー型のものもありますが、私は個人的にはクリームタイプの方がより効果があると感じています。クリームタイプの方がまんべんなく塗れますし、顔にはスプレーを拭きつけることができないからです。(虫除けの塗り薬は薬局に売っていますが、海外では普通のコンビニにも置いていることが多いですから暖かい国に行ったときには必ず購入しましょう)

 まだまだ暑い日が続いており、山や海にキャンプに行ったり、海外旅行を楽しんだりする人も少なくないでしょう。旅行から帰ってから、全身が腫れあがってあわてて病院に、ということがないように・・・。

参考:
 2008年8月7日 宮崎の女性がダニに刺されて死亡 
 2008年7月24日 豚が近くにいる人は日本脳炎に注意を! 
 2008年5月19日 日本紅斑熱に注意
 2008年4月3日 ブラジルでデング熱と黄熱が大流行 
 2008年2月19日 タイでデング熱が急増

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