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医療ニュース2011
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2011年12月28日(水)
体重が減らなくても有酸素運動で長寿に 

 ジョギングや水泳を定期的にしているのに体重が落ちない・・・、と悩んでいる人には朗報です。 
 
 運動により体重が変化したかどうかにかかわらず有酸素運動(注1)を定期的におこなうことが長生きにつながる、という調査結果が、医学誌『Circulation』2011年12月5日号(オンライン版)に掲載されました(注2)。
  
 この研究は、NIH(米国国立衛生研究所)が中心となり実施されています。対象者は中年男性(平均44歳)14,345人で、調査期間は11.4年になります。大まかな結論を言えば、「有酸素運動を続けてエネルギー消費を維持できていれば死亡リスクが約30%低減する」ということになります。そしてこれは、体重が落ちなかった場合でも、です。
  
 つまり、死亡率に関係するのは体重やBMI(体重÷身長の2乗)ではなく、有酸素運動をどれだけおこなっているかであったというわけです。 
 
********* 
 
 運動をがんばっている患者さんに話を聞くと、「やってるんですけどね〜。なかなか成果がでないんですよ・・・」と答える人がいますが、今回の研究結果はこのような人たちには嬉しいお知らせとなります。
  
 この研究結果が普遍的なものであるならば、たとえ減量ができていないとしても運動を続けることが長生きにつながるわけですから、我々は有酸素運動を「日々おこなう生活習慣のひとつ」として考えるべきなのかもしれません。
  
(谷口恭) 
 
注1 ここでは「有酸素運動」としましたが、原文は「cardiorespiratory fitness」です。そのまま訳すと、「心肺機能のためのフィットネス」、くらいになると思いますので、「有酸素運動」として差し支えないと考えました。
  
注2 この論文のタイトルは、「Long-Term Effects of Changes in Cardiorespiratory Fitness 
and Body Mass Index on All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality in Men」
で、下記のURLで概要を読むことができます。

  
http://circ.ahajournals.org/content/124/23/2483.abstract?sid=343c4f14-5bbf-
46ee-b7dd-a8e432570622

2011年12月5日(月)
白血病のデマにご用心

 最近、ネット上の掲示板、ツイッター、ブログ等で、「白血病患者急増 医学界で高まる不安」というタイトルで、とんでもないデマが広がっているようです。以下に内容をそのまま引用します。
  
 各都道府県の国公立医師会病院の統計によると、今年の4月から10月にかけて、「白血病」と診断された患者数が、昨年の約7倍にのぼったことが21日に判明した。これを受けて、日本医師会会長原中勝征は、原発事故との因果関係は不明として、原因が判明次第発表するとした。
  
 白血病と診断された患者の約60%以上が急性白血病で、統計をとりはじめた1978年以来、このような比率は例が無いという。 
 
 また、患者の約80%が東北・関東地方で、福島県が最も多く、次に茨城、栃木、東京の順に多かった。 
 
 もちろんこのような事実は一切ありません。しかし、このデマを正しい情報と信じてしまっている人も少なくないようで、日本医師会はこの情報が誤りであることを正式に表明しなければならなくなりました(注)。
  
************* 
 
 医師会は国公立ではありませんから、医療関係者であれば、「国公立医師会病院」という言葉を見た瞬間にガセネタであることが分かりますが、放射線被害に対する様々な噂があるなかで一般の人がこのような報道まがいのものを見ると信じてしまうかもしれません。
  
 このデマを流した人は軽い気持ちのイタズラでおこなったのでしょうが、結果として大勢の人たちが不安に苛まれ、被災地の人たちを傷つけることになっています。デマを流す罪は決して小さくありません。
  
(谷口恭) 
 
注:日本医師会はホームページ上で見解を表明しています。下記のURLを参照ください。 
 
http://www.med.or.jp/people/info/people_info/000614.html 

2011年12月4日(日)
ビールもワインと同じように心血管リスクが低下

 ビール党には朗報かもしれません。 
 
 ワイン(特に赤ワイン)は適度に飲めば心筋梗塞などの心血管疾患のリスクを減らすことがよく知られています(注1)。「最も健康にいいお酒はワイン」のように語られることが多いように思われますが、ビールにもワインと同様の効果があるとの研究結果が医学誌『European Journal of Epidemiology』2011年11月11日号(オンライン版)(注2)で報告され話題を呼んでいます。
  
 この研究はイタリアの研究者によっておこなわれています。2011年3月までに欧米諸国やオーストラリアでおこなわれたアルコールと心血管リスクに関する合計18の研究を総合的に解析(メタ解析)しています。アルコールは、ビール、ワイン、蒸留酒(注3)に分けて検討されています。
  
 その結果、ワインは度を過ぎると心血管リスクが上昇しますが、適度であればリスクが低下していました。具体的には、1日あたり21グラム(グラスで1杯程度)の飲酒量で最もリスクが低下し、72グラム以上(グラス3〜4杯以上)でリスク低下はなくなります。ビールでは、1日あたり43グラム(大瓶1本くらい)が最も心血管リスクが低下し、55グラム(大瓶1.3本くらい)でリスク低下がなくなります。
  
 要するに、少量から中等量であれば、ビールはワインと同じように心血管疾患のリスクが低下することが判ったということであり、ビールを含むお酒は少量なら身体にいいと言われることはこれまでにもあったけれども、今回のきちんとした研究でビールの効果が実証された、というわけです。
  
 しかし、蒸留酒ではそのような結果が出なかったようです。 
 
******************** 
 
 ビール党には嬉しい研究結果に思われるかもしれませんが、私の周りのビール党や、太融寺町谷口医院に通院しているビール好きな人達の多くは大瓶1本ではすみません。なかには毎日2リットル以上を”日課”にしているという人もいます。そのような飲み方を続ければ心血管リスクを高めるということにはいくら注意してもしすぎることはないでしょう。また、一部には、少量のビールでも健康に有害であるとする研究結果があることも覚えておくべきでしょう。(下記医療ニュースも参照ください)
  
(谷口恭) 
  
注1 フランス人は飽和脂肪酸が豊富に含まれる食事(要するにあぶらっこい肉料理)をよく食べるのにもかかわらず、虚血性心疾患にかかりにくいことが以前から指摘されており(これは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれています)、この原因が赤ワインにあるとされています。
  
注2 この論文のタイトルは、「Wine, beer or spirit drinking in relation to fatal and non-fatal cardiovascular events: a meta-analysis」で、下記のURLで概要を読むことができます。
  
http://www.springerlink.com/content/8pu6001584m35146/ 
 
注3:蒸留酒とは、穀物などを発酵させて作った醸造酒を蒸留させてアルコール濃度を高めたお酒のことでスピリッツとも呼ばれます。この研究では、ウイスキー、ジン、ラム、テキーラ、ウォッカ、ブランデーなどを指していると思われますが、分類としては焼酎(泡盛含む)も蒸留酒に含まれます。
  
参考:医療ニュース 
2011年10月26日「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に 
2011年9月10日 「適度な飲酒がアルツハイマーを予防」 
2010年8月23日「飲酒が関節リウマチに有効?」 
2010年5月21日「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」 
2010年4月8日 「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」 
2009年12月28日「ビール週7本で乳癌のリスク急増」 
2011年4月18日「ビール中ジョッキ1杯で発ガンリスクが上昇・・・」 

2011年11月16日(水)
「茶のしずく石鹸」で66人が重症

 過去に何度かお伝えしてきました「茶のしずく石鹸」による小麦アレルギーに関して新たな発表がありました。 
 
 2011年11月14日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会は、2011年10月17日までに株式会社悠香から報告のあったアレルギー反応を起こした症例が471人にのぼり、そのうち66人は救急搬送や入院が必要な重篤な症例で、一時意識不明に陥った例もあったそうです。
  
 しかし、これは株式会社悠香が現時点で把握している件数であり、実際にアレルギー反応を起こした人はこの何倍にもなるのではないかとみられています。 
 
 以前お伝えしたように、このアレルギーの原因物質は「加水分解コムギ」ではありますが、すべての加水分解コムギで反応がでるのではなく、アレルギー反応を起こすのは「グルパール19S」と命名された物質であることがわかっています。グルパール19Sを含む石鹸は株式会社悠香の「茶のしずく石鹸」を入れて合計18種類あります。そのすべてを下記に紹介いたします。
  

薬用 悠香の石鹸(茶のしずく石鹸)  株式会社悠香
薬用フェイスソープP(茶のしずく石鹸)  株式会社フェニックス
アルケー  ヴィーヴィック化粧品株式会社
梅の花 化粧石鹸  株式会社フェニックス
FY石鹸  株式会社 ピカソ美化学研究所
AU サボンクリア  株式会社シー・ビー・エィ
LVJ フェイシャルソープ  株式会社 東洋新薬
花蜜精はちみつクレンジングソープ  株式会社フェニックス
蔵人純米ソープ  ヴィーヴィック化粧品株式会社
クルクベラ サボンクリア  株式会社シー・ビー・エィ 
クレンジングソープPF  株式会社フェニックス
化粧石鹸LH  日成興産株式会社
 (旧 日本メドック株式会社)
化粧石けんAB  株式会社フェニックス
化粧石けんHEP  株式会社フェニックス
化粧石けんHN  株式会社フェニックス
化粧石けんKI-5  株式会社フェニックス
化粧石ケンOB  株式会社フェニックス
化粧石けんSD  株式会社フェニックス


************** 
 
 これら石鹸によって小麦アレルギーが誘発されたことを証明するには、グルパール19Sの検査試薬を皮膚に少量刺入して反応をみる検査(プリックテストと言います)をおこなう必要があります。(現在当院では実施していません) ただし、血液検査でもある程度推測することが可能ですから、疑いのある人はかかりつけ医に相談してみるべきでしょう。
  
(谷口恭) 
 
参考: 
はやりの病気第94回(2011年6月) 「小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー」 
トップページ: アレルギーの検査 
医療ニュース: 
2011年5月21日 「「茶のしずく石鹸」が自主回収」 
2010年10月20日 「小麦入り化粧品、特に”お茶石鹸”に注意」 

2011年11月14日(月)
ビタミンEの発ガンリスク

 ビタミンE摂取は前立腺ガンの発症リスクを上昇させる・・・ 
 
 これは医学誌『JAMA』2011年10月12日号で発表された論文の趣旨です(注)。ビタミンEには抗酸化作用があることから、ガンの予防になるのではないか、と言われていた時代もありましたから、長年摂取していたという人にはショッキングな研究かもしれません。
  
 この研究が開始されたのは2001年で、研究途中の2009年の時点で「ビタミンE摂取(及び発ガン抑制に期待されていたセレン摂取)で前立腺ガン発症のリスクを減少しない」ということがすでに確認されていました。今回発表されたのは、ビタミンEは前立腺ガンの発症リスクを下げないどころか、逆に前立腺ガンになりやすくなる、という結果についてです。
  
 この研究を少し詳しく紹介すると、対象者は、調査開始時点で前立腺ガンになっていなかった米国、カナダ、プエルトリコ在住の男性35,533人です。対象者は4つのグループに分けられています。@ビタミンEを摂取するグループ(8,737人)、Aセレンを摂取するグループ(8,752人)、BビタミンEとセレンの両方を摂取するグループ(8,702人)、C両方とも摂取しないグループ(8,696人)の4つです。対象者は、2011年7月5日まで追跡調査がおこなわれ、前立腺ガンの発症率について比較されています。追跡期間は7〜12年です。
  
 その結果、追跡期間中に前立腺ガンを発症したのは、@のグループで620人、A、B、Cはそれぞれ575人、555人、529人でした。これらを統計学的に分析すると、ビタミンEを摂取すると前立腺ガンの発症リスクが上昇する、という結果が出たというわけです。尚、セレン単独摂取やセレン+ビタミンE摂取では、ガンの予防効果はもちろんありませんが、統計学的にガンのリスクが上昇するとまではいえなかったようです。
  
********* 
 
 ビタミンEの発ガンリスクと言えば肺ガンが有名です。2008年3月に医学誌『American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine』で、サプリメントでのビタミンE摂取量が1日100mg増加するごとに、肺ガンのリスクが7%上昇するという結果がでました。
  
 また、肺ガンのリスクと言えば、ビタミンE以外にベータカロチンのサプリメントが有名です。ベータカロチンは、元々は大腸ガンの予防になるのではないかと期待されていたのですが、大腸ガンを予防しないどころか肺ガンのリスクを高めることが分かり、これが発表された頃からサプリメントの有害性や効能がないことが次々に指摘されだしたような印象があります。米国ガン協会(American Cancer Society)も「ガン予防のためのビタミン剤のサプリメントは推奨しない」、としています。
  
 ただし、誤解のないように付記しておくと、ビタミン剤のサプリメントが有害(もしくはガンの予防に無効)なのであって、ビタミンEやベータカロチンが豊富に含まれている食品を積極的に摂取すること自体はガンの予防に効果があり推奨されています。結局は常識的な話になってしまうのですが、「栄養のあるものをバランスよく食べましょう」ということに尽きるというわけです。
  
(谷口恭) 
 
注:この論文のタイトルは「Vitamin E and the Risk of Prostate Cancer」で、下記のURLで概要を読むことができます。 
 
http://jama.ama-assn.org/content/306/14/1549.abstract?sid=b60d5330-ce80-445f-9a52-
3420ddea32c2

  
参考:医療ニュース 
2011年8月26日 「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」 

2011年11月6日(日)
毎晩眠れない人は自殺リスクが4倍以上

 不眠と自殺の関連が指摘されることがしばしばありますが(下記医療ニュースも参照ください)、これを裏付ける研究がノルウェーでおこなわれ、医学誌『SLEEP』2011年10月1日号に掲載されました(注)。
  
 この研究はノルウェー科学技術大学(Norwegian University of Science and 
Technology)によるものです。対象者は同国ヌール・トロンデラーグ(Nord-Trondelag)県在住の、1984年から1986年の時点で20歳以上であった約74,977人で、2004年12月31日までの約20年間にわたり追跡調査がおこなわれています。

  
 対象者の調査開始時の平均年齢は49.6歳、うち男性は49%です。過去1ヶ月の不眠状況により4つのグループに分類されており、「毎晩(every night)」3%、「しばしば(often)」5%、「ときどき(sometimes)」31%、「なし」61%、となっています。
  
 約20年間の追跡調査の結果、自殺者は合計188人で、「毎晩」不眠のある人は、不眠がまったくない人に比べると、自殺のリスクが4.3倍にもなることが判ったそうです。「しばしば」不眠のある人は2.7倍、「時々」不眠のある人は1.6倍となっており、不眠の程度が深刻になればなるほど、自殺のリスクが上昇しています。
  
 睡眠薬については、自殺者の58%(109人)が服用しておらず、服用していたのは24%(46人)のみだったそうです。(残りの18%(33人)はデータが得られなかったそうです)
  
 研究者は、今回の研究で導きだされた不眠と自殺の関連は50歳未満で顕著であったことを指摘しています。「高齢者の不眠症状は加齢によるものが多く日常生活に影響を与えないことが多いが、若年者では精神疾患の可能性がある」とコメントしています。
  
*************** 
 
 不眠と自殺の関係は従来から指摘されてきたことですから、納得しやすい研究結果でしょう。この研究が重要な意味をもつのは、不眠があって自殺をした人のなかできちんと治療を受けていた(投薬を受けていた)人がわずか24%しかいなかった、ということです。
  
 研究者が述べているように、若年者の不眠は自殺のリスクが高く放置すべきでない、ということを認識する必要があるでしょう。 
 
 尚、ノルウェーを含め「北欧は自殺者が多い」と考えている人がいますが、それは昔の話であり、現在はそれほど高いわけではないことを付記しておきたいと思います。2009年のデータではノルウェーの人口10万人あたりの自殺者数は11.9人(WHOのデータより)で、これは日本の半分以下です。
  
(谷口恭) 
 
注:この論文のタイトルは「Sleeping Problems and Suicide in 75,000 Norwegian Adults: 
A 20 Year Follow-up of the HUNT I Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。


 http://www.journalsleep.org/ViewAbstract.aspx?pid=28246 
 
参考: 
はやりの病気2010年10月号 「新しい睡眠薬の登場」 
医療ニュース 
2010年4月2日 「睡眠障害の自殺リスクは28倍」 
2010年9月14日 「男性の睡眠不足は短命に・・・」 
2008年6月30日 「睡眠不足はダイエットの強敵!」 

2011年10月31日(月)
過去最大規模の研究で携帯電話と脳腫瘍に関連なし?

 2011年5月31日、WHO(世界保健機関)は、携帯電話の使用は発ガン性があるかもしれない(possibly carcinogenic)との見解を公表しました。(下記医療ニュースを参照ください)
  
 このWHOの見解は、これまでの「携帯電話に発ガン性はない」と言われていた言説をくつがえす、いわばショッキングなものだったわけですが、このWHOの見解を否定する研究がデンマークの研究者により発表されました。論文は医学誌『British Medical Journal』2011年10月20号(オンライン版)に掲載されています(注)。
  
 この研究はデンマークの約36万人を対象者としています。対象者の条件は1925年以降にデンマークで生まれ、1990年の時点で生存していた30歳以上のデンマーク人です。対象者を1990年から2007年まで追跡調査し、携帯電話の使用と脳腫瘍発症との関連が分析されています。
  
 その結果、脳腫瘍を発症したのは、男性5,111人(携帯電話加入者714人、未加入者4,397人)、女性5,618人(加入者132人、未加入者5,486人)で、統計学的に携帯電話の使用と脳腫瘍の発症に関して関連性は認められなかったそうです。WHOの発表で最も問題視されていた神経膠腫という脳腫瘍という腫瘍については特に綿密に調べられていますが、やはり関連性はなかったそうです。
  
*************** 
 
 WHOが「発ガン性があるかもしれない」という発表をおこなった研究の対象者は約13,000人で、今回のデンマークの研究の対象者は約36万人ですから、数字だけを比較すれば、たしかにデンマークの研究の方が高い信憑性を有しているように思われます。
  
 しかし、この結果をもって「発ガン性なし」としてしまっていいのでしょうか。このデンマークの研究結果を踏まえたWHOの見解を聞きたいところです。 
 
(谷口恭) 
 
注:この論文のタイトルは、「Use of mobile phones and risk of brain tumours: update of Danish 
cohort study」で、下記のURLで全文を読むことができます。

  
http://www.bmj.com/content/343/bmj.d6387.full?sid=37885ddb-a456-4c41-8407-82446d092ca6
 
参考:医療ニュース 
2011年6月3日 「WHOが携帯電話の危険性を公表」 
2010年7月12日 「寝る前の携帯電話はNG」 
2010年5月31日 「携帯電話で発ガン性は一応認められず・・・」 
2010年1月23日 「携帯電話がアルツハイマーを予防?」 

2011年10月28日(金)
マイコプラズマ肺炎も過去最多、しかも・・・

 今年は「風邪」の多い年で、このサイトでもお伝えしてきたように、リンゴ病、手足口病、RSウイルスが過去最多を記録しています。そして、昨年10月頃から増えだし、2010年は過去最多を記録したマイコプラズマも、再び6月下旬から急増しており、過去最多の状態が続いています。
  
 国立感染症研究所感染症情報センターによりますと、全国に約500ヶ所ある定点医療機関当たりの1週間ごとの患者報告数は、6月下旬から各週とも過去の同じ週に比べて最も多い状態が続いており、10月に入りさらに急増しています。10月10〜16日の定点当たり報告数(速報値)は1.23で、3週間前の2倍超にまで増えていることになります。
  
 都道府県別にみてみると、定点あたりの報告数は、青森の5.67が最多で、沖縄(4.14)、埼玉(3.78)、愛知(3.15)、大阪(2.47)と続いています。 
 
 今年のマイコプラズマが脅威なのは、感染者数が増えていることだけではありません。流行しても早期発見・早期治療を心がければ、いずれ流行は収束していきます。しかし、今年のマイコプラズマは、従来「特効薬」として使われていたマクロライド系抗生物質が効かないのです。
  
 国立感染症研究所感染症情報センターの速報(注)によりますと、マクロライド系抗生物質に耐性のある(つまりマクロライドが無効な)マイコプラズマが89.5%にも上るそうなのです。2002年には耐性はゼロ(つまりマクロライドで全例治癒した)でしたから、わずか10年足らずで特効薬がほぼ無効になったことになります。
  
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 咳が主症状の風邪症状の患者さんのなかにマイコプラズマを疑う例があります。私の経験で言えば、小児の場合は咳の仕方に特徴があり、胸部レントゲンからも疑いやすいのですが、成人の場合は、症状とレントゲンからマイコプラズマと断定するのは困難です。
  
 マイコプラズマの確定診断をつけるための血液検査はありますが、それほど精度が高くないものや、結果判定に時間のかかるものであり、あまり実用的ではありません。最近になり、マイコプラズマの迅速診断キットが発売されましたが、値段がやや高いのが難点です。(当院では現在導入を検討中です)
  
 確定診断をつけるのが困難であったとしても、咳が主症状の「風邪」で、(ウイルス性でなく)細菌性の可能性が強く、マイコプラズマが疑われれば、従来であれば「特効薬」のマクロライド系抗生物質を使用すれば上手くいくことが多かったわけです。ところが、マクロライド耐性が約9割ですから、こうなればマクロライドの処方は治療を遅らせることになりかねません。(1〜2年前から、マクロライドが無効なマイコプラズマが増えていることは”実感”として感じていましたが、89.5%という数字には驚かされました)
  
 国立感染症研究所感染症情報センターの報告では、「マクロライド以外でマイコプラズマ感染症に適応があるのはミノサイクリン」としていますが、同時に「ミノサイクリンは耐性菌は認められていないが、抗菌力が非常に優れているというわけではない」とも述べられています。
  
 これからはマイコプラズマの治療に苦労することが増えてくるかもしれません。しかし、マクロライドとミノサイクリン以外にもマイコプラズマに有効と考えられる抗生物質はありますから、咳が主症状の「風邪」があれば早めに医療機関を受診すべきでしょう。
  
(谷口恭) 
 
注:国立感染症研究所感染症情報センターの報告は下記URLで読むことができます。 
 
http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3814.html 
 
参考:医療ニュース 
2011年1月28日 「マイコプラズマが急増!」 
2011年9月30日 「RSウイルスがアウトブレイク」 

2011年7月29日 「手足口病の勢い止まらず」 
2011年6月25日 「リンゴ病が過去10年で最多」
 

2011年10月26日(水)
女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に

 中年期に適量(moderate amounts)のアルコールを摂取する女性は、全く飲まない人に比べて高齢期の健康状態が心身とも良好・・・。 
 
 このような研究結果が医学誌『PLoS Medicine』2011年9月6日号(オンライン版)に掲載されました(注)。この研究では、1980年代に中年(中央値58歳)で、70歳以上まで生存した米国の看護師13,894人が対象となっています。元々、大酒家やアルコール依存のある人は対象から除外されています。高齢(70歳以上)になっても慢性疾患や心身障害のみられない対象者1,491人(全体の11%)を、何らかの疾患を抱えている対象者と比較しています。
  
 その結果、高齢期に健康状態良好のグループでは、全く飲酒をしない人は22%にとどまり、62%の人が1日1杯の飲酒(アルコール15グラム)をたしなんでいたことが分かったそうです。また、約10%は1日1〜2杯、3%は2〜3杯の飲酒をしていたそうです。
  
 飲み方については、習慣的に適量の酒を飲む方が、ときどきしか飲まないよりも有益であることがわかったそうです。 
 
************** 
 
 アルコール15グラムというのは、ビールなら中瓶1本程度、日本酒なら1合程度、ワインならグラス1杯くらいと考えていいでしょう。 
 
 アルコールに関する調査は、有害とするものもあれば有益とするものもあります。アルコールの苦手な人がこの調査結果に影響を受けて、新たに飲酒を始める必要はありません。
  
 アルコールを有益とする調査も、今回の研究と同様に、ビールで言えばせいぜい中瓶から大瓶1本程度です。大量飲酒が健康にいいとする調査は(皆無ではありませんが)ほとんどないということはしっかりと認識すべきでしょう。
  
(谷口恭) 
  
注:この論文のタイトルは、「Alcohol Consumption at Midlife and Successful Ageing in Women: 
A Prospective Cohort Analysis in the Nurses' Health Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。

  
http://www.plosmedicine.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pmed.1001090 
 
参考:医療ニュース 
2010年4月8日 「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」 
2011年9月10日 「適度な飲酒がアルツハイマーを予防」 
2007年2月6日 「女性の飲酒はC型肝炎をより悪化させる」 
2009年10月8日 「酒飲みの女性は乳ガンになりやすい」 

2011年10月24日(月)
夫婦の子供の数が初の2人未満に

 夫婦が生涯に持つ子どもの平均人数が、2010年の調査で1.96人に・・・。 
 
 このような結果が、10月21日、国立社会保障人口問題研究所の「出生動向基本調査」で明らかになりました。 
 
 この調査は、同研究所が1940年から5年毎におこなっているもので、2010年が14回目となるそうです。妻の年齢が50歳未満の夫婦約9千組に調査票を配り、初婚同士の6,705組が集計されています。
  
 1940年には子供の数が4.27人、50年代に入り3人台となり、60年代で2人台となったそうです。その後2人台は維持しており、2005年では2.09人でしたが、ついに2010年の調査で2人を下回ったということになります。
  
 この調査では実際の子供の数だけでなく、アンケートもおこなわれています。 
 
 すべての夫婦に尋ねた「理想的な子どもの数」の平均は2.42人(2005年は2.48人)、「実際に持つつもりの子どもの数」が2.07人(2005年は2.11人)で、いずれも過去最低を記録しているそうです。
  
 「実際に産むつもりの子どもの数が理想を下回る」と答えた夫婦はおよそ3割で、その理由(複数回答)を尋ねると「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が60.4%と最多ではありますが、これは前回より5.5ポイント減少しているそうです。次いで「高年齢で産むのがいやだから」が35.1%ですがこれも前回より2.9ポイントの減少となっています。一方、前回よりも3ポイント増えているのが、「欲しいけれどもできない」で19.3%となっています。
  
 全体で「不妊を心配したことがある(または現在心配している)」が5.3ポイント増加して31.1%にも昇っています。さらに、実際に不妊治療中、または治療したことがあると回答した夫婦も3ポイント増加で16.4%となるそうです。
  
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 毎年厚生労働省から発表される子供の数は、合計特殊出生率といって1人の女性が生涯に産むと推定される子供の数を示しています。(2010年は1.39人でした) 合計特殊出生率は、結婚していない女性も含まれてしまいますが、上記の国立社会保障人口問題研究所のデータは結婚した女性だけを対象としていますから、子供を求めている女性の実態の数字に近いかもしれません。(しかし、結婚せずに子供を持つ女性もいますし、子供はいらないと考えている夫婦がいることも忘れてはいけません)
  
 今回の発表で特筆すべきことは、「不妊症が増えている」ということではないでしょうか。出生率低下の話題になると、きまって「(社会が悪いから)子育てできる環境がないからだ」とか、「(景気が悪いから)教育費がかけられないからだ」という議論がでてきますが、そのような理由を挙げる夫婦はむしろ減ってきており、不妊を心配し、実際に治療をしている夫婦が増えているということがもっと注目されるべきで、なぜそのようなことが生じているかを分析していくことが重要だと思います。
  
参考:医療ニュース2011年6月3日 「出生率上昇、人口減12万人、自殺3万人以下に」 

2011年10月15日(土)
喫煙者率が男女とも過去最低に

 JT(日本たばこ産業)は毎年、日本人の喫煙率を発表していますが、最新の発表(発表がおこなわれたのは2011年10月13日で、データはおそらく2010年のものだと思われます)では、男女を合わせた喫煙率が下記のように過去最低となりました。
  
 男女合計21.7%(前年から2.2ポイント低下) 
 男性のみ33.7%(前年から2.9ポイント低下) 
 女性のみ10.6%(前年から1.5ポイント低下) 
 
 女性については、1年前の発表ではその前の年から喫煙率が増加していましたから、男女とも禁煙する人は着実に減少しているといえます。 
 
 喫煙者減少の原因として、JTは2010年10月の大幅なタバコ増税によるものと分析しているようです。喫煙人口は、22,790,000人で前年から2,160,000人減少しているそうです。
  
******** 
 
 JTは毎年5月にこのデータを公表していましたが、今年は震災の影響で遅れたのでしょうか。(遅れてもかまわないことですが) 
 
 2.2ポイント低下と言われてもよくわかりませんが、1年間で200万人以上の人が禁煙した、と考えると禁煙者は大幅に増加しているように感じます。 
 
 タバコに関しては、次々と身体や精神に有害であるという研究がでてきており、喫煙者を擁護するような論文は最近ではほぼ皆無です。「愛煙者を護れ」という動きもありますが、いかなる人も禁煙するにこしたことはないでしょう。
   
(谷口恭) 
 
参考:医療ニュース 
2010年8月16日 「喫煙率、男性は過去最低、女性は再び増加」 
2010年10月1日 「受動喫煙で毎年6,800人が死亡」 
2010年11月4日 「50代の大量喫煙はアルツハイマーのリスク」 
2011年8月29日 「タバコの危険性は男性より女性」 
2011年10月6日 「禁煙で記憶力アップ!」 

2011年10月6日(木)
禁煙で記憶力アップ! 

 昨年(2010年)の10月1日にタバコが大幅に値上げされ、その前後には禁煙治療希望者が一気に増え、全国的に禁煙治療薬のチャンピックスが品切れとなりました。しかし、この禁煙ブームの盛り上がりは次第に冷めてきたようで、年明け(2011年1月)あたりから禁煙治療希望者は減少傾向にあります。
  
 現在禁煙を検討している人に対して朗報があります。 
 
 禁煙のメリットにはいろんなことがありますが、医学誌『Drug and Alcohol 
Dependence』2010年12月1日号(オンライン版)に掲載された論文(注)によりますと、記憶力も向上することが明らかとなったそうです。

  
 この研究は英国Northumbria大学により実施されています。喫煙者27人、元喫煙者18人、喫煙未経験者24人が対象となり記憶テストがおこなわれています。テストでは、対象者に与えられた課題を思い出してもらい記憶力を測定しています。その結果、元喫煙者は課題の74%、喫煙未経験者は81%を記憶していたのに対し、喫煙者で課題を記憶していたのは59%にとどまったそうです。
  
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 この研究では、対象者の数が少ないように思われますが、それでも注目すべき内容でしょう。研究者によると、禁煙による記憶力への効果を検討した研究は今回が初めてだそうです。(過去にあってもよさそうな研究のように思われますので調べてみたのですが、私が調べた範囲では確かに記憶力と禁煙に関する研究は見当たりませんでした)
  
 現在喫煙している人は、この研究結果を充分に吟味してみればどうでしょうか。この情報の記憶がなくなる前に・・・。 
 
(谷口恭) 
 
注:この論文のタイトルは、「Smoking and everyday prospective memory: A comparison of 
self-report and objective methodologies」で、下記のURLで概要を読むことができます。

  
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0376871610002383 

2011年9月30日(金)
RSウイルスがアウトブレイク

 今年は「風邪」が多い年で、この傾向は年末まで続きそうです。このサイトで、リンゴ病(伝染性紅斑)と手足口病が過去最多の報告があるということを紹介しましたが、RSウイルスも過去最多を更新しているようです。
  
 国立感染症研究所感染症情報センターの発表によりますと、RSウイルス感染症の小児科定点医療機関(全国に約3千ヶ所あります)からの患者報告数は6月下旬頃から増加傾向が続き、調査を開始した2003年以降で最多となっているそうです。
  
 同センターの速報値では、9月12〜18日の週の報告数は1,414人で、同時期で過去最多だった2008年の993人を大きく上回っています。都道府県別で見ると、大阪の205人が最多で、以下、宮崎160人、東京126人、福岡100人と続いています。
  
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 RSウイルスは冬の風邪の代表的な病原体のひとつです。新生児では重篤化することもありますが、小学生以降の子供や成人ではさほど重症化しません。しかし特効薬があるわけではなく、特に日ごろ不摂生をしているような人が感染すると長期化することもあります。
  
 RSウイルスには迅速診断キットがあるのですが、一般の診療所では保険適用がないために症状から疑うことになります。特効薬はなく、解熱剤、咳止めなどの対症療法しかありません。
  
 ワクチンはありませんが、予防用の抗体はあります。ただし、適用は、早産で生まれた新生児や先天性心疾患を持つ小児に限られます。 
 
(谷口恭) 
 
参考:医療ニュース 
2011年7月29日 「手足口病の勢い止まらず」 
2011年6月25日 「リンゴ病が過去10年で最多」 

2011年9月29日(木)
四半期で新規エイズ発症者が過去最多

 2010年は年間エイズ発症者が過去最多となったということを以前お伝えしましたが(下記医療ニュース参照)、この傾向は続いているようです。 
 
 2011年9月27日、厚生労働省のエイズ動向委員会は、2011年4月〜6月(正確にいうと3月28日〜6月26日)に、HIV感染に気付かずにエイズを発症した症例(いきなりエイズ)が、136人に上ったことを報告しました。これは、1984年の調査開始以来、3ヶ月ごとの集計では過去最多となります。(ちなみに2位は2010年4月〜6月の129人です)
  
 一方で、同時期に発覚した、まだエイズを発症していないHIV感染者は217人で、これは直前の3ヶ月(2011年1月〜3月)と比較して減少傾向にあります。前年同期と比べると46人の減少となります。
  
 感染経路をみてみると、(まだエイズを発症していない)HIV新規感染者の感染経路は、同性間の性的接触が148件で全体の68.2%、異性間の性的接触が39件で18.0%となっています。一方、すでにエイズを発症した症例(いきなりエイズ)では、同性間の性的接触が68件で50.0%、異性間の性的接触が43件で31.6%となっています。
  
 同時期の保健所など公的機関で実施しているHIV抗体検査件数は31,553件で、前年同期の32,011件から減少しています。相談件数も38,784件で前年同期の40,181件から減っています。
  
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 検査件数、相談件数の減少の原因として、関係者らは「3月の東日本大震災の発生が影響している可能性がある」とコメントしているようですが、果たしてそれだけでしょうか。
  
 以前にも指摘しましたが、太融寺町谷口医院の患者さんをみてみても、発熱、下痢、皮疹などで受診して、患者さん自身がまさかHIVとは思ってもみなかった、という症例が増えてきています。2008年頃までは、当院でHIVが発覚した症例の半数以上は、患者さん自身がHIVを疑って受診した、というケースでしたから、東日本大震災とは関係なく、全国的にHIVに対する社会的関心が低下している、というのが私の考えです。
  
 上の数字をみれば分かるように、まだエイズを発症していないケースでHIV感染が発覚している場合と比べ、いきなりエイズで発覚する症例は異性愛者の割合が多いという特徴があります。これは、すなわち同性愛者よりも異性愛者の方がHIVに無関心であることを示しています。そしてこの傾向は太融寺町谷口医院の患者さんにも当てはまります。つまり、異性愛者で危険な性交渉の経験がある人はもっと自覚を持たなければならない、ということです。

(谷口恭) 

参考:医療ニュース 2011年5月27日 「エイズ発症者が過去最多に」 

2011年9月26日(月)
中国でポリオが発生 

 中国の厚生省が同国でポリオウイルスが検出されたことをWHO(世界保健機構)に通知し、これを受けたWHOは2011年9月1日に公表しました(注)。 
 
 中国で検出されたポリオウイルスは合計4例で、いずれも新彊ウイグル自治区内の同一の県で確認されています。4例は生後4ヶ月から2歳の小児で、7月3日〜27日の間に麻痺症状を呈しています。検出されたウイルスは、いずれもポリオウイルスの1型で、遺伝子検査により、これらのウイルスはパキスタンに常在するタイプとの関連が明らかになっているそうです。
  
 中国ではポリオウイルスの野生株が最後に報告されたのは1999年でそのときはインドからの輸入症例だったそうです。また、同国内にもともと存在する野生株の最後の発症は1994年だったそうです。
  
 今回の報告を受けて、国際調査チームが同国に派遣され、接触者の検体採取やワクチン接種の状況の調査をおこなう予定だそうです。 
 
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 日本では、ポリオウイルスの野生株が最後に検出されたのは1993年です。しかし、ワクチンの副作用でポリオウイルスに感染したときと同じような麻痺症状が出現することは(非常に稀ですが)あり得ます。(下記医療ニュースも参照ください)
  
 このために現在おこなわれている「生ワクチン」ではなく、安全性の高い「不活化ワクチン」の導入が待望されています。成人には生ワクチンは危険性が高く接種できないために必要な人は不活化ワクチンを接種しなければならないのですが、現在日本では販売されていません。
  
 ところで、生ワクチンはどれだけの期間有効なのでしょうか。現在もポリオウイルスの野生株が見つかるのはインドやその周辺国のパキスタンなどです。こういった地域に渡航するのであれば、日本を発つ前にまず抗体検査をおこない、抗体がなければ(小児期に接種したワクチンの効果が消えていれば)不活化ワクチンを接種すべきということになります。
  
 いったいどれくらいの人が抗体が消えているのかというデータは見たことがないので、私自身が最近自分自身の抗体を調べてみました。結果は、ポリオウイルスの2型には抗体が形成されていたものの1型と3型は陰性でした。私が幼少時に接種したポリオワクチンの効果はすでに切れているというわけです。もしも私が新彊ウイグル自治区やインド、パキスタンに渡航すれば、ポリオウイルスに感染するかもしれないということになります。
  
 現在議論されている不活化ワクチンが早急に承認されることを願いたいと思います。 
 
(谷口恭) 

注:この発表は下記のURLで読むことができます。 

http://www.who.int/csr/don/2011_09_01/en/index.html 
 
参考:医療ニュース 
2010年2月22日 「神戸の9ヶ月男児がポリオを発症」 
2011年5月30日 「不活化ポリオワクチンがついに導入か」 

2011年9月10日(土)
適度な飲酒がアルツハイマーを予防

 適度な飲酒、特にワインは、アルツハイマーを含む認知症のリスクを軽減させる・・・

 このような嬉しい研究結果が医学誌『Neuropsychiatric Disease and Treatment』8月号(オンライン版)に掲載されました(注)。

 論文によりますと、研究チーム(米国Loyola大学シカゴ校Stritch医学部)は、1977年以降に実施された合計143個の研究を分析しています。対象者は365,000人以上にのぼるそうです。

 その結果、適度の飲酒をする人は、アルツハイマーを含む認知症を発症するリスクが23%低いということが判ったそうです。その一方で、大量の飲酒は、逆に認知症のリスクを増大するとの結果もでています。(しかしこれは統計学的に有意なものではなかったそうです)

 なぜ、飲酒が認知症を予防するのかについて、研究チームは、アルコールが脳の血流や脳代謝を改善させる可能性を指摘しています。また、少量のアルコールで脳細胞に小さなストレスが与えられ、認知症の原因となる大きなストレスに対処する能力が向上するという説もあるそうです。

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 「適度」とはどれくらいかというと、論文では、「男性で1日2杯、女性で1日1杯」としています。認知症のリスクが上がるかもしれない「大量」は「1日3〜5杯」とされています。また、お酒の種類では、「ビールや蒸留酒に比べてワインに高い効果があった」とされています。

 この手の研究で最も注意しなければならないのは、これは疫学であり個人には必ずしもあてはまるわけではない、ということです。つまり、すべての人が飲酒によって認知症のリスクが23%低下するわけではないのです。ある人は、飲酒でアルツハイマーを防げるかもしれませんが、別の人はまったくお酒に影響を受けない、ということもあるわけで、全体でみてみれば23%リスクが下がっていましたよ、という話です。

 ですから、お酒は楽しんで飲むことには私も賛成ですが、まちがっても認知症予防のみを目的とした飲酒はすべきではありません。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは「Moderate alcohol consumption and cognitive risk」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://www.dovepress.com/articles.php?article_id=8067

参考:医療ニュース
2010年8月23日「飲酒が関節リウマチに有効?」
2010年5月21日「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」
2010年4月8日「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2009年10月8日「酒飲みの女性は乳ガンになりやすい」
2009年5月26日「「孤独な酒」は脳卒中の危険性2倍」
2009年5月15日「お酒弱いのに飲酒・喫煙で食道ガンのリスク190倍」
2008年3月3日「お酒は憂さ晴らしに逆効果?!」

2011年9月5日(月)
イソフラボンは骨密度にも更年期にも無効

 大豆イソフラボンのサプリメント(以下イソフラボン)は、女性ホルモンに似た働きをしてかつ安全であるという理由から、骨粗しょう症の予防や更年期障害の症状軽減を目的として幅広く摂取されています。ところが、骨粗しょう症に対しても更年期障害に対しても治療にも予防にもならない、という研究結果が医学誌『Archives of Internal Medicine』2011年8月22日号(オンライン版)に発表されました(注)。 
 
 この研究では、研究開始時点で骨密度が正常の45〜60歳の女性248人が対象とされています。対象者を2つのグループにわけ、一方にはイソフラボンのサプリメントを服用(1日200mgを2年間)してもらい、もう一方にはプラセボ(偽薬)を服用してもらっています。尚、対象者は自分の服用するものがイソフラボンなのか偽薬なのか分からないようになっています。 
 
 2年後に対象者の骨密度を測定したところ、2つのグループ間に差は認められなかったそうです。 
 
 さらに、更年期障害の症状を聞き取りしたところ、顔面紅潮以外は症状にグループ間の差は認められていません。しかも、その顔面紅潮もイソフラボンを服用していたグループに多かったのです。(イソフラボン服用者の48%以上、プラセボ群の約32%に認められています) また統計学的な有意差はないものの、イソフラボンのグループの方が便秘を訴える人が多かったそうです。 
 
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 骨粗しょう症の予防や更年期障害の治療にホルモン補充療法というものが注目されていた時代がありました。しかし、有用性と副作用について検証されたWHI(Women's Health Initiative study)と命名された大規模調査で否定的な結論が出てから見方が変わりました。その否定的な結論とは、「浸潤性乳ガンのリスク上昇と、乳ガン診断が遅れる危険性」です。それでも症例によっては積極的に検討すべきという意見もあり、完全に否定されているわけではありませんが、この調査の結果が発表されてからは、かつてほどホルモン補充療法が積極的におこなわれなくなってきているのは事実です。 
 
 その影響も受けて、「天然の女性ホルモン」とも言われるイソフラボンが一躍脚光を浴びだしたという経緯があります。しかし、今回のこの研究ではイソフラボンの有益性は否定されており、今後女性の骨密度対策や更年期障害対策の見直しが必要となるでしょう。 
 
 それにしても、サプリメントの有益性を検討した研究では、残念ながら大半が否定的な結果が出されているような印象があります・・・。 
 
(谷口恭) 
 
注:この論文のタイトルは「Soy Isoflavones in the Prevention of Menopausal Bone Loss 
and Menopausal Symptoms」で、下記のURLで概要を読むことができます。 

 
http://archinte.ama-assn.org/cgi/content/abstract/171/15/1363?maxtoshow=&hits=
10&RESULTFORMAT=&fulltext=Silvina+Levis&searchid=1&FIRSTINDEX=0&resourcetype=HWCIT
 

2011年9月2日(金)
チャンピックス服薬者の意識障害
 厚生労働省は8月30日、禁煙補助薬のチャンピックス(一般名はバレニクリン)を服薬した人が意識障害を起こした事例が2008年5月から2011年4月の間に6例報告されたことを発表しました。6例は40〜70代の男女であり、そのうち3例は車を運転中に事故を起こしていたと発表されています。 
 
 同省は、チャンピックス販売元のファイザー製薬に対し、使用上の注意の重大な副作用欄に「意識障害」を加えるよう指示した、と報道されています。(報道は8月31日の毎日新聞、共同通信など) 
 
********* 
 
 チャンピックスによる意識障害は、日本発売前から海外では発生例が報告されており、そのため米国ではパイロットは服用してはいけないことになっているはずです。 
 
 太融寺町谷口医院にも、因果関係ははっきりしないものの、チャンピックスでぼーっとしたような気がする、という患者さんがおられたため使用を中止してもらったことがあります。(ファイザー製薬にも報告しています) 
 
 これまで日本でチャンピックスを服用した人はおよそ414,000人だそうです。このなかの6人に起こったということですから、意識障害は10万人に1〜2人に起こりうる、という計算になります。この数字は大きくはないでしょうが、やはり車の運転などをおこなう人は充分注意すべきでしょう。太融寺町谷口医院の患者さんにもさらに注意を促していきたいと思います。 
 
(谷口恭) 
2011年8月30日(火)
テレビの見過ぎで寿命が短く

 1日6時間以上テレビを見ると寿命が5年短くなる・・・

 オーストラリアでおこなわれたこのような研究が医学誌『British Journal of Sports Medicine』2011年8月15日号(オンライン版)に掲載され話題をよんでいます(注)。以前にもオーストラリアで同じ様な研究がありましたが(下記医療ニュース参照)、同国ではよほどテレビに依存する人が多いのでしょうか。

 今回の研究では「オーストラリア糖尿病・肥満・生活習慣研究」と命名された研究に参加した25歳以上の男女約11,000人のデータが用いられ、調査内容には1週間のテレビ視聴時間が含まれています。

 調査結果を要約すると、1日に6時間以上テレビを見る人が全体の1%で、この人たちは、まったくテレビを見ない人に比べると4.8年も寿命が短縮される、となっています。また、テレビを見る時間が1時間増えるごとに寿命は21.8分ずつ短くなるとも試算されています。

 なぜテレビの見すぎが寿命と関係しているかについて、研究者らは、テレビの前から動かないことで、間食が増え運動不足となり生活習慣病のリスク上昇になっている可能性を指摘しています。

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 イギリスでおこなわれた別の研究では、テレビの見すぎは心臓病のリスクとなり、しかも運動をしてもリスクは軽減されないとの結果がでていました。(下記医療ニュース参照)

 私の知る限り日本人を対象とした同様の研究はないのですが、日本人にも同じことが言えるのでしょうか。また、日本を含む世界中でインターネット中毒者が増えていますが、やはり寿命が短くなるのでしょうか。今後の研究を待ちたいと思います。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Television viewing time and reduced life expectancy: a life table 
analysis」で、下記のURLで概要を読むことができます。


http://bjsm.bmj.com/content/early/2011/08/01/bjsm.2011.085662.abstract?sid=2ed8ab07-
c785-4eff-8d37-2d17cc766ec4


参考:医療ニュース
2010年1月25日「テレビの見すぎが寿命を縮める?」
2011年1月14日「2時間以上のテレビやパソコンは心臓病のリスク」

2011年8月29日(月)
タバコの危険性は男性より女性

 タバコを吸う女性が心臓発作を起こすリスクは25%高く、肺ガンのリスクは2倍・・・。 
 
 これはアメリカでおこなわれたいくつかの研究をまとめたもので、医学誌『Lancet』2011年8月11日号(オンライン版)に掲載されています(注)。 
 
 この調査では、喫煙者と非喫煙者の心疾患リスクを検討した過去研究のデータを収集し、メタアナリシスと呼ばれる分析方法を用いてすべてのデータを検討し直しています。対象者は合計3,912,809人で、そのうち心疾患を有していたのが約67,000人となっています。男女差を検討すると、喫煙する女性は男性に比べて心臓発作を起こすリスクが25%高いことが判明したそうです。女性の喫煙期間が1年延長するごとに、同じ期間喫煙する男性に比べてリスクが2%増大するという結果もでたそうです。 
 
 また、喫煙女性では肺ガンによる死亡リスクが男性の2倍にもなることも明らかになったそうです。 
 
************* 
 
 同じタバコでも女性の方が不利・・・、と言われると不平等のような気もしますが、大規模調査でこれだけはっきりとした結果がでているのですから、男女間の生理学的な差異が原因となっていると考えるべきでしょう。 
 
 もちろんこの結果は、男性は喫煙してもOK、というものではありません。ここ数年間は世界規模で禁煙運動が盛んになり、その反動からか、愛煙家の権利を奪うな、という意見も散見されますが、私自身としては医師としても元愛煙家としても、すべての人に禁煙をすすめたい、と考えています。 
 
(谷口恭) 
 
注:この論文のタイトルは、「Cigarette smoking as a risk factor for coronary heart disease in women 
compared with men: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies」で下記のURLで概要を読むことができます。 

 
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2811%2960781-2/abstract 

2011年8月26日(金)
ビタミン剤で発ガンのリスク上昇 

 ビタミン剤を飲むとガンのリスクが上昇する・・・ 
 
 8月25日、このような意外な調査結果が国立がん研究センターから発表されました。(報道は同日の共同通信、日経新聞など) この研究は、1990年〜2006年、40〜69歳の男女約63,000人を対象とし、調査はアンケート方式でおこなわれています。調査期間にガンに罹患した人は4,501人だったそうです。 
 
 週に1日以上、1年間以上ビタミン剤を摂取した経験のある人は、まったく摂取したことがない人に比べて発ガンのリスクが17%も高かった、という結果がでています。ただし、サプリメントの作用と発がんとの因果関係は明らかにはなっていません。 
 
 この調査ではガン以外に、心筋梗塞などの循環器疾患についても調べられています。男性ではビタミン剤摂取に差は出なかったものの、女性では摂取している人はしていない人の6割程度にリスクが低下した、という結果がでています。 
 
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 ビタミン剤を飲んでいる人で発ガンのリスクが上昇するのは、ビタミン剤のせいではなく、元々不健康な人がビタミン剤を飲んでいるからではないか、という意見があるようですが、それならば、なぜ循環器疾患のリスクが下がるのかを説明できません。 
 
 やはり、未知のメカニズムで、ビタミン剤がガンのリスクになっている可能性がある、と考えるべきでしょう。異論があるものの、βカロチンやビタミンEが肺ガンのリスクを上昇させるという報告もありますし、さらなる研究を待ちたいところです。 
 
 最も重要なことは、ビタミンは食事から積極的に摂るべき、ということです。日々の食事をおろそかにして安易にビタミン剤に頼ろうとすると痛いしっぺ返しを受けるかもしれない、と考えるべきでしょう。 
 
(谷口恭) 

2011年8月9日(火)
身長が高いとガンになりやすい

 先日は「身長が低いと脳卒中になりやすい」という研究を紹介しましたが、今度は身長の高い人が気になる研究です。「身長が高いとガンになりやすい」というもので、イギリスの研究者によるものです。医学誌『Lancet Oncology』の2011年7月21日号(オンライン版)に掲載されています(下記注参照)。

 この研究では、1996〜2001年に英国で実施された「Million Women Study」というデータが分析されています。約130万人の対象となった中年女性は、一部の皮膚ガンを除く他のガンにかかったことがないということが条件になっており、さらに研究開始時に乳癌スクリーニング検査が実施されています。対象者の追跡は平均9年間おこなわれています。対象者は身長によって、低いグループから高いグループまで合計6つのグループに分けられています。

 その結果、身長の高い女性は、多くのガンのリスクが有意に高く、身長が増えるにつれてそのリスクが増加していたそうです。さらに、過去の身長に関する10件の研究について再検討した結果、ヨーロッパ、北米、アジア、オーストラリアなどの集団でも同様の関連性が認められたそうです。

 なぜ身長が高いとガンのリスクが上昇するのかの説明として、研究者は、身長の高い人は成長関連ホルモンのレベルが高く、それがガンのリスクの増大につながっている可能性を指摘しています。
 
 しかし、研究者らは、同時に、「背が伸びないように努力したり、長身の人が追加のガン検診を受けたりする必要はない」と述べています。さらに、「身長に関わらず、禁煙し、適正体重を維持し、推奨されるガン検診を受けることによってガンのリスクを軽減できることに変わりはない」と付記しています。

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 私が今回の研究で気になるのは、(上には述べませんでしたが)身長が高い女性ほどアルコール摂取量が多く、子どもの数が少なく、肥満・喫煙の比率が低く、裕福で活動的である傾向があったとされていることです。

 先日紹介しました「身長が低いと脳卒中になりやすい」という研究では、低身長のグループは、身体活動量が少なく、肥満や高脂血症、喫煙、飲酒量が多いなどの特徴があったと報告されています。さらに、低身長と教育レベルや職業との関連性も指摘されています。

 これらを合わせて考えると、身長の低い人には肥満と喫煙が多く、身長の高い人が社会的に裕福ということになってしまいます。果たしてそんなことがあるのでしょうか。

 今回のイギリスの調査は女性を対象としたものです。今後男性も含めたさらなる研究を待ちたいと思います。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Height and cancer incidence in the Million Women Study:
 prospective cohort, and meta-analysis of prospective studies of height and total cancer risk」で、下記のURLで概要を読むことができます。


http://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045%2811%2970154-1/abstract

参考:医療ニュース2011年7月26日「身長が低いと脳卒中になりやすい」

2011年8月5日(金)
黄砂で脳梗塞のリスクが上昇

 黄砂の被害というと喘息やアレルギー性鼻炎、結膜炎、皮膚炎などが多いことはよく知られていますが、脳梗塞のリスク上昇にもなるという見解が、7月31日に京都で開催された日本脳卒中学会で報告されたようです。(報道は7月31日の日経新聞)

 この調査は九州大学と国立環境研究所の研究グループによっておこなわれています。1999年6月〜2009年3月に、福岡県の7つの病院に脳梗塞で運ばれた救急患者6,352人について調べられています。気象庁のデータから、黄砂の飛来した日と救急患者の関係を調べたところ、脳梗塞の急患は、黄砂が飛んでいない時期に比べ、前3日間に黄砂が観測されていると7.5%増えていたそうです。

 脳の太い血管が詰まって言語障害や手足のマヒを招く重症型に限ってみれば、発症リスクが1.5倍にもなるそうです。さらに、飲酒があれば2.5倍、喫煙があれば2倍にもなるそうです。

 なぜ黄砂で脳梗塞が起こるのでしょうか。研究チームは次のように考えています。

 黄砂には直径4マイクロメートル(4/1000ミリメートル)ほどの微粒子が多く含まれ、肺の奥にまで入り込みます。黄砂に含まれる汚染物質や微生物によって過剰な免疫反応が起こり、肺の奥の血管の内側についた脂肪の塊(かたまり)がはがれ、この塊が脳の血管に飛んでいって詰まらせて脳梗塞となるというストーリーです。

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 黄砂は中国大陸からとんできます。今年のゴールデンウィーク前後には西日本全域で大量の黄砂に見舞われ、太融寺町谷口医院にも連休明けには黄砂が原因と思われる、咳・鼻炎・結膜炎・皮膚炎の患者さんが急増しました。6月に入り黄砂の飛散が落ち着くと、自然にこのような症例は減っていきました。

 私の印象で言えば、花粉による咳や鼻炎症状に比べると、黄砂が原因のものは症状が強く、薬もあまり効きません。最も有効な対処法は、強い薬を使うのではなく、物理的に黄砂を遮断することです。つまり、窓を開けない、ゴーグルやマスクをできる限り利用する、できるだけ外出は控える、などです。

 太融寺町谷口医院の患者さんのなかには九州出身の人が(なぜか)多いのですが、彼(女)らに話を聞くと、大阪の黄砂は九州(特に福岡市と北九州市)に比べると「はるかにまし」と言います。

 ということは、九州北部に居住するということが、アレルギー疾患だけでなく脳卒中のリスクになる、ということになるかもしれません。ちなみに、海外には「黄砂は心筋梗塞のリスクになる」という報告もあります。

 心筋梗塞や脳梗塞は命に直結する疾患ですし、脳梗塞は助かったとしてもその後長年にわたり寝たきりの生活を強いられたり、話せない・食べられないなどの後遺症を残したりすることがあります。

 中国大陸からの黄砂対策について、今後しっかりとした議論を重ねていくべきでしょう。

(谷口恭)

参考:黄砂情報は気象庁のウェブサイトで見ることができます。下記URLを参照ください。
http://www.jma.go.jp/jma/index.html

2011年8月1日(月)
女性の寿命は5年ぶりに短く、男性は過去最高

 年々記録を更新している日本人の平均寿命ですが、昨年(2010年)は、女性では5年ぶりに短くなったようです。7月27日に厚生労働省が公表しています。 
 
 同省によりますと、平均寿命が短くなった理由として「2010年は猛暑で体力が弱った高齢者が多くなくなったためではないか」と分析されているようです。尚、2005年に平均寿命が短くなったのはインフルエンザの大流行によるものとされています。 
 
 数字を詳しくみてみると、2010年の日本人女性の平均寿命は86.39歳で、2009年の86.44歳から0.05歳短くなっています。2008年は86.05歳、2007年は85.99歳です。男性は、79.64歳でこちらは5年連続で過去最高を更新しています。2009年は79.59歳、2008年は79.29歳、2007年は79.19歳です。 
 
 死因についてみていくと、三大死因(ガン、心疾患、脳卒中)で死亡する確率は男性53.97%、女性50.8%で、ほぼ半分を占めていることになります。2010年の特記すべき事項としては、熱中症があげられます。熱中症で死亡した人は過去最多の1,718人(女性は798人)にもなり、そのうち約8割が65歳以上だったそうです。2009年と比べると、心疾患や肺炎などの病気で死亡するケースも夏場を中心に大きく増加し、このことも平均寿命を縮める方向に影響したとみられています。 
 
 しかし、女性の平均寿命が短くなったとはいえ、それでも26年連続で世界一を維持しています。2位は香港(85.9歳)、3位はフランス(84.8歳)です。男性は2009年の5位から4位に上がっています。1位は香港(80.0歳)、2位はスイス(79.8歳)、3位はイスラエル(79.7歳)となっています。 
 
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 平均寿命を別の角度からみてみましょう。「75歳まで生きる割合」を考えたとき、男性72.1%、女性86.5%となります。「95歳まで生きる割合」でみると、男性8.0%、女性23.0%となります。女性のおよそ4人に1人が95歳まで生きる、と聞くと改めて人類がかつて経験したことのない高齢化社会が到来していることを認識させられます。 
 
 私がこの報道を聞いて意外に感じたのが、猛暑のせいで心疾患や肺炎が夏に増えた、ということです。私の勤務医の頃の経験から、こういった疾患は冬に多いという印象があったからです。高齢者の方や高齢者と一緒にお住まいの方は、”節電”をほどほどにして快適な環境に気を配るべきでしょう。 
 
(谷口恭) 
 
参考:医療ニュース 
2010年7月28日 「日本人の寿命がさらにさらに長く」   
2009年7月18日 「日本人の寿命がさらに長く」 
2008年8月4日 「長寿記録更新!女性は23年連続世界一」 

2011年7月29日(金)
手足口病の勢い止まらず

 先日、今年は手足口病が10年で過去最多の流行をみせているという情報をお伝えしましたが(下記医療ニュース参照)、その勢いはさらに増加しており、記録のある1982年以降では感染者が過去最多を記録しています。 
 
 国立感染症研究所の報告によりますと、全国の小児科定点の報告は定点あたり9.7となり、この数字が過去最多となるそうです。先月(6月)の時点では、感染者の報告は西日本に集中していましたが、現在では首都圏や東北地方にまで流行が蔓延しているようです。 
 
 大阪府立公衆衛生研究所は「受診医療機関によっては,成人の手足口病患者の診断が困難な可能性がある」と指摘し、成人の流行状況の把握が重要であることを発表しています(注)。 
 
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 今年の手足口病の特徴で重要なのは、@成人にも発症する、A重症化するケースが多い、の2つです。皮疹も手・足・口に限定されず、耳、膝、腹部などにも強い痛みを伴う水泡が出現するケースが報告されています。 
 
 大阪府立公衆衛生研究所が言うように、成人での感染を迅速に把握することが重要になってきます。これは新たな感染を防ぐためです。しかし、感染が発覚したとしても手足口病には特効薬があるわけではありませんから、治療は安静と対症療法(熱を下げるなど)のみとなります。 
 
 当分の間は、年齢を問わず、うがい・手洗いをしっかりとおこなう必要がありそうです。 
 
(谷口恭) 
 
注:大阪府立公衆衛生研究所の報告については下記URLで読むことができます。 
http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3786.html 
 
参考:医療ニュース 
2011年7月10日 「手足口病がアウトブレイク」 

2011年7月26日(火)
身長が低いと脳卒中になりやすい

 身長が低いほど、脳卒中のリスクが高い・・・

 国立がん研究センターが、このような研究発表をおこない議論を呼んでいます。(注)

 この調査は、岩手、秋田、長野、沖縄の4つの地域の住民約15,000人(40〜59歳)を対象とし、1990年から2005年まで追跡調査がおこなわれています。研究開始時に測定した身長に基づき、対象者を4つのグループに分類し、脳卒中の発症リスクとの関連が調べられています。約16年間の追跡期間中に合計565人が脳卒中を発症しています。

 調査結果によれば、脳卒中(脳出血・脳梗塞の双方を含みます)は、身長が低いほどリスクが高いという結果になっています。4つのグループのうち、最も身長が低いグループのリスクは、最も高いグループの1.6倍にもなるそうです。

 今回の研究結果について、研究者は、低身長のグループでは、身体活動量が少なく、肥満や高脂血症、喫煙、飲酒量が多いなどの特徴があったことを指摘しています。さらに、身長は、教育レベルや職業など社会経済要因(socioeconomic indicators)の影響を受けるということが述べられています。

 同様の報告は海外にもあるそうです。また、欧米の研究では、身長が低いほど虚血性心疾患に罹患しやすいというものがありますが、今回の日本人の研究では虚血性心疾患と身長との関連は認められなかったそうです。

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 身長が低い、ということに対してはどうすることもできないわけで、この点が、喫煙や食生活、運動などとの関連を調べた研究とは異なり、この研究結果を知ったからといって行動を変えるべきことはないかもしれません。

 しかし、論文のなかで、「身長が低い人は、身体活動量が少なく、肥満や高脂血症、喫煙、飲酒量が多い」という記載があり、身長が低い人で思い当たることがあるという人は行動の見直しをした方がいいかもしれません。

 もうひとつ気になるのが、低身長と教育レベルや職業との関連性が述べられていることです。このようなことは本当にあるのでしょうか。低身長は教育レベルが低い、などということが言われだすと、背の低い人に対する不当な偏見が蔓延してしまうのではないかと心配になります。

(谷口恭)

 
注1 この研究の詳細については、国立がん研究センターのサイトで読むことができます。下記URLを参照ください。
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2775.html

また、さらに詳しく知りたい方は、医学誌『European Journal of Epidemiology
European Journal of Epidemiology』に掲載されている「Adult height and the risk of cardiovascular disease among middle aged men and women in Japan 」というタイトルの論文を参照ください。下記URLで全文を読むことができます。
http://www.springerlink.com/content/0303x67514537713/fulltext.pdf

2011年7月10日(日)
アレロックとアレグラに副作用の報告

 すでにマスコミでも報道されていますが、抗アレルギー薬のアレロックとアレグラに副作用の注意勧告がおこなわれています。 
 
 アレロック(一般名はオロパタジン)は、劇症肝炎による死亡例が2例報告されています。1例は、高血圧を患っていた90代の男性、もう1例はホルモン剤を内服していた40代の女性です。 
 
 アレグラ(一般名はフェキソフェナジン塩酸塩)は、無顆粒球症,白血球減少,好中球減少が報告されています。 
 
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 肝炎は、劇症肝炎にまで進行すれば、黄疸や黄色の尿などが出現しますが、その前に全身倦怠感が生じますから、アレロックを内服していて、疲れやすい・だるい、といった症状がある人は早めに主治医を受診すべきでしょう。ただ、アレロックの発売元である協和発酵キリン社によれば、アレロックの年間使用者数は4,438,000人もいるそうですから、頻度としては高いわけではありません。 
 
 アレグラの副作用の、無顆粒球症・白血球減少・好中球減少は、いずれも症状が出るとすれば、風邪を引きやすくなったり、喉の痛みがとれなかったり、といった感染症の徴候です。どれくらいの頻度で出現するのかは不明ですが、気になる人はやはり主治医に相談しましょう。 
 
 太融寺町谷口医院の患者さんのなかにも、アレロック、アレグラとも使用している人は少なくありません。患者さんひとりひとりに対しては、次回受診されるときにお話させていただきたいと考えています。 
 
(谷口恭) 

2011年7月10日(日)
手足口病がアウトブレイク

 リンゴ病がアウトブレイクしているという情報はすでにお伝えしましたが、今年は手足口病も流行しており過去10年で発症者最多となっています。しかも重症例の報告も相次いでいます。 
 
 国立感染症研究所の発表によりますと、6月13日から19日までの1週間の小児科定点医療機関(全国に約3千ヶ所あります)当たりの患者報告数は2.60で、前の週の1.68を大きく上回っています。過去10年間の同時期で最も多かったは2001年の1.89ですから、今年は過去10年間で最も流行の年、ということになります。 
 
 地域ごとにみてみると、報告最多が佐賀で、以下、福岡、島根、岡山、香川、熊本と続き、西日本で顕著であることが分かります。 
 
 患者数急増には拍車がかかっているようで、7月7日には京都市で流行警報が発令されています。同市では、1995年以来16年ぶりの大流行だそうです。 
 
 今年の手足口病は例年と異なる重要な点が2つあります。 
 
 1つは、成人にも発症例が多いということです。手足口病といえば、子供の手足と口に発疹ができ喉が痛くなる夏風邪のひとつ、というのが多くの人のイメージだと思いますが、今年は20代の成人にも多発しています。 
 
 もうひとつは、重症例が多いというものです。皮疹も手と足だけでなく、殿部(おしり)や前腕、顔面などに広範囲に広がる症例も報告されています。さらに、爪の変形や、ひどい場合は爪が脱落する例の報告もあるそうです。 
 
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 手足口病が重症化すると、稀ではありますが、髄膜炎や心筋炎を起こすこともあり、こうなると命にかかわります。 
 
 手足口病の原因ウイルスは複数あり、日本ではコクサッキーA16とエンテ
ロウイルス71の2つが多いとされていますが、今年はコクサッキーA6が多く報告されているようです。しかし、原因となるウイルスが特定できたところで、そのウイルスを退治する方法があるわけではなく、治療は解熱剤や点滴といった対症療法が中心となります。 

 
 手足口病は、咳やくしゃみ、もしくは便を介して比較的簡単に感染します。潜伏期間は2〜7日程度で、多くは1週間程度で治りますが、今年は感染予防対策を例年にも増してしっかりとおこなう必要があります。 
 
(谷口恭) 
 
参考:医療ニュース2011年6月25日 「リンゴ病が過去10年で最多」 

2011年6月25日(土)
リンゴ病が過去10年で最多

 今年(2011年)はリンゴ病が4年ぶりに増加していることを以前(2011年2月)にお知らせしましたが(下記「医療ニュース」参照)、その後も増加傾向にあり、6月6〜12日の週の報告数は、2000年以降の同時期で最多となっていることが国立感染症研究所感染症情報センターにより発表されました。これまで過去10年で最も多かったのは2007年でしたが、この週に関しては2007年を超えているというわけです。

 リンゴ病(正式名称は「伝染性紅斑」)は、4〜6年周期で流行を繰り返すと言われており、流行の年には年明けから7月上旬くらいまで感染者が増加します。

 都道府県別のデータをみると、宮崎が最も多く、群馬、山梨、埼玉、栃木と続いています。

 リンゴ病の原因ウイルスは、ヒトパルボウイルスB19と呼ばれるものです。感染してから10〜20日後に、小児であれば、ほっぺたに赤い発疹が出現し、続いて手や足に網目状の赤い発疹が現れます。小児の場合はほとんどが重症化せずにすぐに治りますが、成人の場合は強い関節痛や高熱などが生じることがあります。また、妊婦さんが感染すると、流産を起こすことがあります。

 このため国立感染症研究所感染症情報センターは、「保育園や幼稚園、小学校などで流行している場合には、妊婦の施設内への立ち入りを制限することを考慮すべきだ」とコメントしています。

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 リンゴ病が成人に感染した場合、特徴的なほっぺたの紅斑がでないことがありますし、上下肢の紅斑も典型的なものにならないこともあります。さらに、パルボウイルスB19の抗体検査は保険診療では妊婦さんにしか認められておらず、妊娠していない女性や男性の診断をつけるのは(検査ができないため)非常に困難です。(妊婦さんには絶対に感染させてはいけない感染症ですから、少なくとも妊婦さんと接することがあるリンゴ病が疑われる症例については保険診療で検査できるようにすべき、と私は以前から考えていますが、今のところ改善される様子はありません・・・)

 国立感染症研究所感染症情報センターが言うように、妊婦さんが幼稚園や保育園などに出入りするときは充分に注意しなければなりません。「2番目の子供を妊娠中のお母さんが幼稚園に子供を迎えにいったときに感染・・・」というケースがありうるからです。

(谷口恭)

参考:医療ニュース2011年2月21日「リンゴ病がアウトブレイク!」

2011年6月17日(金)
精神疾患の労災申請・認定が過去最多

 過重労働や人間関係のトラブルからうつ病などの精神疾患にかかって労災申請する人が年々増えていることがしばしば指摘されますが、2010年の労災申請は過去最多の1,181人となっています。6月15日、厚生労働省が公表しています。

 2009年の申請数が1,136人ですから45人の増加ということになります。認定されたのは308人で、2009年の234人よりも74人増えていることになります。

 厚労省によりますと、精神疾患による労災申請の多い業種は「社会福祉・介護」が85人、「医療」84人、「情報サービス」59人の順で、認定数も同じ傾向にあります。精神疾患になった人のうち、未遂を含む「自殺」は申請段階で171人、認定されたのは65人です。

 認定された308人の発症の原因や引き金となった「出来事」をみると、最も多いのが「仕事の内容・量に大きな変化があった」で41人(うち自殺が12人)、次いで「嫌がらせやいじめを受けた」が39人(自殺は5人)となっています。

 心筋梗塞や脳梗塞など「脳・心臓疾患」で労災申請した人は前年より35人増の802人で、4年ぶりの増加となります。しかし認定数は8人減の285人にとどまっています。そのうち、死亡で認定された人は113人で、こちらは7人の増加となります。

 脳・心疾患の労災認定が多い業種は、貨物運送(宅配やトラック運送)の57人、旅客運送(バスやタクシー)の17人などです。認定された人の1カ月の平均残業時間は80〜100時間が92人、100時間以上が148人で、そのうち160時間以上も20人となっています。

 また、当初は労災と認められなかったものの審査請求などを経て逆転認定されたのは、精神障害で15人(うち自殺7人)、脳・心疾患で11人(うち死亡6人)となっています。

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 2010年のすべての労災申請数のなかで精神疾患に占める割合が6割に上っていることになります。精神疾患の労災申請者数を経時的にみてみると、2007年952人、2008人927人、2009年1,136人、2010年1,181人と、着実に増加していることが分かります。認定されたのは、2007年268人、2008年269人、2009年234人、2010年308人ですから、2009年にいったん減少しましたが2010年は再び増加に(それも大幅に)転じたことになります。

 改正された労働安全衛生法では、すべての事業者は、長時間労働者(通常は月の残業が80時間以上)には産業医による面接を受けさせなければならないことになっています。私も医師会などを通じて産業医の仕事をしていますが、従業員の健康管理に熱心な企業とそうでない企業の差がはなはだしい、と感じています。実際、月の残業時間が80時間どころか100時間を優に超えているのに、事業者から面接の話すらしてもらっていない、という人も少なくありません。

 今回の厚生労働省の発表で興味深いのは、精神疾患での労災申請者の業種が「介護」と「医療」で最も多いということです。本来なら、もっとも従業員の健康に注意していなければならないはずのこれらの業種で心の病を抱えている人が多いということにアイロニーを感じます。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2010年7月17日「「心の電話相談」が過去最多」 
2009年6月11日「職場のストレスで「心の病」が過去最多」

2011年6月15日(水)
糖尿病薬、アクトスに続きビクトーザも注意喚起

 武田薬品の糖尿病治療薬「アクトス」などが、膀胱ガンのリスク上昇につながるという理由で、フランスでは新規処方がされなくなった、という情報を先日お伝えしましたが(下記医療ニュース参照)、ドイツでも同様の措置がとられることになったようです。 
 
 報道によりますと、ドイツで医薬品の認可を担当する行政当局は、フランスの決定を受けるようなかたちで、武田の独子会社に新規処方の停止を指示しています。同時に、現在服用中の人には「医師の相談なしに服薬をやめるべきではない」と通達したそうです。(報道は6月15日の日経新聞) 
 
 フランスとドイツが、実質「新規処方の禁止」をしたことになりますが、欧州の他国では現時点では発表がありません。6月20〜23日に開催される欧州医薬品庁(EMA)の会議で検討されるそうです。 
 
 また、糖尿病の新薬として期待されていたノボノルディスクファーマ社の「ビクトーザ」(一般名はリラグルチド)が、米国で、一部の甲状腺ガンと急性膵炎のリスクになることが、同社米国法人とFDA(米国食品医薬品局)により注意喚起されています。 
 
 ビクトーザの甲状腺ガンと急性膵炎のリスクは以前から指摘されていたのですが、今回あらためて、同社とFDAは、ビクトーザについて「生活習慣の改善で十分な血糖コントロールが得られない糖尿病患者の第1選択薬として用いることを推奨しない」と米国内に呼びかけています。 
 
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 ノボノルディスクファーマ社とFDAがおこなった「ビクトーザ」の注意喚起は、フランスの「アクトス」新規処方中止の影響を受けたのかどうかは不明ですが、糖尿病を患っている人からみれば、今までにない期待の治療薬と言われていたもの2つが立て続けに注意喚起されたことは軽視できないでしょう。 
 
 武田薬品、仏当局、独当局は、現在アクトスなどを使用している人には「すぐに止めないで」と案内していますし、ビクトーザを自己注射している人が自己判断で中止するのは極めて危険です。まずは主治医に相談するようにしなければなりません。(当院でビクトーザを処方している人は現在いません。アクトスを処方している患者さんには次回の来院時に説明いたします) 
 
  
(谷口恭) 
 
注1: 武田薬品が発表している案内は下記を参照ください。 
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201106_1_p.pdf 
 
注2:「ビクトーザ」のノボノルディスクファーマ社とFDAによる注意喚起は下記を参照ください。尚、日本のノボノルディスクファーマ社は現時点(2011年6月15日)では、ウェブサイトに今回の件に関する案内を掲載していないようです。 
 
http://www.fda.gov/downloads/Safety/MedWatch/SafetyInformation/
SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/UCM258828.pdf 

 
http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/
SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm258826.htm
 

 
参考:医療ニュース2011年6月12日 「糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク」 

2011年6月12日(日)
世界の障害者は10億人

 世界で10億人以上が何らかの障害を抱え、このうち日常生活や社会生活で著しい不自由を感じている人が1億9千万人にも上る・・・

 これは世界保健機関(WHO)と世界銀行が、2011年6月9日に世界に向けて発表した報告書に紹介されている数字です。障害者に関する世界的な規模の報告書が発表されたのは初めてだそうです。

 報告書によりますと、経済協力開発機構(OECD)加盟国では、障害者の雇用率が44%で、障害のない人々の雇用率75%と比べると極めて小さいことが指摘されています。また、同報告書では14歳までの子供の障害者は最大で1億5千万人と推定されており、学校施設の不備や教師不足などの理由で、教育を受ける機会が妨げられていることが述べられているそうです。

 障害者権利条約には現在約100ヶ国が批准していますが、日本は2007年に署名したものの批准はしていません。

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 現在世界の人口は70億を少し切るくらいですから、障害者が10億人であれば、7人に1人が何らかの障害を持っているということになります。ですから、障害者との共存・共生というのはむしろ当たり前なわけで、7人以上の組織のなかで障害者がひとりもいないとすればそちらの方が不自然ということになります。
 
 それにしてもなぜ日本は障害者権利条約に批准しないのでしょうか。ちなみに、人権に対する意識が低いことがしばしば指摘される中国はすでに批准しています。

(谷口恭)

2011年6月12日(日)
糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク

 2011年6月9日、フランス当局(Afssaps)は、ピオグリタゾン塩酸塩を有効成分とする医薬品の新規処方をしないように通達しました。この医薬品が膀胱ガンの発生リスクを上昇させるという疫学研究が発表され、その結果をフランス当局が重要視したというわけです。 
 
 ピオグリタゾン塩酸塩を有効成分とする医薬品というのは、比較的新しい糖尿病の治療薬で、商品名で言えば、アクトス、ソニアス、メタクトなどです。 
 
 フランスでは、医師に対しては新規処方をしないように通達をおこない、すでにこれら薬剤を服用している人たちには、自己判断で服用を中止せず、主治医に相談するように注意を促しています。 
 
 また、フランスのこの発表を受けて、これら薬剤の日本での販売元である武田薬品工業が日本の患者さんに対する通達をおこなっています。(下記注参照) 
 
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 ピオグリタゾン塩酸塩は、ここ数年間で最も注目されていた糖尿病の治療薬のひとつと言えます。それだけに、我々医師にとってはこのフランスの発表は非常に強いインパクトがあります。 
 
 ピオグリタゾン塩酸塩に限らず、糖尿病の治療薬は自己判断で中止するのは極めて危険です。フランス当局や武田薬品が発表しているように、現在服用している人はまず主治医に相談すべきです。(当院でこれら薬品を処方している患者さんには次回の診察時にお話しさせていただきます) 
 
(谷口恭) 
 
注:武田薬品の患者さんに対する案内は下記URLで読むことができます。 
 
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201106_1_p.pdf 

2011年6月3日(金)
出生率上昇、人口減12万人、自殺3万人以下に

 6月1日、厚生労働省は2010年の人口動態統計(概数)を発表しました。

 合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと推定される子供の数)は1.39に上昇しています。合計特殊出生率は、2005年に過去最低の1.26を記録し、2006年から2008年は上昇、2009年は2008年と同様でした。(注)

 出生率が上昇した原因として、同省は、「30代後半及び第2子以降の出産が増えたため」と分析しています。しかしながら、同省は、「上昇に転じたものの、少子化傾向は今後も続くとみられる」とコメントしています。

 出生率を年齢別にみると、10代後半〜20代前半は2009年より低下し、20代後半〜40代後半は上昇しています。第1子出産時の平均年齢は29.9歳でこれは2009年より0.2歳上昇したことになります。

 都道府県別では沖縄が最高で1.83(2009年も首位は沖縄で1.79でした)、次いで島根と宮崎が1.63、さらに熊本1.61、鹿児島1.60と続きます。最低は東京の1.12です。

 出生数から死亡数を引いた自然増減はマイナス125,760人で、10万人を超えたのは初めてとなります。内訳は、出生数が1,071,306人、死亡数が1,197,066人です。

 死因の1位はガンの353,318人で、これで30年間連続の首位となります。2位が心疾患の189,192人、3位は脳血管疾患で123,393人です。

 結婚は700,213組で2009年より7,521組の減少、離婚は251,383組で2009年より1,970組の減少となります。

 自殺は1,183人減の29,524人で、3万人を下回ったことになります。(注2)


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注1:合計特殊出生率を詳しくみると、2004年1.29、2005年1.26、2006年1.32、2007年1.34、2008年1.37、2009年1.37、2010年1.39です。

注2:警察庁のデータでは、2010年の自殺者は3万人を越えています。(下記医療ニュース参照) 厚生労働省と警察庁で自殺者数の発表が異なるのは、統計の取り方が異なるからです。厚生労働省は、市町村に届出された「死亡届」を基にしているのに対し、警察庁は、死亡届が出された後に自殺と判明したケースも「自殺者」に含めています。そういう意味では、警察庁の統計が実態をより正確に示していると言えるでしょう。 

参考:医療ニュース
2010年6月7日「2009年の合計特殊出生率は横ばい」
2011年3月8日「日本の自殺者、13年連続で3万人超」

2011年6月3日(金)
WHOが携帯電話の危険性を公表

 携帯電話は脳腫瘍のリスクかもしれない・・・。これは随分前から指摘されていたことで、本格的に大規模調査がおこなわれたことは以前このサイトでお伝えしました。(下記医療ニュース参照)

 その調査結果を簡単に振り返っておくと、約13,000人を対象とした10年間にわたる国際調査がおこなわれ、結論は「携帯電話使用と脳腫瘍の間に相関関係は認められなかった」というものです。しかし、その調査をよく読むと、累積で1,640時間以上携帯電話を使用すると、神経膠腫(グリオーマとも呼ばれます)という脳腫瘍の発症率が1.4倍になると記されており、これは1日30分の通話を9年間続ければ達成してしまう時間である、ということを「医療ニュース」のコメントで述べておきました。

 この調査でWHO(世界保健機関)やFDA(米食品医薬品局)は、「通常の携帯電話の使用では脳腫瘍のリスクは上昇しない」と発表したわけですが、2011年5月31日、WHOはこの調査結果の解釈を変えて、発ガン性があるかもしれない(possibly carcinogenic)との見解を公表しました。

 日本の総務省は、6月1日、このWHOの見解を受けて、2003年に同省の専門委員会が発表した研究結果を基に、「現時点では問題がないと考えている」とコメントしたそうです。(報道は6月2日の読売新聞)

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 possibly carcinogenicというのは発ガンリスクとしては上から3番目にカテゴライズされており(一番高いのはcarcinogenic、次がprobably carcinogenicです)、他のpossibly carcinogenicに相当するものの例としてタルクパウダーに対する卵巣ガンがあります。

 私の知る限り国内外のマスコミはコメントしませんでしたが、上記に述べた通り、1日30分の通話を9年間続ければ、脳腫瘍のリスクとなる1,640時間を越えることになりますから、実際は長期間でみたときにはリスクがあると考えるのが妥当ではないでしょうか。

 総務省は「現時点では問題がない」としていますが、我々が知りたいのは「現時点」ではなく「将来のこと」です。

 最近も、別のことで「現時点では問題がない」という表現を政治家や官僚の見解でよく聞くような気がするのですが、その場しのぎの言い訳に聞こえてしまうのは私だけでしょうか・・・。

(谷口恭)

注:WHOの発表のニュースは日本のマスコミでも報道されていますが、Washington Postの記事が分かりやすいです。(下記URLで読めます)
http://www.washingtonpost.com/national/cell-phones-possibly-carcinogenic-who-says/
2011/05/31/AGRktZFH_story.html


参考:医療ニュース
2010年5月31日「携帯電話で発ガン性は一応認められず・・・」
2010年1月23日「携帯電話がアルツハイマーを予防?」
2010年7月12日「寝る前の携帯電話はNG」

2011年5月30日(月)
不活化ポリオワクチンがついに導入か

 ポリオのワクチンは、世界的には「不活化」を使うのが一般的になってきているのに日本ではいまだに「生」を使っていることが問題である、ということはこのサイトで何度かお伝えしてきましたが(下記医療ニュース参照)、ついに日本でも不活化ワクチンが導入される見込みがでてきました。

 2011年5月26日に開催された厚生科学審議会感染症分科会の予防接種部会で、早ければ2012年度にも不活化ポリオワクチンが導入される見通しが示されました。

 厚生労働省によりますと、国内ワクチンメーカー4社が不活化ポリオワクチンとDPTワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合ワクチン)を混合した、言わば「4種混合ワクチン」を開発中で、2011年中に承認申請がおこなわれる見込みだそうです。

 ただし、DPTワクチンをすでに接種している人が、この新しい4種混合ワクチンを接種することに問題はないのかという懸念があります。そこで、厚生労働省では、不活化ポリオワクチン単独のワクチンを国内で開発すべきだと提案しています。同省の担当者は、「今後、不活化ポリオワクチン単独のワクチン開発に協力していただける企業を探していく」とコメントしているそうです。(報道は5月26日の読売新聞など)

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 まず基本的なことをおさらいしておくと、生ワクチンの問題は、@非常に稀ではあるがポリオに感染したときと同じような麻痺症状がおこりうること、A成人には接種できないこと、です。このため、一部の小児科クリニックや旅行医学を積極的に実践しているクリニックでは不活化ポリオワクチンを輸入して接種しています。(尚、2001年度からの10年間で、生ワクチンでポリオウイルスに感染したときと同じような症状がでた例は15例、生ワクチンを接種した児童の便などから感染したと思われる二次感染が6例報告されています)

 しかし、単独ワクチンよりも4種混合ワクチンが先に開発されたのはなぜなのでしょうか。混合ワクチンというのは、単純にそれぞれのワクチンを足してつくられるわけではありませんから、単独ワクチンよりも4種混合ワクチンの開発が先におこなわれたことに合理的な理由があるのでしょう。しかしながら、なぜ厚生労働省は国内メーカーにこだわり、海外で実績のある不活化ポリオワクチンを輸入しないのか、という疑問が私にはぬぐえません。

 国内メーカーがこれから開発するよりも、すでに海外で実績のあるワクチンを輸入して使う方がずっと現実的だと思うのですが、政治的な問題(例えばワクチンメーカーが官僚の天下り先になっているとか・・・)を疑いたくなります。

(谷口恭)

参考:
医療ニュース
2010年12月17日「ポリオ不活化ワクチンを求め患者団体が署名提出」

2010年2月22日「神戸の9ヶ月男児がポリオを発症」
メディカルエッセイ第90回(2010年7月)「理想のワクチン政策とは・・・」

2011年5月27日(金)
エイズ発症者が過去最多に

 厚生労働省は毎年5月末に前年のHIV/エイズ関連のデータを発表します。昨年(2010年)1年間のエイズ発症者(エイズを発症して初めてHIV感染がわかったケース、いわゆる「いきなりエイズ」)が469人でこれは、昨年の431人から38人の増加となり、そして過去最多です。

 2010年に新たにHIV感染が判った人(まだエイズを発症していない感染者)は、1,075人で、これは2009年の1,021人より54人の増加となります。「新たにHIV感染が判った人」は2002年から増加の一途をたどっていて、2009年に初めて減少に転じましたが、これは感染者が減ったのではなく、検査を受ける人が減ったことが原因だと考えられています。そして、2010年には再び増加に転じています。

 全国の保健所などでおこなっている無料のHIV抗体検査は、2009年は新型インフルエンザの影響で減少したことが指摘されましたが、2010年は2009年をさらに13%下回っているそうです。同時に、保健所などへの相談件数も減少しているそうです。

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 HIVへの関心が低下し、検査件数が減少しているのにもかかわらず新規で発見される人は増えている。そして「いきなりエイズ」も増加している・・・。

 これは、言うまでもなく、「HIVに感染しているのに気づいていない人が増加している」ことを示しています。

 太融寺町谷口医院でも、(エイズを発症して受診という人はほとんどいませんが)何らかの症状からHIV感染が発覚するケースは2009年、2010年と比べて今年(2011年)は大きく増えています。2007〜2008年は、発熱や倦怠感といった症状から、あるいは無症状でもキケンな行為があったことから自分自身でHIV感染を心配して受診、という患者さんが多かったのですが、2009年以降は、患者さん自身はHIVなどとは夢にも思っていない、というケースが増えています。

参考:医療ニュース
2010年6月10日「HIVの「検査数」が大幅減」
2009年6月20日「日本のHIV、増加傾向は変わらず」

2011年5月21日(土)
「茶のしずく石鹸」が自主回収

 過去にも「お茶石鹸」に含まれている小麦によるアレルギー、それも重篤なアレルギー反応が起こりうることをこのサイトで紹介してきましたが、ようやくメーカーがその石鹸を「自主回収」することを決定しました。

 メーカー((株)悠香)のこの決定を受けて、2011年5月20日、厚生労働省は報道関係者に向けてのプレスリリースをおこないました。(下記注参照)

 (株)悠香が製造する「茶のしずく石鹸」の使用者のなかに、運動誘発性アレルギーを発症する人が続出し、ときに重篤となったケースの報告もありました。この原因はこの石鹸に含まれている小麦が原因であることが分かっています。

 尚、2010年12月8日以降に発売されている「茶のしずく石鹸」には、すでに小麦が含まれていないそうです。

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 この話題はここ1〜2年、皮膚科やアレルギー関連の学会では必ず取り上げられていました。2010年10月の時点で、すでに重症化した被害者の報告が相次いでおり、厚生労働省が注意喚起の発表をしていたわけですから、なぜそのときに自主回収がされなかったのか、という疑問はぬぐえません。

 小麦アレルギーをいったん起こしてしまうと、今後小麦製品(パンやうどん)が一切食べられないことになりかねません。ですから、まだ(2010年12月7日以前に発売された)この石鹸をお持ちの方がおられれば直ちにメーカーに連絡をとられることを勧めます。

(谷口恭)

注:自主回収の詳細、及びメーカーからの詳しい案内は、下記URLを参照ください。
http://www.info.pmda.go.jp/happyou/file/PMDSI_110520.pdf

参考:医療ニュース2010年10月20日「小麦入り化粧品、特に”お茶石鹸”に注意」

2011年5月6日(金)
カルシウムサプリメントが女性に危険かも・・・

 カルシウムのサプリメントを積極的に摂取している人は少なくないのではないかと思われます。なにしろ、骨粗しょう症が増えているということが頻繁に指摘されていますし、現代人の骨が脆くなってきていることは大勢の人が感じているのではないでしょうか。実際、日本人が摂取基準を取れていないミネラルやビタミンと言えばカルシウムが筆頭に上がります。

 厚生労働省が定めている1日あたりのカルシウム摂取基準は、成人であれば男性700mg、女性650mg程度ですが、平成18年の国民健康・栄養調査によりますと、実際には、男性平均546mg、女性平均524mgしかとれておらず基準に届いていません。つまり、「現代人はカルシウム不足」というのは公的なデータからも証明されているというわけです。(摂取基準については正確には年齢ごとに基準が異なります。下記注1を参照ください)

 食事で充分なカルシウムが摂れないなら、サプリメントで摂ればいいじゃないか・・・。

 誰もがそう思うでしょうし、実際カルシウムのサプリメントはかなり普及しているといっていいでしょう。ところが、です。「カルシウムサプリメントは女性の心疾患リスクを高める」という研究結果が発表され物議をかもしています。詳細は医学誌『British Medical Journal』2011年4月19日号に掲載されています。(下記注2参照)

 この研究では、WHI(Women's Health Initiative study)と命名されたアメリカの大規模研究のデータが用いられ、さらに約3万人の女性を対象とした未発表の13研究のデータが追加されて分析が加えられています。その結果、「カルシウムサプリメント摂取によって心臓発作リスクが25〜30%、脳卒中が15〜20%増大した」ことが判ったそうです。

 研究者らは、「カルシウムは動脈硬化に関連しているのだから、今回の結果は生物学的に理にかなっている」とコメントしています。

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 女性のカルシウムサプリメント摂取に否定的なこの研究はすべての学者から肯定されているわけではありません。実際、日本にも海外にもカルシウム製剤を処方する医師は大勢いますし、カルシウムサプリメントを摂らないように患者さんに注意している医師はほとんどいないのではないかと思われます。(過剰摂取に注意を促すことはありますが)

 今後さらなる追跡調査が行われることを期待したいと思います。また、ビタミンDとカルシウムサプリメントを併用すれば心血管系のリスクがどうなるのか、男性のカルシウムサプリメント摂取はどのように考えればいいのか、といったあたりの研究も待ちたいところです。

 現時点で確かなことが2つあります。ひとつは、現代人の多くがカルシウム不足であること、もうひとつは、カルシウムは食事から摂れば何の問題もない、ということです。

(谷口恭)

注1:カルシウムの摂取基準量については、独立行政法人国立健康・栄養研究所の下記のサイトが参考になるかと思います。

http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail660.html

注2:この論文のタイトルは、「Calcium supplements with or without vitamin D and risk of 
cardiovascular events: reanalysis of the Womens Health Initiative limited access dataset 
and meta-analysis」で、下記のURLで全文を読むことができます。


http://www.bmj.com/content/342/bmj.d2040.full.pdf?sid=f404aad1-c0ac-4fa4-90d3-118347e1d97f

2011年4月28日(木)
児童虐待を受けた経験5%

 18歳頃までに両親や同居者から虐待を受けた経験がある人は男性2.2%、女性は7.1%にもなる・・・ 
 
 これは、厚生労働省の研究班が2年に一度おこなっている「男女の生活と意識に関する調査」で明らかになったデータです。尚、この調査で虐待経験を尋ねたのは今回が初めてだそうです。 
 
 この調査は2010年9月に16〜49歳の男女約3千人を対象に実施されています。 
 
 虐待の内容については、「心を傷つけるようなことを繰り返し言うなど<心理的虐待>」が66.2%で最多となっています。 
 
 その他の虐待をみてみると、「殴る、蹴る、熱湯をかける、たばこの火を押しつけるなどの<身体的虐待>」が54.5%、「無視したり、食事を与えなかったりするなどの<養育放棄>」が15.6%、<性的虐待>は男性はゼロですが、女性は14.5%となっています。 
 
 この調査では<虐待>と両親の離婚の関係が調べられています。<虐待>を経験した人のうち、両親の離婚の経験がある人の割合は36.4%で、虐待経験がない人は10.6%ですから3倍以上の開きがあることになります。また、<虐待>経験者は、中学生の頃に親との会話が少ないという傾向が認められたそうです。 
 
 また、<虐待>を経験した人のなかで、自分で自分の体に傷を付ける<自傷行為>の経験者の割合は32.5%となっています。虐待経験がなく自傷行為を行ったことがある人が5.7%ですから5倍以上の差があることになります。 
 
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 今回の調査ではおこなわれていませんが、このような<虐待>は世代伝播することが指摘されることもあります。また、「望まない妊娠」で産まれた子供が<虐待>を受ける傾向にあると言われることもあります。 
 
 その他にも親がアルコール依存症や薬物中毒であったり、あるいは摂食障害、ギャンブル依存、セックス依存などがあったりすることとの関連も指摘されることがあります。 
 
 ところで、虐待を加える親は虐待をしたくてしているのでしょうか。そんなはずはありません。虐待などしたくないのだけれど気づいたときには虐待してしまっている・・・、それが虐待の姿です。ですから、虐待を防ぐには「子供を親から守る」と同時に「親のケアをする」という視点が重要なのではないかと私は考えています。 
 
(谷口恭) 

2011年4月19日(火)
「買い物」は高齢者の寿命をのばす

 毎日買い物に行く高齢者は、買い物に行かない人に比べ寿命が長い・・・

 これは台湾の学者による研究結果で医学誌『Journal of Epidemiology and Community Health』2011年4月6日号(オンライン版)に掲載されています。(下記注参照)

 研究では、1999年および2000年に実施された「高齢者の栄養と健康に関する調査」のデータを解析しています。対象者は、自宅で自立した生活を送る65歳以上の台湾人1,850人で、買い物の頻度と個人の健康、経済状態、死因などが分析されています。

 対象者の約半数は、買い物には全く行かないかほとんど行かないと回答しており、22%が週2〜4回買い物に行く、17%は毎日買い物に行くと回答しています。頻繁に買い物に行く人は、比較的若く、男性に多い傾向にあるようです。全体的な健康状態は良好で、運動や友人との食事で外出することが多いという結果がでています。また、意外なことに喫煙やアルコール摂取量が多い傾向も認められたそうです。
 
 毎日買い物をする人は、買い物に行かない人に比べ、死亡率が全体で27%低い(男性28%、女性23%)という結果がでています。

 対象者のほとんどは経済的に自立しており、買い物に行かないのは貧困が理由ではありません。

 研究グループは「正式な運動に比べると、買い物は簡単に楽しく体を動かすことができるために魅力的な健康法である」と結論しています。

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 買い物で長生きできる!、と聞いて嬉しく感じる人も多いのではないでしょうか。最近の研究は、例えば「○○以上のアルコールはNG」とか「運動は週○回以上、1回○○分以上でないとダメ」とか、聞いていてしんどくなってくるようなものが多いですから、「買い物で長生き」というのは、(もちろんその言葉に踊らされてはいけませんが)夢のある研究成果と言えるかもしれません。

 ちなみに私は買い物が苦手で、「時間がもったいないからインターネット上で購入・決済を済ませてしまおう」と考えてしまいます。しかし、この論文を読んで、老後は買い物を趣味のひとつにしようかと考えています。今回の研究が実施された台湾は庶民的な市場や屋台が有名ですが、あのような環境なら買い物が楽しくなるのかもしれません。日本にもワクワクするような市場が増えることを望みたいと思います。

注:この論文のタイトルは、「Frequent shopping by men and women increases survival 
in the older Taiwanese population」で、下記のURLで概要を読むことができます。


http://jech.bmj.com/content/early/2011/03/17/jech.2010.126698.abstract?sid=
f48b3001-a4f7-4434-9b89-1190ca18255c

2011年4月18日(月)
ビール中ジョッキ1杯で発ガンリスクが上昇・・・

 飲酒は絶対的に悪いものではなく、少量のアルコールはむしろ身体にいい・・・。このように言われることがしばしばありますが、では「少量」とはどれくらいなのでしょう。

 女性の場合、1日1杯の生ビールで発ガンのリスクが上昇する・・・

 このような結果がヨーロッパの大規模研究で明らかになり、医学誌『British Medical Journal』2011年4月7日(オンライン版)で発表されました。(下記注参照)

 この研究は、欧州10カ国の約52万人が対象となった過去の大規模研究から、イギリス、フランス(女性のみ)、ドイツ、イタリア、オランダ(女性のみ)、スペイン、ギリシャ、デンマークの37〜70歳の363,988人(男性109,118人,女性254,870人)のデータを用いて解析しています。対象者の過去1年間のアルコールの消費量と発ガンの有無との関係を調べています。

 その結果、飲酒グループと非飲酒グループを比較すると、飲酒グループのガンリスクは男性で10%、女性で3%上昇しています。特に、上気道および消化器ガン(肺ガン、胃ガン、喉頭ガンなど)は男性44%、女性25%と高い上昇率を示しています。その他のガンでは、大腸ガンは男性17%、女性4%の上昇、肝臓ガンは、男性33%、女性18%の上昇、女性の乳ガンは5%の上昇となっています。

 世界がん研究基金(WCRF)および米国がん研究所(AICR)は、1日当たりのアルコール摂取量を男性で24g以下,女性で12g以下にするよう推奨しています。アルコール12gとは、ワインで言えばグラス1杯(120mL)、ビールなら中ジョッキの約半分、日本酒では約0.5合に相当します。今回の研究でこれらの基準を超えた割合は、男性で39.0%、女性で33.2%、1日当たりアルコール摂取量の平均はそれぞれ 33.2g、15.9gとなっています。

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 最近、WHO(世界保健機関)は、100ヶ国以上の加盟国におけるアルコール摂取と健康被害に関する報告書「Global status report on alcohol and health」を発表しました。

 その報告書によりますと、アルコールの有害摂取により世界で年間250万人が死亡し、これは世界の全死亡件数の4%に相当するそうです。少し詳しくみると、全世界の男性の死亡の6.2%,女性の死亡の1.1%がアルコールに関連しています。また、毎年32万人の若年者(15〜29歳)がアルコール関連の原因で死亡しており、これは同年齢層の全死亡件数の9%に相当するそうです。アルコールによる死亡の大半は、アルコールの有害摂取に起因した外傷やガン、心血管疾患、肝硬変による死亡である、とされています。

 現在、世界的なレベルでアルコール摂取に対する注意勧告がされており、上記研究結果はその流れを加速させるかもしれません。

 タバコはダメで、あぶらものはNG、塩分制限もしつこく言われるようになってきて、ついにアルコールもごく少量しか許されない・・・。住みにくい世の中になったなぁ、とぼやきたくなります。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Alcohol attributable burden of incidence of cancer 
in eight European countries based on results from prospective cohort study.」で、下記URLで全文を読むことができます。


http://www.bmj.com/content/342/bmj.d1584.full.pdf?sid=d1190dc0-4284-43a6-b23f-b903b44947bb

参考:医療ニュース
2010年8月23日「飲酒が関節リウマチに有効?」
2010年5月21日「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」
2010年4月8日「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2009年5月15日「お酒弱いのに飲酒・喫煙で食道ガンのリスク190倍」
2008年6月1日「タバコと酒のコンビネーションが肺がんのリスク」

2011年3月28日(月)
カリウム摂取で心血管疾患を予防

 カリウムの豊富な食事を摂ることにより、脳卒中リスクや心疾患リスクが低減する・・・

 これは、イタリアのフェデリコ(Federico)U世大学、Pasquale Strazzullo博士の研究結果で、医学誌『American College of Cardiology』3月8日号(オンライン版)に論文が掲載されています(注1)。

 研究では、これまでに発表されている11件の研究(合計247,510人が対象)を、メタ解析という方法で総合的に分析しています。その結果、カリウムを1日に1.64g以上摂取する人は脳卒中リスクが21%低く、その他の心血管疾患リスクも低い傾向にあることが判明したそうです。

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 カリウムを1.64gと言われても、何をどれくらい食べればいいのか分かりにくいと思いますが、まず、カリウムが豊富な食品の代表は野菜と果物であることを確認しましょう。具体的には、例えば、カリウムが豊富な果物の代表であるバナナであれば1本で0.36グラム、カリウムが豊富な野菜の代表のトマトでは中くらいの大きさのもの1個で0.21グラムです。カリウムは肉やいも、炭水化物にも含まれていますが、1日1.64グラムというのは、野菜・果物を積極的に摂らないとちょっとむつかしいのではないかと思われます。

 この研究の研究者は、「果物または野菜を5サービング以上食べれば、予防効果を得るために必要なカリウムを摂取できる」とコメントしています。では、「サービング」とは何なのか、ですが、生野菜なら1カップ(240mL)で1サービング、果物なら、例えばバナナ1本で1サービングが目安になります。(あまり分かりやすくないですね)

 また、研究者らは、果物・野菜・ナッツ類が豊富で、低脂肪の乳製品が適度に含まれるDASHダイエット(注2)をおこなえば、カリウムが積極的に摂取できる可能性を指摘しています。

 尚、ひとつ補足しておくと、多くの人にとってカリウム摂取量が増えても危険はありませんが、腎機能低下を患っている人や、カリウムを低下させる薬剤を服用している人は医師に相談すべきです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Potassium Intake, Stroke, and Cardiovascular Disease」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://content.onlinejacc.org/cgi/content/abstract/57/10/1210?maxtoshow=&hits
=10&RESULTFORMAT=&fulltext=Pasquale+Strazzullo&searchid=1&FIRSTINDEX=
0&resourcetype=HWCIT


注2:DASHとは「Dietary Approaches to Stop Hypertension」の略で、ダイエットにより高血圧を予防することを目的としています。1日2000kcalが基本で、脂肪やコレステロールの摂取量を減らし、特に果物と野菜を積極的に摂るのが特徴です。

2011年3月15日(火)
肥満男性の3割は減量を試みていない

 厚生労働省が健康増進法に基づいて毎年おこなっている調査に「国民健康・栄養調査」というものがあります。2011年3月8日、同省は平成20年版の報告(完全版)を公表しました。概要版については、すでに2009年11月に公表されており、肥満と喫煙に関するデータをこの「医療ニュース」でも紹介しました。(下記参照) 
 
 詳しい報告書は下記URLで誰でも閲覧することができますので、興味のある方は参照いただきたいのですが、注目すべき点を少しあげていきたいと思います。 
 
・肥満者(BMIが25以上)の割合は、男性28.6%、女性20.6%。 
 
・男性の20-60歳代は、過去5年間で肥満者割合の増加傾向にあるが、それ以前の5年間に比べると増加率は鈍化している。 
 
・女性の40-60歳代では、肥満者の割合が減少している。 
 
・やせの者(BMIが18.5未満)の割合は、男性4.3%、女性10.8%であり、女性では20代(22.5%)および30歳(16.8%)で高い。 
 
・体重を減らそうと考えている者の割合は、男性で40.5%、女性で51.6%。 
 
・肥満者の男性の29.8%は体重を減らそうと考えていいない。 
 
・やせている女性の12.6%がさらに体重を減らそうとしている。 
 
・運動習慣のある者は、男性33.3%、女性27.5%であり、平成15年に比べ男女とも増加している。 
 
・現在習慣的に喫煙している者は、男性36.8%、女性9.1%で、平成15年以降男女とも減少している。 
 
・たばこをやめたいと思う者は、男性28.5%、女性37.4%であり、平成15年に比べ男性では増加している。 
 
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 全体的な傾向として、男性は肥満が増えているのにもかかわらず減量に無関心、女性は特に若い世代でやせているのにもかかわらずさらにやせようとしている、といった感じでしょうか。 
 
(谷口恭) 
 
注:この報告書の詳細は下記URLで読むことができます。 
 
http://www.m3.com/tools/Document/WIC/pdf/201103_2/1494_7_1.pdf 
 
参考:医療ニュース2009年11月11日 「厚労省の調査、喫煙率21.8%、肥満度改善」 

2011年3月11日(金)
日本の女子中学生の1.9%が摂食障害

 女子中学生の100人に2人は治療が必要な深刻な摂食障害である・・・ 
 
 これは厚生労働省の研究班が2011年3月1日に公表した内容です。(報道は3月2日の共同通信など) 
 
 研究班は、2009年〜2010年、関東地方と中国地方の36の中学の男女生徒約8千人を対象として調査をおこなっています。体形や食事への意識など合計28項目を尋ね、5,161人から有効回答を得ています。(女子2,604人、男子2,557人) 
 
 その結果、女子の1.9%、男子の0.2%が、治療が必要な深刻な「摂食障害」と判断されたそうです。 
 
 やせることを目的とした行為を具体的にみていくと、「下剤の使用」が女子1.1%、男子0.7%、「口に手をつっこんで吐いた」が女子1.4%、男子0.9%、「食事を抜いた」が女子3.6%、男子2.6%、「過度の運動をした」が女子6.8%、男子3.8%となっています。(いずれも過去4週以内に2回以上という条件での回答です) 
 
 また、「むちゃな大食いを直近の4週間に8回以上した」女子は3.5%、男子は1.3%だったそうです。 
 
 研究者によりますと、「摂食障害」と判断された女子の特徴として、@夜遅くまで起きている、A家族との食事は楽しくない、B家族から「もう少し痩せたら」と言われる、C気持ちを本当に分かってくれる人は誰もいない、などに当てはまる傾向があるそうです。 
 
************* 
 
 日本の摂食障害者の割合はときどき発表されていますが、1.9%というのは過去最高ではないでしょうか。この研究では中学生が対象とされていますが、私の印象で言えば、増えているのは中学生だけでなく、小学生や30代以降にも目立ちます。つまり、全体の総数が増えると同時に、低年齢化と高年齢化が同時に進行しているのです。 
 
 それにしても摂食障害は本当にむつかしい病だと思います。まず「治さなければならない」と認識してもらうのに時間がかかり、やっと治そうという意識ができて精神科クリニックを紹介しても、「やっぱりダメでした・・・」と言って戻ってくる患者さんがいかに多いか・・・。 
 
 摂食障害が怖いのは「死に至る病」だからです。最善の方法ではないかもしれませんが、小学校低学年のときに、「拒食症や過食症というのはとっても怖い病気なんですよ」ということを教育の現場で教えることが必要ではないかと私は考えています。 
 
(谷口恭) 
 
参考:はやりの病気第38回(2006年10月) 「本当に恐ろしい拒食症」 

2011年3月8日(火)
日本の自殺者、13年連続で3万人超

 3月3日、警察庁は昨年(2010年)1年間の全国での自殺者が、31,690人であったことを公表しました。1998年以来、13年連続で自殺者が3万人を越えたことになります。(注) 
 
 総数は昨年を1,155人下回り、3.5%の減少ということになります。年齢別では、50代が5,959人(前年比8.2%減)と最多で、70歳代(0.1%増)を除く各世代で前年を下回っています。 
 
 自殺の動機をみてみると、まず動機を特定できたのが23,572人。最多が「うつ病などの健康問題」の15,802人となっています。また、「就職失敗」「職場の人間関係」「仕事の失敗」の死者数が、動機別の統計を取り始めた2007年以降で最悪となっています。 
 
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 「うつ病などの健康問題」が生じる理由に、「就職失敗」「職場の人間関係」「仕事の失敗」があることは想像に難くありません。ということは、現在の日本のこれほど悲惨な自殺状況の原因の多くが「労働環境」にあることは間違いなさそうです。 
 
(谷口恭) 
 
参考:医療ニュース2010年1月27日 「日本の自殺者12年連続で3万人超え」 
 
注:厚生労働省のデータでは3万人を割っている年もあります。これは警察庁と厚生労働省で自殺者数のカウントの仕方が異なることが原因です。厚生労働省は、「死亡届」を基に人口動態の統計を取るのに対し、警察庁は、死亡届が出された後に、自殺と判明したケースも「自殺者」に含めます。 

2011年3月4日(金)
加工食品が子供のIQを低下

 脂肪分、糖分の多い加工食品を小児に与えると、知能指数(IQ)の低下をもたらす・・・

 これは、医学誌『Journal of Epidemiology and Community Health』の2011年2月7日号(オンライン版)に掲載された研究結果です。(下記注参照)

 この研究では、1991〜1992年に出生した小児を対象としたイギリスの大規模研究(Avon Longitudinal Study of Parents and Children)のデータを収集し解析を加えています。3、4、7、8.5歳時の子供の食事に関する質問に親が回答し、8.5歳時に知能検査をおこないIQが測定されています。(知能検査には「ウェクスラー小児用知能検査(Wechsler Intelligence Scale for Children)」という方式が採用されています)

 食事の内容については、@脂肪、糖分、インスタント食品の多い「加工食品中心の食事」、A肉、野菜の多い「従来の食事」、B果物、野菜、サラダ、魚介類、米およびパスタの多い「健康を意識した食事」の3つに分類されています。

 その結果、3歳時に「加工食品中心の食事」を摂取していた小児は、「健康を意識した食事」を摂っていた小児に比べて8.5歳時のIQが低いことがわかりました。加工食品の摂取量が1ポイント増加する毎にIQが1.67ポイント低下したのに対し、健康的な食品の摂取量が1ポイント増加する毎にIQが1.2ポイント上昇したとされています。一方、4〜7歳時の食事による影響は認められていません。

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 この研究の結論は、「子供にジャンクフードばかり食べさせると頭のいい子に育たない」ということなのでしょうが、私はこの論文を読んで、最近ミシェル・オバマ大統領夫人が取り組んでいる肥満対策「Let's move」を思い出しました。

 オバマ大統領夫人は、子供の給食に野菜や果物を中心としたものを取り入れることに尽力しているようで、この論文がオバマ夫人の食育運動の味方になるかもしれません。

 この論文はイギリス発、オバマ夫人はアメリカですが、それでもなんとなく、医学と政治がつながっているのでは?と疑いたくなります。しかし、子供たちにジャンクフードではなく、栄養のあるものを食べてもらいたいというのは誰もが感じていることですから、私個人としてはこういった研究がおこなわれることにもオバマ夫人の行動にも賛成です。

 ところで、日本の子供の食事は大丈夫なのでしょうか・・・。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Are dietary patterns in childhood associated with IQ at 8 years of age? 
A population-based cohort study」で、下記URLで概要を読むことができます。


http://jech.bmj.com/content/early/2011/01/21/jech.2010.111955.abstract?sid
=d449b678-a305-458c-a2fc-b38e7b3860d4

2011年2月28日(月)
低所得の高齢者はガンになりやすい?

 高齢者で所得の低い人は、所得が高い人に比べると、ガンで死亡する危険性が2倍高い・・・

 これは日本福祉大学などの研究グループがおこなった調査の結果です。(報道は2月17日の読売新聞)

 報道によりますと、この研究は、愛知県と高知県の65歳以上の高齢者で、要介護認定や、ガン、心疾患、脳血管疾患、呼吸器系疾患の治療を受けていない15,025人を対象としています。調査期間は2008年5月までで、最長4年間になります。調査開始時点にアンケートで得た、所得や教育年数などの情報と、死亡原因の関係性が調べられています。

 その結果、男性高齢者では、所得400万円以上の層に比べ、200万円未満の層では、ガンによる死亡のリスクが1.9倍高くなっています。また、教育年数が13年以上の層に対し、6〜9年の層では、ガンによる死亡リスクは1.46倍高くなっています。(女性のデータについては読売新聞の記事には記載がありませんでした)

 この結果を受けて、研究者らは、「社会経済階層が低いほど、喫煙や過剰な飲酒などガンになりやすい生活習慣を持つ傾向にあり、健康意識が低い人が多い。病院にかかる金銭的な余裕がないことも重症化を招いていると推測される」と話しているそうです。

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 これは低所得がガンにつながるわけではなく、低所得の人は喫煙・過剰飲酒などガンのリスク要因を有していることが多く、また健康への関心が低いことが予想される、ということだと思います。

 低所得→ガン、と短絡的に解釈されてしまうことには問題がありますから、この手の議論をおこなうときには慎重になるべきだと思います。

(谷口恭)

2011年2月21日(月)
リンゴ病がアウトブレイク!

 ほっぺたがまるでリンゴのように赤くなることから名づけられたリンゴ病、正式には伝染性紅斑と言いますが、この感染症が4年ぶりに猛威を振るっています。

 国立感染症研究所の発表によりますと、1月24〜30日の全国約3千ヶ所の小児科定点からの報告が2,008人で、これは昨年(2010年)の同時期と比べて約6倍になります。前回流行したのが2007年ですから4年ぶりということになります。(その前は2002年に流行しました)

 リンゴ病は子供のありふれた病気でたいしたことがないと思われがちですが、実は成人に感染すると重症化することもあります。特に関節痛と高熱が強くなり、数日間寝込まなければならないという場合もあります。特効薬はなく、解熱鎮痛剤を飲む以外に対処方法はありません。
 
 皮膚症状としては、ほっぺたが赤くなる以外に腕や太ももに特有の皮疹がみられます。(これは「レース状」と表現されますが、実際には様々なかたちをとります)

 また、妊婦さんに感染すると流産や早産のリスクが増大することが知られています。

 リンゴ病は通常の風邪と同じように飛沫感染しますから、日頃からうがい・手洗いが重要です。リンゴ病の流行は春から夏にやってきますから、今後しばらくの間充分な注意が必要です。尚、リンゴ病にワクチンはありません。

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 リンゴ病は子供に集団感染し、妊婦さんに感染させてはいけない感染症です。ですから、2番目の子供を妊娠中のお母さんが幼稚園に子供を迎えにいったときに感染、などといったケースには特に注意しなければなりません。

 もしもあなたの周りに妊娠している人がいれば、ただの風邪かな、と思っても充分な注意が必要です。

(谷口恭)

2011年2月16日(水)
米国農務省のガイドラインでも厳しい塩分摂取

 AHA(American Heart Association、米国心臓協会)が発表した行動勧告(call to action)では、1日あたりの塩分摂取は3.81グラム未満とされているという衝撃的なニュースを先日お伝えしましたが、今度は米国農務省(USDA)が「米国人の食生活ガイドライン(Dietary Guidelines for Americans 2010)」を発表しました(注1)。

 そのガイドラインによりますと、1日あたりの塩分摂取量は5.84グラムとなっています(注2)。しかし、51歳以上の男女、すべての黒人、高血圧、糖尿病、慢性腎疾患を有しているすべての年齢の男女は3.81グラム未満とすべき、とされています。年齢、人種、現在のアメリカ人の高血圧などの有病率を勘案すると、全アメリカ人のおよそ半数が3.81グラム未満にしなければならないことになるそうです。

 このガイドラインをざっと通して見てみると、野菜・果物をたくさんとりましょう、砂糖は避けましょう、脂肪の摂り過ぎに注意しましょう、といった常識的に考えて納得しやすいことばかりが書かれていますが、この塩分の厳しい上限値には驚かされます。

 このガイドラインには現在の米国人の平均塩分摂取量が年齢・性別ごとに紹介されているのですが、例えば30代男性でみると、上限であるはずの5.84グラムのほぼ倍量を摂取していることがわかります。また、平均的な米国人は8.64グラム摂取しているとの記載もあります。

 参考までに、日本の厚生労働省が定めている1日あたりの塩分摂取量は男性で9グラム、女性で7.5グラムです。また、日本高血圧学会など生活習慣病に関する学会の多くは6グラム未満を推奨しています。一方、日本人の実際の塩分摂取量は1日あたり11〜12グラムと言われています。

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 結局のところ、アメリカ人も日本人も推奨される塩分のラインを大きく超えて摂取しているのが実情であり、高い目標を掲げること自体は簡単ですが、目標に到達するにはかなりの努力が必要になります。

 健康な食事の代表のように言われている和食は、「塩分」という観点でみればよほど注意して料理しない限りは不合格となります。漬物、味噌、醤油などを普通に摂れば、6グラムなどすぐに超えてしまいます。米国のガイドラインの3.81グラムなど、和食を食べるなら塩分控えめで体にいいとされているメニューを選んだとしても、おそらく1食だけで上限ギリギリくらいになってしまうはずです。

 いったい我々は何を食べればいいのでしょうか・・・。

(谷口恭)

注1:このガイドラインは下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.cnpp.usda.gov/Publications/DietaryGuidelines/2010/PolicyDoc/PolicyDoc.pdf

注2:原文では、ナトリウム2,300mgとなっています。ナトリウムと塩分の換算式は、ナトリウム量(ミリグラム)×2.54÷1000=食塩相当量(グラム)です。(この場合、2,300x2.54÷1,000=5.84となります)

参考:医療ニュース2011年1月23日「米国の塩分摂取基準は1日3.81グラム未満!」

2011年2月14日(月)
新規エイズ患者がまたもや過去最多

 厚生労働省のエイズ動向委員会は2月7日、2010年のHIV新規感染者、エイズ発症者などを発表しました。

 同省によりますと、新たにエイズを発症した患者(HIV感染が発覚したときにすでにエイズを発症していた患者、いわゆる「いきなりエイズ」)が453人で過去最多となります。2008年と2009年はいずれも431人で過去最多でしたが、2010年はさらに増えて記録を塗り替えたというわけです。

 まだエイズを発症していないHIVが新たに判ったケースは1,050人で、2009年の1,021人より増加しています。(2008年は1,126人)

 保健所などでの無料抗体検査を受けた数は130,930件で、2009年は150,252件ですから約13%減っています。2008年は177,156件ですから、2年間でみると実に26%も減少していることになります。

 感染経路は同性愛の性的接触によるものが63%と最多ですが、異性間での感染も少なくはなく、さらに「不明」としているものも目立ちます。また、2010年は4年ぶりに母子感染が2例報告されています。母子感染は適切な対策で防げるはずなのに、です。

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 上記をまとめると、@検査数や相談数が大きく減少、A新規感染者は微増、Bいきなりエイズは過去最多、C4年ぶりに母子感染が発覚、となり、いかに、HIVに対する関心が薄れているかということがわかります。

 実は最近、当院でも2010年にHIV感染が発覚したケースをまとめてみたのですが、なんと新たにHIV感染が判った症例の半数以上が、検査のときに「患者さん自身はまさか自分がHIVに感染しているとは思っていなかった」というケースです。つまり、原因不明の皮疹、リンパ節腫脹、かかっている病気がなかなか治らない、などの理由で、こちらからHIVの検査の必要性を説明し同意を得て検査をおこなったというケースなのです。

 当院では2007年と2008年は、患者さんの方から「HIVの検査をしてください」といって感染が発覚するケースの方が多かったのですが、2009年にはちょうど半数が「患者さんが希望したのではなくこちらから検査をすすめたケース」で、ついに2010年にはこの割合が過半数を超えたというわけです。

 さらに(関心が薄れていることとは無関係かもしれませんが)、HIVに対する誤解・偏見は一向に改善されていません。何らかの理由でHIVの検査をすすめても、「陽性であれば結果を受け入れられない」「検査を受ける決心がつかない」などの理由で、患者さんが拒否するケースも依然として少なくありません。

(谷口恭)

注:厚生労働省の公表した内容は下記のURLで参照できます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000121rr.html

参考:医療ニュース2010年2月17日「検査件数減少で新規HIV感染者も減少」

2011年2月4日(金)
2月3日は「不眠の日」

 2月3日は日本記念日協会が認定する「不眠の日」だそうです。同協会は毎月23日も「不眠の日」に認定しているようで、ということは、今月(2月)は不眠の日が同月に2回もあることになり、なんだかありがたみがないような気がするのですが・・・。 
 
 2011年2月3日、エスエス製薬が「睡眠改善委員会」というウェブサイトを立ち上げました。このサイトでは「かくれ不眠」という言葉が使われており、同サイトによりますと、「慢性的な不眠ではなく、専門的な治療をする必要はないけれど、睡眠に悩みや不満を抱え、日常生活に影響がある」ような不眠のことをいうそうです。 
 
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 「睡眠改善委員会」のURLは、http://www.brainhealth.jp/suimin/ です。 
 
 同サイトには、「かくれ不眠チェックシート」なるものもありますので、関心のある方は一度試してみればいかがでしょうか。 
 
 このサイトはエスエス製薬によるものであり、「かくれ不眠」とは”専門的な治療をする必要はないけれど”とありますから、(穿った見方をすれば)同社の睡眠改善薬「ドリエル」の宣伝ツールなのかな、と感じてしまいますが、そうであったとしても多くの人に睡眠に関心を持ってもらえるのはやはりいいことだと思います。 
 
(谷口恭) 
 
参考: 
はやりの病気2010年10月号 「新しい睡眠薬の登場」 
医療ニュース: 
2008年6月30日 「睡眠不足はダイエットの強敵!」 
2010年4月2日 「睡眠障害の自殺リスクは28倍」 
2010年9月14日 「男性の睡眠不足は短命に・・・」 
2010年11月4日 「睡眠不足は脂肪を蓄積」 

2011年2月4日(金)
1日1万歩で糖尿病のリスクが低下

 毎日1万歩歩けば週5日3千歩歩くより糖尿病のリスクが低下する・・・ 
 
 オーストラリアでウォーキングと糖尿病の関連性についての研究がおこなわれ、このような結果がでたようです。詳細は医学誌『British Medical Journal』2011年1月13日号(オンライン版)に掲載されています(注1参照)。 
 
 この研究では、オーストラリアの成人男女592人が対象とされ、2000年及び2005年に調査がおこなわれています。対象者は調査開始時に健康状態に加え食生活や生活習慣をチェックされ、万歩計が与えられています。 
 
 5年間の経過観察をした結果、1日の歩行数が多ければ多いほど、BMI(注2)もウエスト/ヒップ比も小さく、またインスリン抵抗性(注3)が良好であることがわかりました。これらは、食生活、喫煙、飲酒などの影響を取り除いた後でも同様の結果となっています。 
 
 具体的には、毎日1万歩を歩けば、1日3,000歩を週に5日歩く場合に比べ、インスリン感受性が3倍向上することが算出されたとのことです。 
 
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 1日1万歩と言われてもウォーキングに馴染みのない人にはわかりにくいと思いますので少し解説してみます。 
 
 おおまかに言えば、やや早歩きの状態で1分間に80メートルくらい歩くことになります(分速80メートル、時速なら4.8キロメートル)。歩幅は性別や身長で差が出ますが、だいたい65cmくらいとすると、1分間に123歩歩くことになります。85分間この歩幅・スピードで歩いたとすると10,455歩となりますから、やや早歩きで1万歩歩くにはおよそ85分間のウォーキングをすればいい、ということになります。 
 
 ついでに消費カロリーもみてみましょう。時速4.8キロメートルでウォーキングをすれば消費カロリーはだいたい1分間で3.5Kcal程度になることがわかっています。85分間このスピードでウォーキングを続けると297.5Kcal(≒300Kcal)となります。 
 
 だいたい白いご飯1杯やや軽盛りで300Kcalですから、1日1万歩=85分のウォーキング=ご飯1杯のダイエット=糖尿病予防、と覚えてみてはいかがでしょうか。

(谷口恭) 

注1:この論文のタイトルは、「Association of change in daily step count over five years with insulin 
sensitivity and adiposity: population based cohort study」で、下記のURLで全文を読むことができます。 

 
http://www.bmj.com/content/342/bmj.c7249.full?sid=a40271ba-dc39-4cb4-9172-ae2b9280eacf 
 
注2:BMIはBody Mass Indexの略で、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割って算出します。例えば、体重88キログラム、身長2メートルの人であれば、88÷2の2乗=88÷4=22となります。 
 
注3:インスリン抵抗性とは、わかりやすく言えばインスリンの効きやすさ(効きにくさ)のことです。糖尿病(もしくは糖尿病予備軍)の人は、せっかくインスリンが分泌されても(あるいはインスリンを注射しても)血糖値がなかなか下がってくれません。今回の研究では、しっかり歩けばインスリンがよく効いて血糖値が下がりやすくなる、といっているのです。 

2011年2月2日(水)
夜間の明るい照明が高血圧や糖尿病のリスク

 日没から夜間にかけて明るい人工照明にさらされると、睡眠の質が低下し、高血圧や糖尿病のリスクが増大する・・・ 
 
 これは、米国ブリガム&ウィメンズ病院のJoshua Gooley氏らの研究内容で、医学誌『Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism』の2010年12月30日号(オンライン版)に掲載されています(注参照)。 
 
 研究では、18歳から30歳の健常者116人を、照明が明るい部屋のグループと暗い部屋のグループに分けて、5日連続で就寝前の8時間、各部屋で照明に曝露してもらっています。部屋滞在中は、睡眠に関わる脳内ホルモンであるメラトニンのレベルを30分から60分おきに調べています。 
 
 その結果、明るい部屋のグループでは、暗い部屋のグループに比べ、メラトニン産生時間がおよそ90分も短いことがわかりました。さらに、就寝している時間も明るい照明を曝露した実験では、照明がないときに比べてメラトニンの産生が50%以上抑制されていることがわかりました。 
 
 メラトニンは、脳の松果腺(松果体)で夜間に産生されるホルモンで、睡眠をつかさどり、さらに血圧と体温の調節に関わることが知られています。 
 
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 この研究では、夜間の人工照明がメラトニン産生を低下させることを明らかにしているだけですが、メラトニンの分泌が不十分であれば高血圧や糖尿病のリスクになることが以前から知られています。また、メラトニンの産生低下は、ガン(特に乳ガン)のリスク上昇につながることが指摘されています。 
 
 ということは、夜間、室内灯に長時間さらされるシフト勤務者は、こういった疾患のリスクにさらされているということになるのかもしれません。 
 
(谷口恭) 
 
注:この論文のタイトルは、「Exposure to Room Light before Bedtime Suppresses Melatonin 
Onset and Shortens Melatonin Duration in Humans」で、下記のURLで概要を読むことができます。 

 
http://jcem.endojournals.org/cgi/content/abstract/jc.2010-2098v1?maxtoshow=&hits=
10&RESULTFORMAT=&author1=Joshua+Gooley&searchid=1&FIRSTINDEX=0&sortspec=
relevance&resourcetype=HWCIT
 

2011年1月28日(金)
マイコプラズマが急増!

 全国的にインフルエンザが猛威をふるっているようですが、国立感染症研究所の報告によりますと、マイコプラズマも急増しており、過去10年間で最多となっているようです。

 同研究所によりますと、マイコプラズマ肺炎は昨年(2010年)10月に入ってから報告数が急増し、今年(2011年)1月9日までの15週間で報告数は4,087人となっています。2010年1年間の報告数は10,333件で、いずれも過去10年間の同期比で最多となるようです。

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 まず、上記の「報告数」というのは特定の医療機関からの報告のみです。マイコプラズマの診断が付けば報告しなければならない医療機関(通常は小児科を有する医療機関)があらかじめ決められており、そこからの報告のみとなりますから、実際にマイコプラズマに罹患している人はこの数十倍から百倍以上になると考えられます。

 マイコプラズマは小児に感染すると、肺炎まで進行し入院を要することもしばしばありますが、成人の場合は咽頭炎や気管支炎にとどまることが多く高熱が必ずしもでるわけではありません。

 しかし、長引く咳に苦しめられ、夜間眠れないなど生活に影響がでてくることがありますし、咳により職場で集団感染するようなこともあります。

 マイコプラズマは、肺炎まで進行している可能性を考えれば、レントゲンを撮影しその所見だけで強く疑えることもありますし、血液検査で抗体(IgM抗体)を調べることもできますが精度がそれほど高いわけでなく、いつもいつもそう簡単に診断がつくわけではありません。

 治療については、マクロライド系の抗生物質が奏功することが多いため、マイコプラズマの診断が完全につかなくてもマクロライドを数日間処方することもあります。マクロライドは同じく長引く咳が特徴の百日咳にも効くことが多いので、「細菌性が強く疑われ長引く咳のある上気道炎にはマクロライドを投与すればなんとかなる」という、“荒っぽい”治療でもそれなりに有効なケースが多かったのですが、最近では、マクロライドが効かないマイコプラズマが増えてきており、治療に難渋することもあります。

(谷口恭)

2011年1月23日(日)
米国の塩分摂取基準は1日3.81グラム未満!

 2010年4月に改定された厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」で、塩分の適正摂取量が男性9グラム未満、女性7.5グラム未満と改定されました。これは、従来の日本人の塩分摂取量を考えれば随分と厳しい基準となっています。最近は健康志向が高まり、塩分の摂りすぎに注意する人が増えたとはいえ、それでも現在も日本人の塩分摂取量は11〜13グラムはあると言われています。 
 
 2011年1月13日、AHA(American Heart Association、米国心臓協会)が行動勧告(call to action)を発表しました。その勧告によりますと、ナトリウムの摂取目標は1,500mg未満となっています。これは塩分摂取量で言えば、1日あたりわずか3.81グラム未満ということになります(注1)。 
 
 AHAは2020年までに全米国人の心血管障害や脳卒中による死亡を20%減らすことを目標としています。AHAのガイドラインは、心血管の健康状態を理想状態に保つには、血圧を120/80mmHg未満とし、ナトリウム摂取量を1,500mg/日未満に抑えることが重要としています。 
 
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 食塩摂取量が増えると血圧は上昇し、高血圧が継続すれば、心血管疾患、脳卒中、腎障害などのリスクとなります。しかし、血圧の上昇は食塩摂取量を減少させることで予防することができます。いったん上昇した血圧を高価な降圧剤を服用して下げるよりも、初めから塩分を控えて高血圧を予防すれば、コストをかけずに国民が健康になれる、というのがAHAの考え方です。 
 
 ちなみに、親子丼(並盛)を食べればそれだけで4.2グラムの塩分をとることになります。身体に優しいとされている幕の内弁当でさえも1食で4.2グラムの塩分が含まれています(注2)。ということは、我々日本人は和食を放棄しない限りは、1日あたり3.81グラム未満の塩分などというのは到底実現不可能ではないでしょうか。 
 
(谷口恭) 
 
注1:AHAの論文には塩分ではなくナトリウムの量が記載されています。一方我々日本人はナトリウムよりも塩分で表記する方に馴染みがあるでしょう。ナトリウムと塩分の換算式は、ナトリウム量(ミリグラム)×2.54÷1000=食塩相当量(グラム)です。 
 
注2:どの食品にどの程度の塩分が含まれているかは、いろんなサイトでみることができますが、厚生労働省の下記のサイトがおすすめです。 
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/meal.html 
 
注3:この発表(論文)のタイトルは、The Importance of Population-Wide Sodium 
Reduction as a Means to Prevent Cardiovascular Disease and Stroke: 
A Call to Action From the American Heart Associationで、下記のURLで全文(PDF)を読むことができます。 

http://circ.ahajournals.org/cgi/reprint/CIR.0b013e31820d0793v1?maxtoshow=&hits=10&
RESULTFORMAT=&fulltext=call+to+action&searchid=1&FIRSTINDEX=0&resourcetype=HWCIT 

 
参考:はやりの病気第81回(2010年5月) 「慢性腎臓病と塩分制限」 

2011年1月21日(金)
朝食をしっかり摂れば太る?! 

 ダイエットをしたければ朝食はしっかり摂りましょう、と言われることが多いと思いますが、これに反対する研究結果がドイツの研究者らによって発表されました。 
 
 1日のカロリー摂取量における朝食の比率は減らした方が減量につながる・・・ 
 
 ドイツ・ミュンヘン工科大学のVolker Schusdziarra氏らが結論づけたこの研究は、医学誌『Nutrition Journal』2011年1月17日号(オンライン版)に掲載されました。(注) 
 
 この研究では、現在治療を受けている過体重および肥満者280例(男性75例・女性205例、平均年齢45歳、平均体重108kg、平均BMI36.6)に10日間食事記録をつけてもらい解析を加えています。一方、年齢や性を一致させた標準体重者100人(男性33例・女性67例、平均年齢42歳、平均体重67kg、平均BMI22.5)にも同様の食事記録をつけてもらって比較検討を加えています。 
 
 その結果、朝食カロリー摂取量が増えるほど1日の総カロリー摂取量が有意に増加していることが分かり、この傾向は標準体重者でも同様の結果となったようです。 
  
 研究者は、「朝食の摂取カロリーを抑えることが、日々の摂取カロリーバランスを改善させる簡単な方法となる」、と結論づけています。 
 
 さらに研究者は、NWCR(The National Weight Control Registry、米国国立体重管理室)のデータでは、「減量に成功した78%が定期的に朝食を摂取しているとされているが、残りの22%は朝食を抜いて減量に成功していることから、朝食を摂取することが必ずしも減量に不可欠なわけではないことに注意すべき」、とコメントしています。 
 
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 ダイエットの方法が語られるとき、たしかに「朝食はしっかり摂りましょう」と言われることが多いようです。おそらくこれは、「就寝前の食事は脂肪が蓄積されやすいのだから、同じカロリーを摂るなら活動前の朝食時にすべき」、という考えが前提にあるからです。 
 
 もちろん、この考え方は正しいのですが、夕食を減らす、ということを実践できない人も少なくありません。仕事上の付き合いもあるでしょうし、食べることが好きな人は、慌しい朝ではなく時間のとれる夕食時に好きなものをゆっくりと食べたい、と考えるでしょう。 
 
 今回の研究は、見方を変えれば当たり前のことで、昼食と夕食の摂取カロリーが変わらないなら朝食をたくさん摂ればカロリー過多になるのは当然です。 
 
 私は、夕食がカロリー過多になりやすい患者さんに対しては、「では当日の(もしくは翌日の)朝食と昼食を加減して帳尻を合わせましょう」と助言することがありますが、これは1日もしくは2日全体でみたときの総摂取カロリーを適正にすれば、体重過多になることが防げるからです。(しかし、この方法は<乱暴な方法>であり、例えばすでに高血圧や糖尿病で治療を受けているような人には向きません) 
 
谷口恭 
 
注:この論文のタイトルは、「Impact of breakfast on daily energy intake - an analysis of 
absolute versus relative breakfast calories」で、下記のURLで全文(PDF)を読むことができます。 

 
http://www.nutritionj.com/content/pdf/1475-2891-10-5.pdf 

2011年1月14日(金)
2時間以上のテレビやパソコンは心臓病のリスク

 テレビやコンピュータなどの余暇で1日に2時間以上を過ごすと全死亡と心血管疾患のリスクが大幅に高まる。しかも、そのリスク上昇は運動をしていても変わらない・・・。 
 
 このような研究がロンドン大学より発表されました。(論文は医学誌「Journal of the American College of Cardiology」の2011年1月18日号で発表されています。下記注を参照ください) 
 
 この研究は英国在住の35歳以上の男女4,512人(そのうち男性は1,945人)を対象としており、余暇で画面を見る時間が、2時間未満、2〜4時間、4時間以上の3つのグループに分け、さらに中強度から高強度の身体活動を行っているかどうかも調べています。また、体重や、コレステロールなどの値、喫煙の有無、糖尿病や高血圧などの有無が影響を受けないように調節して解析を加えています。 
 
 調査期間中に死亡したのは325例、心血管疾患(心筋梗塞など)に罹患したのは215例でした。これらを分析した結果、運動の有無には関係なく、画面を見る時間が4時間以上のグループは、2時間未満のグループに比べて全死亡で1.48倍、心血管疾患は2.25倍にもなっていることがわかりました。2〜4時間のグループも2時間未満に比べると有意にリスクが上昇しているようです。 
 
 この結果を踏まえて、研究者らは、心血管疾患予防のためには身体活動の改善に加え、余暇の坐位時間を制限するガイドラインを含んだ推奨を早急に行う必要がある、と提唱しています。 
 
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 運動しているかどうかに関係なく、画面の前に長時間座っているだけで心血管疾患のリスクが上昇するというのは意外なような気もします。運動の効力を過信しすぎてはいけないのでしょう。

 尚、同じような研究結果を過去に紹介したことがあります。その研究でも、運動に関係なく長時間のテレビが寿命を縮めるという結果が導かれています。下記の医療ニュースを参照ください。

 今回紹介した論文で分かりづらいのは、何をもって「余暇」とするかです。原文では、Screen-Based Entertainment Timeとなっていますが、インターネットを使って調べ物をするような時間は「余暇」に含まれるのかどうかが分かりません。例えば、インターネットを使って夏休みに訪れる旅行先の情報を調べるのは「余暇」なのでしょうか。一方、仕事で必要な情報をインターネットで収集するのは余暇ではなく「仕事」だと思いますが、では、「余暇」と「仕事」は厳密にどうやって区別するのでしょう。

 もしも「仕事」でインターネットを閲覧することも心血管疾患のリスクになるとすれば、多くの人が仕事内容を見直さなければならなくなるかもしれません。

谷口恭 

参考: 医療ニュース2010年1月25日「テレビの見すぎが寿命を縮める?」
 
注:この論文のタイトルは、「Screen-Based Entertainment Time, All-Cause Mortality, 
and Cardiovascular Events」で、下記のURLで概要を読むことができます。 

 
http://content.onlinejacc.org/cgi/content/abstract/57/3/292?maxtoshow
=&hits=10&RESULTFORMAT=&fulltext=Emmanuel+Stamatakis&searchid=1&
FIRSTINDEX=0&resourcetype=HWCIT
 

2011年1月9日(日)
飲酒→睡眠→運転はキケン!
 飲酒後に睡眠を取ると、アルコールの吸収や分解が大幅に遅れる・・・。

 これは国立病院機構久里浜アルコール症センターと札幌医科大の共同研究により導かれた結果です。(報道は1月6日の読売新聞)

 報道によりますと、この研究は、札幌医科大で2010年3月、20代の男女計24人を対象におこなわれています。体重1キロ当たり0.75グラムのアルコール(注)を摂取してもらい、直後に4時間の睡眠をとるグループとまったく睡眠をとらないグループにわけて呼気中のアルコール濃度を計測しています。

 その結果、睡眠をとったグループの呼気中アルコール濃度は、睡眠をとらないグループのものに比べ約2倍もあったそうです。これについて研究者らは、「睡眠により、アルコールを吸収する腸の働きと分解する肝臓の活動が弱まった可能性が高い」、と分析しています。

 また、海外の研究では、「アルコール分解後、少なくとも3時間は運転技能が低下する」というものがあるそうです。今回の研究者らは、「飲酒後に、仮眠を取ったから大丈夫、と考えるのは危険。酔いがさめても、すぐには正確な運転ができない」と指摘しています。

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 飲酒後は眠たくなるという人は少なくありません。もしも飲酒後、数時間起きていて、「酔いが覚めたから車で帰ろう」とすると、運転中に眠たくなる可能性があります。一方、今回の研究が示しているように、飲酒後に眠るとアルコールが分解されずに運転技能が低下する、とすると・・・。

 結局のところ、お酒を飲んだ後は、起きていようが寝ようが、充分な時間(半日くらいは必要でしょうか)が経過するまでは運転はすべきでない、ということになります。

注:例えば、体重60キロとすると、60x0.75=45グラムとなり、これはビールであればおよそ1リットル、日本酒であれば1.6合に相当します。

(谷口恭)
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