メディカルエッセイ

9 コエンザイムQ10の弊害 2005/2/11

最近やたらと「コエンザイムQ10」の名前を聞きます。私は、この物質は医学部の2回生の生化学の講義で「ユビキノン」という名前で教わりました。体中のすべての細胞に含まれる補酵素で、加齢とともに減少していくそうです。現在どこの健康食品メーカーも躍起になって販売しており、その謳い文句をみると、「老化を防げる!」「心臓が元気になる!」「絶大な抗酸化作用がある!」「ダイエットにも効果あり!」「美肌にかかせない!」など、少し言いすぎだなと思われる表現も見られます。

 こういう物質はまだまだ解明されていない部分が多いですが、いくつかの調査で有用性が確認されていますから、積極的に摂取したいと考える人は多いでしょう。しかし、最近病院を受診する人のなかで、このコエンザイムQ10を摂取したことが原因の人が少しずつ増えているような印象を受けます。

 それは、コエンザイムQ10を摂取したことが原因で生じる薬剤性肝炎です。特に自覚症状はないのだけれど、健康診断の血液検査で肝臓の数値が高いと言われた、という人を調べてみると、このサプリメントが原因で肝臓を悪くしたという症例があるのです。サプリメントも含めて、どのような薬品を摂取してもアレルギーや、湿疹、そして肝炎などが生じる可能性があります。市場に出回っているサプリメントは数多くありますが、最近特に目立つのがこのコエンザイムQ10です。

 私は、コエンザイムQ10を摂取すべきでない、と言っているわけではありません。ただ、肝炎などのリスクがあるということを充分に理解してから摂取する必要があると言いたいのです。それから販売する側も、販売する際にはこのようなリスクがあるということを必ず伝えてもらいたいのです。

 患者さんに話を聞いていると、特にひどいと思われるのが、一般の薬局に置いてない海外メーカーのものを取り扱っている販売員です。とにかく体にいいからと、積極的(あるいは強引に)購入をすすめている販売員もいるようです。我々医師は患者さんに薬を処方する際、頻度の高い副作用についてはきちんと説明する義務がありますが、サプリメントの販売員はそのようなことを考えないのでしょうか。薬剤ではないといえども、サプリメントは体に有用な作用をもたらす反面、副作用にも注意しなければならないのです。

 あるとき、健康食品の販売をしている人と話をしていたときに、「医学部では栄養学を勉強しないから、医者は栄養学を分かっていない。サプリメントのことなら医者よりも自分達の方がよく知っている」と言われたことがあります。

 これほど大きな誤解もないでしょう。そもそも「医学部では栄養学を勉強しない」などということをどこで聞いたのでしょう。もちろん医学部でも栄養学を勉強します。たしかに「栄養学」という講座はありませんが、生化学や公衆衛生学のなかでしっかりと勉強してテストにも出題されます。コエンザイムQ10にしても「ユビキノン」という名称で習っています。「それだけでは不充分ではないのか」と言われるかもしれませんが、それを言うなら、内科にしても整形外科にしても皮膚科にしても医学部で学ぶ範囲だけでは不充分すぎて、とても実際に患者さんを診察することはできません。

 大学では基本的なことだけを学び、その後は自分で勉強するものなのです。勉強というのは教科書を読むのはもちろんですが、論文を読んだり、学会や研究会に出席したりということもあります。それに医者どうしの会話のなかから新しい知識を得ることも毎日のようにあります。

 私は「医者は健康食品の販売員よりも偉い」と言っているわけではありません。私が知らない最新のデータを健康食品の販売員が知っていることもあるでしょう。しかし、あたかも医者を敵対視するような考えは改めてもらいたいのです。我々医師は、常に健康に関する情報を求めています。ですから、健康食品の販売員の方からも学べることは学びたいですし、逆に学びたいことがあると言われれば喜んで知識をお伝えいたします。

 摂取する側にも問題があります。自分が摂取するサプリメントの基本的な知識はしっかりと持っていなければなりません。「自分にはむつかしすぎる・・・」と思うならば、自分の主治医に相談すべきです。患者さんと話をしていると、正しい知識をもって正確に摂取していると思われる人もいますが、何の知識もなく他人にすすめられたから、という理由でやみくもに摂取している人が少なくありません。これは危険です。
問題だなと思うのは、どうやら患者さんの中には「サプリメントを飲んでいることを医者に言うと怒られる」と考えている人がいるらしく、そういう人はサプリメントを服用していることを医者に隠す傾向にあります。実際、私が診察した、コエンザイムQ10により薬剤性肝炎を発症した患者さんも、そう考えていたらしくてなかなか話してくれませんでした。

 これは非常に危険なことです。この薬剤性肝炎のケースもそうですが、薬とサプリメントを併用することによって生じる危険性も問題です。例えば、セント・ジョーンズ・ワートというサプリメントがあります。これは別名オトギリソウと呼ばれている植物で、抗うつ作用があることから注目されています。実際ドイツでは抗うつ薬として医者が処方しているそうです。

 ところが、この薬草は同時に服用してはならない薬品がいくつかあります。心臓の薬や喘息の薬、それに偏頭痛の薬などで医者が頻繁に処方している薬剤と併用すると、重篤な副作用が出現することがあるのです。このセント・ジョーンズ・ワートというサプリメントは特に海外の健康食品の会社から発売されているものが日本でも出回っているようです。

 先日、ビタミンEに関する有害性が発表されて話題になりました。ビタミンEをたくさん摂取している人は、そうでない人に比べて死亡率が10%も増えることが分かったのです。日本ではビタミンEの1日の上限を1000mgとしていますが、この研究によると、1日に267mg以上摂取している人が危険だと言うのです。一般の薬剤もそうですが、サプリメントなどはまだまだ研究段階で、いったん有用とされたものが後に危険だと分かったということが多々あります。サプリメントを摂取する人も販売する人も常にこういう情報に敏感であらねばなりませんし、摂取によるリスクを背負わなければならないのです。

 サプリメント(健康食品)の摂取を考えている人は、できるだけ医師に相談する必要があると私は考えています。販売員が医者を信用していなかったり、摂取する人が医者に内緒にしたりするのは、医療不信が背景にあるからかもしれません。しかし摂取する人の健康を考えた場合、医師、販売員、患者の三者が協力していく必要があるのは間違いないでしょう。