メディカルエッセイ

58 不可解な医療費 -その1- 2007/12/3

ここのクリニックはどうして医療費が安いのですか?

 これは、患者さんからときどき言われる言葉です。すべての患者さんがこのように感じているわけではないと思いますが、逆に「ここは高いですよ」と言われたことは一度もないので、もしかすると相対的にみて、すてらめいとクリニックでの治療費は安いのかもしれません。

 しかし、これは極めて不思議なことで、医療費というのは保険点数で決められていますから、その決まりを無視して勝手に値段を上げたり下げたりすることはできません。つまり、医療費というのは日本全国どこのクリニックを受診しても同じであるはずです。

 では、なぜ一部の患者さんは、すてらめいとクリニックの治療費を安いと感じているのでしょうか。

 実は、恥ずかしながら私自身がまだ複雑な保険点数のシステムを理解しておらず、日々カルテに保険点数を記載していて、「わかりにくい」「複雑すぎる」と感じることが頻繁にあります。

 クリニックの院長である私がそのように感じているわけですから、一般の患者さんにはこの保険点数というものが複雑怪奇なものにみえるのではないでしょうか。

 今回は、私自身がようやく少しだけ分かりかけてきた保険点数のシステムを、「なぜどこの医療機関を受診しても同じはずの医療費に差が出るのか」という観点からお話したいと思います。

 ひとつめは、すてらめいとクリニックは院内処方をおこなっているという点があげられます。

 患者さんが薬を受け取るには、「院内処方」と「院外処方」があります。院内処方とは、診察の後、そのクリニック内で薬を受け取る方法で、院外処方とは、クリニックでは「院外処方せん」を受け取り、それを持って調剤薬局に行って、その薬局で院外処方せんに書かれた薬を受け取る方法です。

 細かい説明は省略しますが、結論から言えば、患者さんの立場に立てば院内処方の方が安くつきます。

 では、すべての人が院内処方を好むかというと一概には言えません。複数の医療機関を受診している場合、薬の飲み合わせといった問題が発生します。医療機関を複数受診していても自分のかかりつけの薬局を決めておくと、薬の飲み合わせに問題が発生したとしても薬局でそれが分かります。

 かかりつけの薬局なんてもたなくても、医療機関を受診する度に、他の病院で処方されている薬を話せばいいだけじゃないの・・・

 そう感じる人もいるでしょう。その通りで、我々医師は診察の際には、必ず今飲んでいる薬を聞くようにしています。このときにサプリメントや健康食品、市販の薬などについても尋ねるようにしています。

 しかし、かかっている医療機関が極めて多い場合や、飲んでいる薬が大量にある場合はかかりつけの薬局をもった方がラクであると考える人もいるわけで、そのような人たちは院外処方の方が安心できるでしょう。

 現在の日本では、院外処方にすることが推奨されており、これを促進するため医療機関にとっても院内処方よりも院外処方にする方が利益が出るような仕組みになっています。

 これは一般の人からすれば、極めて不可解に感じられるのではないでしょうか。市場経済を考えたときに、その商品を自社で販売するよりも他社に販売させた方が儲かるなどといったことは普通はあり得ないからです。

 このカラクリは、処方せん発行料と薬の差益額にあります。

 まず、院内で調剤する調剤料や処方料に比べて、処方せん発行料の方が価格(保険点数)が高く設定されているのです。しかし、薬そのもので利益が出るのだから、薬をたくさん処方すれば院内処方の方が医療機関は儲かるのではないかという疑問が出てきます。

 しかし、薬の差額(販売額マイナス仕入額)というのは、その薬にもよりますがほとんどありません。なかには、仕入額と販売額が同じものもあります。つまり、その薬をいくら処方しようが医療機関の儲けはゼロなのです。

 したがって、医療機関からみたときには院内処方をやめて院外処方にした方が経営的に安定するのです。

 さらに、薬を処方する際のヒューマンエラーの問題があります。すてらめいとクリニックでも、薬を患者さんにお渡しするまでに、その薬の種類と量に間違いがないかを複数のスタッフが確認しています。これにけっこうな手間と時間がかかります。
 
 また、薬が品切れするようなことがあってはいけませんから、仕入れ業務にも相当な手間と時間がかかります。薬には使用期限がありますから在庫を置くリスクもありますし、薬のスペースを確保しなければなりませんし、定期的な棚卸しも必要になりますから、院内処方で薬を処方するというのはかなりの負担になります。

 低い利益、ヒューマンエラーのリスク、在庫のリスク、仕入れ業務の手間、などを考えると、医療機関にとってみれば院外処方にする方が経営的に有益であると言えるのです。実際、新しく開院するクリニックの大半は院外処方にしているそうです。

 では、すてらめいとクリニックでは、なぜ利益が出ずに手間と時間のかかる院内処方にしているのか・・・。

 実は、すてらめいとクリニックでも、患者さんには、院内処方、院外処方のいずれかを選択してもらうようにしています。しかし、今年1月のオープン以来受診された約3,500人の患者さんで院外処方を選ばれた方はまだひとりもいません。

 つまり、患者さんが院内処方を希望する(あるいは院外処方を希望しない)のがひとつめの理由です。

 次回は、患者さんからみたときの院内処方の利点の続きを述べて、さらに医療機関によって医療費に差がでる理由について考えてみたいと思います。

 つづく・・・