メディカルエッセイ

10 過去問やってますか? 2005/3/2

『偏差値40からの医学部再受験』で、過去問が有用な理由をさんざん述べましたが、これを読まれている受験生の方は、どれくらい過去問に取り組まれたでしょうか。

 先日、過去問の有用性を証明するような記事が新聞に掲載されましたので、今日はそれを紹介いたします。

 2005年2月9日の日経新聞朝刊に、「35問中33問昨年と同じ」という記事が掲載されました。記事によりますと、静岡県の県立高校の国語の試験問題で、35問のうち33問が昨年と同じ問題を出題するミスがあったとのことです。もちろん、こんなことが発覚すれば静岡県教育委員会も放っておくわけにはいきません。国語のみの再試験をおこなうことになるそうです。

 「過去問を中心に勉強した人は、高得点を取れただろうが、結局再試験になるんだから何も得をしてないじゃないか」、そう思われる人もいるでしょう。しかし、私が言いたいのは別のところにあります。

 この高校は今回の出題ミスについて説明をしていますのでそれを紹介しましょう。同校によると、「複数作成した原案の中に前年度の設問が紛れ込んでおり、これらの中から一番完成度が高いものを選んだところ、ミスが起きてしまった」ということです。さらに、試験後に採点した教員が同校のホームページで前年度の出題を確認するまで、ミスに気付かなかったというのです。また、試験問題は同校の教員が作成し、校長らが点検したとのことです。

 つまり、同校のコメントを別の観点からみてみると、「質の高い問題を出題しようと思えば必然的に同じような問題に集中してしまう」ということになります。

 相変わらず、私のところに届く受験生の方々からの質問は、「谷口先生はもともと頭がよかったから、偏差値40でも医学部にいけたんですよ」とか、「暗記だけで医学部に合格できるはずがありません」といった内容のものが多くあります。けれども、そんなこと言う前に、たとえ確信が持てないとしても、一度は赤本の暗記というものをやってみればどうでしょうか。やってみると、それほどたいしたことはないのです。これも何度も言ってますが、過去問の暗記なんて、社会に出てから経験する苦労に比べれば何でもありません。

 それに、私はもともと頭がいいわけでは決してありません。たしかに、ほとんど勉強しなくてもテストだけはいい成績という人がたまにいます。こういう人は、いったん気合いを入れて勉強すると、短期間で難関な大学に合格する人もいるようです。だいたいこの手の人は理科系に多く、英語が苦手で数学が異常によくできるというタイプです。しかし私の場合は、普段からまったく勉強していなかったというわけではなく、実際、勉強すればそれなりに点の取れる英語が最も得意科目(といっても偏差値50から55程度)で、数学や物理はそれなりに勉強しても高くても偏差値40台でした。また、一般的にもともと頭の良い生徒というのは現代国語(古文や漢文は除く)はできるものですが、これも私の場合は、なにしろ現役時のセンター試験の国語が200点満点中68点でしたから、話になりませんでした。特に長文(論説文)は、与えられた文章が、何が書いてあるのかさっぱり分からなかったのです。

 数学にしても、物理にしても(私は医学部受験時は生物に変えましたが)、暗記中心の勉強で医学部程度なら合格できるのです。たしかに国語の場合は多少の時間がかかりますが、さまざまな文章を読むことにより、ある程度は自然に成績が上がっていきます。

 さて、話を少しグローバルな方向に向けてみましょう。先日OECDが、世界各国の15歳の学力の国際比較を発表しました。2000年の成績に比べて、日本は、読解力が世界8位から14位へ、数学的リテラシーは1位から6位へ落ちたということで、マスコミ各社が一斉に、日本人の学力低下が深刻であるといった報道をしました。(ちなみに科学的リテラシーは2000年と同様2位、今回から調査の始まった問題解決能力は4位です。)

 また、日本だけの調査においても、10年前に比べて、各科目とも成績が落ちているそうです。

 しかしながら、マスコミががなりたてるほど、この学力低下というのは本当に嘆かわしい問題なのでしょうか。それに、確かに数字だけを見れば国際比較で落ちているようですが、別の見方をすれば、落ちたといっても読解力で世界14位です。これがサッカーの国際比較で14位なら、多くの人が大喜びするはずです。

 私の意見としては、読解力が世界14位でOK、というものです。人間の能力や国際力というものは読解力だけで決まるものではありません。勉強の好きな人間は勉強すればいいし、スポーツで生計を立てたいなら、勉強はできなくてもかまわないと思います。そもそもこの統計に私が納得できないのは、全15歳児を対象にしているからです。勉強の好きな15歳だけを集めてこの比較をやり直すと、全然違った結果になるかもしれないではないですか。

 10年前に比べて学生の学力が落ちているという意見にしても、私の意見としては、10年前に比べていろんな方向で勝負する若い人達が増えたことは喜ばしいことと考えます。例えば、高校大学で好成績を残す学生が、生涯にわたってやりたい仕事をしているわけでも、高収入を得ているわけでもないことに気づいた人が増えてきています。そういう人達は、早い時期から手に職をつけることに専念したり、大学に行かずに海外へ渡り語学をマスターしたりしています。

 これは私の知人の知人の話ですが、その男性は、中学卒業と同時にオーストラリアに渡り、英語をマスターしました。その後はタイに行って、今度はタイ語を覚えました。今では英語にもタイ語にも不自由しなくなり、タイの日系企業からひっぱりだこです。あまりにもタイ語ができるので、例えば日本の外国語大学でタイ語を勉強した人よりも高収入の仕事をしているのです。おそらくこの人が、学力調査の試験を受ければそれほど高い得点が取れずに、「学力の低い嘆かわしい若者」となるでしょう。しかし彼にしてみればそんなこと、大きなお世話以外のなにものでもないわけです。

 さて、このあたりで今日の話をまとめてみましょう。まず、「勉強したくない人はしなければいい」ということを確認したいと思います。嫌いなことをイヤイヤやって、いいことがあるはずがありません。本人も周囲も不幸になるだけです。だから、これを読まれている人のなかにも、なんとなく医学部に行きたいけど本当は勉強が嫌いという人は、今すぐ医学部受験を中止して、ほかのことを見つけましょう。

 「何がやりたいか分からない」という意見もよく聞きますが、実はそういうときこそがチャンスなのです。あまり興味がなくても、いろんな仕事やアルバイトや、場合によってはボランティアなんかも試してみてはどうでしょうか。いろんなことをしていると価値観が変わったり、視野が広がったりして、思いもしなかったことに興味を持てるようになることも多々ありますから。

 次に勉強が好きな人、特に医学や医療に興味のある方は、現在の成績に関係なく、医学部を目指しましょう。私のように高校時代に偏差値40でも、国語の点数が200点満点の68点でも、過去問の暗記中心の勉強法で充分に合格できるわけですから。

 ただし、くどいようですが、本当に興味があるのかどうかは確認しておきましょう。よく、「医学には興味があるけど勉強は嫌い」という人がいますが、これはダメです。この人が医学に興味があると言っているのは「嘘」です。こういう人は、医者というイメージに憧れているだけであって、医学に本当に興味を持っているわけではありません。一応言っておくと、医者というのは、医学部受験時よりも医学部に入ってからの勉強の方がずっと大変ですし、医学部在学中の勉強よりも医者になってからしなければならない勉強量の方がずっと多いわけですから。

 けれども、本当に医学や医療に興味のある人が医者になれば、これほど幸せなこともありません。日々好きな勉強ができて、勉強したことが直接仕事に役立つわけですから。