はやりの病気

第104回 のどの痛み ~前編~ 2012/4/20

のどが痛くて困っています、のどの痛みが引かないんです、と言って受診される患者さんは少なくありません。今回はこの「のど」の痛みの原因をみていきたいと思います。

 まず「のど」の定義ですが、ここでは広い範囲の「のど」を想定します。広い範囲の「のど」、何を言っているのか分かりにくいかもしれませんが、「のど」というのは医学的な用語ではなく、我々医療者は「のど」を咽頭と喉頭にわけて考えています。しかしここでは咽頭も喉頭も「のど」とします。さらに、ここでは扁桃(昔は「扁桃腺」と呼ばれていましたが、この組織は「腺」ではないために最近では「扁桃」と呼ばれるのが普通です)も「のど」に含めたいと思います。また、もう少し範囲を広げて首の周りのリンパ節や甲状腺までも含めて「のど」としたいと思います。

 さて、医師がのどの痛みを訴える患者さんを診たときに、まず考えるのはそれが感染症によるものなのか感染症でないものなのか、ということです。感染症でないのどの痛みは後で述べるとして、先に感染症としてののどの痛みをみていきましょう。

 感染症の原因となる病原体は、ウイルス、細菌、真菌にわけることができます。このなかで一番多いのはウイルスで次いで細菌です。真菌は少数です。

 ところで、患者さんの要望に応えることができずにしばしば問題となるのが「のどが痛いから抗生物質をください」というリクエストです。

 基本的なことをおさらいしておくと、抗生物質というのは細菌に対して有効なものであり、ウイルスや真菌に対しては無効であるばかりでなく副作用のリスクを背負うことになりますから有害となることもあるわけです(注1)。

 では、細菌感染とウイルス感染の比率はどの程度かと言うと、これは大規模調査などがないために断定はできませんし、小規模の研究はないことはないのですが、結果は様々です。細菌性のものが過半数を超える、とするものもあれば、1割程度とするものもあります。太融寺町谷口医院の患者さんで言えば、だいたい2~3割くらいは細菌性、残りはウイルス性、真菌性は月に1例くらいです。

 ここで出てくる疑問は、では「細菌性かウイルス性かをどうやって見分けるの?」というもので、実はこれは大変むつかしい問題です。プロカルシトニンという値を血液検査で測定して細菌感染の有無の参考にするという方法はたしかにあるのですが(注2)、結果がすぐに出ないことと高価なことからあまり現実的ではありません。のどが痛いという症例では、たいがいはすぐに治療を開始すべきですから時間のかかる検査結果を待つ余裕はないのです。

 細菌性かウイルス性かを自覚症状からある程度推測することは可能です。例えば、咳がなく、鼻づまりもなく、片側の痛みで、扁桃に白苔が付着しているような場合は細菌性である可能性が高いといえます。一般的に高熱は細菌性と言われていますが、これは必ずしも正しくありません。百日咳は細菌性ですが成人に感染した場合さほど熱は出ないのが普通ですし、高齢者の細菌感染では平熱であることも珍しくありません。

 細菌性かウイルス性かをもっとも迅速に低価格でおこなう方法は、喀痰もしくは咽頭スワブ(のどを綿棒でぬぐったもの)をスライドガラスにひいて特殊な染色(通常はグラム染色という方法を用います)をおこない、それを顕微鏡で観察する、というものです。

 誰ののどにもある程度の細菌はいますから(これを常在菌とよびます)、細菌の像が観察されるだけでは異常ではありません。観察するときに最も注意するのは白血球(炎症細胞)がどれだけ観察されるか、ということです。細菌感染の場合、通常は好中球と呼ばれる白血球が細胞を食べている(これを貪食(どんしょく)といいます)ところが観察されます。好中球の数が多ければそれだけ「炎症が強い」と考えられ、その好中球に食べられている細菌の像が、円形なのか棒状なのか、また何色に染まっているのか、で、だいたいの細菌の種類の見当をつけることができます。そして予想される細菌によく効くと考えられる抗生物質を選択することになります。

 細菌が原因の咽頭炎で注意すべきもののひとつに溶連菌があります。溶連菌の場合、他の細菌と比較して抗生物質を比較的長期(1週間から10日くらい)使わなければ完治しないことがあります。グラム染色だけで溶連菌感染を確定するのは困難なため、疑われれば15分くらいで結果がでる迅速キットを用います。

 細菌が原因だったとしても風邪は風邪で重症化しない、と思っている人がいるとするとそれは誤りです。急性喉頭蓋炎といって、のどの下の方が腫れあがり空気が通らなくなり、突然呼吸困難をきたすことがあるのです。インフルエンザ桿菌(後で述べるインフルエンザウイルスとはまったく異なるものです)が原因のことが多いと言われていますが、先に紹介した溶連菌でもおこりえます。呼吸困難に移行することが疑われれば直ちに救急車で入院できる病院に行ってもらうことになりますし、救急車のなかで(あるいはクリニックで)気道確保をしなければならないこともないわけではありません。

 ウイルス感染の場合は、顕微鏡の検査で白血球はあまり観察されないのが普通です。ですから、風邪症状を強く訴えられても、のどの顕微鏡上の炎症所見がさほど強くなければ、細菌性ではないと考え、抗生物質は処方しません。(ただし、感染初期にはそれほど白血球が集まってこないこともあり注意深い経過観察が必要になることもあります)

 ウイルスといっても様々なものがありますが、たいていは軽症で済むために、なんという名前のウイルスがいるかということは通常は調べません。咽頭炎を引き起こすウイルスには、代表的なものがライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、などです。子供の夏風邪として有名なヘルパンギーナはコクサッキーウイルスが原因であることが多く、手足口病の原因はコクサッキーウイルス以外にエンテロウイルスのこともあります。

 ウイルスが原因ののどの痛みで見逃してはいけないものの代表はインフルエンザウイルスです。インフルエンザに関しては、早期診断が大切ですから、上に挙げた他のウイルスとは異なり、疑われれば直ちに迅速検査(15分くらいで結果がでます)をおこなうことになります。(ただし感染直後は正確な結果がでないこともあります)

 インフルエンザウイルス以外で見逃してはいけないウイルスにEBウイルスがあります。これはのどが痛いだけでなく、肝機能障害をおこすために倦怠感が強くなり、また首の後ろのリンパ節が腫れることが多いという特徴があります。EBウイルスが原因のときに一部の抗生物質を使うと全身に発疹がでることがあります。こういうこともあるために、のどが痛いというだけで抗生物質を安易に使うようなことは止めなければならないのです。EBウイルスに比べると頻度は低下しますが、サイトメガロウイルスも同様に肝機能が悪化し似たような症状となります。EBウイルスのときもサイトメガロウイルスのときも2~4週程度の入院となることが多いといえます。

 B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの初期症状の場合も、のどが痛くなり通常の風邪と似たような症状をとります。ただしこれらはあまり高熱にならず38度を超えることはほとんどありません。肝機能が悪化しますから倦怠感が強くなります。これらは通院で様子をみることもありますが、極端に肝機能が悪化している場合は入院となります。

 HIVの急性感染でものどの痛みが起こることがあり、当院でも、「風邪でのどが痛いんです」といって受診されたケースでHIVが発見された症例が数例あります。HIVの場合は、B/C型肝炎ウイルスに比べて、高熱がでることが多く、また皮疹が出ることも多いのですが、なかには37度台で皮疹もまったくなかった、という人もいます。このようなHIV急性感染の場合は、まだ抗体が形成されておらず、保健所などでおこなっている抗体検査では正確な結果がでないために、遺伝子検査(NAT、PCR)をおこなう必要があります。

つづく・・・。


注1:では、細菌性以外の咽頭炎に抗生物質がまったく無効かと言われれば、実はそうでもありません。抗生物質の主目的は「細菌をやっつける」ことですが、それ以外にも「炎症を抑える」ことができる抗生物質もあります。例えば、クラリスロマイシンなどのマクロライド系の抗生物質にはこの作用があり、そのため例えばインフルエンザウイルスによる上気道炎に対して内服すると症状が緩和されることがあります。しかし、このような目的は抗生剤の使用を不必要に増やすことにつながりますから安易に使うべきではありません。

注2:プロカルシトニン以外の血液検査で分かる項目としては、白血球の総数、好中球・リンパ球の割合、C反応性蛋白(CRP)、血沈(ESR)などがあり、これらは比較的短時間で結果がでますが、プロカルシトニンに比べれば、細菌性かウイルス性かの鑑別にそれほど有用なわけではありません。