はやりの病気

第117回(2013年5月) 便秘を治す(後編)

 前回は便を柔らかくするタイプの便秘薬について述べました。今回は、腸管を刺激するタイプの薬についてまずは説明していきます。

 一般的に薬局で購入されることが多い腸管刺激薬として「ビサコジル」というものがあります。商品名でいえば、「コーラック」が一番有名でしょうか。(ただし、後述するように「コーラックソフト」は他の成分でできています。その他別の種類のコーラックもあります) 他には、ビューラック、スルーラックなども主成分はこのビサコジルです。

 私の印象でいえば、ビサコジルは使い始めたときはいいのですが、そのうち次第に効かなくなっていくことがしばしばあります。すると、もちろん添付文書では許可されていませんが、自分の判断でどんどん量を増やしていく人がいます。ひどい人になってくると、1日に30錠以上飲んでいる、ということもあります。

 効かないだけならまだいいのですが、一部の腸管にのみ効くことがあります。すると、その先で通過障害が起こり、それでもその手前の腸は動かされますから、これが腹痛を起こすのです。腸管を刺激するタイプの便秘薬で最も注意すべきなのはこの腹痛であり、これが最も起こりやすい腸管刺激薬がビサコジルであるという印象が私にはあります。尚、医薬品としてもビサコジルは座薬のタイプならありますが、あまり広く使われていません。

 薬局で購入できる腸管刺激剤では「センナ」も有名です。センナ茶なるものも出回っているようで、私の印象で言えばビサコジルよりはマイルドです。医療機関でも従来からよく処方されています(注1)。前回述べた酸化マグネシウムとセンナの組み合わせは、多くの医師が用いている処方です。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)でも、この組み合わせの処方をしばしばおこないます。

 センナというのは南アジアや中東でよく育つマメ科の植物で、そのためなのか、身体にやさしい、というイメージが流布しています。センナとは別の植物の根茎を基原としたものに「大黄(ダイオウ)」があり、こちらは漢方薬のひとつの成分として有名です。薬局で買える漢方系の便秘薬の大半はこの大黄が主成分です。

 医療機関で便秘に処方される漢方薬の定番は、大黄甘草湯、大承気湯、麻子仁丸、桃核承気湯、防風通聖散...、などで、これらも大黄が主成分のひとつです。では、これら複数の漢方薬はどのように使い分けるべきか。便秘以外の症状も考慮し、必要に応じて舌や脈、おなかのはりかたなどを東洋医学的な観点から診察し決定します。

 例えば、谷口医院を受診される便秘の患者さんは若い女性が多く、便秘だけでなく、のぼせ、頭痛、めまい、不眠、不安などの症状を訴えることがしばしばあります。このような症例に、月経不順や月経困難が伴っていれば「桃核承気湯」が第一選択薬となることが多いといえます。

 腸管を刺激する薬剤としてもうひとつ有名なものがあります。それは「ピコスルファートナトリウム水和物」というもので、医療機関で処方される商品名でいえば「ラキソベロン」が一番有名でしょう。(他にもありますし、後発品も多数発売されています) ピコスルファートナトリウム水和物は、他の腸管刺激剤に比べると、副作用の腹痛が起こりにくいという特徴があります(私の印象ですが)。

 これまでみてきた他の腸管刺激薬は、効果がないからといって量を増やせば、けっこうな確率で腹痛が生じます。特にビサコジルでは顕著です。一方、ピコスルファートナトリウム水和物の場合は、量を増やすと、効果は期待できて副作用は起こりにくいのです。実際、大腸ファイバー(大腸の内視鏡)の前には、通常の内服量の10倍に相当する量を飲んでもらうことがありますし、便秘がひどい人の場合はさらに増やすこともあります。しかし腹痛は、まったくとは言いませんが、それほど起こらないのです。ですから、どうしても便を出したいときには、思い切って10倍量を飲むというのはひとつの方法です。(自己判断でおこなうのは危険です)

 ピコスルファートナトリウム水和物は医療機関でよく処方されますが、現在は薬局でもほぼ同じもの(スイッチOTC)が処方箋なしで購入できます。製品名でいえば、「コーラックソフト」(先に述べたように従来の「コーラック」とはまったく別のものです)、「ピコラックス」、「ソフィットピュア」などが相当します。

 さて、ここまで述べてきたのは「便を柔らかくする薬」と「腸管を刺激する薬」です。では、これら「2本立て」で便秘は解決するのか、と問われれば、実はまったくそうではありません。(今回のコラムでは重要なことを後回しにして話をすすめています)

 では、これら2系統の薬よりも大切なものとは何か。ですが、その前にこれまで述べてこなかった薬について説明します。そして、実は「2系統の薬」より、こちらの方が重要です。

 その薬とは「プロバイオティクス(整腸剤)」です。便秘というのは、急性の一時的な疾患ではありません。長期的な観点から(というよりは生涯にわたり)考えていかなければなりません。そういう視点でみたときに最重要の薬剤がプロバイオティクスなのです。プロバイオティクスは、腸内環境を整えて、腸の機能向上や下痢・便秘などの症状を解消するもの、とされていますが、もっと簡単に言えば「腸内に生息している善玉菌を増やしてくれる薬」です。「薬」とも呼ぶべきでないかもしれません。私は患者さんに説明するときは「良質のヨーグルトを錠剤にしたようなもの」と言うこともあります。

 ではプロバイオティクスは一生飲まなければならないのか、という質問がきそうですが、そんなことはありません。替わりになる食べ物を積極的に摂ればいいのです。もしもあなたの便秘が成人になってからのものであり幼少時にはなかったとすれば、子供の頃に食べていて今は食べていないものを考えてみてください。そこに、漬物や味噌汁はないでしょうか。発酵食品がプロバイオティクスの替わりになるのです。和食でいえば、漬物や味噌汁の他に納豆などもあてはまります。洋食でいえば、ヨーグルトやヤクルトなどです。成人してからの便秘であれば、子供の頃のなつかしい食べ物を食事に取り入れてみてはどうでしょう。(ただし和食の摂り過ぎは塩分過多に要注意です)

 便秘解消の食べ物としてよく取り上げられるのが「食物繊維」です。食物繊維は確かに重要ですが、実際には「ゴボウを多量に食べて余計におなかがはった」という人もいます。これは「食物繊維のバランス」に問題のある可能性があります。食物繊維には水溶性と不溶性があり、これらをバランスよく取らなければなりません。栄養学的には水溶性と不溶性の比率を重要視するのですが、実際にそこまで考えて食事をとるのは大変です。不足がちになるのは水溶性の方で、水溶性の食物繊維として比較的摂りやすいのがコンニャクと海藻です。ゴボウやサツマイモといった「いかにも食物繊維」にみえるのは不溶性です。

 さて、最後に、私が最も主張したい最強の便秘解消法について話したいと思います。(今回は最も言いたい大切なことを最後までとっておいたのです)

 それは「運動」です。谷口医院を定期的に受診している人からは「聞き飽きた」と言われるかもしれませんが、運動は「万病の予防法」であり便秘もその例外ではありません。もしもあなたが、成人してから、特に、高校を卒業してから便秘が始まった、というのであれば運動量が減っていないでしょうか。中学高校と部活(運動部)をしていてその後運動習慣がなくなってから便秘が始まったという人は非常に多いのです。それに、本格的に運動をしている人、特にプロのスポーツ選手で便秘に悩んでいる人はほとんどいません。

 どんな運動がいいのかといえば、最も重要なのが「継続しておこなえる運動」です。気が向いたときだけプールに行くとか、春と秋の登山を恒例としている、などで便秘が解消されるわけではありません。「継続しておこなえる」を前提として、有酸素運動と腹筋運動を組み合わせるのがおすすめです。有酸素運動でいえば、体力に自信のない高齢者などではウォーキングでもいいと思いますが、可能であれば、ジョギング、ランニング、水泳などを無理のない範囲でされることをすすめます。運動が苦手でウォーキングしかできない、という人も、最後の100メートルか200メートルくらいは、ラストスパートとして息が切れるくらいに飛ばしてみましょう。こうすることにより腸の動きが活発になります。

 腹筋もできる範囲でかまいません。一番いいのは古典的な腹筋運動(クランチ)にひねりを加えたものですが、腰痛がある方は、アイソメトリックな筋トレ(腹筋に負荷をかけて身体を固定させる筋トレ。V字腹筋やプランクなど)でもOKです。

 ストレッチも効果的ですが、それ以上にすすめたいのが自分でおこなうマッサージです。入浴時に腸管のかたちをイメージしてゆっくりとおなかに圧力をかけてマッサージをおこなうのがいいでしょう。リラックスしておこなうのが最大のコツです。今回はほとんど述べていませんが、おなかを動かすのは副交感神経の働きで、副交感神経はリラックスしたときに活動してくれるからです。

 最後に便秘をまとめておきましょう。

    1、便秘の大半は「純粋な便秘」だが、なかには他の疾患により便秘が生じていることもある。特に重要なのが、大腸ガン、甲状腺機能低下症、糖尿病、パーキンソン病、などである。

    2、過敏性腸症候群により便秘が生じることもある。

    3、便秘薬は「便を柔らかくする薬」と「腸管を刺激する薬」にわけて考えると理解しやすい。

    4、「便を柔らかくする薬」は酸化マグネシウムが最もよく使われる。新薬の「アミティーザ」は今後期待される薬剤。

    5、「腸管を刺激する薬」には、ビサコジル、センナ、大黄、ピコスルファートナトリウム水和物などがある。製品によっては一時的に大量に飲んでもらうこともあるが自己判断での増量は危険。

    6、便秘以外に症状のある場合は漢方薬が有効であることも多い。

   7、プロバイオティクス( 整腸剤)は有効である。発酵食品を積極的に摂ることも推薦される。

    8、食物繊維は内容にも注意を。ゴボウやサツマイモなど(不溶性)だけでなくコンニャクや海藻(水溶性)も積極的に。

    9、「運動」は最強の便秘解消法。できれば有酸素運動は息が切れるまでおこなう。腹筋はひねりを加えたクランチがベストだが、アイソメトリックなものでもOK。

    10、マッサージも有用。入浴時にリラックスした状態でおこなうのがコツ。


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注1:医療機関で処方されるものの代表を商品名で記しておくと、アジャストA、ヨーデル、アローゼン、センノサイド、プルゼニド、などです。(これらはいずれも先発品で、後発品も多数あります)