マンスリーレポート

2005年10月号 2005/09/30

 まずは、私、谷口恭の9月の活動を報告したいと思います。

 9月3日には、大阪の羽衣学園という高校で、「タイのエイズ事情」というタイトルで約1時間の講演をおこなってきました。この内容で講演をおこなうと、最後まで一生懸命に聞いてくれる方が大勢おられるのですが、いつも感じることがあります。

 それは、「HIVに感染しないためには予防が大切」ということは伝わるのですが、「HIV陽性の人やエイズの患者さんに対して差別的な意識をもつのはおかしい」ということがどこまで伝わっているのかが疑問であるということです。というのも、講演の後、質疑応答をおこなうと、「エイズの深刻さが分かりました」という意見は多いのですが、「これからはHIV陽性の人達と仲良くやっていきたいです」というコメントがほとんど聞かれないのです。

 私は、講演のなかで、タイのHIV感染ルートは、タトゥー、ドラッグ、セックスが多いという話をおこないます。もちろん、無防備にこのようなことをおこなうことに対する危険性を認識していただけるのは大変ありがたいのですが、私が最も主張したいことは、これらは誰もがおこなってしまう可能性のあるものであり、たった一度の過ちで社会から疎外されるのはおかしい、ということです。

 現在では、エイズは「死に至る病」ではなく、適切な治療を受けることによって発症を防ぐことのできる、いわば「慢性疾患」のひとつであるわけです。他の慢性疾患が差別の対象になることはないのに、なぜエイズだけがおかしな目で見られることになるのか、これははなはだおかしいわけです。

 私に言わせれば、他の慢性疾患、例えば長年のカロリーの摂り過ぎと運動不足から発症した糖尿病や、何十年にもわたる喫煙から発症した肺癌の方が、よほど本人に責任があるのです。それに対し、エイズというのはただ一度の誤った行動のみでも起こりうるわけです。しかもエイズの発症年齢は、他の慢性疾患に比べるとずっと若いのです。

 さて、9月は執筆作業にずいぶんと時間を費やしました。

 ひとつめは、来年初頭に発売される『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ(仮)』という本で、文芸社から出版されます。これは、タイトルどおり、私が体験したタイのエイズ事情を写真をまじえて紹介し、日本での症例も紹介し、合わせて性感染症についても述べたものです。スティグマや差別、タトゥー、ドラッグ、セックス、ボランティア、セックスワーカー(とその恋人)などにも言及し、医学的な本というよりはむしろ社会的な考察にページを割いています。この原稿を書き始めたのは、今年の初頭ですから、出版までにおよそ1年の月日を費やしたということになります。

 ふたつめは、現在発売中の『医学部6年間の真実』(エール出版社)の改訂版です。

 研修医制度が大きく変わり、現在の状況が初版のときと比べて随分と異なっているために、そのあたりを大幅に書き換えました。こちらは年末までには書店に並ぶと思われます。

 もうひとつ、新たに本を出版することになりました。

 私の処女作である『偏差値40からの医学部再受験』(エール出版社)は改訂3版を発行することになりましたが、発行を重ねるにつれて、批判を多くいただくようになりました。もっとも多い批判が、「抽象的な話が多くて、具体的に何をすれば医学部に合格できるのか分からない」というものです。

 私は、もともと具体的な勉強法でなく、もっと根源的なものに触れた受験のことを伝えたいという気持ちから、自分でホームページを立ち上げて、それが結果として出版につながったわけであり、もともと具体的な勉強のテクニックを紹介するつもりはありませんでした。

 ところが、私の思惑とは逆に、「根源的な勉強についての話を聞けば聞くほど具体的なテクニックも同時に伝授してほしくなる」という意見が後を絶たないのです。

 そこで、読者からのご批判に応えるかたちで、『偏差値40からの医学部再受験テクニック編(仮)』という本を出版することになりました。

 この本では、文字通り受験のテクニックを伝授しています。過去問の具体的な解き方、参考書・問題集の使い方、模試の活用、科目別勉強法、その他細部に至るまで具体的なテクニックを紹介しています。実際に、医学部受験を考えられている方の参考になれば幸いです。

 この本の出版日はまだ未定ですが、おそらく年末か年始になると思われます。

 臨床のことをお話ししましょう。

 今年の2月から9月まで、私は整形外科領域におけるプライマリケアを学ぶために、尼崎の「さくらいクリニック」に、週に一度研修に行っていましたが、9月で終了となりました。

 10月からは、大学病院の総合診療科のなかで、婦人科の研修を受ける予定です。婦人科は、以前勤務していた星ヶ丘厚生年金病院で、3ヶ月の間、週に一度外来の研修を受けていましたが、それだけではまだまだ心許ないために、もう一度じっくりと勉強しようと考えたわけです。

 研修ですから、もちろん無給ではありますが、ただ(無料)で勉強させていただけるわけですから、やはり私は恵まれた環境にいるようです。

 日本の9月での最大のイベントは衆議院選挙であったように思います。

 投票率は67%にも及び、私が選挙権を得てからの期間では、もっとも盛り上がった選挙ではなかったかと思います。BBCやCNNでも、連日日本の選挙活動の模様が報道され、小泉首相やライブドアの社長の演説やインタビューが、世界中の人々の注目を集めていたようです。

 私は、特定の政党を支持しているわけではありませんが、かといってまったくのノンポリ(最近この言葉をあまり耳にしませんね。ノンポリとは政治に無関心という意味です。)でもありません。選挙は行ったり行かなかったりで、あまり良き国民ではないかもしれません。(ただ選挙に行かないときは投票したい政党がないという意思表明ではあるのですが・・・)

 なぜ、医療に関係のない選挙の話を持ち出したかと言うと、公務員のあり方に疑問を感じるからであります。私は「小さい政府」に賛成であるのですが、それ以前に、公務員とは「全体の奉仕者」であるべきだと考えています。この「全体の奉仕者」という表現は、マスコミからは聞いたことがありませんが、高校の(おそらく中学でも)教科書にも載っている、公務員の定義のようなものです。

 「全体の奉仕者」であるはずの公務員が、モノを生産したりサービスを供給したりしている民間の会社員や自営業者の方々よりも高給であるのはおかしいと思うのですが、なぜかそういう議論はあまり出ません。

 そして、私がもうひとつ疑問に感じているのは、なぜ医師の給与が、一般の会社員の方々よりも高いことが多いのかということです。

 社会をプロ野球チームに例えると、医師はチームドクターに、フロントは公務員にあたると思います。そしてグランドに立つ選手が会社員や自営業者の方々となります。会社員や自営業者の方々が、頑張って利益を上げないことには国が成り立たないのと同様、プロ野球チームでも選手が頑張って相手チームを倒さない限りは、ファンもスポンサーもつかずにチームがつぶれてしまいます。

 プロ野球チームで、もっとも高収入であるべきなのは誰でしょうか。もちろん、4番バッターであったり、先発ピッチャーであるべきです。4番バッターの年収が1億円で、チームドクターやフロントが年収800万円であれば誰もが納得できるでしょうが、これが逆であってはおかしいですし、そんなチームは成立しません。

 同じように一般社会でも、素晴らしいモノやサービスを供給する会社員や自営業者が高収入を得るべきであって、公務員や医師の年収が高すぎるのはおかしいわけです。なぜなら、医師や公務員というのは、会社員や自営業者の方々が汗水流して働いた結果、上げることのできた利益の一部から収入を得ているからです。

 私も会社員の経験がありますが、毎月給与明細を見る度に、高すぎる税金と保険料に疑問を感じていました。その高すぎる税金と保険料から公務員や医師は収入を得ているのです。公務員や医師の収入が、会社員や自営業者の方々よりも高いのはおかしいわけです。

 私は今回の選挙は投票に行きましたが、もしも「政治家も含めて公務員の給料の大幅削減」というのをマニフェストに入れる政党があれば、その政党に投票したいと思います。