マンスリーレポート

2005年8月号 2005/08/02

 8月になりました。(といっても、これを書いているのはまだ7月半ばを過ぎたところです。今回は7月下旬からタイに渡航するため、原稿を早めに書いているというわけです。)

 私にとって、7月の最大の出来事と言えば、1日から5日まで神戸で開催されたICAAP(アジア太平洋国際エイズ会議)でした。この会議のことも含めて、AIDSのことは、「はやりの病気」の7月15日号と8月1日号で紹介していますので、ぜひともそちらもご覧いただきたいのですが、このマンスリーレポートでも、ICAAPのことを述べたいと思います。

 ICAAPは、他の医学の学会と異なり、医師以外の大勢の方々が参加されていました。どのような人たちかというと、NPO法人の方や、HIV/AIDSに関連するボランティアをされている人、ILOやユニセフなど国際機関の方、同性愛者やその擁護者の方、(元)ドラッグユーザーやその研究者、セックスワーカーやその擁護者の方、社会学や他の学問を研究されている方などです。

 私は、そういった普段は接することのない方々とお話させていただき、多くのことを学ぶことができました。また、国際学会だから当然だとはいうものの、何人かの外国人の方とも仲良くなることができました。

 5月に京都で開催されたWONCA(国際家庭医学会)も国際会議で、こちらにも大勢の外国人が来られていましたが、参加者のほとんどが医師でしたから、ICAAPのように医師以外の方と知り合うことはありませんでした。

 ICAAPでは思わぬ再会がありました。私が昨年の夏、タイのパバナプ寺でボランティアをしているときに、同じように日本からボランティアに来ていた人たちと再会したのです! これは驚いたと同時に、すごく嬉しく思いました。

 私は普段多くの医療従事者と接していますが、エイズに興味のある医師や看護師というのはそれほど多くいません。最近では私自身が接する、新たにHIV感染が分かった人も増えてきていますし、もちろん日本全体でも急速に患者数が増加してきています。

 にもかかわらず、関心のある医療従事者は非常に少ないのです。

 そんななかで、エイズという問題に関心を持ち続けている方がおられるというのは非常に嬉しいことなのです。

 ICAAPは、参加するのにおよそ4万円の費用が必要でした。私は働いていますから、4万円という金額は払えないことはありませんが、昨年パバナプ寺で出会い、今回ICAAPで再会した人のなかには、学生の方もおられます。彼ら彼女らは、もちろん自費でタイに行き、無償でボランティアをおこない(しかも私よりも長期間で)、そして、ICAAPには4万円という大金を自分で支払って参加しているのです。なかには東京から来られている人もいて、彼ら彼女らには、交通費と宿泊費もかかっているのです。

 医療従事者ではない方々が、そんなにもエイズという問題について一生懸命でおられるということが、私にはとても嬉しいのです。 

 また、再会した人ではなく、今回始めて知り合った人たちのなかにも、エイズという問題に真剣に取り組み、奉仕の精神を発揮されている方が大勢おられました。そして、そのなかの大半の方は、どこからも報酬がでるわけではなく、いわばボランティアとして活動されているのです。

 そういった方々と、新しく、あるいは再び出会えたことが、私が今回ICAAPに参加して得られた、もっとも大きな収穫であったと感じています。

 私はこれから、そういった医師以外の方々とも、何らかのかたちで一緒に仕事がしたいと考えています。「奉仕の精神」をもつ人と、共に何かをやり遂げることは、「感動」につながりますし、私自身が刺激を受け、鼓舞されるからです。

 さて、7月28日から8月3日まで、タイ国に渡航いたします。今回は期間が短いことから、かなりのハードスケジュールになります。この短期間で、ロッブリーの「パバナプ寺」に行き、チェンマイの「バーン・サバイ」に行き、さらに、今回はチェンマイにあるハンセン病の患者さんが収容されている施設の見学もしたいと考えています。

 また、バンコクでは、タイの大学で公衆衛生学を学んでいる学生と会う予定をしています。この学生とは、日タイの共同研究について検討する予定です。共同研究は、もちろんエイズに関連するものですが、これまでにないオリジナリティのある研究をしたいと考えています。

 そんなわけで、かなりのハードスケジュールになってしまいます。考えてみれば、4月以降は、丸一日休めた日がありません。ずっと働きづくしです。できればタイで丸一日の休息をとりたいなと考えていたのですが、どうやらそれは無理なようです。

 けれども、私にとってタイは大好きな国ですから、タイに行くこと自体が休息になるというふうに考えようと思います。

 実際、バンコクのドンムアン空港のゲートを出たときに感じられる、あの乾いた熱気と、ケンタッキーの油の匂い、それに飛び交うタイ語を聞けば、それだけでいつも私はあの国の魅力にやられてしまいます。

 タクシーに乗って市街地に入れば、近代的な高層ビルと、その裏側にある昔ながらの屋台や露店が同時に視界に飛び込んできます。ファッショナブルな街行く人々の笑顔がその光景をエキサイティングなものにします。タクシーを降りれば、屋台から漂う香草の香りが鼻をくすぐり、アスファルトにだらしなく寝そべった犬をよけて歩く頃には、すっかりタイという国の居心地のよさに馴染んでいるのです。

 というわけで、タイ国渡航については、次回のマンスリーレポートで報告いたします。