マンスリーレポート

2008年6月号 風邪をひいてしまいました

 すてらめいとクリニックを始めてから、病気らしい病気はしていなかったのですが、先日ついに風邪をひいてしまいました・・・。

 医師という仕事をしている以上は、いつも感染症のリスクはあります。採血や手術(最近はほとんどしていませんが・・・)のときには血液感染のリスクがありますし、咳やくしゃみをしている患者さんからは飛沫感染のリスクがあります。特に子供ののどをみるときなどは大粒の唾液が自分の顔にかかることもあって、いつも予防に気をつけていなければなりません。私は、咳やくしゃみをしている患者さんを診察したときは、次の患者さんの診察にうつる前にうがいをするようにしています。もちろん、一日の診察が終わったときにも手洗い・うがいはおこなっています。

 けれども、先日はついに風邪をひいてしまいました。

 いつもは、少し寒気がする、少しのどに違和感がある、などといった風邪の初期症状のときには葛根湯を少し多めに飲むようにしています。これまでの経験で少々の風邪ならこの方法ですぐに治ることが分かっているからです。一方で、私は風邪薬というものは市販のものも含めてあまり飲みません。いわゆる「風邪薬」というものは、熱をさましたり、くしゃみや鼻水をおさえたりする成分をよせあつめたもので、風邪のそれぞれの症状を和らげることはできますが根本的に治すものではないからです。

 今回も少しのどが痛くて寒気があったので葛根湯を飲んで様子をみることにしました。

 ところが、です。喉の痛みはどんどん激しくなって身体の奥底から悪寒がでてきて体温まで上がってきました。しかし、この段階ではウイルス性の感冒だろうと思って、少量のアセトアミノフェン(風邪薬の主成分として使われることの多い解熱成分、海外では「パラセタモール」として薬局でも買えるものです)と、トラネキサム酸(最近は美白作用があるとのことで美容領域で使われることが多い薬ですが、のどの痛みにもよく効きます)を飲んで様子をみることにしました。実際、たいがいの風邪ならこの方法で症状がおさまります。

 しかし、私の症状は一向に改善しません。のどの痛みもどんどん強くなってきたので、「これはおかしい・・・」と思って、綿棒で自分ののどをぬぐって、それをスライドガラスにこすりつけ、特殊な染色液で染めてのどの様子を顕微鏡で観察してみました。

 すると、好中球(白血球の一種で一般的には細菌感染の際に増える)が大量に見つかり、さらにその好中球がとらえている細菌が多数見つかったのです。(これを好中球の貪食(どんしょく)作用と呼びます。簡単に言えば「好中球が悪い細菌を食べている」様子です)

 好中球の貪食作用が確認されたということは、私の風邪はウイルス感染ではなく、細菌感染であると言えます。病名で言えば「細菌性急性咽頭炎」ということになります。

 こうなれば抗生物質の出番です。私は院内に置いてある抗生物質を内服し、さらに別の抗生物質を看護師に頼んで点滴してもらいました。

 抗生物質の点滴まですればすぐに治るだろう・・・。

 このように考えたのですが、実際は抗生物質の投与を開始してから熱が下がるまでに丸二日もかかってしまいました。

 患者さんをみていると、若い人であれば細菌性の急性咽頭炎や扁桃炎の場合、抗生物質の点滴をおこなうと、半日くらいで嘘のように改善することがあります。当然、私の場合もすぐに治るだろうと期待していたのですが、丸々二日もかかってしまったのです。私はもう若くないということなのかもしれません・・・。

 さて、私は数年に一度このように高熱をだして寝込むことがあるのですが(といっても、クリニックを閉めるわけにもいかないので診療は続けていました)、高熱でダウンするといつも「健康のありがたみ」を実感することになります。

 当たり前のことですが、人間にとって何よりも大切なことは健康でいることです。いくらやりがいのある仕事をしていても、守るべき大切な人がいたとしても、あるいはたくさんのお金があったとしても、健康を害していればそれらのありがたみを実感することはできません。

 夜間高熱にうなされながら、ここしばらくの自分の生活のことを考えてみました。今年に入ってから、すてらめいとクリニック以外の勤務は月に2~3度に抑えており、睡眠時間は以前よりも取るようにしていましたが、事務的な仕事や学会発表などの準備に追われ、いつも期限を気にしながら仕事を続けていたため、「いつも追い込まれているような感覚」に囚われていたような気がします。けど、しなければならないことは山ほどあって、どれも手を抜くわけにはいかなくて、それに仕事が多いのはほとんどの日本人は同じでしょうし・・・、というわけで生活を抜本的に改めるような名案は思いつきませんでした・・・。

 今回風邪をひいて高熱でダウンして、とてもよかったことがあります。

 それはクリニックのスタッフのありがたみを再認識できたということです。スタッフ全員が私に気をつかってくれて、休憩時間に診察台で休んでいる私に毛布をかけてくれたり、飲み物を運んできてくれたり、なかには休日にクリニックにでてきて点滴をしてくれたスタッフもいました。(高熱があっても私は休日には事務作業をしなければならないのです)

 健康のありがたみを確認できて、スタッフのありがたみを実感できた私は、今ではほとんど治癒しており、軽い咳と痰を残すのみとなっています。

 今日は日曜日でクリニックは休みですが、これから来週の研究会で発表予定の資料(パワーポイント)をつくります。風邪が治ったからといってゆっくりしている暇はなさそうです・・・