マンスリーレポート

2009年10月号 休日が与えてくれる感動

世間ではシルバーウィークと呼ばれている連休の間、私はNPO法人GINA(ジーナ)の関係でタイに出張に行っていました。いくつかの施設と関係者に会うことを目的とした出張でしたが、バンコク滞在の最終日には、急きょ会合がキャンセルとなり、突然何もすることがなくなってしまいました。

 会合がキャンセルとなったことは前日の夜に分かっていたため、その日起きたときには一日のスケジュールがまったく白紙の状態でした。

 今日は何もすることがない・・・。このような感覚がどれくらい久しぶりなのか、ちょっと検討もつきません。日本にいれば、クリニックの休診日にも一度はクリニックに行きますし、メールやFAXをチェックするのが普通です。

 しかし、その日はバンコクにいるわけです。ホテルの部屋にはインターネットに接続しているノートパソコンもありますが、私はあえてメールを見ないことにしました。そしてホテルの朝食を取るため1階のレストランに行くことにしました。

 今回の滞在はバンコクの同じホテルに4泊で、朝食がついているプランで申し込んでいたのですが、その前日までは朝早くから出かけていたためホテルでの朝食は一度もとっていませんでした。予定がなくなった日に初めて朝食がとれることになったというわけです。

 ホテルの1階にあるレストランに行き驚いたことはその美しさです。しかもテーブルは屋外にもあり、美しく手入れされたガーデンで朝食をとることができるのです。まるでバンコクではなくプーケットやサムイ島の高級ホテルのようです。このホテルはバンコクのオフィス街にありますが、喧騒な区域からは少し離れたところに位置しており、このレストランにいるとリゾート地に来ているような感覚に捉われます。

 実は、普段ならこのような高級ホテルには泊まらないのですが、世界同時不況の影響でバンコクのホテルも軒並みキャンペーン価格が出されており、私がとったホテルも通常価格の半値以下、日本円にして5千円程度だったのです。

 私はそのガーデンで朝食をとり部屋に戻りました。パソコンは見ないことにして、スーツケースから日本から持ってきていた本を3冊取り出して、バルコニーに出ました。さすが高級ホテルです。バルコニーも大変広く、テーブルとデッキチェアーが置かれています。ホテルの8階から見える風景はビルが多いのですが、南西の方を向けば大きな公園が見えます。私は、顔をあげれば公園の見える角度にデッキチェアーを置いて読書にふけることにしました。

 心地よい風のおかげで暑くはありません。本を読んだり、考えに耽ったり、あるいは少しうたた寝をしたりして、ゆっくりと時が流れるのを楽しみました。

 ふと気がつくと時計の針は午後1時を回っています。けれどもそれほどおなかがすいているわけではありません。私は散歩にでかけることにしました。周囲はオフィス街ですから、散歩がそれほど楽しいわけではないのですが、ここはタイですから屋台がたくさんあります。私は、オレンジジュースとマンゴー、スイカ、ザボンの3種類のフルーツを屋台で買ってホテルに戻りました。

 南国のフルーツを食べながら心地よい風にふかれて読書に浸る・・・。私にとってこれほど気持ちいいことも他に思いつきません。(季節がらドリアンがなかったのが残念でしたが・・・)

 このような雰囲気に身をおけば、普段は繁忙さから考えもつかないことにも思いを巡らせることができます。今回の出張でも、エイズを患っている人やそんな人たちをケアしている人たちと話をする機会が多かったのですが、私はふと、自分が日本でクリニックを開業していなかったら今頃何をしているだろうか、ということを考えました。もしかしたら、この国に来て他の外国人たちと一緒にエイズ患者のケアに専念していたかもしれない・・・。だとすると今頃はどこに住んでいるのだろうか、チェンマイ、パヤオ、ロッブリー、・・・。

 そんなことを考えているうちに、現実と夢が頭の中で交叉しあい、いつの間にか眠りに落ちていました。

 肌寒さで目覚めると時計の針は午後6時を少し回っていました。公園に目をやると大きな夕日が沈もうとしています。タイの夕日は本当にきれいです。田舎の方に行くともっときれいなのですが、日頃夕日など見ることのできない環境にいる私にしてみるとバンコクの夕日でも充分にきれいです。夕日を見ているだけで何だか幸せな気分になってくるから不思議です。

 空腹を感じた私は、夕食をとりにいくことにしました。このあたりのオフィス街は、日本人と何度か食事を一緒にしたことがありますし、少し遠くまで歩けば日本人街として有名なタニヤにも行けます。しかし私は、日本人や外国人が大勢集まるところを避け、現地の人が昔から生活している路地裏のようなところで食堂を探しました。

 私が入った食堂は、食堂というよりも、ガラクタのようなテーブルが4つほど置かれている倉庫といった感じで、決してきれいとは言えないところです。しかし、こういうところの方が美味しい料理がでてくることをこれまでの経験から知っています。(外れることもありますが・・・)

 その食堂は、バンコクでは珍しく魚介類が豊富に使われる南タイ料理が中心で、予想通り大変美味でした。カキのソテー、大きな海の魚(おそらくスズキ)のチリスープ煮(正式名は知りません)、イカと野菜の激辛炒め(これも正式名は分かりません)などをおなかいっぱい食べ、大満足でホテルに帰りました。

 翌朝は帰国ですから午前5時に起きて空港に行かなければなりません。ということは、その日の朝にリッチな気分でとることのできた朝食は、翌朝は食べる時間がないことになります。少し残念な気持ちを感じながら大きなベッドに横たわりました。

 ベッドの上で、この日一日がとても平和で幸せであったことを思い返してみました。たしかに、感動というのは人と人が触れ合うときにおこります。私はこの国でも、エイズという病を通して、いくつもの感動をこれまで体験してきました。

 けれども、誰とも接することをせずに誰とも話さないこんな日を体験することもまた、感動をもたらせてくれるんだということが分かったような気がしました。

 この次このような日を体験できるのはいつになるんだろう・・・。このような日をまた味わうことを目標に日本に帰ってからまた頑張ろう・・・。そんなことを考えながら私は目を閉じました。

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2019/09/13

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