マンスリーレポート

2009年4月号 クリニックでの研修

現在の私は、医療法人太融寺町谷口医院の院長という立場で、いわゆる「開業医」ということになりますが、大学の医局(大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター)のメンバーでもあります。

 その医局での私の立場(役割)は「非常勤講師」です。一般的に「講師」と言えば、教室で学生に対して講義をおこなう、というイメージがあると思いますが、現在の私は講義をおこなっているわけではなく、大学に行くのは研究会や他の医局行事などで1~2ヶ月に一度程度です。

 では、「非常勤講師」として私が担っている仕事は何なのかというと、主に研修医の指導です。それも、大学や大学病院での指導ではなく、太融寺町谷口医院での指導というかたちになります。

 では、太融寺町谷口医院でどのように研修医を指導しているかというと、主に私が診察しているところを研修医に見学してもらっています。余裕があれば、私に代わって診察してもらうことを検討してもいいのですが、クリニックの忙しい外来ではなかなかそのような時間がとれません。大学病院や大きな病院でなら、指導医の元で研修医が診察をおこなうという方式で研修できるのですが、スピードを求められるクリニックではそうはいかないのです。

 太融寺町谷口医院では、昨年は民間病院の後期研修医を1人、1日受け入れただけでしたが、今年の1月から3月までは、大学病院の研修医が週に一度研修に来ていました。

 その研修医にとって太融寺町谷口医院での研修がどれだけ役に立ったかは分かりませんが、私個人としてはクリニックでの研修というものは大変有意義であると感じています。

 というのも、私自身が医師1年目の頃から5年目まで、クリニックでの研修や見学を積極的におこない、その効果を実感しているからです。

 私は、1年目は大学病院で研修を受けていました。時期によっては土曜日に時間があくことがあったために、私は当時研修を受けていた皮膚科の教授にお願いして、地域に密着して皮膚科診療をされている開業医の先生を紹介してもらいました。そして、土曜日はできるだけこの開業医の先生のところに研修(見学)に行くようにしていました。

 実際にクリニックに見学に行ってみて得たものは予想以上のものでした。まず大学病院とは異なり、患者さんの数が多いためたくさんの症例を経験できます。クリニック(診療所)というところは、大病院に比べて、医師と患者さんの距離が近いんだなぁ、というのをこのときに初めて感じました。

 2年目は大学病院を離れ、別の総合病院で研修を受けることになりましたが、このときは土日も夜間もなく、その病院を離れることがほとんどできなくなりました。(私が入っていた寮は病院の敷地内にありました) そのため、1年目の大学病院時代のようにクリニックに見学に行くことはできなくなりました。(しかしこの1年間で大変多くのことを学ぶことができました)

 3年目に入った私は、タイのエイズホスピスにボランティアに行くことになっていましたが、タイに行くまでにある程度の研修をしておく必要がありました。ところが私は研修医の2年間でHIV・エイズの患者さんを1人も診察したことがありませんでした。また、性感染症の患者さんも、皮膚科の研修で重症のヘルペスを数例と、産婦人科の研修でやはり重症の尖圭コンジローマを数例みたことがあるだけです。クラミジアに関しては、婦人科で数例みましたが、結果がでるまでに1週間もかかるような検査法をとっていたため(大病院では仕方がないですが・・・)、あまり現実的な診療とは言えません。(クラミジアなどのように一刻も早く治したい感染症は検査結果もすぐに判るようにすべきです)

 そこで私は、やはり性感染症を中心に診ているクリニック(大阪市北区の大国診療所です)に研修に行かせてもらいました。3ヶ月間、ほぼ毎日研修をさせてもらいましたが、このときの体験は本当に貴重なものでした。HIVや梅毒は珍しくはありませんが、ありふれているわけでもありません。(研修医の2年間で私はHIVの患者さんをひとりも診察できなかったくらいですから・・・) 

 こういった疾患の患者さんは大病院にはあまり来ませんから、診療所での研修が大変有用なのです。HIVは大病院で治療することが多いのですが、感染が発見される多くのケースはクリニックです。梅毒は発見されるのも治療されるのも大病院ではなくクリニックであることがほとんどです。この3ヶ月間で私は何例ものHIVや梅毒といった感染症を経験することができました。研修はもちろん無給ですが、逆に授業料を払ってもいいくらいの経験ができたというわけです。

 タイから帰国した私は、大学の総合診療センターに籍を置き、週に1~2回は大学での外来での研修を受け、それ以外はできる限りクリニックで研修をさせてもらうことにしました。内科、皮膚科、整形外科、アレルギー科などを中心に、複数の診療所で勉強させてもらいました。これらはすべて無給で、私は大学でも(外来を担当するようになってからも)無給の立場でしたから、生活はそれなりにしんどかったのですが、かなり多くのことを学ぶことができたと感じています。(生活費は、夜間や日曜日に救急病院などでアルバイトをしてしのいでいました)

 振り返ってみると、私は病棟でみっちりと研修を受けたのは研修医の2年間のみで、それ以降は外来中心のトレーニングを積み、現在も(開業していますから)外来がほとんどです。(ときどき入院を前提で患者さんを病院に紹介してその病院に患者さんをみにいくことがありますがそれほど多いわけではありません)

 病棟勤務も外来勤務も両方こなせて一人前の医者となるのかもしれませんが、私は医師3年目のときに外来中心の医療を選択したことになります。(タイのエイズホスピスでの勤務は"病棟"中心でしたが・・・)

 そういうわけで、私はこれまで様々なクリニックで研修させてもらったことに大変感謝していますし、大病院では学ぶことのできないクリニックならではの研修の有用性について実感しています。ですから、まだまだ現在の日本では、病院ではなくクリニックでの研修に力を入れている若い医師は少ないですし、そういったシステムもあまり存在しないのですが、今後クリニックでの研修を希望する医師が増えてくれればいいな、と感じています。

 医師にも生活はありますから、私がとったような無給で研修するという方法はあまり賢いやり方とは言えませんが、それでも研修医の2年間の間は、研修医の給与は確保された上で、地域のクリニックに見学に行けるようなシステムが少しずつできてきています。(上に述べた太融寺町谷口医院に3ヶ月来ていた研修医もそのような方式でした)

 外来には外来の魅力があります。その反対に、病棟や大病院でしか体験できない魅力というものもあります。どちらの"魅力"を選択するかは各医師にゆだねられているわけですが、現在の教育・研修システムでは外来の魅力をあまり実感できないのではないかと思われます。

 このウェブサイトを見てくれている若い研修医がおられるなら、今一度クリニックでの研修について考えてもらえれば嬉しいです。

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2018/09/25

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