マンスリーレポート

2012年4月号  セルフ・メディケーションのすすめ~花粉症編~

 どこの病院に行っても長時間待たされる・・・、医師不足は一向に解消されていないではないか・・・。これは多くの患者さんたちが感じていることだと思います。

 2009年8月31日の選挙で民主党が掲げたマニフェストには「医師の数を1.5倍にします」とはっきりと明記されています。民主党はこの選挙で政権与党となったわけですが、医学部の定員は少しずつ増やされてはいるものの、医学部新設となると案は出されても煮えつまらない議論が繰り返されるだけ、といった感じです。最近は、医師の数を1.5倍、などという言葉自体をすっかり聞かなくなりました。もっとも、医学部新設が現実化したとしても、実際に臨床をおこなえる医師が増えるのにはその後何年もかかるわけですが。

 いくら不景気になろうが、少子高齢化社会が進行しようが、病気が減るわけではありません。むしろ超高齢化と呼ばれる社会に突入すれば医療の需要は今後さらに増加するのは間違いありません。

 病気で困っているけれど病院に行く時間がない、というのは働く世代の多くの人が感じていることでしょう。やっと時間をみつけて医療機関を受診すると、今度は長時間待たされて、診察時間はほんの数分・・・。これが現実でしょう。長い待ち時間と短い診察時間を不満に思い医療機関に苦情を言う人がいますが、医療者の立場からすれば、患者さんを待たせたいと思っている者はいませんし、患者さんの不安がなくなるまでじっくりと話を聞きたいと誰もが思っているわけです。しかし、限られた時間のなかで大勢の患者さんを診なければならない、となると、どうしても診察時間を最小限におさえる努力をしなければならないのです。

 病気を治したいけれども医療機関で長時間待つことはできない、という問題を解決するひとつの方法がセルフ・メディケーションではないか、と私は考えています。つまり、その病気が軽症であれば、日頃から予防につとめ、医療機関を受診するのではなく、薬が必要であれば薬局で薬を買って対処するのです。自分で薬を選ぶことなんてできない・・・、と感じる人がいるかもしれませんが、薬局には薬剤師がいますから、まずは相談してみればいいのです。

 セルフ・メディケーションに取り組みやすい疾患のひとつに「花粉症」があります。

 もちろん花粉症といえども、重症化している場合は薬局ではなく医療機関に行くべきですし、他のアレルギー疾患、例えばアトピー性皮膚炎や気管支喘息が合併している場合も医療機関を受診すべきです。なぜならアトピー性皮膚炎や気管支喘息の治療薬と花粉症の治療薬は重なることが多く、これらはひとつの医療機関で総合的に治療するのが最も効率がいいからです。また、薬の飲み合わせには細心の注意が必要ですから、何か他の病気ですでに医療機関にかかっている人は、まずその主治医に花粉症の相談をすべきです。

 けれども、他に何の病気にもかかっておらず、花粉症以外の症状のない健康な人で、かつその花粉症が軽症であれば、必ずしも医療機関を受診しなくてもいいのではないか、と私は考えています。そのように考えるようになった理由は、眠くならない(なりにくい)抗ヒスタミン薬が、ついに発売になったからです。

 2011年10月、エスエス製薬株式会社は、従来は医療機関だけで処方されていた「アレジオン」(一般名はエピナスチン塩酸塩)という抗ヒスタミン薬を「アレジオン10」という商品名で薬局での発売を開始しました(注1)。花粉症の治療の第1選択薬は抗ヒスタミン薬ですが、古いタイプの抗ヒスタミン薬は眠くなったり、だるくなったり、集中力にかけたり、といった副作用が出るのが難点でした。このため、働いている人や学生・受験生にとっては大変使いにくいものです。医療機関では、眠くならないタイプの抗ヒスタミン薬を処方しますから、このタイプの薬を入手するために薬局ではなく医療機関を受診するという人が多いのです。

 しかし、これはよく考えてみると不思議な話で、副作用の出やすいものが薬局で簡単に買える一方で、副作用が出にくい安全なものは医療機関を受診しないと入手できないのです。ですから、我々医療従事者は、より安全なタイプの抗ヒスタミン薬が医師の処方箋なしに薬局で購入できるようになることを望んでいたわけです(注2)。

 さて、ではアレジオン10が薬局で「自由に」買えることになったことで軽症の花粉症の患者さんが手放しで喜べるかというと、実はそうでもありません。その理由は「価格」です。私はアレジオン10が発売となったと聞いて、これで花粉症は軽症なら医療機関を受診する必要がなくなるか、と思ったのですが、価格をみて唖然としてしまいました。

 アレジオン10の価格は、6錠で1280円、12錠で1980円(1錠165円)もするのです。花粉症が12日で終わるとも思えませんから、何箱かを買わなくてはなりません。2ヶ月間(60日)飲み続けるとすると、1980円x5箱=9,900円もします。

 一方、医療機関で処方される「アレジオン」の10mgは薬価が109.5円ですから、3割負担で1錠32.85円です。ただし医療機関での処方の場合、薬代以外に診察代や処方代もかかりますから単純に比較することはできません。しかし、実際の金銭負担は何倍にも(場合によっては10倍以上も)違ってきます。この内訳を説明したいと思います。

 まず、程度にもよりますが、アレジオン10mgで完全に症状がとれるという人はそれほど多くなく、太融寺町谷口医院を受診する患者さんでみてみると、少なくとも20mgが必要になることが多いといえます。さらにそれを1日2錠(合計1日あたり40mg)内服してもらうことも珍しくありません。そうなるとコストがかさむではないかと思われますが、実はアレジオンにはすぐれた後発品がたくさんあります。例えば太融寺町谷口医院で処方しているアレジオンの後発品は20mgで薬価が49.9円(3割負担で14.97円)です。もしも薬局で処方箋なしで買えるアレジオン10で同じ量(1日あたり40mg)をまかなうとすると、60日分でみれば、医療機関で処方される後発品なら1,796.4円(14.97円 x 2 x 60日)なのに対し、アレジオン10なら39,600円(165円 x 4 x 60日)となります。医療機関受診の場合、診察代や処方代がかかりますが、初診であったとしてもこれらはせいぜい1,000円程度です。つまり、「医療機関受診+アレジオンの後発品1日40mgで60日分」なら2,800円程度なのに対し、「アレジオン10で同じ量を購入」だと39,600円、実に14倍以上の開きとなります(注3)

 エスエス製薬がアレジオンを市販で発売することを決定したのは画期的なことであり高く評価されるべきだと思います。しかし価格が高すぎます。医療機関で処方されているアレジオン10mgの薬価は109.5円ですから、ここだけをみても高すぎます。花粉症のセルフ・メディケーションが普及するかどうかは、アレジオン10の値下げ、さらに後発品(ジェネリック薬品)のメーカーが積極的に市販化できるかが鍵を握っていると言えます。アレジオンの後発品を販売しているメーカーは約20社あります。この20社がいずれも市販薬の販売を開始し、さらに市場原理が働けば価格が大きく下がることになるでしょう。

 また、アレジオン以外の先発品のメーカーも市販化を検討すべきです。アレジオンよりもさらに眠くなりにくい「アレグラ」や「クラリチン」も、海外ではすでに薬局で処方箋無しで購入することができます(注5)。このため、海外出張によく行く人のなかには、現地の薬局で買える分だけ買って帰るという人もいます。

 日本の製薬会社はもっと医薬品の市販化(OTC化)に積極的になるべきだと思います。少なくとも海外では市販されているような薬品については議論を進めるべきです。医療機関は待ち時間が長いから受診したくない、という人は少なくありません。市販化できればこういった人たちの需要に応えることができて会社の増益にもつながりますし、セルフ・メディケーションが進むことにより医師不足が緩和されるかもしれないのです。

 話を花粉症に再び戻します。ごく軽症な場合、例えば天気のいい日に長時間外出したときだけ鼻水が少しでる程度、つまり抗ヒスタミン薬を必要なときだけ飲んで対処できる程度の花粉症という人は、一度アレジオン10を検討してみはどうでしょうか。まずは近くの薬局の薬剤師に相談してみてください(注4)。


注1 医療機関で処方される「アレジオン」はエスエス製薬ではなくベーリンガーインゲルハイムから発売されています。そのアレジオンには10mgと20mgがありますが、エスエス製薬が薬局で発売しているアレジオン(アレジオン10)は10mgだけです。このため軽症の人をのぞけばアレジオン10だけで花粉症のセルフ・メディケーションをおこなうのは現実的でないかもしれません。詳しくは本文を参照ください。

注2 より安全なものには処方箋が必要で、副作用のでやすいものが薬局で処方箋なしで買える薬剤の他の例として「鎮痛剤」があります。胃への副作用などが比較的おこりやすい鎮痛剤が薬局で(しかも簡単に!)買えるためその弊害が出ている一方で、副作用の起こりにくい比較的新しい鎮痛剤は処方箋が必要なのです。(下記メディカルエッセイも参照ください) 尚、眠くなりにくいタイプの抗ヒスタミン薬が薬局で買えるようになったことをすべての医療者が歓迎しているかというとそうとも言い切れないようです。実際、エスエス製薬の「アレジオン10」の発売に反対する声も一部の医療者から上がったそうです。

注3 この試算は話を簡略化するためのものであり、実際はいくつか注意が必要です。まず、市販のアレジオン10で改善しなければ医療機関を受診すべきであり、自己判断で20mgに増やすべきではありませんし、まして1日40mgなどにしてはいけません。また、本文の例では医療機関を初診で受診しアレジオンの後発品1日40mgを60日処方ということにしていますが、初診で40mgを処方することは通常ありませんし、初診で60日も処方することもありません。しかし再診の場合はありえます。例えば、例年アレジオンの後発品1日40mgで安定している人が受診した場合、再診扱いで40mgを60日処方することはあります。この場合、初診代でなく再診代となりますからさらに安くなり総費用が2,350円となります。(市販のアレジオン10で同じ量を入手するには16.85倍(!)のコストがかかることになります)

注4 本文では述べていませんが、花粉症には薬が必要になることもありますが、花粉を近づけないようにするための対策をとることでかなりの予防ができますし薬を使うことよりも重要です。詳しくは 「花粉症対策2012」 を参照ください。


注5(2012年12月付記) その後「アレグラ」は2012年11月に「アレグラFX」という名称で市販薬として発売されました。

参考:メディカルエッセイ第97回(2011年2月) 「鎮痛剤を上手に使う方法」

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2018/09/25

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