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2013年3月29日(金) やはり減塩で死亡者が減少

 2011年頃、塩分制限はおこなう必要がないとする論文がいくつか発表され世界中で話題となりました。このような研究結果が発表されたからといって、直ちに世界中の医師が塩分制限を撤回したかといえば、もちろんそのようなことはなく、おそらくほとんどの医師が従来通りの減塩の必要性を訴えていると思われます。

 減塩をおこなえば今後10年間で米国人を50万人も救うことができる・・・

 これは医学誌『Hypertension』2013年2月11日号(オンライン版)(注1)で発表された研究です。

 この研究では、3種類の減塩のシナリオが設定され、コンピュータを用いて解析がおこなわれています。シナリオAは「今後10年間で40%の減塩を段階的におこなう」、シナリオBは「40%の減塩を直ちにおこない国民平均ナトリウム摂取を2,200mg/日(5.6g/日)(注2)とし10年間維持する」、シナリオCは「直ちに国民平均ナトリウム摂取を1,500mg/日(3.8g/日)とし10年間維持する」とされています。

 解析の結果、どのシナリオを採用したとしても死亡者を大きく減らすことができることがわかりました。最も緩やかなシナリオAでさえ、その次の10年間で28万人から50万人もの命を救うことができるとされています。

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 ちなみにアメリカ人の平均塩分摂取量は8.9g/日(ナトリウム3,500mg/日)とされています。日本人は2010年のデータで男性11.2g/日、女性9.9g/日です(厚労省の「国民健康・栄養調査」より)。

 厚労省の「日本人の食事摂取基準」(2010年版)によれば、1日の目標量として、男性は9.0g/日、女性は7.5g/日とされています。この研究のシナリオにあるような、1日あたり5.6g/日や3.8g/日というのは相当困難であることがわかります。

 最近は、減塩不要とする論文をほとんど見かけなくなり、そのようなことを主張する学者の声も聞きません。やはり塩分は従来から言われていたとおり減らしていくのがよさそうです。決して簡単ではありませんが・・・。

(谷口恭)


注1:この論文のタイトルは、「Mortality Benefits From US Population-wide Reduction in Sodium Consumption」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://hyper.ahajournals.org/content/61/3/564.abstract?sid=e3307020-398b-4547-ad52-f2628b84af2d

注2:塩分摂取量について、海外の論文では一般的にナトリウム量が使われますが、日本では食塩のグラム数で表されるのが普通です。「ナトリウム量(mg)x 2.54 ÷ 1,000 = 塩分(g)」が換算式となります。

参考
メディカルエッセイ:第104回(2011年9月) 「塩分制限が不要というのは本当か」
はやりの病気:第81回(2010年5月) 「慢性腎臓病と塩分制限」