医療ニュース

2013年5月13日(月) 男性型脱毛症(AGA)は心筋梗塞のリスク

 女優の天海祐希さんが突然心筋梗塞で倒れたというニュースが2013年5月8日に報道され話題となりました。天海祐希さんのようにスリムな女性で、(おそらく)喫煙もされておらず、(報道によると)糖尿病や高血圧、高脂血症などの虚血性心疾患のリスクのない方が、軽度とはいえ心筋梗塞を発症したということに私自身も驚きました。おそらく想像を絶するほどの仕事量で相当なストレスを抱えられていたのでしょう。

 教科書的なことを述べておくと、心筋梗塞を含む虚血性心疾患は、肥満、喫煙、糖尿病、高血圧、高脂血症などが大きなリスクと考えられています。これら以外には、男性、加齢、高尿酸血症、過労などがあります。

 たしかに、元々肥満があって過労が重なり心筋梗塞を発症というケースは20代ですらときどきありますが、天海祐希さんのように過労だけで、というのは、過労は過労でも、相当なものだったのだと思われます。

 前置きが長くなりましたが、今回お伝えしたいのは、男性型脱毛症(AGA)もまた心筋梗塞などの虚血性心疾患になる、という研究についてです。

 東京大学のTomohide Yamada氏らのグループによる研究結果が医学誌『BMJ open』2013年4月3日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。

 この研究は過去に公表された多数の論文を解析(メタ解析)することによっておこなわれています。対象者を11年以上追跡している米国などの3件の研究を解析すると、AGA男性の心疾患のリスクがAGAでない男性よりも33%高く、これが55~60歳になると44%にもなるという結論がでたそうです。

 また、別の3件の研究を解析すると、AGA男性の心疾患リスクは70%も高く、これが若年時からAGAを発症している男性でみるとなんと84%も高い、というのです。また、脱毛の程度が重症であればあるほどリスクが高いという結論も導き出されたそうです。

 興味深いことに、心疾患のリスクが上昇するのは頭頂部に生じるAGAのみで、生え際が後退するタイプのAGAではリスク上昇は認められないそうです。

 この研究結果から、研究者らは、AGAの男性は心疾患のリスクを減らすために、禁煙、低脂肪食、運動、ストレスの軽減など、生活習慣を見直すべき、と述べています。

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 信ぴょう性はさほど高くないものの、似たような研究は過去にいくつかあったような記憶があります。AGAの男性は心筋梗塞など心疾患に罹患しやすい、というのは、日頃患者さんをみていると、なんとなく正しいような気がします。(このように感じているのは私だけではないと思います)

 これについて私はある「仮説」を持っています。その仮説とはこういうことです。以前より心筋梗塞などの心疾患のリスクとして「A型気質」というものが指摘されています。

 A型気質というのは性格のことですが、血液型のA型とはまったく関係ありません。A型気質とは、Active(活動的)、Aggressive(攻撃的)、Ambitious(野心的)、Angry(怒りっぽい)といった性格で、わかりやすく言えば「頑張り屋で積極的。いわゆる"やり手"で出世するタイプ」です。さらに私の印象を付け加えれば「真面目で努力家」とも言えます。そして、こういう人が心疾患になりやすいのです。

 太融寺町谷口医院にもAGAの患者さんは大勢来られていますが、患者さんの職業を思い出してみると、会社社長や重役、税理士、医師など社会的地位の高い人が多い印象があります。

 つまり私の「仮説」とは、ちょっと乱暴に言ってみると、「AGA=A型気質→心疾患のリスクが高い」ということです。この私の仮説を証明するために、AGAとA型気質の関係を検証した研究はないかと調べてみたのですが見つかりませんでした。どなたか、この仮説に同意してくれる方がおられたら、研究してもらえないでしょうか...。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Male pattern baldness and its association with coronary heart
disease: a meta-analysis」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://bmjopen.bmj.com/content/3/4/e002537.full.pdf+html?sid=0a6bd83a
-014c-448b-87e2-380277c8e792