はやりの病気

第22回 癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを! 2005/12/17

以前、別のところで、「安易にサプリメントや健康食品を摂取すべきでない」ということを、実際の薬害を例に挙げてお話いたしました。

 日々の診療では、患者さんから、「先生、○○は身体にいいんですか?」とか「今度△△を飲もうと思っているんですけど先生はどう思いますか?」ということをよく聞かれます。

 ほとんどのサプリメントや健康食品は、有効性を証明する科学的な証拠(evidence)がありませんし、逆に、βカロチンの肺癌へのリスクや、ビタミンEの心疾患へのリスク(以前ビタミンEは心疾患のリスクを下げると言われていたのに実際は逆だったというわけです)、またコエンザイムQ10の肝障害などが報告されていることから、私は積極的には薦めないようにしています。

 ただ、酢やニンニク、ショウガといった伝統的に良いとされている食品について尋ねられたときには、「度を越さなければ摂取すべきかと思います」、と答えるようにしています。

 そんな伝統的な食品のなかで、最近注目されているのがコーヒーです。

 私が子供の頃は、コーヒーはカフェイン含有率が高いから摂りすぎてはいけない、と言われていました。実際に、胃が弱い人は空腹時にコーヒーを飲むと胃痛を感じることがよくあります。

 けれども、そんなコーヒーの有用性が最近相次いで報告されているのです。今回はそれらを見ていきたいと思います。

 まずは癌の予防です。『Journal of the National Cancer Institute』という医学誌の2005年2月16日号に掲載された記事によりますと、コーヒーを飲むことによって肝癌と大腸癌のリスクが下がるそうなのです。

 肝癌については日本の研究が引用されています。肝癌は日本に多いのが特徴なのですが、日本でおこなわれた大規模調査によると、コーヒーを毎日摂取する人は摂取しない人に比べて肝癌のリスクが半分になるというのです。それだけではありません。コーヒーを飲めば飲むほど肝癌発生のリスクが下がるそうなのです。これはB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスを保有している人にも当てはまるそうです。

 大腸癌についてはアメリカの研究が引用されています。ハーバード大学公衆衛生学部の研究によると、コーヒーを毎日飲む人は飲まない人に比べて大腸癌のリスクを約半分に減らせるそうなのです。

 次に糖尿病についてみていきましょう。以前は、コーヒーは糖尿病のリスクを上げるのではないかと考えられていました。もちろん甘い缶コーヒーを毎日何本も飲んでいれば糖尿病になるのは時間の問題です。実際に、甘いものや高脂肪食はほとんど摂らずタバコも吸わないけれど缶コーヒーは毎日数本飲んでいた、という糖尿病の患者さんを私は何人か知っています。

 コーヒー摂取が糖尿病のリスクを下げるという報告は世界各国で相次いでいます。

 まずは、米国の研究です。『Annals of Internal Medicine』という医学誌の2004年1月6日号の記事によると、男性4万人、女性8万人を最長18年間追跡した大規模調査で、コーヒーを1日6杯以上飲む人では、2型糖尿病の発症率がコーヒーを飲まない人より大幅に低いことがわかったそうです。具体的には男性で5割、女性で3割も糖尿病を発症しにくいそうなのです。そして、意外なことに、この効果はカフェイン抜きのコーヒーよりもカフェイン入りのコーヒーで顕著に認められたそうです。

 男女1万7000人を7年間追跡したオランダの研究でも、同様の効果が認められています。また、日本の同様の調査でもやはり同じ結果が発表されています。そして、ヨーロッパや日本ではカフェイン抜きのコーヒーというのは一般的ではありません。要するに、カフェインが入っている普通のコーヒーに糖尿病を抑制する効果があるということが世界各地の調査で明らかになりつつあるということなのです。

 一般的に、カフェイン入りの強いコーヒーが好きな人というのは、高脂肪食を好み、喫煙者が多いのではないでしょうか。そういった要素はある程度は差し引いて比較統計処理がなされていると思われますが、この結果を意外と捉える人は少なくないのではないかと思われます。

 しかしながら、この調査は、研究対象としている人数が極めて多く、また各国で同じ結果が出ていることから信憑性はかなり高いと言えるのです。

 強いコーヒーを飲むと、なんとなく血圧が上がるような気がしないでしょうか。私自身にそういう印象がありますし、そう思っている患者さんは少なくありません。

 しかし、コーヒーと高血圧の関係も意外なものであることが分かりました。

 『Journal of American Medical Association(JAMA)』という医学誌の2005年11月9日号の記事によりますと、米国の女性看護師を対象とした健康調査のデータから、コーヒー摂取により高血圧のリスクは上昇しないどころか、摂取量が増えるとむしろリスクが減少することが分かったそうなのです。

 この研究ではコーヒーだけでなく、紅茶とコーラによる高血圧のリスクも分析されています。結果は、紅茶ではややリスクが上がり、コーラでは有意にリスクが上昇するそうです。同じカフェインの入っている紅茶やコーラでは、高血圧になりやすく、逆にコーヒーでは摂取量が増えるほど高血圧になりにくい・・・。コーヒー好きには最高の結果となったわけです。

 コーヒーはこれら以外に、パーキンソン病の予防になるという報告もあります。2000年に『Journal of the American Medical Association(JAMA)』で発表されたハワイ大学の研究によると、コーヒーを飲めば飲むほどパーキンソン病になりにくいことが分かったそうなのです。

 また日本のコーヒーメーカーであるポッカの研究によれば、運転時に缶コーヒーを飲めば、眠気が取れるだけではなく、ストレスホルモンも減少することが分かったそうです。

 なんだかいいことばかりのコーヒーですが、本当に身体によくないことはないのでしょうか。

 アクリルアミドという発癌物質があります。これはフライドポテトなどの揚げ物にたくさん含まれており、大量投与すると癌が発生することが動物実験で明らかになっています。

 『Journal of American Medical Association(JAMA)』2005年3月16日号に掲載された、スウェーデンの女性を対象とした研究によれば、アクリルアミドの摂取はコーヒーで最も多いことが分かったそうです。この研究はアクリルアミドの摂取と乳癌の発生率を調べているのですが、アクリルアミドを常識的な範囲で大量に摂取しても(つまりコーヒーをたくさん飲んでも)、乳癌の発生リスクは上昇しないそうなのです。

 アクリルアミドに関しては、日本で意外な報告がなされています。それは、2003年に農林水産省が発表したデータで、従来健康的とされてきた麦茶やほうじ茶に多量のアクリルアミドが含まれていることが分かったというのです。缶入りの麦茶(350mL)を二本飲むと、スナック菓子100gと同程度のアクリルアミドを摂取することになるとのことです。ただし、同省は、「直ちに茶類の摂取方法を変える必要はないと思われる」というコメントを付記しています。

 以上を振り返ると、コーラはもちろん、紅茶やほうじ茶、麦茶までが健康を害する可能性があるのに対し、コーヒーは健康を害さないどころか、複数の癌や糖尿病、高血圧、パーキンソン病などの病気を有意に減少させ、なおかつストレスまでも軽減させる、「超健康食品」ということになります。

 健康食品やサプリメントには安易に手を出さないと決めている私でさえも、これらの報告は気にせずにはいられません。

 これを書きながらも、私の机にはブラックコーヒーが置かれていますから・・・・。