メディカルエッセイ

22 「クスリ」を上手く断ち切るには②(全4回) 2005/8/29

覚醒剤の次は、違法薬物の王様である「麻薬」をみていきましょう。

 「麻薬」とは、狭義には、ケシの種子からとれる阿片から精製されたものを言い、モルヒネやヘロインの名で知られています。(ちなみに、ケシの栽培や阿片の所持はあへん法で、モルヒネやヘロインは麻薬取締法で裁かれます。)

 麻薬の効果は、覚醒剤とはまったく異なり、ハイテンションにもしてくれませんし、活動性は低くなります。しかし、なんとも言えない恍惚感に包まれて至上の幸福感につつまれます。(といっても私は経験がありませんので。念のため・・・。)

 アヘン戦争で、イギリスが中国人に阿片を浸透させたのは、誰もが戦意を消失することを狙ったからです。これに対し、もしも中国人が阿片ではなく、覚醒剤を使用していたら、眠らずにどこまでも戦ってくる無敵の軍隊になったかもしれません。

 麻薬の最も恐ろしい点は、その依存性にあります。前回は、覚醒剤の依存性についてその恐ろしさをお話しましたが、実は麻薬はその比ではありません。いったん、その味を覚えてしまえば、かなりの確率で廃人になり、そしてそのうちに死亡します。

 ただし、麻薬は協力な鎮痛効果があることから、医薬品としてはなくてはならないものです。痛みがあるうちは、麻薬はいくら使っても中毒症状になることはありません。(これを「ceiling effectがない」と言います。)

 前々回、「シャブ中ドクター」は珍しくないという話をしましたが、「麻薬中毒ドクター」は聞いたことがありません。現在の日本の医療では覚醒剤に比べると、麻薬の方が使用量はずっと多いと言えます。もちろん、麻薬の取り扱いは厳重に規制されていて、もしも1錠でも紛失させると、それを届出しなければならず、場合によっては処罰の対象になります。けれども、臨床での消費量は、覚醒剤よりも麻薬の方がずっと多いわけです。最近では、末期癌患者の在宅医療にも麻薬を使いますから、麻薬が家族の管理になることもあるわけです。医師が不正に持ち出そうと思えば、それほどむつかしいことではないと思われます。

 しかし、「麻薬中毒ドクター」というのは、ほとんどいないのです。これはなぜなのでしょうか。おそらく、医師もバカではないため、その危険性を承知しているからでしょう。医師であれば、麻薬と覚醒剤の効能の違いや危険性について充分に理解しています。「シャブ中ドクター」が後を絶たないのは、麻薬に比べて、覚醒剤が中毒性が低いことを甘くみているのと、眠気覚ましや集中力アップのために有用だという理解があり、さらに罪がそれほど重くないことが原因ではないかと、私は考えています。

 麻薬は、強烈な依存性と耐性のできやすさから、覚醒剤に比べて、初めは吸入で満足していても、静脈注射に移行するのが早いと言われています。麻薬の静脈注射から立ち直った人もいるにはいますが、そのまま廃人になり命を落としていく人の方がずっと多いのは間違いありません。

 したがって、法律は当然厳しいものになります。麻薬は保持しているだけで、まず実刑から逃れられることはありませんし、一部の国では、持っているだけで射殺というところもあります。知らないうちに誰かに自分のポケットにヘロインを入れられ、問答無用ですぐに射殺、ということもあるわけです。

 静脈注射をすれば、麻薬であっても覚醒剤であっても、感染症の危険性はありますが、麻薬の場合はあまり問題にはならないのではないかと思われます。感染症の危険性よりも、中毒になり、そのうち死亡する可能性の方がずっと高いからです。
  
 次に、大麻取締法で規定されている、「大麻」をみていきましょう。「大麻」は別名、「マリファナ」とか「ガンジャ」と言われることもありますし、単に「草」とも呼ばれます。また大麻の樹液を固めたものを「ハシッシュ」と呼び、大麻と同様の効果があります。

 大麻は、覚醒剤や麻薬と異なり、依存性はないと言われています。また、オランダやインドの一部の州では合法ですし、カンボジアでは伝統料理にも使われます。ちなみにカンボジアではタバコの方が高級品であり、大麻を吸うのはタバコを買う金がない貧乏人だと言われていたことがあるそうです。

 大麻を吸うと、全身の感覚が研ぎ澄まされます。ミュージシャンがよく使用するのは、音楽がシャープに聞こえるからではないかと思われます。例えば、ひとつの曲のベースの音だけを取り出して聞くことができるようになりますし、あるいは音感が敏感になることが作曲の際に有用なのかもしれません。聴覚だけではありません。視覚も鋭敏になります。白い壁が紫や緑に見えてきたり、雲の形が動物や人の顔に見えたりします(これを「パレイドリア」と呼びます)。

 覚醒剤のようにハイテンションになることはなく、どちらかと言うと、麻薬のときのように動けなくなります。しかし、麻薬で得られるような恍惚感はありません。なぜか喉が渇き、食欲も亢進するため、大麻をやりすぎて太ってしまったという人もいます。

 大麻愛好家の人たちは、依存性もないし注射をしたりすることもないわけだから、他の違法薬物はもちろん、タバコや酒よりもよっぽど健康的なものではないのか、と主張します。

 たしかに、この考え方には一理あって、危険性がそれほど強くないことから、オランダなどでは合法となっているのでしょう。「大麻以外の薬物は一切やらない」、というポリシー(?)を持っている人もいて、たしかに健康上の被害はそれほど問題にならないかもしれません。「先生、オランダに行って大麻をやってもいいですか。」と聞かれたら、私は医師として何と言っていいか分かりません。草に火をつけて吸入するわけですから、身体にいいはずはありませんが、それ以上のことは言えないのです。

 大麻が危険なのは、日本への持ち込みです。日本では当然違法であるわけで、そのため海外から日本に持ち込めば高値で売ることができます。もちろん、税関で厳しいチェックがありますから、簡単には持ち込むことができません。そのため、最近よく取られている方法は、少量の大麻をサランラップに包んで、それをコンドームに入れて、そのコンドームを飲み込むというものです。

 しかし、この方法は非常に危険です。腸管でコンドームが破けて、大麻が吸収される、ということがありうるからです。日本の空港に着いたものの、大麻が全身にまわってしまい、立ち上がれなくなり、救急搬送され、病院で逮捕という事件がときどきおこっています。女性の場合、腟内に挿入する方法もあり、この場合は飲み込むよりも危険性は少ないでしょうが、見つかって逮捕されることはよくあります。

 大麻取締法は、麻薬や覚醒剤に比べてたしかに罪は軽いのですが、コンドームで大量に持ち込んでいれば販売目的とみなされて、まず実刑から逃れられません。

 ちなみに、このコンドームに入れて飲み込むという方法を、覚醒剤でおこなった場合、危険性は大麻の比ではありません。もしも腸管でコンドームが破ければ、日本に到着する前に、上空で突然死、という可能性もあります。

 次に、最近日本で消費量が爆発的に増えている「MDMA」についてみていきましょう。「MDMA」とはメチレンジオキシメタンフェタミンの略で、通称「エクスタシー」と呼ばれています。「MDA」と呼ばれるものもあり、これはメチレンジオキシアンフェタミンの略で、こちらは通称「ラブドラッグ」と呼ばれることもあります。MDMAもMDAも、その名称から分かるように、メタンフェタミンやアンフェタミンの類似物質、要するに、覚醒剤の親戚です。しかし、規制する方法はなぜか、覚醒剤取締法ではなく、麻薬取締法です。

 MDMAもMDAも効果は同じようなもので、強い興奮作用があります。覚醒剤とよく似ており、セックスの際に用いると強烈な快感に襲われます。(しつこいようですが、私は経験がありませんので・・・。)

 覚醒剤と同様に、日本では都心部を中心に若い世代の間で出回っています。(日経新聞2005年8月4日夕刊の記事によりますと、2005年上半期での押収量は過去最多を記録しており、これで7年連続の増加となったそうです。)また、UKではクラブで簡単に入手できるそうです。UKは薬物に厳しい国で、例えば、日本では睡眠剤として医療機関で処方される「ハルシオン」は、使用法によっては幻覚をみたり、記憶をなくしたりして(間違った使い方をすると)非常に危険な薬物です。そのため、ハルシオンの製造元のアップジョン社は、本国のUKで販売を禁止しています。それほど薬物に厳しいUKでも、なぜかロンドンなどのクラブでは比較的簡単にMDMAが入手できるそうなのです。(ちなみに、ハルシオンは、かつてドラッグ天国と呼ばれたタイでも以前から販売禁止にされており、タイ人は主に日本人から入手していたそうです。)

 日本のクラブでも、ロンドンと同様、MDMAは比較的簡単に入手できるようです。もちろん、覚醒剤と同様、非常に危険な薬物で、錯乱や不安に襲われることもありますし、死亡例も報告されています。通常は内服のみであるため、静脈注射に移行することはありませんが、MDMAのユーザーは覚醒剤にも手をだすことが多く、病院に救急搬送された患者さんの尿から覚醒剤とMDMAの両方が検出されるということも少なくありません。

 つづく

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