メディカルエッセイ

34  語学はこんなにおもしろい! 第2回(全2回) 2006/2/28

私は一度、タイ語の先生に、「C」の二つの音(無気音と有気音)を続けて発音してもらったところ、違いがまったく分からなかったために、「一緒やん」という言葉が思わず出てしまったことがあるのですが、彼女はすかさず「イッチョじゃないよ!」と言ったので、おかしくなって笑ってしまいました。2つの「C」を、無気音と有気音として、厳密に区別しているタイ人が、タイ語より格段に音の少ない日本語の「し(SHI)」を発音できないのです。

 英語を母国語とする外国人はどうでしょうか。私は、ある西洋人に、このタイ人の先生とのエピソードを話した上で、「英語を母国語とする人にとって、むつかしく感じる日本語の音があるか」という質問をしたことがあります。彼女の答えは「まったくない」というものでした。

 けれども、よくよく思い出してみると、アメリカ人であろうがオーストラリア人であろうが、日本語の文章をきれいに発音している西洋人を私は見たことがありません。どれだけ日本に長く暮らしている人であっても、声だけを聞いて、「この人、日本人かな」と感じたことは一度もありません。

 それに対して、日本語のよくできるタイ人は、「SHI」や「Z」などがあまり出てこない文章であれば、ほとんど日本人と同じように発音します。例えば「お元気ですか」という文を、英語を母国語とする人に発音してもらうと、イントネーションや発音の微妙な違いから、すぐに日本人でないことが分かりますが、これをタイ人が発音すると、場合によっては「この人、日本人かな」と思うほどきれいです。

 どうやら、スピーキングという語学の領域は、単に母音や子音を正しく聞き取れて発音できるかどうか、という問題だけではなさそうです。

 もうひとつアジアの例を挙げましょう。

 中国という国は、多民族から成立している国家ですが、統一支配をする上で、語学の問題にもっとも難渋した(している)そうです。北京語が一応の共通語ということになっていますが、北京語は数多い中国語のなかでも音の数の多い、少なくともリスニングとスピーキングにおいてはもっとも難易度の高い言語です。

 そんな言語を共通語にしようとしたものですから当然無理がでてきます。いくら言葉を強制されても、もともと発音できない音が多数含まれているのですから、地方の民族の人には正しく使えるはずがありません。例えば、台湾の言語は北京語よりも音が少なく、そのため台湾人には上手く発音できない音が北京語には多数あり、北京語を話す中国人が台湾人の中国語を聞けば、洗練されていない、どこか野暮ったい言葉に聞こえることがあるそうです。

 日本人が外国語を学ぶときに、発音のハンディキャップを背負っているのは確かに事実ですが、西洋人が日本語を流暢に話すかと言えば、必ずしもそうではありませんし、タイ人は母国語に多くの音を持っていながら、正しく発音できない日本語がありますし、中国にいたっては、同じひとつの国でありながら、地方によっては標準語が正しく発音できないのです。

 こう考えれば、日本人だからといって一方的に悲観的になる必要はありません。また、考え方を変えて、日本語と同様に音の少ない言語を勉強するというのもひとつの方法かもしれません。(センター試験で英語以外の科目を選択するというのはかなりリスキーかもしれませんが・・・)

 ちなみに、日本人が発音に比較的コンプレックスを持つことなく勉強できるメジャーな外国語は、韓国語とスペイン語だと言われています。私の知る範囲でも、韓国語はある程度までマスターする人が多いような印象があります。スペイン語については、発音には抵抗なく入れたけれど、単語の語尾変化の多さに疲れてしまって挫折するというケースが多いようです。

 ところで、語学が苦手という人は男性に圧倒的に多いような印象があります。これは昔からよく言われていることですし、脳生理学的な説明が試みられることもあります(例えば右脳と左脳の使い方の差異や脳梁(のうりょう)の太さの違いなど)。また、私自身の経験から言っても、英語をきれいに話す韓国人は圧倒的に女性に多いという印象がありますし、タイ人にいたっては、例えばタイ国内の銀行に入ると、女性はほとんどがある程度きれいな英語を話しますが、男性職員はかなりのベテランと思わしき人でも、さっぱりしゃべれないということがよくあります。

 実際、「語学は女の方が有利なんだから試験にハンディをつけてほしい」、とまで言う男性もいます。語学にコンプレックスを持っている男性のなかには、「女性はもともと語学のセンスがあるのに加えて、日本人の女であれば、容姿にかかわらず(?)、たいていどこの外国人からもモテるから、恋人をつくることによって語学が飛躍的に上達する。それに対して日本人の男は、特に西洋の女性からはまったく相手にされないからハンディを背負っているんだ」、と言う人までいます。

 う~ん、たしかに一理あるような気もします。例えば、オーストラリアには、de facto partner visaと呼ばれるものがあります。これは通称「恋人ビザ」と言われているもので、オーストラリアでは、結婚していなくても、ある程度長期間の付き合いがあれば、恋人とみなされて居住権を獲得できるという制度です。この制度を利用したことのある日本人女性(要するにオーストラリアの男性ときちんと付き合っている(いた)女性)の話は、たまに聞くことがありますが、男性でこのビザを取得したことがあるという話は私の知る限りありません。

 けれども、男性も決して悲観することはありません。私の知る限りでは、リスニングとスピーキングで女性に劣ることが多いとしても、リーディングやライティングではそれほどひけをとっていないのではないかと思われます。

 実際、英文がほとんど書けずに初歩的な文法のミスをしている日本人女性が、ビックリするくらいきれいな英語を話すことがよくあるのと同様、ほとんど英会話ができない男性が、難解な英文をスラスラ読んでいる光景も珍しくありません。

 私は現在、月に2~3度、タイ語を習っていますが、その先生によると、「(私のような)男性は文字や文法をすぐに覚えるけれど発音はもうひとつ」、だそうです。それに対して、「女性は文字や文法をイヤがるけれど発音はきれい」、だそうです。男の私からすれば、文字や文法をイヤがる、というこの女性心理が理解できません。タイ文字はとても「かわいい」ですし、そもそも文字を覚えなければ辞書すら使えないのです。辞書も使えない状態で、語学力を向上させるなんてことは私には不可能です。しかし、女性たちは、辞書なしで会話力をどんどんアップさせていくのです。興味深いと思いませんか。

 特に語彙力に関しては、男性も自信を持っていいのではないか、と私は思っています。もちろん、語彙力アップには絶え間ない努力が必要ですが、トータルでみれば、語学で女性に劣っているというわけでは決してないと思うのです。リスニングが採用されたといっても、まだまだ大学入試の英語は筆記試験が中心ですし、また、ビジネスの現場でも、いくら流暢に英語を話そうが、英字新聞をろくに読めないような日本人は信用されません。

 それに、語彙力を増やし、正しい文法を見につけることによって、リスニング力も上達するのです。これは、多数の単語や文章に慣れることによって、その単語の発音が正確にできなくても、文脈から意味をとれるようになるからです。特に長い単語というのは少々発音に自信がなくても、馴染みがあれば簡単に理解できるものです。

「Y」の発音に苦手意識があり、「year」が正確に聴き取れず発音できなくても、例えば、同じ「Y」から始まる、「yellow-dog-contract」(労働組合に加入しないことを条件とする雇用契約のこと)という単語が会話のなかで出てきたときに、この単語を知っていればすぐに理解できるでしょう。そして、この単語を知っていれば、西洋人から(おそらく)一目おかれるでしょう。

 受験生の方には時間的な余裕がないかもしれませんが、実際に英語を母国語とする外国人と話す機会をつくれば、単に自宅で英語を聞くよりもはるかに効果があります。これは、先に述べたように、よく使うフレーズを何度も聞くことによって文脈から単語を類推する能力がアップするからですが、他にも理由はあります。

英語教育番組にはないすぐれたところは、その外国人がどういうところでつまるか、あるいはどのような「間」を置くかが、セリフを話すだけの教育番組よりも手に取るように分かるからです。そして、こういうことが分かるようになると、英語独特のリズムのようなものが身につくようになります。また、もう一度聞き返すことによって、例えば、今の発音は「that」なのか「the」なのかといったことを確認することもできます。

 それに、会話の内容を興味深いテーマにすることによって、楽しんで英語と接することができます。お互いの国の文化の違いや、考え方の相違点を知るのは本当に楽しいものですし、書物からは分からないことも多々あって、語学がますます好きになります。

 私は昨年の秋から月に2~3度、英語のプライベートレッスンを受けていますが(と言うよりは、ほとんど雑談ですが)、次回のテーマは、「母国ではさっぱりモテない西洋の男が日本に来ればアイドル並みの扱いを受けている実情、なかには寄ってくる日本人女性をひどく扱っている男もいるという現実」、というものです。こういう話は、実際に被害(?)にあった日本人女性から聞くことはありますが、このテーマで、西洋人とディスカッションするということがおもしろいわけです。
 こんな会話をしながら実力がアップするなんて・・・。語学っておもしろいと思いませんか。