はやりの病気

第49回 ストレスと機能性胃腸症 2007/9/21

阿部首相が突然の辞任を表明し、その原因が「機能性胃腸症」と報道されたことで、最近この病名を耳にする機会が増えてきました。患者さんの方から、「私も機能性胃腸症ですか?」と質問されることもあります。

 「機能性胃腸症」とは、あまり聞きなれない言葉だと思いますので、まずはこれについて説明いたします。

 病名に「機能性」と付けば、おおまかに言えば、「どこを検査しても異状が出ないけれども症状があるもの」を示します。

 「機能性」に対して、ガンなどのできものが原因となっていれば「器質性」もしくは「腫瘍性」、炎症が原因になっていれば「炎症性」(例えば、潰瘍性大腸炎やクローン病)、腸炎ビブリオやノロウイルスといった病原体が原因であれば「感染性」と言います。また、糖尿病ケトアシドーシスなど内分泌性疾患からくる腹痛なら「代謝性」、腸管膜動脈血栓症のように血管がつまることによって起こる腹痛なら「血管性」となります。

 報道によりますと、阿部首相は食欲がなく、吐き気や下痢に苦しめられていたといいます。医師側からすると、「器質性」、「炎症性」、「代謝性」などの大切な疾患を見落とすわけにはいきませんから、こういった疾患ではないことを確認し、さらにストレスや精神状態を考慮した上で、ようやく「機能性」という表現を使います。

 つまり、機能性胃腸症とは、血液検査や画像検査、内視鏡検査などをおこなってもまったく異状がなく、ストレスや精神状態が原因で吐き気や下痢などの症状が出現している状態のことを言います。

 さて、マスコミの報道をみていると、ときに(無責任な)評論家は、「一国の首相が精神的な原因で病気になり首相を退陣するなどけしからん」、「この程度の病気で辞任するのは無責任」、などといった発言をおこなっています。

 機能性胃腸症に限らず、精神的な要因が原因、もしくは悪化因子となり症状が出現する病気に対しては、ときに周囲の理解が得られないことがあります。

 これは、日本人の多くが、武士道など強い精神力や忍耐力が要求される精神論が好きだからというのがひとつの理由でしょう。

 しかしながら、ひとりの人間が生涯にわたり、常に強い精神力を発揮するなどということは到底不可能なことであり、精神的ストレスからきたした病気に対し、「気がゆるんでいるからだ」、「甘えている証拠だ」、「自分の若い頃はこの程度のストレスはむしろ励みになったものだ」、などと言うのは、病気で苦しむ人を傷つけるだけであり、何の解決にもなっていません。

 また、悪意がないにせよ、「頑張れ!」と言い続けるのも、本人にとっては迷惑でしかありません。そもそも、限界を超えて頑張りすぎた結果が、ストレス性の病気になっていることが多いのです。その人に対し、「頑張れ!」などと言えば、その人は、すでに周囲に迷惑をかけていることに罪の意識を感じているところに、追い討ちをかけられるわけですから、精神状態はさらに悪化してしまいます。そもそも機能性胃腸症などのストレス性疾患を発症する人は、責任感が強く真面目な性格であることが多いのです。

 では、機能性胃腸症と診断されればどうすればいいのでしょうか。

 もちろん、かかりつけ医と相談して自分に合ったもっとも適した治療をおこなっていく必要がありますが、ここでは一般論を述べたいと思います。

 まずは、この病は、「治る病気」であることを自覚することが大切です。機能性胃腸症が死因となることはなく、いくらかの時間がかかるにしてもやがて治癒します。(ただし、再発はあります)

 次に症状がどのようなものかをある程度的確に医師に伝える必要があります。医師は聴診や触診である程度の状態を把握することはできますが、患者さん自身の訴えを最重視します。

 最も困っているのは、吐き気なのか、食欲が出ないことなのか、おなかが痛いことなのか、痛いとすればそれは胃なのか腸なのか、痛みは持続するのか、強くなったり弱くなったりするのか、食前と食後ではどちらが痛みが強いのか、下痢と便秘のどちらで悩んでいるのか、また、胃腸以外には症状はないのか、・・・、といったことを医師に伝える必要があります。

 もちろん、医師の方からもこのような具体的な質問をしていくことになりますが、患者さんの方から話してくれれば適切な薬を早く見つけられることがあるのです。

 機能性胃腸症に使う薬剤は、単に胃の働きを助ける消化酵素や整腸剤だけのこともありますし、胃の粘膜を保護する胃薬、胃酸の分泌をおさえる薬、胃の動きを適切にする薬、吐き気止め、下痢止め、などがあります。

 すてらめいとクリニックでは、必要に応じて漢方薬の処方もおこなっています。漢方薬のなかには、機能性胃腸症に対しては、西洋薬よりもシャープに効くものもあります。(もちろん症例にもよりますが)

 また、気分をリラックスさせる薬や、ときには、抗不安薬や抗うつ薬などを用いることもあります。場合によっては、時間をとってカウンセリングをおこなうこともあります。

 さて、機能性胃腸症は治る病気であることを自覚し、適切な薬が見つかったとして、もうひとつ大切なことが残っています。

 それは、「周囲の理解を得る」ということです。先に述べたように、例えば直属の上司が、「自分の若い頃はこの程度のストレスは励みになったものだ」と言ったり、やみくもに「頑張れ!」と応援したりすれば治るものも治りません。

 もしも、職場の上司や同僚の誰もが理解を示さないとすれば、社内の保健室(あれば)や産業医(いれば)に相談しましょう。場合によっては、総務部や人事部に相談するのもいいかもしれません。

 社内に相談できる人がいないのであれば、かかりつけ医に頼むのが懸命です。実際、すてらめいとクリニックを受診される患者さんのなかにも、「職場では誰も理解してくれない」と話される方がいます。そういう人には診断書を発行し、上司との相談の際に使ってもらうようにしています。

 最後に、これを読まれている方にお聞きします。
 
 あなた自身の胃腸が健康だったとしても、最近、あなたの周りに胃腸の不調を訴えている人はいませんか。その人が真面目で責任感が強い人であればあるほど機能性胃腸症の可能性は大きいと言えます。その人に対し、叱咤激励をしていませんか。もし、しているならあなたがその人の病状を悪化させている可能性もあるのです・・・。

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