はやりの病気

第51回 不思議な不思議なクラミジア① 2007/12/3

すてらめいとクリニックは、総合診療の名の下、「どんなことでもお気軽にご相談ください」というコンセプトで診療をおこなっています。実際、発熱や倦怠感から、手術が必要な症例、メンタルケア、・・・・、と実に様々な症状の患者さんがやって来られます。そんななか、最近増えているな・・・、と感じられるのが、性感染症、特にクラミジア感染症です。

 クラミジアは自覚症状が出ないことが多く、検査をして初めて感染に気付いたという人が圧倒的に多いという特徴があります。私の印象では、男女とも8割以上の人はまったく自覚症状がありません。

 自覚症状があったとしても、ほとんどは軽症です。女性なら、「なんとなくおりものの調子がおかしい・・・」、「下腹部に違和感があるような気がする・・・」、男性なら、「残尿感があるように思う・・・」、「おしっこをするとき違和感を感じることがある・・・」といった感じです。

 また、男女とものど(咽頭や扁桃)に感染していれば、ほとんど100%の人に自覚症状がありません。性交渉の仕方によっては肛門に感染していることもありますが、やはりこの場合もほとんど自覚症状がありません。

 私がすてらめいとクリニックを始めて気付いたことのひとつに、男性のクラミジアの咽頭感染がかなり多いということがあげられます。以前は、コンドームを用いないフェラチオ(fellatio)をする女性や男性同性愛者に対しては、必ずのどの検査もすすめていましたが、異性愛者の男性に対しては、患者さんからの申告がない限りは咽頭の検査はおこなっていませんでした。

 ところが、「自分は女性器を愛撫(クンニリングス、cunnilingus)するので喉も調べてほしい」という男性異性愛者の咽頭検査をすると、かなりの確率でクラミジアが陽性となります。

 それに気付いてからは、異性愛者の男性に対しても、必ず「喉に感染している可能性はありませんか」と尋ねるようにしています。

 先日、性感染症に従事するある医師と話したときにも、この話題となり、その医師も男性異性愛者の咽頭クラミジア感染の多さに驚いていると話していました。

 さて、ここまでをまとめると、クラミジア感染症は、その人の性行動によって、尿道(尿で検査できます)、子宮けい部、のど、肛門のそれぞれを検査しなければならない、ということになります。

 ここでよくある質問に答えておきます。「クラミジアの検査を、子宮けい部とのどの両方でおこなった場合、料金は高くなりますか」という質問がよくあるのですが、(少なくともすてらめいとクリニックでは)料金は同じです。子宮けい部だけの検査をしても、のどの検査を加えても、さらに肛門の検査までおこなったとしても、料金はまったく同じです。(ただし、結果が陽性と出た場合、どこで検出されたかは分かりません。しかし、どこで検出されたとしても治療方法は同じです。また、例えば子宮けい部とのどを別々に検査することも可能ですが、その場合は保険適用ができず自費となります)

 自覚症状が出ない(出にくい)以上は、身に覚えがあれば検査を受けなければなりません。次に、これもよくある質問に答えておきます。それは、

 クラミジアの血液検査は信頼できるのか・・・

 というものです。

 結論から言えば、クラミジアの血液検査は参考程度にしかなりません。通常、クラミジアの血液検査ではクラミジア抗体を調べます。抗体とは病原体が体内に入ったときに身体が反応してつくるたんぱく質のことです。一般的に、クラミジアに感染すると、まずIgM抗体という抗体がつくられIgM抗体が減少する頃にIgA抗体という抗体がつくられます。そしてIgA抗体が減少する頃にIgG抗体という抗体がつくられます。

 クラミジアの検査では、通常IgA抗体とIgG抗体の有無を調べます。もし、IgA抗体が陽性でIgG抗体が陰性であれば、比較的最近感染した可能性があります。IgA抗体、IgG抗体の双方が陽性であれば、感染して時間がたっている可能性があります。IgA抗体が陰性、IgG抗体が陽性であれば、さらに感染してから時間がたっていることが考えられ、治癒した場合も含まれます。

 では、IgA抗体が陽性であれば必ず感染しているかと言えばそういうわけでもありません。クラミジアには自然治癒の報告もあるからです。

 結局、血液検査で陽性反応がでてもすぐに治療が必要になるわけではありません。血液検査で陽性反応がでれば、きちんとした検査を必要に応じて、尿道、子宮けい部、のど、などでおこなわなければならないというわけです。

 では、血液検査で陰性と出れば(IgA抗体、IgG抗体の双方が陰性であれば)、クラミジアに感染していないと言いきれるのかと言うと、そういうわけでもありません。抗体ができるまでには時間がかかりますから、血液検査の信頼性は劣ります。抗体ではなく、クラミジアそのものを調べにいく尿検査、子宮けい部やのどの綿棒の検査の方がずっと信憑性が高いのです。

 それに、血液検査は結果が出るまでに数日間を要するという欠点もあります。尿検査や綿棒の検査であれば、(検査の種類にもよりますが)30-40分で結果が出ますから、より現実的なのです。

 また、クラミジア感染症は通常飲み薬で治しますが、必ず確認検査をしなければなりません。どんな飲み薬を使ったとしても100%治る保障はないからです。確認検査の際には、必ず尿検査や綿棒の検査をおこなわなければなりません。なぜなら、血液検査で調べる抗体は治療後も残る(陽性反応がでる)からです。

 要するに、クラミジアを調べるには血液検査はあまり役に立たないと言えるのです。以前、あるアメリカ人の医師と話をしたときに、彼女は「なぜ日本ではクラミジアの検査を血液でおこなうのかが理解できない。アメリカにはそのような検査はない」と言っていました。彼女だけでなく、私自身も「理解できない」のです。

 つづく・・・