メディカルエッセイ

59 不可解な医療費 -その2- 2007/12/25

前回は、「なぜ同じような治療でも医療機関によって治療費に差がでるのか」という点について、院内処方と院外処方の差を述べました。

 前回お話したように、医療機関側からみたときには院外処方にする方が経営的に安定するのですが、患者さん側からみたときには、院内処方は「治療費が安くつく」以外にもいくつかのメリットがあります。

 ジェネリック薬品、あるいは後発薬品という言葉をご存知でしょうか。これは、新しい薬が発売されてから一定期間(通常は10年)が過ぎ、特許が切れた後に、他の製薬会社が製造した"同じ"薬です。ジェネリック薬品に対して、もともと先にあった薬を先発品と呼びます。

 同じではなく"同じ"としているのは、まったく同じものではないからです。その有効成分を錠剤やカプセルにする際に用いる材料に違いがあることがあり、有効成分の質と量には差異がありませんが、体内で作用する際には差がでるのではないか、とする考えもあります。

 しかし、たしかに一部のジェネリック薬品には効果が劣る(あるいは副作用がでやすい)可能性がありますが、あきらかに先発品と同等の効果があるものも少なくなく、同じもので値段が安いなら安い方(ジェネリック薬品)の方がいいと考えるのは当然のことでしょう。

 現在、医療費抑制のために、厚生労働省はジェネリック薬品をもっと普及させようとしています。

 ところが実際は、ジェネリック薬品はそれほど普及していません。

 例えば、2007年2月8日の共同通信によりますと、医師が処方箋に「後発品への変更可」と記載しても、実際に薬局で後発品が出されるケースは、このうち5.7%しかないことが分かりました。(詳細は、医療ニュース2007年2月10日「普及しない後発医薬品」)

 つまり、院外処方ではジェネリック薬品をそれほど多く入手できないのが現状なのです。

 院外処方に比べて院内処方の方が便利な理由は他にもいくつかあります。

 まず、院外処方では薬をすぐに入手できないという問題があります。病気や症状によっては、その薬を一刻も早く飲まなければならない場合があります。こういったときにも、患者さんはクリニックでいったん精算を済ませ、その後薬局に行かなければなりません。クリニックの会計で待たされた上に、薬局でもある程度は待たなければなりませんから薬を飲むのが遅れてしまいます。

 日中ならまだいいかもしれませんが、夜間の場合は一日遅れることもあります。例えば、すてらめいとクリニックの診察時間は午後8時まで(受付は7時45分まで)となっていますが、混んでいるときは診察の終了が午後9時を過ぎることもあります。9時以降にも空いている薬局もあるでしょうが、多くの院外処方せんを受け付けている薬局はこれよりも早く閉まります。すると、患者さんは薬を入手するのは早くても翌日の朝になってしまいます。仕事などで忙しい人であれば服薬開始が大きく遅れることもあるでしょう。

 薬が合わなかった場合や副作用が出た場合もやっかいです。薬局では薬を勝手に替えるわけにいきませんから、患者さんはクリニックを再度受診することになります。電話で問い合わせるにしても、薬局とクリニックのどちらに聞いていいかわからない場合もあるかもしれません。これが院内処方なら、薬局を通さない分だけ、医師や看護師がすみやかに対応できます。

 また、飲み方に注意がある場合も、院内処方の方がスムーズです。例えば、「この薬は1日1錠飲むことになっているけれども、症状が強い場合は2錠まではかまわない。ただし2錠飲んでいいのは1週間まで。そして1日2錠にした場合は○○といった副作用がでるかもしれない」といったケースがあるとします。この場合、この情報を薬局に伝えて、さらに薬局で患者さんに伝えるのに相当な手間と時間がかかります。院内処方なら、看護師が実際に患者さんに薬を見せながら説明することができるというわけです。

 さて、「なぜ同じような治療でも医療機関によって治療費に差がでるのか」という問題に対する答えのひとつとして、院内処方と院外処方の違いを述べましたが、治療費に差がでる理由は他にもいくつかあります。

 「同じ病気に対して検査方法がいくつもある」というのも大きな理由です。

 例えば、クラミジア感染を例にとってみましょう。

 すてらめいとクリニックでは、クラミジアに対しては、数十分で結果が分かる検査方法を採用しています。この検査の費用は、3割負担で510円です。ただし月に一度は「判断料」という明目で430円が別にかかります。しかし、この「判断料」というのは月に一度ですから、例えば前の週にインフルエンザでかかっていた場合は、すでにそのときに430円を徴収されていますから、510円のみとなります。

 これは患者さんに教えてもらったことですが、泌尿器科や産婦人科を含めて多くのクリニックでは、結果がすぐにわかる検査ではなく、結果が出るまでに1週間ほどかかる別の検査方法を採用しています。この検査法だと検査代が630円で、「判断料」は450円となります。さらにこの検査法では、1回で1箇所しか検査できないため、例えば女性で子宮けい部とのど(咽頭)の双方を調べたいという場合には検査を2回しなければなりません。そしてこの場合は保険診療ができません。混合診療となりますが、(混合診療の良し悪しは別にして)、例えば子宮けい部は保険診療とし、のどの検査を自費にした場合は、(10割負担とすれば)2,100円が別途必要となります。

 クラミジア以外の性感染症を考えた場合、すてらめいとクリニックでは、女性の場合、淋菌性咽頭炎、淋菌性子宮頸管炎、外陰部カンジダ症、腟カンジダ症、腟トリコモナスの検査をすべて顕微鏡でおこなっています。これらの検査はすべて50円です。しかも、これらすべては保険請求しても認められないことが多いため、はじめから2回分(100円)しか請求していません。(ただし、これら検査の「判断料」として別途450円がかかります)

 ひとりの女性がおりものの異常があって性感染症を疑い、クラミジア頸管炎・咽頭炎、淋菌性頸管炎・咽頭炎、外陰部カンジダ症、腟カンジダ症、腟トリコモナス症の検査をした場合、初診代820円、尿検査80円、クラミジア頸管炎+咽頭炎940円(510円+430円)、クラミジア以外のすべての検査550円(50円x2+450円)、子宮頸管粘液採取代90円、腟洗浄代140円、となり合計約2,600円となります。診察時には、性器ヘルペスや尖圭コンジローマなどができていないかどうかも確認しますから、事実上、HIVや肝炎などを除くほとんどすべての性感染症が2,600円で検査できることになるのです。

 性感染症のように、一度にいくつもの項目を検査しなければならない場合、すてらめいとクリニックで最も重視しているのは「すべての項目の結果を早く」ということです。早く結果を出す検査にこだわった結果として、検査代が安くなっているというわけです。

 「早く結果を出す」ためには、ひとりの患者さんにかける時間が長くなりますし、利益も出なくなってしまいますし、それなりの経験をつまなければなりませんから(顕微鏡で複数の感染症の検査ができるようになるには最低でも数千枚のスライドを観察しなければなりません)、経営的にはマズイかもしれませんが、患者さん側からの需要は「結果を早く!」なのです。