メディカルエッセイ

70 さあ、医学部を目指しましょう! 2008/11/22

2008年11月4日、文部科学省は、医学部がある79の国公私立大学(防衛医大を除く)のうち、77の大学で2009年度の医学部定員を合計693人増やし、総定員数を8,486人とする計画を公表しました。総定員は、これまで最多だった1981年度の8,280人を206人上回り、過去最多となります。

 77校のうち73校は、地域医療充実の貢献策を示しており、多くの大学が奨学金や入試での「地域枠」設定で、地元に根付く医師の養成に取り組むことを表明しています。

 また、693人の増員の内訳は、政府が昨年(2007年)決めた緊急医師確保対策分として189人、重要政策を示す「骨太の方針2008」での特例措置分が504人です。文部科学省によりますと、特例で増員するには、地域貢献策への取り組みが前提で、全73校が地域の病院や診療所での実習をおこない、地域医療教育を強化することになっています。

 73校のうち62校は、卒業後の一定期間、地域医療に従事する学生への奨学金を設ける予定です。入試で地元高校出身者を対象とするといった「地域枠」を設ける予定の学校は47校です。

 定数増の内訳は、国立大が42校で363人、公立大8校で59人、私立大27校で271人です。大学別では10人前後の増員が多く、順天堂大と岩手医大の20人が最多となっています。昭和大と近畿大は増員がありません。

 文部科学省は、今回の増員について、「当面の緊急的な措置。2010年以降は医療界の意見や厚生労働省による医師の需給状況を踏まえ検討する」としています。今回の増員は年内に正式に決定される見通しです。

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 ここ1年間くらいは受験に関する相談メールが減ってきているなぁ・・・と感じていたのですが、1、2ヶ月前からまた少しずつ増えてきているように思えます。その理由は、おそらく行政が医学部定員増加をほのめかしていたことと無関係ではないでしょう。あるいは、景気低迷で就職状況が悪くなってきたこととも関係があるかもしれません。

 いずれにせよ、今回の文部科学省の発表で、2009年度に関しては医学部定員の増加(それも大幅増加!)は間違いないでしょう。そして、おそらく2010年度以降も、2009年度程ではなくなるかもしれませんが、ある程度の定員増加は期待できるものと思われます。

 医学部定員増加に対して、「一人前の医師に育つには医学部入学後最低でも10年程度はかかるんだから・・・」という理由で、現在の医師不足問題の根本的な解決にはならないのではないか、とする意見があり、それはその通りなのですが、受験生からみたときには、定員増加というのはやはり嬉しいニュースでしょう。

 最近のマスコミの報道をみていると、「医師が不足している」というのは共通の認識のようで、今から十年くらい前に言われていた「医師過剰」という言葉はほとんど見かけなくなりました。

 どんな医師が不足しているかという点については、報道が圧倒的に多いのが産科医で、2008年10月に起きた東京の墨東病院で妊婦を迅速に受け入れることができずに結果的に妊婦が亡くなられた事故や、2006年8月に奈良の大淀病院で出産中だった妊婦が急変したのにもかかわらず受け入れる病院がなかったことで死亡された事故がよく引き合いにだされます。

 小児科医不足も各マスコミ共通の認識をしています。外科医や麻酔科が不足していると語られることも増えてきました。また、最近では内科医不足もクローズアップされるようになり、2008年10月、阪南市立病院の内科医と総合診療科医の合計8人がそろって辞表を提出したニュースは大きな話題となりました。

 一方、開業医の不足が取り上げられることは、僻地ではあったとしても、都会の開業医が不足している、と言われることはほとんどありません。では、実際のところ、都会の開業医が足りているのかと言えば、私の実感で言えば、まったく足りていません。これは、少し想像すれば簡単に分かることです。いつでも気になることがあればすぐに受診してすぐに診てもらえるような医療機関がどれだけ存在するでしょう。大病院に行けば、数時間の待ち時間、診療所やクリニックでも予約がないとかなりの待ち時間(予約があっても長時間待たされることもあります)、日曜や祝日は開いている医療機関を探すのに一苦労です。

 医療行為というものを患者側のニーズから考えたときに、都会の開業医が病院勤務医と同様に不足しているのは自明でしょう。しかし、これは我々医師(開業医)の側からみたときも同様です。80歳を超えても引退できない開業医は少なくありませんし、診療時間を短くしたくてもできない医師はかなりの数に昇るでしょう。引退したり診療時間を短くしたりすると、受診したくてもできない患者さんを増やすことになるからです。

 医師という職業に興味のある方は、定員増加が決定されたこの時期に医学部受験を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。医師があり余るというようなことは、少なくとも向こう何十年かはないでしょう。医療費が不足するということは起こりえますが(すでに起こっています・・・)、純粋に患者側のニーズが満たされるにはまだまだ医師は不足しているのです。

 ところで、現在のように株価や為替が不安定になると、いかがわしそうな(実際はそうではないのかもしれませんが)投資商品の売り込みが増えます。どこかの国の首相が考えているように「医師は社会常識に欠ける」ために、投資商品の営業からみれば医師はいいカモにうつるのかもしれません。

 若い人のなかにも投資に興味があるという人はおられるでしょう。それはそれでいいとは思うのですが、株式や為替といった一般的な投資を考える前に、"自己投資"を考えてみてはいかがでしょうか。

 自己に投資をおこない、技術や知識を身につければ、これほど強い"財産"はありません。たとえ世界大恐慌がおこっても、極端な円高になったとしても、忠誠を誓っていた会社が突然倒産したとしても、世間に通用する技術や知識があれば路頭に彷徨うようなことはありません。

 自己投資といっても様々なものがあります。1冊の本を読むことで、その後の人生が大きく変わることもあるでしょう。毎日1時間の勉強を何年間か続ければ、その分野に関してはかなりの知識が身につくでしょう。週末だけを利用して特殊な技術を習得できるといったこともあるでしょう。

 そんな様々な自己投資のなかに、「医学部を目指す」という選択肢を入れてみてはいかがでしょうか。もちろん、「医療に興味がある」というのが大前提です。知識と技術の習得にはかなりの年月を費やさなければならないですし、生涯勉強は続きますし、労働時間を考えたときには割に合わない仕事になるかもしれません。

 それでも医師を目指したい・・・、そのように考える人が増えることを期待したいものです。