メディカルエッセイ

第126回(2013年7月) 我々はベジタリアンの道を進むべきか

  前回は、巷に出回っている「日本人は肉をもっと食べなさい」という意見が、大変乱暴であり危険である、という話をしました。では、肉はまったく食べるべきでないのか、と言えば、確かにそのような意見があるのは事実なのですが、私自身はそこまでは考えていません。というより、肉より美味しいものがあるのか、と私自身感じることもあるくらいですから、肉は禁止するのでなく上手に美味しく食べる方法を考えるべきだと思います。

 しかし、最近の世界的な流れとしては、肉がますます「危険な食べ物」と見られるようになり、ベジタリアンを讃賞する声が増えてきているような感じがします。最近発表された大規模研究でもそのような結果がでています。

 ベジタリアンになると死亡率が12%も減少する・・・。

 これは米国カリフォルニア州のロマ・リンダ大学(全米で最大の私立医科大学)のMichael J. Orlich博士らによる研究結果で、医学誌『JAMA Internal Medicine』2013年6月3日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 この研究の対象となったのは、米国及びカナダ在住の73,308人の25歳以上の男女で、全員がセブンスデー・アドベンティスト教会(注2)の信者です。対象者を次の5つのグループに分けて解析が行われています。(「ベジタリアン」は4つに分類されています)

①非ベジタリアン(non-vegetarian)
②セミ(semi-vegetarian):魚も鶏肉もOKのベジタリアン
③ペスコ(pesco-vegetarian):鶏肉はNG、魚はOKのベジタリアン
④ラクト・オボ(lacto-ovo-vegetarian):牛乳と卵はOKのベジタリアン(注3)
⑤ヴィーガン(vegan):牛乳や卵もNG、完全なベジタリアン

 平均で5.79年の追跡調査がおこなわれ、73,308人中2,570人の死亡が確認されています。死亡率(1年間に人口1,000人当たり何人が死亡するか)は6.05人となります。②~⑤の各ベジタリアンの死亡率は、②のセミで6.16人、③のペスコで5.33人、④のラクト・オボで5.61人、⑤のヴィーガンで5.40と、②のセミ以外のベジタリアンは、非ベジタリアンに比べて死亡率が低下しています。

 研究ではさらに分析が加えられています。①非ベジタリアンに対する②~⑤の全ベジタリアンのハザード比(①を1としたときの②~⑤の危険度と考えてください)は0.88となり、これは12%のリスク減少があるということになります(注4)。

 さて、これだけベジタリアンに有利な研究が登場すると肉食推進派たちはどう反論するのでしょうか。比較的新しい年月で肉食を肯定するような研究を探してみたのですが残念ながらめぼしいものはありませんでした。肉の脂肪が身体に良い、とする研究はないでしょうが、赤身についてならあるかもしれません。そのように考えて最近の研究を調べてみたのですが、結果はその逆で「赤身の肉も危険」とするものが複数みつかりました。

 医学誌『British Journal of Nutrition』2013年5月7日号(オンライン版)(注5)には日本人による日本人を対象とした研究が紹介されています。国立国際医療研究センター疫学予防研究部の黒谷佳代博士らの研究で、「赤身肉の摂取量が多い男性は糖尿病リスクが約1.5倍高い」結論づけられています。

 もうひとつ紹介しておくと、医学誌『JAMA Internal Medicine』2013年6月17日号(オンライン版)(注6)でも似たような研究結果が掲載されています。こちらの結論も「赤身肉をたくさん摂取すると糖尿病のリスクが1.5倍になる」とされています。こちらは対象者が米国人ですが、上に述べた日本人を対象とした研究と同様に、「糖尿病のリスクが1.5倍」とまったく同じ結果がでていることが興味深いと言えます。

 肉食が健康を害するという例は、論文を読まなくても実感することができます。沖縄がその最たる例だと思います。周知のように沖縄は、以前は長寿の地域として有名でしたが、ここ10~20年で一気に肥満と生活習慣病で有名な県に様変わりしてしまいました。

 この理由はあきらかで、野菜や海藻中心の伝統的な食生活から米軍が持ち込んだ肉製品に大きく変化したからです。私が沖縄を初めて訪れたのは1987年ですが、この頃すでに少なくとも沖縄の若者は伝統料理をそれほど食べていませんでした。誤解を恐れずにいえば、伝統的な沖縄料理を美味しく食べられる人はそう多くはないと思います。沖縄料理は豚肉をよく使うから健康、と言われることがありますが、これも私が沖縄で聞いたところによれば正しくありません。ある沖縄の高齢者は、豚肉を食べるのはせいぜい年に1度か2度(つまり肉をほとんど食べない)、と言っていました。

 沖縄料理と聞いて、ゴーヤやもずくを思い浮かべる人が多いでしょうが、私にとっての沖縄料理というのは「スパム」「ステーキ」「ファストフード」という生活習慣病の大敵ばかりです。私は大学生(関西学院大学時代、1987年~1990年)に毎年沖縄でアルバイトをしていたために、沖縄の食文化にどっぷりとつかっていました。普通の食堂で出てくる伝統的な沖縄料理は美味しく感じられないために、つい自分でも食べられそうなものを注文することになるのですが、スパムを焼いたものは安くて腹もちがいいためによく食べていました。スパムとは缶詰のハムで、今では本土でも普通のスーパーに売っていますが、当時は日本で手に入るのは沖縄くらいだったと思います。普通のハムに比べると美味しくはないのですが、それでも他に食べられるものがないためにスパムを食べることになるのです。

 ステーキハウスは沖縄にはたくさんあって値段も随分安いのですが、それでも学生が気軽に食べられるものではありません。そこで、「ジャッキー」や「88(ハチハチ)」といった大衆ステーキハウスにあるハンバーグとフライがセットになっているような「Cランチ」(注7)を注文することになります。ファストフードは学生でも手軽に食べられますし、沖縄のファストフード店の充実度は間違いなく日本一でしょう。24時間営業も当たり前で、ほとんどすべてのファストフード店(注8)がそろっています。

 というわけで、私の沖縄での食生活は、食堂でスパムを焼いたものを食べる、またはスーパーでスパムを買う、1日1度はファストフードでハンバーガーのセットを食べる、ステーキハウスでは安い「Cランチ」を食べる、といった感じでした。しかしこれは私だけでなく、本土から沖縄にやってきた若者の多くは似たような食生活になっていましたし、おそらく沖縄の若者もさほど我々と差はなかったのではないかと思います。そして、アメリカ型の食生活、スパム、ステーキ、ファストフードという肉食文化にどっぷりと浸かった結果が、肥満と生活習慣病の急増というわけです。

 世界の研究では、ベジタリアンが賞賛され、肉については脂肪はもちろん赤身も身体に悪いとされ、実感としても、沖縄の肥満と生活習慣病の増加の原因が肉食にあることは自明です。

 では我々は、ベジタリアンの道を進むべきなのでしょうか。

 私はそうは考えていません。前回のコラムでも述べたように、私は「肉食推進派」ではありませんが、肉は上手に美味しく食べるべき、という考えをもっています。まずは、大規模調査に比べると説得力は随分と弱くなりますが、肉は悪くない!という理由を考えてみたいと思います。

 まず、肉、特に赤身肉には非常に良質なアミノ酸が含まれていてこれは紛れもない事実です。ですから摂りすぎなければ肉は効率よく大切なアミノ酸を摂取できるのです。この意見に対し、ラクト・オボのベジタリアンたちは、卵と乳製品で充分摂れますよ、と反論してくるでしょう。たしかにそれはその通りです・・・。

 では、肉にあって卵や乳製品にないものは何か・・・。私がさんざん考えた挙句に出た結論は「肉の方が美味い!」という、医療者らしくない理由だけでした・・・。それでも医者か!、とお叱りの言葉を受けるかもしれませんが、ここは開き直って「美味しく食べることができて身体を害さなければそれでいいじゃないか!」と考えています。

 この「身体を害さなければ」というところが非常に大切で、この点が「日本人は肉を食べなくなった。もっと肉を食べなければならない」とする肉食推進派と私の考えが異なるところです。私は、前回も述べたように、肥満者が増えている現状をみたときに日本人はこれ以上肉の摂取を増やすべきではないと考えています。しかしまったく摂るべきでない、と言っているわけではありません。少量の肉を上手に美味しく食べましょう、これが私の考えです。

 例えば、運動の後などでとてもお腹がすいたときに何が食べたくなるでしょうか。私はこのようなときハンバーグや焼肉などの肉料理を想像するとワクワクします。あの空腹感のなかで、卵と乳製品だけを思い浮かべて満足することは私にはできません。まして、お腹の音が聞こえてくるほどの空腹時に、野菜や豆乳、ライスミルクを想像して「これで必要な栄養素がとれるか」といった計算をするような食生活は無理です。

 ならば少量の美味しい肉を、毎日は無理でも1日おきくらいに味わいながら食べることを考えればいいのです。しかし「少量」というのを外食でおこなうのは案外むつかしいものです。

 では、朝と昼をわずかにして夕食時に肉がメインのディナーを食べるようにすればどうでしょう。「肉がメインのディナー」、考えただけでも楽しくなるではないですか。私はこれを書きながらなつかしの「Cランチ」のことが頭から離れなくなってきました。この次那覇に行ったときには、朝と昼は少しの果物と野菜だけにして、夜に「Cランチ」を食べに行こう・・・。今、そんなことを想像して悦に入っています。(しかし、今でも「ジャッキー」や「88」、そして「Cランチ」はあるのでしょうか・・・)

 

注1:この論文のタイトルは、「Vegetarian Dietary Patterns and Mortality in Adventist Health Study 2」で、下記のURIで概要を読むことができます。

http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1691919#Abstract


注2:セブンスデー・アドベンティスト教会は、日本では「安息日再臨派」とも呼ばれるプロテスタントの一派で、菜食主義を推奨しています。


注3:ベジタリアンの分類には、ラクト(lacto-vegetarian)というのもあり、卵はNG・乳製品はOKというタイプです。これに対し、オボ(ovo-vegetarian)と呼ばれる、卵はOK・乳製品はNGというタイプのベジタリアンはそう多くはないと思います。


注4:世間には、ベジタリアンは不健康とする説もありますが、その最大の理由は、肉に含まれているビタミンDを野菜からは摂取できないからです。日光にあたればビタミンDは合成されますが、今度は紫外線のリスクを考慮しなければなりません。そこで、ヴィーガンの人たちは栄養強化された豆乳やライスミルクでビタミンDを摂取しているそうです。(ビタミンDは乳製品にも含まれますから上記②③④のベジタリアンでは問題ありません)


注5:この論文のタイトルは「Red meat consumption is associated with the risk of type 2 diabetes in men but not in women: a Japan Public Health Center-based Prospective Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?fromPage=online&aid=8896651&fulltextType=RA&fileId=S0007114513001128


注6:この論文のタイトルは「Changes in Red Meat Consumption and Subsequent Risk of Type 2 Diabetes MellitusThree Cohorts of US Men and Women」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1697785


注7:当時(80年代後半)の私がよく通っていたステーキハウスは那覇港の近くにあった「ジャッキー」と「88(ハチハチ)」でした。たしかどちらも「Cランチ」(「Bランチ」だったかもしれません)という名前のセットメニューで、メインディッシュはハンバーグとたしかトンカツかチキンカツ(もしかしたら魚のフライだったかもしれません)とサラダ、これにライスとスープがついて380円という大変お得なメニューだったのです。それに「ランチ」とは名ばかりで24時間いつでもこの値段で食べられたのです。

注8:数多くあるファストフード店のなかで、私は「A&W」が最も気に入っていたのですが、本土にはあまりありません。80年代には神戸と、たしか東京にもあったと思うのですが今はおそらくないと思います。A&Wの名物といえば、ルートビアという薬臭いドリンクで、当時はそれほど美味しいとは思わなかったのですが、なぜかその後無性に恋しくなってきました。最近私が沖縄に行くのは数年に一度ですが、行けば必ずA&Wに立ち寄りルートビアを注文します。


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