医療ニュース

2008年12月1日(月) 老舗の入浴剤「ムトーハップ」が製造中止に

 今年の4月頃から硫化水素を発生させた自殺が急激に増えており、これを受けて老舗の入浴剤「ムトーハップ」が10月末で製造中止となりました。

 実際に硫化水素を発生させるには、ムトーハップの他にも別の薬液が必要ですが、こちらについては現在ごく簡単に入手できる状態が続いており製造中止になるとの発表はありません。

 硫化水素による自殺が相次いだことで、日本チェーンドラッグストア協会は5月、加盟店にムトーハップの販売自粛を要請しました。同協会は7月末にこの自粛を解除しましたが、敬遠される傾向は変わらず、売り上げは通常の4割以下にまで落ち込んでいたそうです。

 問題はムトーハップを製造していた武藤鉦(むとうしょう)製薬が工場閉鎖に追い込まれるということです。別の事業をおこない、なんとか倒産は避けるようにつとめるそうですが、同社にとってムトーハップが唯一の商品でしたから従業員の一部が解雇され収入源のほとんどが断たれることになるようです。

 約80年の歴史を誇る看板商品が汚された悔しさと苦境から、同社の武藤社長は「この思いをどこにぶつけたらいいのか」と話しているそうです。

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 ムトーハップは、疥癬(かいせん)というダニの病気の治療に使うこともできるため、疥癬にかかった(あるいは疑いのある)患者さんに対して、私は医師としてこれまで推薦してきました。

 医師の立場からしても大変有用な入浴剤で、私自身が疥癬(疑いも含めて)の患者さんと接したときには、ムトーハップを入れた風呂に入るようにしています。また、別に疥癬の疑いがなかったとしても、ムトーハップは大変気持ちのいい入浴剤でついつい長湯をしてしまう程リラックスさせてくれます。(あとの風呂掃除に時間がかかるのがちょっと面倒くさいですが・・・)

 武藤鉦製薬の従業員の方はさぞかし悔しい思いをされているだろうと察します。「医療機関での処方限定」というかたちにして、従来どおり疥癬の患者さんに利用してもらえるようにはならないものなのでしょうか。

(谷口恭)