医療ニュース

2010年1月21日(木) 抗うつ薬は重症患者にしか効かない?

 うつ病の症状が軽症か中程度の場合は、抗うつ薬を飲んでも効果がない・・・。

 このような発表が米国ペンシルバニア大学などの研究チームによって発表され、話題を呼んでいます。(報道は1月13日の読売新聞)

 この研究では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬、及び三環系抗うつ薬と呼ばれる抗うつ薬を用いた患者と、有効成分を含まない偽薬を用いた患者の回復の度合いを6週間以上にわたって比較した研究をまとめて解析しています。対象患者は718人にのぼります。

 研究では、「抑うつ気分」や「仕事への興味」といったうつ病の症状を点数化した評価法を用いて、症状の重さごとに、①軽症・中等症、②重症、③最重症の3つのグループに分け、偽薬を服用した場合との効果の違いを検討しています。その結果、軽症・中等症のグループと、重症患者のグループでは、回復度に薬の効果を示すほどの差は認められなかったそうです。最重症のグループでは「臨床的に意味のある差」が認められたとされています。

 研究チームは「抗うつ薬の研究は重症者だけを対象としたものが多く、それが効果の根拠とされてきた。あまり重くないうつ病に対し、抗うつ薬は効果があるという証拠は見つからなかった」としています。

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 この報道は誤解を生みやすいように思いますので補足をしておきます。

 まず、研究で用いられているSSRI及び三環系抗うつ薬(下記注も参照ください)は、初めから比較的重症のケースに用いられるケースが多いと言えます。実際の臨床の現場では、軽症であれば薬は初めの段階では使わないことも多いですし、中等症くらいで薬を使用する場合でも、作用がおだやかな薬から始めるのが一般的です。そして、そういった「作用がおだやかな薬」は多くのケースでよく効きます。

 ですから、「軽症・中等症に抗うつ薬は効かない」は表現が適切でなく、「軽症・中等症にSSRIや三環系抗うつ薬は使用すべきでない場合がある」とすべきだと思われます。


注:日本でよく使用されるSSRIは、商品名で言えば、「パキシル」「ジェイゾロフト」「ルボックス」「デプロメール」など、三環系抗うつ薬は「トリプタノール」「アナフラニール」「アモキサン」などです。

(谷口恭)