医療ニュース

2010年3月25日(木) 青魚を食べるとうつが改善?

 青魚を食べると心が落ち着き、うつが改善し攻撃性が低下する・・・

 2010年3月16日の読売新聞はこのような記事を掲載しています。同紙は、青魚に含まれるω3(オメガ3)系脂肪酸が、うつの改善に有効ではないかと述べています。

 ω3系脂肪酸とは不飽和脂肪酸の1つですが、ここで有機化学のおさらいをしておきましょう。

 まず、人間にとって必要な栄養素に「脂肪」があります。(脂肪は三大栄養素の1つで、あとの2つは炭水化物とたんぱく質ですね) 脂肪は体内でグリセリンと脂肪酸に分解されます。脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けることができます。(「飽和」とか「不飽和」というのは分子の結合様式を指すのですがこれ以上の深入りはやめておきます)

 飽和脂肪酸は、主に肉類に含まれている脂肪酸で、これは摂取しすぎるのはよくないとされています。一方、不飽和脂肪酸は、さらに細かく分類され、ω3系、ω6系、ω9系と分かれます。このうちω3系とω6系は、体内で合成することができず必ず食物から摂らなければなりません。これを必須脂肪酸と呼びます。一方、ω9系は体内で合成することができますから、あまり重要ではありません。

 さらに話を進めます。ω3系は魚介類、亜麻仁油、魚油などに多く含まれていて、ω6系は、紅花油、ひまわり油、大豆油、クルミなどに含まれています。近年注目されているのはω3系の脂肪酸で、たくさん摂取することによって心臓病が予防できると考えられています。サプリメントにもありますし(EPAやDHAのことです)、一部には医薬品として処方されているものもあります。

 さて、話を戻しましょう。読売新聞の報道では、「魚をよく食べる人は自殺企図が少ない」(日本、フィンランド、米国)といった疫学調査があり、さらに、「攻撃性や衝動性が減る」、「うつが改善する」といった研究報告もあるそうです。しかし、一方では効果がなかったという報告もあり、科学的な検証はまだ途上といったところでしょう。

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 ω3系の脂肪酸を積極的に摂取することでうつが改善し自殺予防になるのなら、精神疾患の患者さんに対してもっと積極的な摂取を推薦すべきでしょう。しかし、「魚をよく食べる人は自殺企図が少ない」との調査が日本とフィンランドであるというのは少し不思議な気がします。なぜなら、青魚をよく食べる日本もフィンランドも共に「自殺大国」として有名な国だからです。

 けれども、ω3系脂肪酸が心血管系にいいのは間違いないでしょうから、コレステロールやメタボリックシンドロームが気になる人は積極的に摂取すべきですし、たとえうつの治療や自殺予防の効果はそれほど強くなかったとしても、規則正しい食生活が心身にいい影響を与えるのは間違いないでしょうから、<あまり期待しすぎないで積極的に摂取する>くらいの気持ちでいればいいのではないかと思われます。

(谷口恭)