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2010年5月21日(金) 飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減

 酒は百薬の長。そう言われる割には、アルコールに関する報告は有害とするものが圧倒的に多いように感じます。しかし、アルコールによって病気のリスクが、それも悪性腫瘍のリスクが低下するという研究結果が発表されました。

 厚生労働省の研究班は、5月10日、「飲酒によってリンパ系腫瘍のリスクが低くなる可能性が示された」と発表しました。

 この研究は、1990年と1993年に岩手県二戸、秋田県横手、茨城県水戸、新潟県柏崎、長野県佐久、大阪府吹田、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県中部・宮古の10保健所管内に住んでいた40~69歳の男女約96,000人を、2006年まで追跡調査し、飲酒と悪性リンパ腫(以下ML)及び形質細胞性骨髄腫(以下PCM)の発生率との関係を調べています。平均追跡期間13.6年の間に、 MLが257人、PCMが89人確認されています。

 調査開始時のアンケートをもとに、お酒を「飲まない(月に1回未満)」、「時々飲む(月に1~3回)」、「毎週飲む(週あたりのエタノール換算量1~149グラム)」「毎週飲む(同150~299グラム)」、「毎週飲む(同300グラム以上)」に分け、その後のMLとPCMの発生率を比較しています。(エタノール換算量については下記参照ください)

 MLとPCMを合わせたリンパ系腫瘍発生のリスクは「時々飲む」に比べると、「毎週飲む」のアルコール摂取量が多いグループで低くなっています。MLとPCMに分けた場合は、統計学的に有意ではないものの、どちらもリスクは、「時々飲む」と比べ、アルコール摂取量が多いグループで低下する傾向が認められています。

 お酒を飲むと、どうしてこれら悪性腫瘍のリスクが低下するのでしょうか。研究班は、飲酒によるリンパ腫抑制作用のメカニズムとして、「適度なアルコール摂取により免疫反応やインスリン感受性が改善されることなどが知られている」と説明しています。さらに、今回の研究では、「かなり摂取量が多いグループでリスクの低下が見られたので、それらとは別のメカニズムが働いているとも考えられる」としています。

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 エタノール換算量とは、例えば「週に300グラム」というのは、ビールなら大ビン14本(1日2本)、日本酒なら14合(1日2合)、ワインならグラスで28杯(1日4杯)となります。

 この調査結果が注目に値するのは、「飲酒の量が多いほど疾病のリスクが低下する」となっている点です。「適度な量」ではなく「飲酒の量が多いほど」なのです。大酒飲みには一見嬉しい結果にみえますが、他の多くの悪性腫瘍では、大量飲酒はリスクを高めると考えられていることは忘れないようにしましょう。

(谷口恭)