医療ニュース

2012年10月27日(土) セアカゴケグモに注意

 セアカゴケグモの被害が相次いでいます。

 今年(2012年)7月23日には、大阪府泉佐野市で11歳の男児が右の胸をかまれて治療がおこなわれたことが報告されています。(どのような状況でセアカゴケグモが胸にかみついたのかはわかりません)

 9月3日には福岡市東区で86歳の女性が足の指をかまれて医療機関を受診しています。この女性は重症化し、呼吸困難も生じ、抗血清まで使用されたそうです。

 セアカゴケグモは、ヒメグモ科に分類される小型の有毒グモで、メスが人をかむそうです。メスの体長は約1cm、黒色で腹部に砂時計型の赤色紋があるのが特徴です。オスは約0.4mmとメスの半分以下のサイズで、褐色で腹部に白い斑紋があるそうです。(メスのみがかむのかもしれませんが、小さなオスにはかまれても医療機関を受診するほどでないのかもしれません)

 セアカゴケグモは、もともと日本には生息していませんでしたが、オーストラリアから輸入された材木やコンテナなどに付着して国内に定着したと考えられています。1995年に大阪府高石市で初めて見つかったときは大きく報道されましたから、当時のニュースを覚えている方も多いのではないでしょうか。その後、おそらく日本国内での物資の移動が原因で、生息域が拡大しています。現在では、北海道や東北地方を除く日本のほぼ全域で確認されています。工場や住宅地のブロックや、道路の溝、公園の植え込みなどで見つけられることが多いそうです。

 セアカゴケグモの毒は「αラトロトキシン」と呼ばれる神経毒です。かまれてから、5~60分ほどで強い痛みが生じ、徐々に広がるそうです。多くは軽症ですむそうですが、冒頭で紹介した福岡の女性のように、重症化することもあるようです。

 国立感染症研究所昆虫医科学部の報告によりますと、「セアカゴケグモの被害は1995年以降20例ほど報告されているが、国内での死亡例はない」、とのことです。「小児や高齢者では重症化する可能性もあるが抗血清を適切に使えば対処できる」、そうです。

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 私自身はセアカゴケグモの被害にあわれた患者さんを診察したことがないので推測の域を超えませんが、診察した医師の報告によれば、治療にはコデインやモルヒネといった麻薬やダントロレンなどの筋弛緩薬が用いられています。こういった薬剤を用いなければならない症例は入院が必要ですし、「軽症」とは呼べないのではないかと思います。

 上記に「抗血清を適切に使えば対処できる」とありますが、セアカゴケグモの抗血清はそもそも日本には存在しませんし、抗血清を使うときはアナフィラキシーを含む重篤な副作用を考えなければなりません。

 セアカゴケグモのいそうな溝や公園には近づかないようにしましょう、などと言うと子供の遊び場を制限することになりますし、これからの対策には苦労することになるかもしれません。

(谷口恭)