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2012年8月27日(月) 太っているだけなら早死にしない?

 数年前から、単に太っているだけなら寿命が短くなるわけではない、あるいは、少し太っている方が長生きする、という研究が相次いでいますが、新たに「肥満は短命のリスクでない」とする研究が、医学誌『JABFM(Journal of the American Board of Family Medicine)』2012年7-8月号(オンライン版)(注1)で発表されました。

 この研究は、米カリフォルニア大学サンディエゴ校によりおこなわれています。研究の対象者は、2000~2005年に実施された「Medical Expenditure Panel Survey(MEPS)」という調査に参加した18~90歳の男女約51,000人です。身長と体重から算出したBMI、糖尿病・高血圧の有無を調べ、6年間の追跡調査がおこなわれています。追跡期間中に死亡したのは全体の3.1%だったそうです。

 この研究では対象者を5つのグループに分けています。BMI20未満(注2)の「低体重群」、BMI20~25未満の「普通体重群」、BMI25~30未満の「過体重群」、BMI30~35未満の「肥満群」、BMI35以上の「超肥満郡」の5つです。

 分析の結果、「普通体重群」「過体重群」「肥満群」では、糖尿病・高血圧の有無に関わらず寿命に差はありませんでした。「超肥満群」では、死亡のリスクが高いという結果がでていますが、糖尿病や高血圧の患者を除いて分析すると有意差が消失したそうです。つまり、太っているからといって必ずしも短命というわけではなく、超肥満であっても糖尿病や高血圧がなければ早死にするわけではない、ということになります。

 さらに、糖尿病や高血圧を持っていない「肥満群」では、6年間の平均余命に及ぼすリスクが「普通体重群」に比べ低くなる(0.81倍)という驚くべき結果もでています。また、糖尿病で早死にするリスクは、「肥満群」や「超肥満群」よりも「低体重群」の方が高いという、これまた意外な結果となっています。

 「低体重群」にとって好ましくないデータはまだあります。「低体重群」のグループは、糖尿病や高血圧に関係なく、「普通体重群」に比べ死亡リスクが1.8~1.9倍にもなったというのです。

 この研究が発表されたのとほぼ同時期に、医学誌『JAMA』2012年8月8日号(オンライン版)(注3)に似たような研究が発表されました。その研究では、「糖尿病発症時に正常体重であれば、過体重・肥満であった場合と比べると、死亡リスクが約2倍となる」、としています。

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 これら2つの研究をまとめると、①やせていれば寿命は短い。逆に少々の肥満があっても問題ない、②「超肥満」であっても糖尿病や高血圧がなければ問題ない、③肥満がない状態で糖尿病に罹患すれば死亡リスクが上昇する、となります。

 しかし、肥満は糖尿病や高血圧を導きやすい、というのもまた事実です。特に日本人は欧米人に比べると、肥満に耐えられない、つまり、肥満になる前に糖尿病などを発症しやすい、と言われています。

 あまりこういった研究には影響を受けずに、太らないことに注意する方が賢明だと私は考えています。

(谷口恭)

注1 この論文のタイトルは、「Body mass index, diabetes, hypertension, and short-term mortality:
a population-based observational study, 2000-2006」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.jabfm.org/content/25/4/422.full.pdf+html?sid=33ede6ef-8e8b-4a69-b03a-945955974e11


注2 BMIとは体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った数字です。この研究のグループで考えると、身長を170cmとすれば、
低体重群:57.8kg未満
普通体重群:57.8kg~72.75kg
過体重群:72.75~86.70kg
肥満群:86.70~101.15kg
超肥満群:101.15kg以上
となります。

注3 この論文のタイトルは、「Beyond the Obesity Paradox in Diabetes, Fitness, Fatness, and Mortality」で、下記のURLで概要を読むことができます。(しかし、この概要には重要なことがほとんど書かれていません・・・)

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1309157