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2013年7月31日 ω3系脂肪酸で前立腺ガンのリスクが4割上昇

  EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)を代表とするω3系の脂肪酸は大変身体によく、特に心筋梗塞などの心疾患のリスクを減らす、ということは随分前から指摘されています。ω3系脂肪酸は魚油に豊富に含まれており、魚をよく食べる地中海沿岸諸国で心疾患が少ないことはよく知られています。

 そこで、EPAやDHAを食事だけでなく薬やサプリメントとして摂取しようと考える人も多く、この傾向は国内市場でも加速しています。この詳細については2013年3月のメディカルエッセイ「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」で述べました。

 しかし、ω3系の脂肪酸を取っていればそれで充分なのか、と言えばそういうわけではなく、最近は否定的な研究、つまり積極的にサプリメントなどからこれらを摂取しても心疾患が減るわけではない、とする研究もでてきています。これについても上記コラムで紹介しています。そして、そのコラムで、「ただし、サプリメントなどからではなく、食事から積極的にω3系脂肪酸を摂取することは推奨されるべき」、と述べました。

 私がこのコラムを書いたとき、ω3系脂肪酸の有害性についての報告はほとんど見たことがありませんでした。しかし、最近、有害性についての報告が、それもガンのリスクを大幅に上昇させるという報告がありました。

 ω3系脂肪酸の濃度が高い男性では前立腺ガンの発症リスクが43%も高い。さらに悪性度の高い前立腺癌を発症するリスクは71%も高い・・・

 医学誌『Journal of National Cancer Institute』2013年7月10日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)にこのようなことが述べられています。

 この研究は、米国オハイオ州のオハイオ州立大学総合ガンセンター(Ohio State University Comprehensive Cancer Center)のTheodore M. Brasky氏らによっておこなわれています。ある調査に参加した35,000人以上の男性のなかから前立腺ガンの診断がついている834人と無作為に抽出した1,393人の血中のω3系脂肪酸の濃度が調べられています。

 その結果、先に述べたように、ω3系脂肪酸の濃度が高ければ前立腺ガンのリスクが4割以上も上昇し、しかも悪性度の高いタイプのガンでよりリスクが上がるという、衝撃的な結論が導かれたのです。

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 過剰な期待は禁物であるとしても、これまでω3系脂肪酸が健康上のリスクになるとは考えられていませんでした。しかも、興味深いことに、この研究では血中のω3系脂肪酸を測定していますから、それがサプリメントで摂取されたのか食品から摂取されたのかの区別がつきません。

 これがサプリメント摂取群にのみ発ガンリスクが上昇した、という結果なら受け止めやすいのですが、食品から摂ってもリスクが上昇するというのなら、将来的には「今後我々は何を食べるべきか」について見直しが必要になるかもしれません。

 しかし現時点では、なぜω3系脂肪酸摂取で前立腺ガンのリスクが上がるのかを説明する理論はなく、この研究結果が普遍的なものであると結論づけることはできません。もしもこの説が正しいなら、魚類をよく食べる地中海沿岸諸国や、日本でも前立腺ガンが多くなければなりません。しかし、少なくとも日本で言えば、前立腺ガンはそれほど多くなく、最近になって増えてきているのは、むしろ伝統的な魚料理ではなく肉をよく食べるようになったからではないかと言われているほどです。

 今回の研究結果を受けて魚を食べない、などとは考えるべきでなく、これまで通りバランスのとれた食事を心がけるべきでしょう。


(谷口恭)

注1 この論文のタイトルは、「Plasma Phospholipid Fatty Acids and Prostate Cancer Risk in the SELECT Trial」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://jnci.oxfordjournals.org/content/early/2013/07/09/jnci.djt174.abstract?sid=0649de2f-c774-4949-8eba-aa1050f4dce8


参考:メディカルエッセイ第122回(2013年3月)「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」