医療ニュース

2013年8月30日 超低用量ピルでの死亡例

  飲んで避妊ができる薬としてピルが開発されたのは1955年の米国でした。FDA(米国食品医薬局)で承認されたのが1960年です。当時のピルはホルモン濃度が高く、副作用をいかに克服するかが課題でした。その後、ホルモン濃度を減らしたピルの開発が次々とおこなわれ、日本でも2010年についに超低用量ピルが認可されました。(詳しくは下記「はやりの病気」を参照ください)

 超低用量ピル「ヤーズ」は、発売後およそ2年半の間に国内の14万人以上の女性に処方されていると言われており(メーカーの発表)、そのうち副作用の報告は87例に上っています。(87例/14万例は約0.06%になりますが、報告されていない軽微な副作用も実際にはありますから「副作用出現率」はもっと上がるはずです)

 87の副作用報告例のなかで死亡例が1例あります。2013年6月、20代の女性が頭蓋内静脈洞血栓症と呼ばれる頭の中に血の塊ができる状態となり死亡しました(注1)。血栓症というのは、ピルを飲めばリスクになるのですが、そのリスクの大きさは個人によって異なります。喫煙や肥満があればリスクは大きく跳ね上がりますし、単純に高齢になるだけでもリスクは上昇します。

 今回亡くなられた女性は、やせ型で喫煙はしておらず、過去に血栓症を起こしたエピソードもなく、ほとんどリスクはありませんでした。(厳密に言えば祖父が脳梗塞になったことがあるそうですが、通常は祖父の脳梗塞まではあまりリスクとみなしません)

 頭蓋内静脈洞血栓症は頭痛で発症し、そのうち痙攣をきたし意識消失にいたります。この患者さんはヤーズ内服の2日後にすでに頭痛が出現していたそうです。7錠飲んだ時点で服用を中止していますが、主治医が処方してからわずか13日後に死亡しています。

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 頭蓋内静脈洞血栓症というのは、ピルを飲んでいる若い女性に起こりやすいという特徴があります。そして、飲みだして数週間以内に起こることが多いことがわかっています。ですから、頭痛が起これば直ちに服薬を中止して主治医に相談しなければなりません。

 今回私が驚いたのは、まったくといっていいほど血栓症のリスクがない女性が、中容量や低用量でなく超低用量ピルで発症し死亡にまで至ったということです。薬に副作用はつきものですし、月経困難症が薬を必要とするほどのものであったことは理解できるのですが、なんともやりきれない感じがします。

 副作用を恐れすぎるのも問題ですが、現在ピルを飲んでいる人、これからピルを始めようとしているすべての女性にこの症例のことを知ってもらいたいと思います。

(谷口恭)

注1:厚労省の報告を参照ください。

参考:はやりの病気第87回(2010年11月)「超低用量ピルの登場」