医療ニュース

2013年11月29日 輸血でHIV感染

 すでに各マスコミで大きく報道されていますが、HIV感の可能性があった40代男性が献血をし、その血液を輸血された60代男性がHIVに感染した、という事件がありました。現時点で判った情報をまとめておきたいと思います。

・40代男性は危険な性行為が約2週間前にあったのにもかかわらず2013年2月に献血をおこなった。

・献血されたすべての血液はHIVの検査をおこなうが、感染して間もない時期のウイルス量が少ない場合は検査をすり抜けてしまうことがあり今回はすり抜けてしまった。

・その40代の男性は11月上旬に再び献血をおこない、このときにHIV感染が発覚した。

・この男性の2月の献血で輸血を受けた患者は2名いることが判明し、うち1人の60代男性はHIVに感染していたことが発覚した。(注:あとの1人(80代女性)については感染していなかったことが2013年11月30日に報道されました)

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 2003年にも同様の事件(事故)があったのですが、世論の注目度は今回の方が高いように見受けられます。ここ2~3年はHIVに対する世間の関心が低下しており、2003年の頃の方がずっとHIVの注目度が高かったように私は思うのですが、今回の方が議論が加熱しているのはおそらくインターネットが当時より普及しているからでしょう。

 これから起こりうる問題は2つある、と私はみています。1つは「輸血に対する警戒心」です。ある程度大きな手術になれば、術前に輸血の同意書を書くことになりますが、ここで同意に躊躇する人が出てくるのではないかと思われます。となると、医療側としては手術がおこなえず、結果として手術のタイミングを逃してしまうようなことが起こらないかを危惧します。

 もうひとつは、危険な性交渉がありながら献血をした者へのバッシングです。この男性がHIVの検査目的で献血をしたのなら許されることではありませんが、本人としては「それほどリスクのある行為ではない」と感じていて、純粋な善意から献血をしたのであればこの男性だけに責任を押しつけるのは問題です。太融寺町谷口医院のHIVの患者さんのなかにも、「そんなことくらいでまさかHIVに感染するとは思わなかった」という人は少なくありません。この男性に対するバッシングが度を超えないか、私はそれを懸念しています。

(谷口恭)