医療ニュース

2014年8月18日 米国国内で蚊からチクングニアに感染

 今、世界で最も注目されている感染症といえば、西アフリカでアウトブレイクしているエボラ出血熱ですが、米国で報道されたチクングニアも見逃せません。(エボラ出血熱については今月(2014年8月)号の「はやりの病気」で取り上げる予定です)

 チクングニアというのは蚊に刺されることにより、蚊の体内にいたチクングニアウイルスが人の体内に侵入して高熱や倦怠感、関節痛などが発症する感染症です。流行している地域も東南アジアから南アジアが中心ですから、イメージとしてはデング熱と同じようなものと考えて差し支えないと思います。

 そのチクングニアがアメリカ人に発症し米国では大きな話題になっています。なぜ大きな話題になっているかというと、海外に渡航していないアメリカ人2人が感染したからです。つまり、チクングニアウイルスを媒介する蚊が米国内に存在するということを意味するのです。

 感染したアメリカ人はいずれもフロリダ州在住で、1人は41歳の女性、もう1人は50歳の男性です。2人とも最近は海外渡航をしていないそうです(注1)。

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 この2人はどのようにしてチクングニアに感染したのでしょうか。私はカリブ海から来た飛行機や船の中、あるいは貨物の中に蚊がまぎれこんで米国にたどり着いたのではないかと思ったのですが、別の見方もあるようです。

 それは、カリブ海で蚊にさされてチクングニアに感染した人が米国に渡航し、米国にいる蚊がその人を吸血したときにチクングニアウイルスを体内に取り込み、別の人を吸血するときにそのウイルスを感染させる、というストーリーです。このようなことが簡単に起こるのならば、今後爆発的な速度でチクングニアが蔓延する可能性もなくはありません。

 チクングニアという感染症はここ数年で私が耳にする機会が飛躍的に増えてきています。私の場合はNPO法人GINAの関係でタイとつながりがあるというのが最たる理由ですが、増えているのはタイだけでなくアジア全域にかけてです。

 さらに興味深いことにここ1~2年の間にカリブ海でアウトブレイクしています。国立感染症研究所感染症情報センターのウェブサイト(注2)には、1952年~2005年の「チクングニアの報告症例の分布」というタイトルの世界地図が掲載されているのですが、なんとこの図ではカリブ海の報告がゼロになっているのです。つまりカリブ海付近の中米諸国では、これまでになかったチクングニアという感染症がここ数年の間に爆発的に増えているということです。

 チクングニアの日本での報告は、今のところ、海外で感染し帰国後に発症した例に限られているようですが、これからは米国のように国内での感染例も増えていくかもしれません。

(谷口恭)

注1:米国では多くのメディアがこの話題を取り上げています。例えばUSA Todayは「Nasty chikungunya virus gaining traction in U.S.」というタイトルで報道しています。詳しくは下記URLを参照ください。
http://www.usatoday.com/search/Nasty%20chikungunya%20virus%20gaining%20traction%20in%20U.S./

注2:国立感染症研究所感染症情報センターによるチクングニアの情報は下記URLを参照ください。
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k07/k07_19/k07_19.html