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2014年9月2日 血液検査でわかる自殺のリスク

  自殺をするリスクが血液検査でわかる・・・

 このような論文が医学誌『The American Journal of Psychiatry』2014年7月30日号(オンライン版)に掲載され(注1)議論をよんでいます。

 研究者らは「SKA2」と呼ばれる遺伝子に注目しています。SKA2という遺伝子が変異を起こすと、つまりこの遺伝子が働きにくくなると、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの制御がきかなくなり、過剰に分泌されることは以前から指摘されていました。

 研究者らが実際に自殺を図った人のSKA2遺伝子を調べてみると、正常に機能していないことが多いことが判ったそうです。つまり、自殺しやすい人は、SKA遺伝子が働かない→コルチゾールの分泌量が増える→ストレスが増加する→自殺のリスクが上昇する、というわけです。

 研究者らは合計325人の対象者の血液検査をおこない、SKA2がどのような状態で自殺のリスクが上昇するかを検討し、自殺をほのめかしている患者が実際に自殺を図るかどうかが約80%説明できる検査方法を考案したそうです。

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 この研究は医療者の間で現在物議を醸しており、これからも注目されていくと思います。自殺にいたった過程は様々であり、ほとんどのケースで自殺の原因をクリアカットに説明することなどできません。にもかかわらず、この研究ではたった1つの遺伝子で80%が説明できるとしているのです。

 ただ、自殺をするほど思い詰めている人の血中コルチゾールが相当上昇していることは間違いないでしょう。コルチゾールは唾液でも測れますから、ストレスがどの程度貯まっているかを調べるのに唾液のコルチゾール濃度を測定するのは有効な方法かもしれません。(近いうちに簡易キットが誰にでも入手できるようになるかもしれません)

 普段楽観的な人でも強烈なストレスを感じる環境に身を置けばコルチゾールは上がります。ですからコルチゾールの濃度が一時的に高くなるのは正常です。この研究で言っているのは、SKA2遺伝子に生まれ持っての変異があればそれだけで自殺のリスクが上昇する、ということであり、もしも健康診断や人間ドックで調べられるようになれば、おそらく調べたいという人が出てくるでしょう。それを知ってしまったことで余計に自殺を考え出す人がいるかもしれません。また、この検査を入社時の健診時に会社側が黙っておこなえば(もちろん違法ですが)人事に影響を与える可能性もなくはありません。

 たったひとつの遺伝子で自殺の予測を80%説明できるとしているこの研究が正しいかどうか、さらにこの遺伝子を検査することに倫理的な問題がないのかどうか、こういったことをこれから議論していく必要があるでしょう。


(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Identification and Replication of a Combined Epigenetic and Genetic Biomarker Predicting Suicide and Suicidal Behaviors」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleID=1892819&resultClick=3