医療ニュース

2014年12月26日 夜勤は肥満のリスク

「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことの重要性はこのサイトで何度か述べていますし、日々太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)を受診される患者さんにも伝えています。

「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことがなぜ重要かというと、まず生活習慣病の予防になります。規則正しい生活をするだけで血糖値やコレステロールの値が改善していく人は少なくありません。また、片頭痛が劇的に改善する人もいますし、うつ病は早起きして早寝するということを実践するだけで改善する人も少なくありません。

 ただ、世の中には「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことをしたくてもできない人もいます。それはシフト勤務の人です。谷口医院には片頭痛の患者さんが少なくありませんが、治療に難渋する代表的な職業が2つあります。それは(病院勤務の)看護師と客室乗務員です。この2つの職業はどうしても夜勤(や時差)を避けるわけにはいかず、片頭痛のコントロールがむつかしいのです。

「早寝早起き」という言葉は、私は小学生には用いますが、成人に対しては「早起き早寝」という表現を使います。成人の「早寝」は簡単でない場合があり、寝ようと思うと余計にプレッシャーになって眠れないということがよくあります。そこで、私は「まず早起きしましょう。前の晩眠れなかったとしても無理矢理にでも起きてみてください」とよく言います。その日1日は睡眠不足になりますが、そのおかげでその晩は早寝ができます。そして次の日も多少無理してでも早起きするのです。

 前置きが長くなりましたが、今回紹介したいのは「夜勤をすると代謝が遅くなる」、つまり「夜勤は肥満の元」であることを示した論文です。

 医学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』2014年11月17日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 研究者らはボランティア14人に6日間研究所で暮らしてもらっています。最初の2日間は正常なスケジュール(朝起床夜就寝)で過ごしてもらい、その後、夜勤スケジュールに変更し、夜間に起きて日中に眠ってもらっています。食事は厳格に管理し毎日同じカロリーを摂取してもらっています。

 その結果、夜勤スケジュールの日は消費カロリーが平均で3%低下したそうです。

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 この研究は、被験者が少なく、調査期間が短いようですが、おそらく「シフト勤務が肥満を招く」というのは私が患者さんを診ている経験からいって間違いないと思います。

 ただし夜勤シフトのある職場で働いている人が「太りたくないから夜勤のシフトから外してください」とは言えないでしょう。それに、看護師や客室乗務員だけでなく夜に働いてくれる人がいなければ社会は回らないわけで、誰かがやらねばなりません。

 今やるべきことは、夜勤がどれだけ健康に害を与えるかという研究を広げ、ひとりあたりの夜勤の量を最小限にして、夜勤勤務者は日頃健康のことでどのようなことに注意すべきかについての指導を受ける、といったことだと思います。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Impact of circadian misalignment on energy metabolism during simulated nightshift work.」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.pnas.org/content/111/48/17302.abstract?sid=4c4f3230-a9ae-4ffc-926a-535c2eac38ba


参考:メディカルエッセイ第128回(2013年8月)「同じ時間に起きて同じ時間に寝るということ」