医療ニュース

2015年1月30日 妊娠中のアセトアミノフェンの是非は?

  過去にこのサイトでお伝えしましたように(注1)、妊娠中のアセトアミノフェン使用が産まれてくる子どものADHD(注意欠陥・多動性障害)のリスクになるのではないか、との報告があります。

 鎮痛剤には複数の種類がありますが、アセトアミノフェンはそのなかで最も安全性が高いとされているものであり、伝統的に最も頻繁に使われています。今後アセトアミノフェンがもしも妊娠中に使えなくなると、痛みのコントロールが大変困難になります。

 2015年1月9日、FDA(アメリカ食品医薬品局)は妊娠中の鎮痛薬使用のリスクについての見解を発表(注2)しましたので、ここで簡単に紹介しておきます。

 まず、妊娠中の痛みを放っておくリスクですが、FDAは「激しい痛みが持続すると、抑うつ状態や不安感、高血圧をひきおこすことがある」としています。これらは胎児に悪影響を与える可能性がありますから、妊娠中の激しい痛みは取り除くべき、ということになります。

 FDAは鎮痛剤を3つのグループにわけて検討しています。1つはオピオイド(麻薬に近いもの)、2つめはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる鎮痛剤で、日本で有名なものをあげれば、ロキソニン、ボルタレンなどです。薬局で売っている薬ではイブ、ナロンエース、リングルアイビーなどが相当します。そして3つめがアセトアミノフェンです。

 まず1つめのオピオイドですが、これは日本では妊婦さんに使用されることはほとんどないと思います。FDAは胎児に「神経管欠損」と呼ばれる先天異常が起こるリスクを指摘しています。

 次にNSAIDsについてですが、FDAは確定的ではないものの、「流産」のリスクがある、としています。日本でもほとんどのNSAIDsは、薬局で売っているものも含めて妊娠中は飲んではいけないとされています。

 問題のアセトアミノフェンについては、以前の医療ニュース(注1)で紹介した研究についても言及しています。FDAの見解としては、この研究をどのように解釈するかは困難であることを指摘し、現時点では妊娠中のアセトアミノフェン使用と産まれてくる子どものADHDとの関連性を示す確定的な確証(エビデンス)はない、としています。

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 FDAも述べているように、妊娠中に耐えがたい持続する痛みが生じれば取り除くべきです。しかし、いくら飲んでも安心という薬はなく、リスクの少ない薬を必要最低限使用するということになります。

 日本での妊娠中の使用については「おくすり110番」のサイトがうまくまとめられています(注3)。このサイトによると、やはりアセトアミノフェンが最も安全とされています。オーストラリア基準では唯一「A」が付けられています。

 妊娠中にどうしても鎮痛剤が必要なときはやはりアセトアミノフェンの使用を考えるべきでしょう。しかし、痛みがでればアセトアミノフェン、と考える前に注意点を2つ紹介しておきたいと思います。

 1つめは、痛みの予防をきちんとおこなうことです。特に頭痛の場合は、ストレスを避けて「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ということを心がけるだけでかなり防げる人もいます。

 もうひとつは、同じ妊娠でも妊娠20週以降でアセトアミノフェンのリスクが上昇するという見方があります。つまり、20週以降は特に予防に注意すべきである、ということです。

(谷口恭)


注1:下記医療ニュースを参照ください。
医療ニュース2014年4月4日「妊娠中のアセトアミノフェンがADHDを招く?」

注2:FDAは「FDA has reviewed possible risks of pain medicine use during pregnancy」というタイトルでレポートしています。下記URLで全文を読むことができます。
http://www.fda.gov/downloads/drugs/drugsafety/ucm429119.pdf

注3:下記URLを参照ください。尚「おくすり110番」は鎮痛剤以外の薬についても妊娠中の使用の危険性をまとめており参考になります。
http://www.okusuri110.com/kinki/ninpukin/ninpukin_04-010.html