医療ニュース

2015年3月13日 最大のストレスは「お金がないこと」

 米国心理学会(American Psychological Association, APA)という学会があります。2015年2月4日、この学会が「Stress in America: Paying With Our Health」(日本語にすると、「アメリカのストレス~健康の代償~」くらいになるでしょうか)というタイトルのレポートを発表しました(注1)。

 このレポートで最も興味深いのは、米国人の最大のストレス要因を「お金」としていることです。

 レポートは、2014年8月に3,068人の米国人を対象におこなわれた調査に基づいています。調査の結果、ストレス源の第1位が「金銭上の悩み」で64%、2位以下は、仕事(60%)、家族への責任(47%)、健康問題(46%)と続きます。

 金銭のストレスを強く感じているのは男性よりも女性に多く、年齢では50歳未満に多いようです。

 このレポートでは、低所得者と高所得者の比較もおこなわれています。年収5万ドル(約600万円)以上を高所得者、以下を低所得者とすると、低所得者の方がストレスを強く感じていることがわかったそうです。同じ調査は2007年にもおこなわれており、このときは所得による差はなかったそうです。

 精神的支えがない人とある人の比較もおこなわれています。過去1年でストレスが増大したと答えたのは精神的支えがない人では43%、支えのある人では26%となっています。

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 お金がないのがストレスになるのは当然といえば当然で、格差が開いていくとさらに深刻になるでしょう。このレポートでは病気との関連性についてはあまり触れられていませんが、ストレスがいろんな疾患のリスクになるのは周知の事実であり、最近では低所得者の寿命が短いことも指摘されています。

 ということは「お金がないこと」は二重の意味で健康に悪影響であるといえます。つまり、お金がないこと自体が生活習慣病などの罹患率を高め、またお金がないことによるストレスから多くの疾患のリスクを高めるのです。

 このレポートを読んで、私は数年前にタイのある施設で知り合った日本人男性のことを思い出しました。

 その男性は日本でリストラに合い、新しい仕事が見つからずに生活が困窮し、不眠と抑うつ感が出現し知人のすすめで精神科クリニックを受診したそうです。医師からは「うつ病」と診断され、何種類もの薬を処方してもらったものの何一つ効果はなかったそうです。

 そこで、お金がかからずに住み込みでボランティアができるこのタイの施設にやってきたそうです。ボランティアに専念している時間は、気分は悪くないものの、将来のことを考えると憂鬱な気分が消えないそうです。この男性が興味深いことを言っていました。

「一生食べていける大金をもらえるか、安定した仕事に就けるなら、僕のうつ病はすぐに治ります。世の中のうつ病の大半は単にお金がないことが原因なんですよ・・・」

 極論ではありますが、この男性の気持ちが分からなくはありません。お金がないことで病気が増えて医療費がかさむなら、初めからお金の不安を抱かせないような政策をとる、例えば生活保護を充実させる、というのはひとつの考えとして吟味すべきかもしれません。

「お金がない」ということとストレス、さらにいくつかの疾患との関連性については、私自身これからも考えていきたいと思います。

(谷口恭)

注1:このレポートは下記URLで全文が読めます。
http://www.apa.org/news/press/releases/stress/2014/stress-report.pdf