医療ニュース

2015年8月3日 食物アレルギーが急増

 食物アレルギーが増加しているというのは、日々の診療で多くの医師が感じていることです。先日、東京都がそれを裏付けるようなデータを公表しました(注1)。

 東京都は5年毎に3歳児を対象としたアレルギー疾患の調査をおこなっています。今回公表されたのは2014年の調査です。3歳までに何らかのアレルギー症状を有し、かつ診断がついた(つまり親御さんがアレルギーを疑っているだけではなくきちんと医師が診断をつけたケース)のは39.3%に上ります。5年前の2009年は38.8%、10年前の1999年は36.8%ですから増加傾向にあります。

 アレルギーを疾患別にみてみると、アトピー性皮膚炎は1999年の16.6%から11.2%と3割以上減少しています。喘息はあまり変わっておらず、アレルギー性鼻炎も顕著な変化はありません。

 一方、大幅に増えているのが食物アレルギーです。1999年が7.1%で、2014年が16.7%ですから2倍以上も増えていることになります。

 原因の食物については、「卵」81.0%、「牛乳」33.3%、「小麦」14.6%、「落花生」9.2%、「大豆」6.3%、「キウイ」6.2%、「えび」5.1%の順で高くなっています。

 5年前(2009年)のデータと比べてみると、順位・割合ともに上昇した食物は、落花生、キウイ、ごま、くるみがあげられます。逆に低下した食物には、えび、いくら、やまいも、そば、かに、さけ、鶏肉、さばがあります。

 なぜ食物アレルギーが増えているのか、この理由についてはコンセンサスが得られた意見は今のところありません。

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 食物アレルギーが増えているのは小児だけではありません。この東京都のようなきちんとしたデータは見たことがありませんが、日本人の成人も確実に食物アレルギーが増えている印象があります。

 一般に、成人のアレルギーというのは「同じ物質に触れ続けることが原因」です。戦後日本はスギを植えすぎてスギの花粉に曝露される機会が増えたためにスギ花粉症が増えたわけですし、動物好きの人が一緒に過ごす時間が長いことでイヌやネコのアレルギーになるということはよくあります。

 したがって、食物アレルギーのいくらかは同じものをたくさん食べ過ぎたからという可能性があります。そのため私は、食物アレルギーの人に、「これ以上アレルギーを増やさないようにするために特定のものを多く食べるような食習慣は避けましょう」と話しをしています。

 しかし、小児の場合は、この「同じものを食べ過ぎたから」という理論は通じません。東京都のデータでは、発症時期は半年くらいで起こっているケースが多いようです。ピーナッツアレルギーの場合は、経皮感作(つまり、皮膚の微小な傷などにピーナッツが触れたことでアレルギーになる)で説明が可能な場合があるのですが(注2)、すべての食物アレルギーをその理屈で説明することはできません。

 食物アレルギーの発生機序については分からないことが多く、新しい研究を待たねばなりません。現在我々がすべき予防対策は、妊娠すればバランスよく食べて偏った食事をしない(ピーナッツはその妊婦にアレルギーがある場合を除いて避けるべきでないことが判っています)、小児期の経皮感作を防ぐ(保湿をしっかりおこなう)、成人も含めて同じものばかりを食べないようにする、といったことです。


注1:東京都のこのデータは下記のURLですべて閲覧することができます。

http://www.tokyo-eiken.go.jp/files/kj_kankyo/allergy/c_naiyou/sansaiji.pdf

注2:下記「医療ニュース」を参照ください。

参考:医療ニュース
2015年3月30日「変わってきたピーナッツアレルギーの予防」
2015年6月29日「ピーナッツアレルギー予防のコンセンサス」