医療ニュース

2015年9月29日 どのような人がお酒を飲み過ぎるのか

 成功者は飲酒過多になる可能性が高い・・・。

 最近、いくつかのマスコミでこのようなことが主張されており、どうやらその根拠としているのは医学誌『BMJ Open』2015年7月23日号(オンライン版)に掲載された1つの論文(注1)のようです。

 この論文は、イングランド在住の50歳以上の男女9,251人が対象とされた研究に基づいています。きちんと読むと、決して「成功者」のリスクが高いと言っているわけではなく、もう少し細かく見ておいた方がいいでしょう。そこでこの論文の要旨をまとめておきたいと思います。

 まず、どの程度のアルコールを飲むと健康被害のリスクが生じるか、についてです。下記のように「単位」に基づいてまとめられています。3単位に相当するのが、ワインであればグラス1杯、ビールであれば1pint(約473mL)です。

・低リスク:男性は週に21単位以下、女性は週に14単位以下。
・中リスク:男性は週に22-50単位、女性は週に15-35単位。
・高リスク:男性は週に50単位以上、女性は週に35単位以上。

 どのような人で飲酒過多のリスクが高くなるかについては男女で差があります。

 女性の場合、興味深いことに「(仕事から)引退していること」「収入が高いこと」が飲酒過多のリスクとなっています。50歳をピークとして(49歳以下はこの研究では検討されていない)年をとるにつれてリスクは減少しています。また、介護を担っている人(原文では「caring responsibility」)はリスクが低いようです。

 男性は女性とは異なる点がいくつかあります。まず、年齢のリスクは50歳から上昇し、60代半ばがリスクのピークとなり、その後は減少していきます。独身者や離婚をしている場合はリスクが上昇しています。そして子供と同居している場合や孤独を感じている場合はリスクが減少する(意外!)としています。また、年をとり収入が減ればリスクも減少していくようです。

 興味深いことに、孤独感や抑うつ感(loneliness and depression)は男女とも飲酒過多とは無関係のようです。

*****************

 いくつかの日本のマスコミが「成功者は飲酒過多になる」と報じたのは、この論文の一部を取り上げたからです。収入があれば外で飲酒することができますし、購入して家で飲むこともできますから、飲酒機会が増えるのは当然といえるでしょう。この研究では男女とも年をとり収入が減るにつれて飲酒量が減っていると述べています。

 さてこの研究全体をどう解釈するか、ですが、まずどこの文化にも同じことが当てはまるとは思わないことです。実際、論文の著者も「イングランド以外のイギリス(UK)では検討していない」ことをこの論文の限界と述べています。イングランドと他のイギリスの地域(スコットランド、ウエールズ、北アイルランド)でも差がでるでしょうが、日本との差はもっと大きいはずです。

 特に、この論文を読んで私が意外に思ったのが、男性の孤独感(loneliness)が飲酒過多のリスクを下げるとしていることです。独身者や離婚者は飲酒過多につながりやすいとしている一方で(これは理解できます)、リスクを下げる要因として、子供との同居(これも理解できます)の他に孤独感があげられているのです。そして、男女とも孤独感や抑うつ感は飲酒過多のリスクにはならないとされています。日本では孤独感や抑うつ感から飲酒に走る人は少なくありません。

 また、男女ともリタイヤ(退職)することがリスクにつながるとしており、この理由として著者らは「時間に余裕がある」ということを考えています。しかし、日本では仕事上での「つきあい」の飲酒も問題になります。

 私個人の見解を述べれば、あまり「〇〇の人は飲酒のリスクが高い」と考えるのでなく、週にどれくらい飲酒すれば健康被害を生じる可能性があるかをひとりひとりが主治医に相談すべき、ということです。特に先に述べた週に50単位(男性)35単位(女性)を超えている人は一度かかりつけ医と話をすべきでしょう。

注1:この論文のタイトルは「Socioeconomic determinants of risk of harmful alcohol drinking among people aged 50 or over in England」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://bmjopen.bmj.com/content/5/7/e007684.abstract?sid=13b88d12-f978-4bfd-820c-9504345d9862