はやりの病気

第153回(2016年5月) それほど単純でない高尿酸血症

 太融寺町谷口医院(以下、谷口医院)の患者さんは働く世代の比較的若い患者さんが多いため、初診・再診にかかわらず「職場の健康診断で異状を指摘されたので来ました」と言って受診される人が大勢います。きちんと統計をとったわけではありませんが、よくある異状、すなわち、肝機能障害、高血圧、高脂血症(コレステロール、中性脂肪)、高血糖などのなかで、おそらく最も頻度が多いのが「尿酸値が高い」、すなわち高尿酸血症です。

 高尿酸血症とは一般に血清尿酸値が7.0mg/dLを超えた状態を指します。7.0mg/dLを少し超える程度であれば、多くの人は無症状ですが、健診を実施する側(会社)としては、健診を受け異状がみつかった従業員に何もしないわけにはいきませんから、「かかりつけ医に相談してください。かかりつけ医がない場合はみつけてください」と助言することになるわけです。(大企業などで産業医が常在している場合は、産業医を受診することになります)

 尿酸値が高いとなぜいけないのか。その理由はいくつもあるのですが、最も有名なのは「痛風」でしょう。文字通り、風が当たっても痛いとされる痛風発作は強烈であり、深夜に救急車を呼ぶ人も少なくない「のたうち回るほどの痛み」となります。痛み止めがなければ日常生活もままなりません。あんな痛い思いをするならしっかりと薬を飲みます、と一度でも経験のある人は言います。このケースは我々からすると"ラク"です。薬の重要性をそれほど伝えなくても、患者さんの方から薬を求めてくるからです。

 では、痛風を起こしたことがなくて、健康診断で初めて高尿酸血症を指摘されたという場合はどうすればいいのでしょうか。谷口医院をかかりつけ医にしている患者さんは「できれば薬を飲みたくない」という人が多く、私自身が「薬は最後の手段です」と言って、簡単には処方しません。実際、「尿酸値が7を超えたので尿酸を下げる薬をください」と言う人はほとんどいません。

 一度も痛風を起こしたことがない人の場合、尿酸値が7mg/dLを超えた程度であれば、私自身は原則として薬の処方はおこないません。では、8mg/dLを超えた場合は? 9mg/dLでは、10mg/dLを超えたらさすがに危ないのでは・・・、という疑問が出てきます。医師としては、「あのとき薬を出しておいてくれたらあんな痛い思いをしなくて済んだのに・・・」と患者さんから後から言われることは避けたいものです。

 統計学的に血性尿酸値が7.0mg/dLを超えれば痛風を起こしやすくなっていることは分かっています。しかし、これくらいの人は非常に多く、日本人の成人の4人に1人が高尿酸血症と言われることもあります。「いつも7台だけど痛風なんて起こしたことがない」という人は実際に大勢います。ただし、数字が高ければ高いほど痛風を起こしやすいのは事実です。ですから、高尿酸血症を指摘された人、特に9mg/dLを超えた場合は、食生活や生活習慣の改善を早急におこない、再検査をおこなう必要があります。再検査でも目安として9mg/dLを超えるような場合は投薬を検討すべきでしょう。(ガイドライン上は8mg/dL以上で投薬検討とされています) しかし、それほど単純な話ではありません。

 痛い、というのは大変分かりやすいですから、高尿酸血症=痛風というのは有名です。しかし高尿酸血症のもたらす弊害はそれだけではありません。高尿酸血症が持続すると、腎臓に障害をもたらし、高血圧や不整脈のリスクにもなりますし、心筋梗塞の危険性が上昇します。心筋梗塞のリスクとしては糖尿病や高脂血症、高血圧、喫煙、大量飲酒、肥満などの方が有名ですが、高尿酸血症もリスクのひとつです。高尿酸血症自体が高血圧のリスクにもなるわけですから、もしも尿酸値が少し高いだけだったとしても、高血圧がある場合は、初期の段階で積極的に薬を使う方がいい場合もあります。

 そして、高尿酸血症のある人の多くが、軽度であったとしても、肥満、飲酒、運動不足、喫煙(喫煙は少しでも心筋梗塞の大きなリスクです)、高血圧、高脂血症などを合併しています。もしも、これらが一切なく、尿酸値がわずかに高いという程度であれば、プリン体を含む食品などの注意と水分摂取励行程度で生活指導は終わりで、再検査の説明をするだけです。しかし、多くの場合、他の生活習慣病、あるいはそのリスクがありますから、少々時間をとって現在の問題点を調べていく必要があります。時間をとって話を聞くと、塩分過多、運動不足、飲酒過多などが多くの人にあることが分かります。

 つまり、「健診で尿酸値が高いと言われました」という多くのケースにおいて、尿酸値の数字だけをみて済ませるわけにはいかないのです。軽度であっても、他の虚血性心疾患のリスクについても確認して検討することになります。患者さんとしては、「数字がいくらになれば薬を開始すべきか」という質問をしたくなるのは分かりますが、数字だけでは簡単に決めることがないのです。ガイドラインには一応の基準というものがありますが、医師はそのガイドラインを杓子定規的に用いているわけではありません。

 薬の選択も簡単ではありません。最近はインターネットなどで得た情報をもとに、「血圧の薬は〇〇〇で、尿酸は△△△を希望します」と"注文"する人もいて驚かされます。たいていは、使用した人の体験談などを読んだという程度で深く考えた上での"注文"ではありません。私の基本的な考えは、「患者さんに病気のことを勉強してもらい知識を増やしてほしい」というものです。ですから、インターネットを使って知識の吸収につとめるのは素晴らしいことだと思います。しかし現実には「体験談」による情報収集が中心の人が多く、偏った考えになってしまっていることが多々あります。

 例えば、降圧薬として用いる利尿薬は尿酸値を高めることがあるために使用しにくいのですが、これを知っている人はそれほど多くありません。一方、それを知っていて、尿酸値が高くても使いやすい利尿薬があることまで知っている人がいて驚かされることがあります。しかし、その利尿薬に比較的高頻度で起こる重篤な副作用のことまで考慮してこの薬を「注文」する人となるとほぼ皆無です。「薬の選択はすべて任せてほしい」とまでは言いませんが、初めから「◇◇◇という薬を出してください。他の薬はイヤです」と言われると、治療が上手くいかないケースがあるのです。

 話を尿酸に戻します。尿酸値を下げる薬も多数ありますが、歴史の浅い高価な薬を使わなければならないケースはごくわずかで、ほとんどは昔からある安い薬で充分です。1錠10円未満ですから3割負担で3円未満です。太融寺町谷口医院では高尿酸血症の患者さんの98%以上は、この1日3円未満の薬です。副作用は完全にゼロとは言いませんが、かなり安全な薬です。ちなみに、以前、尿酸値を下げる効果のあるサプリメントを飲んでいるという患者さんは1日70円以上と言っていました。しかもほとんど下がっておらず結局、この1錠3円未満の薬に変更しました。すぐに正常値まで下がりました。

 ただし、最初の方で述べたようにやはり薬は最後の手段です。尿酸値を下げるには食事と飲酒の見直しが重要です。ネット上などでは反対意見もあるようですが、やはり「プリン体」の摂取を減らすことが不可欠です。ここでは詳しくは述べませんが、節酒は可能な範囲でおこなうべきで、お酒の選択も考えるべきです。プリン体フリーのビールは美味しくないという声は聞きますが、かといって「地ビール」ばかり飲むのは危険です(注1)。

 尿酸値を下げたいときに食べ物の選択は簡単ではありません(注2)。一見身体によさそうなものもプリン体を多量に含むものがあるからです。例えば、「ほうれん草のおひたしに鰹節をかけたもの」は身体によさそうですが、高尿酸血症がある人には勧められません。ほうれん草の赤い部分と鰹節がプリン体を高濃度で含むからです。あとは、魚の干物や干し椎茸なども一見身体によさそうですがこれらも高濃度のプリン体を含みます。しかし、こういった和食は糖尿病や中性脂肪が高い人には良いものなのです。そして、先にも述べたように、ややこしいのは、尿酸値が高い人のいくらかは中性脂肪や血糖値も高いのです。じゃあ、いったい何を食べればいいんだ!と言いたくなります。そうなのです。どのようなものを食べるべきなのかというのは思いのほかむつかしいのです。医師や看護師、栄養士と相談して少しずつ食事を見直していかねばなりません。

 高尿酸血症を含め生活習慣病を改善させる食事というのは地味な努力が不可欠であり、「これを食べればOK、これさえ食べなければOK」という単純なものではないというわけです。

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注1:公益財団法人「通風財団」のウェブサイトで公開されている「アルコール飲料中のプリン体含有量」を参照ください。地ビールがいかに高プリン体かがわかります。
http://www.tufu.or.jp/gout/gout4/73.html

注2:「通風財団」のウェブサイトで公開されている「食品中のプリン体含有量」を参照ください。
http://www.tufu.or.jp/pdf/purine_food.pdf

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2018/05/16

2018年4月17日より本ページで予告していましたように、2018年5月16日より麻疹風疹混合ワクチンの接種は、当院をかかりつけ医にしている方(及び当院に一度でも受診したことのある方)に限定させていただきます。